二段階買収のスクイーズアウトの実施義務と説明への信頼―東京高等裁判所令和7年7月16日判決

この記事の位置付け

非上場会社に出資した少数株主と、二段階買収を進める買収者・対象会社の双方に向けて、二段階目のスクイーズアウトが実施されなかった場面の判例を、実施義務の有無と説明への信頼の保護の観点から解説します。

二段階買収で株式を強制的に取得される場面の当事務所の対応は、株式公開買付・二段階買収の御相談のページで御案内しています。

二段階買収の提案を受けた非上場会社の少数株主が、一段階目の株式譲渡に応じずに二段階目のスクイーズアウト(少数株主の締出し)による金銭での売却を選んだところ、スクイーズアウトが実施されないまま終わった場面の判例です。少数株主は、スクイーズアウトが確実に実施されると誤信させる説明を受けたとして、対象会社、買収者及び買収者の役員に約6億3,822万円の損害賠償を求めましたが、東京地方裁判所令和6年10月31日判決は請求をいずれも棄却し、東京高等裁判所令和7年7月16日判決も控訴を棄却しました。

両判決は、買収者又は対象会社は、スクイーズアウトを実施する義務を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、少数株主に対してスクイーズアウトを実施する義務を負わないという考え方を示しました。そのうえで、控訴審判決は、第一審判決の判断の枠組みの一部を補正し、説明が正当な信頼を惹起するものとして信義則に反するかどうかを、説明の内容や趣旨、経緯、関係者の属性その他諸般の事情を考慮して判断するとしています。本記事では、両審級の判断と、控訴審が第一審判決をどのように補正して引用したかを整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―二段階買収の二段階目が実施されなかった
    1. 優先株式を引き受けた投資家としての少数株主
    2. 香港の上場会社による二段階買収の提案
    3. 少数株主は一段階目に応じず、スクイーズアウトを選んだ
    4. 和解案の提示と提訴
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった書面の内容
    1. 株主間契約―共同売却権と同時売却請求権
    2. 本件提案書―二段階目に関する記載
    3. 同意書―株主間契約の解約とスクイーズアウトへの協力
    4. プレスリリース―「意図している」との記載と警告文
  6. 請求と当事者の主な主張
    1. 少数株主の請求
    2. 少数株主の主張
    3. 被告らの主張
    4. 控訴審で少数株主が加えた主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審判決の判断
    1. 国際裁判管轄―日本の裁判所が審理する
    2. スクイーズアウトを実施する義務は、契約がない限り負わない
    3. 第一審判決の枠組み―「明確に宣言する」特段の事情
    4. 本件説明の評価
    5. その余の主張
  9. 控訴審判決による補正と引用
    1. 判断の枠組みの補正―「明確に宣言」から諸般の事情の考慮へ
    2. 本件提案書の評価の補正
    3. 2通のメールの評価の補正
    4. プレスリリースの評価の補正
    5. 少数株主の選択に関する説示の補正
    6. 補正の主な内容の一覧
  10. 控訴審で加えられた主張に対する判断
    1. 準拠法は日本法
    2. 上場会社の実務と「強圧性」の議論は本件に当てはまらない
    3. 共同売却権の放棄は、信頼の保護を基礎付けない
    4. スクイーズアウトの取りやめは業績悪化を踏まえた経営判断
    5. 適正情報開示義務
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 二段階買収に臨む際に確認しておきたいこと
  13. よくあるご質問
    1. 二段階買収で一段階目が成立すれば、買収者は二段階目のスクイーズアウトを必ず実施しなければなりませんか。
    2. 提案書やメールにスクイーズアウトの予定が書かれていれば、実施を信頼したことが保護されますか。
    3. 「同じ株価でのスクイーズアウト実施をお約束する」と書かれたメールは、実施の約束になりませんか。
    4. スクイーズアウトに協力する同意書を出して株主間契約上の権利を手放した場合、その権利はどうなりますか。
    5. 上場会社の二段階買収の実務は、非上場会社の少数株主の主張の根拠になりますか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

項目 控訴審 第一審
裁判所 東京高等裁判所第1民事部 東京地方裁判所民事第8部
裁判日 令和7年7月16日 令和6年10月31日
事件番号 令和6年(ネ)第5883号 令和2年(ワ)第30029号
裁判の形式 判決 判決
結論 控訴を棄却。控訴費用は控訴人(少数株主)の負担 原告(少数株主)の請求をいずれも棄却。訴訟費用は原告の負担
上訴の状況 上告又は上告受理申立ての有無及び確定は確認できていません 原告が控訴し、上記の控訴審判決で控訴が棄却されました

この表は、両判決の判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。第一審判決と控訴審判決とでは、同じ会社・人物に異なる符号が付けられていますが、本記事では両審級を通じて同じ表記にそろえています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
少数株主であるゲーム開発会社TRV 第一審の原告、控訴審の控訴人。香港に所在し、ゲームの開発等を業とする有限公司で、対象会社の優先株式を保有する株主
対象会社である製造業のベンチャー企業NVC 被告・被控訴人。製品の製造・販売等を業とする日本の非公開会社。二段階買収の対象会社
買収者である投資持株会社PLH 被告・被控訴人。香港証券取引所に株式を上場している投資持株会社で、対象会社NVCの株主。二段階買収の買収者
買収者の董事兼代表者SWK氏 被告・被控訴人。投資持株会社PLHの董事(株式会社の取締役に相当する役職)兼代表者で、令和元年6月26日に対象会社NVCの取締役に就任
買収者の董事MRT氏 被告・被控訴人。投資持株会社PLHの董事で、令和元年6月26日に対象会社NVCの取締役に就任
対象会社の取締役HSM氏 平成30年3月31日に辞任するまで対象会社NVCの取締役。ゲーム開発会社TRVへの2通のメールの送信者
対象会社の当時の代表取締役OND氏 平成29年7月当時の対象会社NVCの代表取締役で、同社の株主
財務アドバイザー会社FAVの従業員RYN氏 控訴審判決の補正によれば、ゲーム開発会社TRVのファイナンシャルアドバイザーを務めていた会社の従業員で、取締役HSM氏とゲーム開発会社TRVとの間のメールを取り次いだ人物

このほか、両判決が用いる「本件提案書」「本件株式譲渡」「本件スクイーズアウト」「本件説明」などの略称は、判決本文の用語として、引用部分ではそのまま用いています。

事案の概要―二段階買収の二段階目が実施されなかった

優先株式を引き受けた投資家としての少数株主

対象会社NVCは、製品の製造・販売等を業とする日本の非公開会社で、控訴審判決はいわゆるベンチャー企業と位置付けています。ゲーム開発会社TRVは、平成27年8月13日に対象会社NVCが発行したC種優先株式800株を、平成28年4月11日にD種優先株式950株を取得し、そのたびに、株主、対象会社NVC及びその代表取締役らの間で締結されていた株式投資契約と株主間契約に、株主として加わりました。D種優先株式に関する株主間契約の締結により、C種優先株式に関する株主間契約は将来に向かって失効しています。

株主間契約には、他の株主が株式を売却する場合に一定の比率で自らの株式も譲渡するよう要求する権利(共同売却権)が定められていました。控訴審判決は補正により、同時売却請求権の定めや、株式投資契約に対象会社NVCが株式公開に向けて最大限の努力を尽くすべき旨の規定があったことも認定に加えています。

控訴審判決が補正により加えた認定によれば、平成29年7月の時点の株主は、当時の代表取締役OND氏をはじめとする役員及び従業員数名のほか、法人投資家及び個人投資家を併せて30名程度でした。

香港の上場会社による二段階買収の提案

平成29年5月23日頃、対象会社NVCは、ゲーム開発会社TRVを含む株主に対し、「当社の株主への提案」と題する資料(本件提案書)を送付しました。本件提案書には、香港の上場企業(投資持株会社PLHが想定されていました)が、自社の株式及び金銭を対価として株主から対象会社NVCの株式を取得する取引(本件株式譲渡)を一段階目として実施し、その完了後に、本件株式譲渡に応じなかった株主から金銭を対価として強制的に株式を取得する取引(本件スクイーズアウト)を二段階目として実施する二段階買収(本件二段階買収)が記載されていました。

本件提案書では、対象会社NVCの株価を1株36万4,700円とし、買収対価を金銭相当分30%、株式相当分70%とし、株式の交換比率を対象会社NVCの株式1株に対して投資持株会社PLHの株式3万1,554株(平成29年5月17日時点)とすることなどが示されていました。控訴審判決は、金銭相当分を30%とするのは、本件株式譲渡が課税取引と考えられることから、株主が負担すべき税金を賄う趣旨であったことも認定に加えています。

少数株主は一段階目に応じず、スクイーズアウトを選んだ

平成29年6月13日、取締役HSM氏は、本件株式譲渡に応じるか、本件スクイーズアウトを検討しているかについて、現状での考えを尋ねるメールを送りました。ゲーム開発会社TRVは、本件株式譲渡に応じず、本件スクイーズアウトを希望する選択をしました。平成29年6月28日、取締役HSM氏は、この選択を前提に、株主間契約の解約等を内容とする同意書2通への署名を求めるメールを送り、ゲーム開発会社TRVは、同年7月18日、署名した同意書を対象会社NVCに交付しました。

本件株式譲渡に応じた株主との間では、平成29年9月29日に本件株式譲渡が実施されました。しかし、その後、本件スクイーズアウトは実施されませんでした。本件株式譲渡に応じなかった株主の一部は、投資持株会社PLHの子会社や当時の代表取締役OND氏に個別に株式を譲渡するなどし、その結果、対象会社NVCの株主は、投資持株会社PLH、その子会社及びOND氏を除くと、ゲーム開発会社TRVだけとなっています。

和解案の提示と提訴

控訴審判決が補正により加えた認定によれば、ゲーム開発会社TRVと投資持株会社PLHはそれぞれ弁護士を通じて交渉し、令和2年5月、投資持株会社PLHから、対象会社NVCの業績が悪化していることに鑑み、現時点での最大限の誠意を示した額として3,500万円(判決本文の記載では1株2万215円)の対価を支払ってゲーム開発会社TRVの株式を取得する内容の和解案が提示されましたが、ゲーム開発会社TRVはこれに応じませんでした。

ゲーム開発会社TRVは、対象会社NVC、投資持株会社PLH及びその役員2名に対し、スクイーズアウトが確実に実施されると誤信させる説明等を受けたことにより損害を受けたと主張して、損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(両判決の前提事実及び認定事実による)
平成27年8月13日 ゲーム開発会社TRVがC種優先株式800株を取得(同年7月30日、同年3月27日付けの株式投資契約及び株主間契約に加入)
平成28年4月11日 ゲーム開発会社TRVがD種優先株式950株を取得し、同年3月15日付けの株式投資契約及び株主間契約に加入
平成29年5月23日頃 対象会社NVCが株主に本件提案書を送付
平成29年6月13日 取締役HSM氏が、本件株式譲渡とスクイーズアウトのどちらを考えているかを尋ねるメールを送信(1通目のメール)
平成29年6月 ゲーム開発会社TRVが本件株式譲渡に応じず、スクイーズアウトを希望する選択をする
平成29年6月28日 取締役HSM氏が、同意書2通への署名を求めるメールを送信(2通目のメール)
平成29年7月7日 投資持株会社PLHが本件二段階買収に関するプレスリリースを公表
平成29年7月18日 ゲーム開発会社TRVが署名した同意書を対象会社NVCに交付
平成29年9月8日 投資持株会社PLHが、対象会社NVCに関する情報を含むプレスリリースを公表
平成29年9月29日 本件株式譲渡に応じた株主との間で取引が完了。株式の併合をスクイーズアウトとして実施する意図がある旨のプレスリリース
平成30年3月31日 取締役HSM氏が対象会社NVCの取締役を辞任
令和元年6月26日 SWK氏及びMRT氏が対象会社NVCの取締役に就任
令和2年5月 投資持株会社PLHが3,500万円で株式を取得する和解案を提示。ゲーム開発会社TRVは応じず
令和5年10月10日 被告らが、対象会社NVCに対する民法715条1項に基づく請求について消滅時効を援用
令和6年10月31日 東京地方裁判所が請求をいずれも棄却する判決
令和7年7月16日 東京高等裁判所が控訴を棄却する判決

本件スクイーズアウトは、両判決の時点まで実施されていません。

判断の前提となった書面の内容

以下は、両判決の判決本文が認定した書面の内容を整理したものです。判決本文が要約して記載したものを含み、契約書や提案書の原文をそのまま再現したものではありません。判決本文の文言を引用した部分は「 」で示しています。

株主間契約―共同売却権と同時売却請求権

共同売却権:他の株主が株式を売却する場合は、一定の比率で自らの株式も譲渡することを要求する権利。

同時売却請求権(控訴審判決の補正で追加):株主が発行済種類株式の総数の2分の1以上を第三者に対して売却することを企図する場合、一定の条件を満たすことで、他の株主に対しても当該第三者に対して同一条件で保有株式を譲渡するよう請求する権利。

控訴審判決は、株式投資契約に、買収等の提案を受けた場合に対象会社NVCが投資家と十分協議して決定する旨の定めがあり、株主間契約にも株主の意向を尊重する旨の定めがあったことにも触れています。

本件提案書―二段階目に関する記載

控訴審判決は、補正により本件提案書の記載内容を詳しく認定しました。その要点は次のとおりです。

冒頭には、香港上場企業との資本提携により、対象会社NVCに中国市場に進出する足掛かりを含むメリットがあるとともに、株主に対しても確実に投資利益が提供される旨の記載がありました。ただし、その具体的内容は、香港上場企業の株式への転換を通じた市場性の提供、売却機会の確保、株価上昇の機会の提供などのメリットにとどまっていました。

二段階目の取引については、全体像を描くイラストに、本件株式譲渡に応じなかった株主にはスクイーズアウトが実施される旨が読み取れる部分、全株式を取得する資金として新株発行と支配株主からの資本供給を予定し、新規発行株式のうち10%相当をスクイーズアウトの手続に充てる予定である旨が読み取れる部分がありました。また、イラストの脚注に、ステップ2(スクイーズアウト)は日本の会社法において実務的に適用可能である場合に実施されるが、対象会社NVCは90%以上の株主が募集に応じるものと見込んでいる旨の記載がありました。

これらのほかに、スクイーズアウトの実施時期や具体的な手続等の詳細に関する記載はほとんどなく、本件提案書の大半は、本件株式譲渡に応じた場合の対価の支払の流れやタイムスケジュール、買収者の会社概要、財務情報、株価分析、株主構成、香港上場株式を保有するメリット等の説明でした。

同意書―株主間契約の解約とスクイーズアウトへの協力

2通目のメールで署名を求められた同意書2通(C種優先株式に係るもの及びD種優先株式に係るもの)について、判決本文は、次の内容が記載されていたと認定しています(控訴審判決の補正で「本件株式譲渡の手続の完了を条件として」との部分が加えられています)。

本件株式譲渡の手続の完了を条件として、(1)同意書に署名した日以降、D種優先株式に関する株主間契約に基づく権利を行使せず、かつ、本件株式譲渡に係る取引の完了時に同契約を解約すること、(2)本件株式譲渡に係る取引の完了後に、1株当たり36万4,700円の価格で実施される予定のスクイーズアウト手続について一切の協力を行い(法令上要求される株主総会(種類株主総会を含む。)に出席し、又は委任状の交付を通じて会社の提案に賛同することを含む。)、当該手続に一切の異議を申し立てないこと等。

第一審判決は、同意書には、本件スクイーズアウトが実施されることを条件としてゲーム開発会社TRVが権利を放棄する旨の記載はなかったと認定していました。

プレスリリース―「意図している」との記載と警告文

平成29年9月29日のプレスリリースには、二段階目の取引として株式の併合を実施することを意図している旨の記載がありました。平成29年7月7日のプレスリリースについて、控訴審判決は補正により、香港証券取引所の上場会社に適用される関係法令及び開示規則に基づいて配信されたものであること、議決権の3分の2以上を取得した場合には株式併合等の手続によって残りの株式を取得することができ、それを意図している(Intends to)との記載があったこと、冒頭の要約部分に警告として「Accordingly, the Acquisition, the Subscription and the Target Share Consolidation may or may not proceed.」などと、株式の併合手続等が進行するかどうかは不確かである旨が記載されていたことを認定しました。

請求と当事者の主な主張

少数株主の請求

ゲーム開発会社TRVは、被告ら4者に対し、連帯して6億3,822万5,000円及びこれに対する令和3年7月28日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求めました。金額は、本件スクイーズアウトで予定されていた1株当たり36万4,700円に、保有株式1,750株(C種優先株式800株、D種優先株式950株)を乗じたもので、本件株式譲渡に応じた場合に得られたであろう対価に相当する額です。

請求の根拠は、対象会社NVCに対しては、不法行為(共同不法行為)、会社法350条若しくは民法715条1項又は債務不履行(選択的併合)、投資持株会社PLH並びにSWK氏及びMRT氏に対しては、不法行為(共同不法行為)でした。

少数株主の主張

  • 契約締結上の過失の法理又は類似の法理。本件株式譲渡の契約交渉に入った当事者として、被告らには、スクイーズアウトが確実に実施されるものでない以上、確実に実施されるとの信頼(誤信)を惹起させるような説明や求めを行ってはならない信義則上の注意義務がある。本件提案書の送付、1通目のメール及び2通目のメール(これらを判決は「本件説明」と呼んでいます)は、そのような信頼を惹起させるもので、実際にもゲーム開発会社TRVはそれを信頼したのに、スクイーズアウトは実施されなかった。
  • 適正情報開示義務。自社が買収の対象となる場合、取締役は、株主が買収提案に応じるかを判断するための適切な情報を開示する義務を負う。取締役HSM氏は、買収者の意向を確認しないまま信頼を惹起させる説明をしたもので、対象会社NVCは会社法350条又は民法715条1項の責任を負う。また、株主間契約上の協議・意向尊重の義務の前提として事実に合致する説明をする義務があり、その不履行による債務不履行責任も負う。
  • 買収者及びその役員の責任。本件説明は、対象会社NVCが買収者の使者として行ったものとみることができ、SWK氏及びMRT氏も協議に参加して本件説明に関与した。
  • 損害。本件説明がなければ本件株式譲渡に応じて対価を受け取ることができた。現在も保有する株式は無価値であり、損益相殺により減額されるべきでない。

被告らの主張

  • 日本の裁判所は、投資持株会社PLH並びにSWK氏及びMRT氏に対する訴えについて国際裁判管轄を有しない。仮に有するとしても、民事訴訟法3条の9の特別の事情があり、訴えを却下すべきである。
  • スクイーズアウトが確実に実施されるとの説明をしたことは一切ない。誰から何株をいくらで譲り受けるかは、法令の規制がある場合を除き買収者の裁量に委ねられており、スクイーズアウトを実施する義務は法令上も契約上も負わない。
  • 非公開会社の取締役に株主に対する適正情報開示義務を容易に認めることは、会社法の基本構造と矛盾しかねない。
  • 対象会社NVCに対する民法715条1項に基づく請求は、令和5年7月11日の弁論準備手続期日にされたもので、消滅時効が完成している。

控訴審で少数株主が加えた主張

控訴審でゲーム開発会社TRVは、経済産業省が公表したマネジメント・バイアウトに関する指針(判決本文の呼称は「MBO指針」)や、最高裁判所第一小法廷平成28年7月1日決定に表れているとおり、二段階買収の実務では株主への強圧性の回避が要請され、強圧性とスクイーズアウトの実施の確実性とは表裏一体であると主張しました。さらに、一段階目が成立したのに二段階目が実施されない例は前代未聞であること、本件提案書や7月7日のプレスリリースの内容が実施の確実性への信頼を強く惹起したこと、共同売却権を放棄したのは確実に実施されると信じたからこそであること、買収者が株式を取得した真の目的は補助金の受給や技術の移転にあったことなどを主張しました。

これに対し、被告らは、同指針は上場会社のマネジメント・バイアウトに焦点を当てたもので、同決定は上場会社の事案の取得の価格の算定方法に関するものであって、いずれも本件と関係がないこと、非公開会社においてスクイーズアウトの実施が義務付けられる法令上の定めや実務慣行はないこと、スクイーズアウトを見合わせたのは、対象会社NVCの業績と財務状況が著しく悪化し、事業継続性に重大な疑義が生じたため、有限の事業資金を完全子会社化ではなく事業の運営及び存続に注入する緊急の必要があると判断したためであることなどを主張しました。

結論を左右した争点

第一審判決は、国際裁判管轄の有無、対象会社NVCの責任(契約締結上の過失の法理等による不法行為、適正情報開示義務違反による不法行為、同義務違反による債務不履行)、投資持株会社PLHの責任、SWK氏及びMRT氏の責任、損害の有無及び額、消滅時効の成否の6つを争点として整理しました。

結論を左右したのは、次の2点です。

  1. 二段階買収において、買収者又は対象会社は、少数株主に対し、二段階目のスクイーズアウトを実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負うか。
  2. 本件提案書の送付と2通のメールは、スクイーズアウトが確実に実施されることについて、少数株主の法律上保護される利益としての正当な信頼を惹起するものであったか。

適正情報開示義務違反の主張や、買収者及びその役員の責任の主張は、いずれも上記2の正当な信頼の惹起を前提とするものとされ、前提を欠くとして退けられました。損害と消滅時効については、両判決とも判断していません。

第一審判決の判断

国際裁判管轄―日本の裁判所が審理する

第一審判決は、投資持株会社PLHが日本の会社である対象会社NVCを子会社としていることだけでは、日本において事業を行っていると認めることはできないとし、民事訴訟法3条の3第5号に基づく管轄は否定しました。しかし、損害賠償請求の判断においては対象会社NVCが行った説明の内容とその評価が重要となるから、対象会社NVCに対する請求と、投資持株会社PLH並びにSWK氏及びMRT氏に対する請求とは、密接な関連があり、同一の事実上及び法律上の原因に基づくものであるとして、同法3条の6に基づく管轄を認めました。香港の法人や個人であることなどを理由とする特別の事情(同法3条の9)の主張も退けています。控訴審判決は、この判断部分も含めて第一審判決を引用しています。

スクイーズアウトを実施する義務は、契約がない限り負わない

第一審判決は、会社法に基づくスクイーズアウトは、特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条1項)、株主総会の特別決議による株式の併合(同法180条、309条2項4号)その他の方法のいずれであっても、原則として、要件を満たす支配株主がその実施を決定することができるものであるとしました。そして、二段階買収についても、次のとおり述べています。

「買収者(支配株主)又は対象会社が少数株主との間で、買収者が、一段階目の取引(買収者による対象会社の株式取得)がされた後の二段階目の取引としてのスクイーズアウト(上記の株式取得に応じなかった株主の保有に係る株式についての株式併合等の手続)を実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、買収者又は対象会社が少数株主に対し、スクイーズアウトを実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負うものではないと解するのが相当である。」

本件では、ゲーム開発会社TRVは、対象会社NVC又は投資持株会社PLHとの間で、スクイーズアウトを実施する義務を負う旨の契約を締結しておらず、その締結に向けた交渉さえ行っていないとされました。

第一審判決の枠組み―「明確に宣言する」特段の事情

第一審判決は、実施義務がない以上、スクイーズアウトを実施するかどうかは買収者である支配株主がその時々の状況等を踏まえて決定できるとし、二段階買収に関する提案や説明をしていたとしても、「その内容が二段階目の取引としてのスクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるといった特段の事情がない限り」、正当な信頼を惹起するものとはいえないとの枠組みを示しました。この部分は、後に述べるとおり、控訴審判決で改められています。

本件説明の評価

  • 本件提案書。その時点で検討されていた二段階買収の内容を説明するもので、本件株式譲渡に応じなかった株主にスクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなく、確実な実施を明確に宣言するものとはいえないとされました。
  • 1通目のメール。本件株式譲渡に同意するかスクイーズアウトを検討しているかについて、その時点での意向を確認するものにすぎないとされました。メールには、回答に法的拘束力は一切なく、正式な回答と違った内容となっても問題ない旨が記載されていました。
  • 2通目のメールと同意書。メールには「同じ株価でのスクイーズアウト実施をお約束するために」との記載がありました。しかし、第一審判決は、二段階買収では、議決権を得た買収者が一段階目の価格より不利な価格で少数株主の株式を取得することもあり得るから、少数株主にとっては、スクイーズアウトが実施される場合の対価を本件株式譲渡と同じ価格とすること自体に意義があると指摘しました。そのうえで、このメールは、株主間契約を解約すれば、スクイーズアウトが実施される場合の対価を本件株式譲渡と同じ価格にすることを示して署名を求める趣旨であり、確実な実施を明確に宣言するものではないとしました。
  • プレスリリース。本件説明の後に公表された3通のプレスリリースにも、スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言する記載はないとされました。

第一審判決は、さらに括弧書きで、ゲーム開発会社TRVは本件株式譲渡に応じれば確実に上場株式70%、金銭30%の対価を受け取ることができたのに、あえて金銭のみで対価を受け取る二段階目を選んだのであれば、スクイーズアウトが実施されない可能性が現実化したとしてもやむを得ないとの趣旨を述べています(この部分も控訴審判決で表現が改められています)。

その余の主張

適正情報開示義務違反による不法行為又は債務不履行の主張、投資持株会社PLH並びにSWK氏及びMRT氏の共同不法行為の主張は、いずれも本件説明が正当な信頼を惹起させるものであったことを前提とするもので、その前提を欠くとして退けられました。第一審判決は、その余の点(損害、消滅時効)について判断するまでもなく、請求をいずれも棄却しました。

控訴審判決による補正と引用

控訴審判決は、前提事実、争点及び当事者の主張について第一審判決の第2の「事案の概要等」の2から4を、判断について第一審判決の第3の「当裁判所の判断」の1及び2を、それぞれ補正したうえで引用し、当審での主張に対する判断を加えています。補正は、前提事実等の部分で4項目、判断の部分で26項目にわたります。その主なものは次のとおりです。

判断の枠組みの補正―「明確に宣言」から諸般の事情の考慮へ

最も重要な補正は、正当な信頼の惹起を判断する枠組みです。控訴審判決は、スクイーズアウトを実施する義務を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り実施義務を負わないとする第一審判決の説示は維持し、その後に、本件ではそのような事情があるとは認められない旨を加えました。そのうえで、第一審判決の「明確に宣言するものであるといった特段の事情がない限り」とする部分を削り、次の説示に改めました。

まず、非上場会社の株式を保有する投資家にとって投下資本をどのように回収するかは大きな関心事であり、スクイーズアウトの実施の確実性は、本件株式譲渡に応ずるか否かの意思決定に当たって考慮すべき事情の一つであることは否定し難いとしました。そのうえで、控訴審判決は次のように述べています。

「もっとも、〔投資持株会社PLH〕においても、その時々の社会経済情勢を含む同〔投資持株会社PLH〕や買収の対象とされた〔対象会社NVC〕を取り巻く状況等を踏まえて本件スクイーズアウトを取りやめる判断をする余地を残しつつ、迅速かつ円滑に企業買収を進める利益を有していることからすれば、〔対象会社NVC〕及び〔投資持株会社PLH〕による本件説明が本件スクイーズアウトの実施の確実性に対する正当な信頼を惹起するものとして信義則に反するものといえるか否かは、本件説明の内容やその趣旨、本件説明がされるに至った経緯、関係者の属性その他諸般の事情を考慮して判断されるべきものである。」

第一審判決が、説明がスクイーズアウトの確実な実施を明確に宣言するものであるかどうかという説明の文言に着目した基準を採ったのに対し、控訴審判決は、少数株主にとって実施の確実性が意思決定の考慮要素であることを認めつつ、買収者の側にも取りやめる余地を残して買収を進める利益があることを踏まえ、総合的に判断する枠組みに改めたものといえます(この位置付けは当事務所の整理です)。あわせて、結論部分も、本件説明が正当な信頼を惹起させるものであり、対象会社NVC及び投資持株会社PLHに「信義則上の義務違反があった」とは認められない、という形に改められています。

本件提案書の評価の補正

控訴審判決は、本件提案書について、その時点で検討されていた二段階買収の内容を説明したものにすぎないとしたうえで、次の評価を加えました。

  • スクイーズアウトに関する記載が全体に占める割合はごく僅かであること。
  • 本件提案書の主眼は、スクイーズアウトによる現金化ではなく、本件株式譲渡に応じて買収者の株式を取得することのメリットを強調し、株主にこれに応ずるよう推奨することにあったとみるのが自然であり、対象会社NVCがこの時点で実施の確実性を強調すべき必要性は見当たらないこと。
  • 本件提案書が実施の確実性を示す意図を含むものではなかったことは、送付の経緯や記載自体から、株主にも読み取ることが十分可能であったこと。
  • 株主は、非上場会社において株主間契約等を締結するなどしており、株主相互の関係が希薄な上場会社の株主とは異なり、実施の確実性を含めた今後の見通しについて必要な情報を収集分析して適切な判断をすることが期待できる地位にあったこと。

本件提案書を送付した際のメール本文に「各株主の皆様・・に持分譲渡に係る業務の完了にご協力いただく必要がございます。」とあった点についても、控訴審判決は、送付の連絡文に付随的に記されたもので、全ての株主から株式を何らかの方法で取得する確定的な意思までは表現されていないとして、信頼を惹起させ得るものとは評価しませんでした。

2通のメールの評価の補正

1通目のメールについて、控訴審判決は、その趣旨は、今後必要となる対価支払の準備の関係上、本件株式譲渡の対象となるおおよその株式数を把握しておくことにあったと解され、株主にも容易に理解可能であったとしました。本件株式譲渡とスクイーズアウトの2つの選択肢を優劣をつけずに提示したことをもって、スクイーズアウトが確実に実施されることを示唆するものといえないことは明らかであるとしています。

2通目のメールについては、控訴審判決は補正により、そのやり取りの経緯を詳しく認定しました。ゲーム開発会社TRVの担当者は、株式譲渡に応ずる株主向けの契約書案のうち、株式の割当てによる対価の条項(2.2.1)と現金の支払による対価の条項(2.2.2)を引用し、自社が選んだスクイーズアウトは現金の条項に当たるとして、支払期限等を明記した合意を契約書の形で書面化することを希望しました。これに対し取締役HSM氏は、両条項はセットの条項であり、株式譲渡に応じない者との関係では現金の条項だけを書面化することはできないと説明し、同じ株価でのスクイーズアウト実施を約束するために同意書に協力条項を設けていると説明しました。さらに、スクイーズアウトの手続では端株相当株式任意売却許可の申立て(会社法234条2項、235条1項等)などの裁判手続を経ることを要するため、支払時期を合意書面で一義的に約束することはできないと説明し、他の株主にも同様の内容でお願いしているとして、要望には応じられない旨を回答しました。

そのうえで、控訴審判決は、メールの文面が、スクイーズアウトの実施と、実施した場合の対価の問題とを厳密に書き分けたものではなく、文言だけをとらえると実施が前提とされているように読む余地がないとはいえないと認めました。しかし、スクイーズアウトを含む企業買収の場面では締め出される少数株主の受け取る対価の相当性が問題となることが多いことも踏まえ、メールの狙いは、株主間契約の解約と引換えに、スクイーズアウトが実施される場合の対価を本件株式譲渡と同じ価格に設定しようとすることを示すことにあったとしました。そして、投資対象として相当程度リスクの高い非上場のベンチャー企業に投資し、日本の会社法制に相当程度の知見を有すると思われるゲーム開発会社TRVにおいても、そのことは十分読み取り可能であったとして、次のとおり判断しています。

「〔2通目のメール〕は、送信された経緯やその趣旨も考慮すると、本件スクイーズアウトの確実な実施を前提とする趣旨であったとはいえず、〔ゲーム開発会社TRV〕にそのような期待、信頼を惹起させるものであったともいえない。」

プレスリリースの評価の補正

7月7日のプレスリリースについて、控訴審判決は、ゲーム開発会社TRVはそれより前の6月には本件株式譲渡に応じないことを決定し、同意書も提出していたから、このプレスリリースによって実施の確実性への信頼が形成されたことが推認されるものではないとしました。また、このプレスリリースは、香港証券取引所の上場会社に適用される関係法令及び開示規則に従って、市場一般に当時の買収者の意図するところを示すもので、ゲーム開発会社TRVに向けられた実施の確実性を示す情報であったともいえないとしています。なお、被告ら側は、ゲーム開発会社TRVが第一審で裁判所の釈明に応じてこのプレスリリースの発出が不法行為を構成するとの主張を取り下げたとして、この点を信義則上の義務違反を基礎付ける事実として主張することは時機に後れた攻撃防御方法に当たり却下されるべきであると主張しましたが、控訴審判決は、訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないとして、却下しませんでした。

少数株主の選択に関する説示の補正

第一審判決の括弧書きのうち、スクイーズアウトが実施されない可能性が現実化しても「やむを得ない」とした部分は、次の表現に改められました。

「それは、そのような選択に内在するリスクであり、〔ゲーム開発会社TRV〕に著しく酷な結果が生じたとはいえない。」

補正の主な内容の一覧

対象 控訴審判決による補正の内容
当事者等 投資持株会社PLHの事業内容に関する記載を改め、平成29年7月時点の株主構成(役員・従業員数名と投資家30名程度)を追加
契約関係 株式投資契約の株式公開に向けた最大限の努力の規定、同時売却請求権の定めを追加
本件提案書 金銭30%の趣旨(税金を賄うため)、二段階目に関するイラスト・脚注の記載、記載の大半が一段階目の説明であることなどを追加。スクイーズアウトを確実に「実施する旨」の記載がないとの認定を、確実に「実施する等の本件スクイーズアウト実施の見込み、可能性について」の記載がないとの認定に改める
メールの経路 2通のメールが、ゲーム開発会社TRVの財務アドバイザー会社FAVの従業員RYN氏を通じて送受信されたことを追加。1通目のメールは「ソフトヒアリング(意向調査)」とされていたことを追加
同意書と2通目のメール 同意書に「本件株式譲渡の手続の完了を条件として」の文言を追加。現金の条項の書面化の希望とそれを断った経緯を詳しく追加
プレスリリース 開示規則に基づく配信であること、「意図している(Intends to)」との記載、進行が不確かである旨の警告文を追加
その後の経過 令和2年5月の3,500万円の和解案とその拒否を追加
判断の枠組み 「明確に宣言する」特段の事情の基準を、説明の内容・趣旨・経緯・関係者の属性その他諸般の事情を考慮する基準に改める
各説明の評価 本件提案書、2通のメール、プレスリリースについて、上記の枠組みに沿った評価を加える
結論部分 信義則上の義務違反があったとは認められないとの形に改め、少数株主の選択を「やむを得ない」から「そのような選択に内在するリスク」に改める

控訴審で加えられた主張に対する判断

準拠法は日本法

控訴審判決は、事案の概要の中で準拠法について検討し、ゲーム開発会社TRVが本件株式譲渡の対価を得られず株式を所有し続ける結果となったと主張していることから、加害行為による直接の法益侵害の結果が発生した地は株式の所在地である日本と解されるとしました。また、加害行為は日本の株式に係る合意に関連して行われ、スクイーズアウトも日本の会社法によって規律されることから日本が最も密接に関係する地であること、両当事者が日本法である旨の認識を示していることも挙げ、不法行為に基づく損害賠償請求権の準拠法は日本法であるとしました(法の適用に関する通則法17条、20条、21条)。

上場会社の実務と「強圧性」の議論は本件に当てはまらない

控訴審判決は、マネジメント・バイアウトに関する指針は、上場会社の非上場化を目指すマネジメント・バイアウトに適用対象を限定し、ベストプラクティスとして公正なルールの在り方を提示するもので、公正性の担保措置と適法性との関係を整理することは意図されていないとしました。また、非上場会社の中でも特に株主が少数の場合には、株主が分散している上場会社に比べて強圧性の問題は生じにくいと指摘しました。そのうえで、同指針に、公開買付けによって大多数の株式を取得した場合には特段の事情がない限りスクイーズアウトを実施すべき旨の指摘があるとしても、次のように述べています。

「スクイーズアウトを実施しなかったこと自体は、上場会社の場合であったとしても、直ちに違法とは評されず、MBO指針の適用対象ではない非上場会社の事案である本件においては、スクイーズアウトが実施されることが株主の予測可能性を確保し、その期待に応えるという意味で企業の行動として望ましいものと一般的にはいえても、スクイーズアウトを実施しなかったことをもって直ちに、違法又は株主に対する強圧性が回避されていない不公正な手続を行ったと評価することはできない。」

引用された最高裁判所の決定についても、公開買付けの後に全部取得条項付種類株式を用いて株式を取得した取引における会社法172条1項の取得の価格について判断したもので、本件とは事案を異にするとしました。一段階目が成立したのに二段階目が実施されない例は前代未聞であるとの主張についても、そのような実情があるかは記録上判然とせず、仮にあるとしても判断を左右しないとしています。

共同売却権の放棄は、信頼の保護を基礎付けない

共同売却権等を放棄したのは確実に実施されると信じたからこそであるとの主張について、控訴審判決は、次の理由から判断を左右しないとしました。

  • 同意書は、株主間契約の解約等と併せ、スクイーズアウトが実施される場合にはその手続に協力することを同意するものであるから、スクイーズアウトの実施を条件として解約に同意するものと解する余地があり、そうであれば、ゲーム開発会社TRVはいまだ共同売却権や同時売却請求権等の権利を保持していると解する余地もあること。
  • 仮に権利を放棄したと認められるとしても、共同売却権等がいかなる財産的価値を有するのかは判然とせず、権利を保持し続けた場合にスクイーズアウトの実施にどのような支障が生ずるのかについても具体的な主張立証はないこと。
  • 一段階目の対価(買収者の株式70%と現金30%)と二段階目の対価(現金100%)のどちらに意義があるかは様々な判断があり得、二段階目が確実に実施されるとまではいえない場合でも二段階目を選び、実施されなければ株式を保有し続けるという選択もあり得るから、確実に実施されると信じなければ権利を放棄しなかったとまで認められるかについても疑問があること。
  • 権利の放棄は、本件株式譲渡に応じないことを決めて伝えた後の事情であり、本件説明が過度の期待を抱かせるものであったともいえないこと。

株式投資契約や株主間契約に、買収提案への対応について協議や意向尊重の定めがあることについても、控訴審判決は、次の考え方を示し、これらの定めによって実施の確実性に対する信頼が法的保護に値するものとなるとはいえないとしました。

「二段階買収において、買収者又は対象会社は、確実に実施する旨を約さない限り少数株主に対してスクイーズアウトを実施する法的義務を負うものではない」

スクイーズアウトの取りやめは業績悪化を踏まえた経営判断

買収者の真の目的は補助金の受給や技術の移転にあったとの主張について、控訴審判決は、裏付ける証拠は提出されていないとしました。かえって、決算報告書上の数値を前提とする限り、対象会社NVCの第8期(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで)の当期純損失は前年度の約7億9,486万円から約20億3,203万円へと大幅に悪化し、買収者からの運転資金等の借入れに係る長期借入金の残高は第8期以降増加の一途をたどっていたと指摘しました。そして、これらの事実は、スクイーズアウトを取りやめたのは業績の悪化を踏まえた経営判断(完全子会社化を断念し、事業の運営と存続に事業資金を注入する)に基づくものであるとの被告ら側の説明を裏付けるものといえるとしています。

適正情報開示義務

スクイーズアウトの実施が確実ではないことを取締役HSM氏が適切に開示すべきであったとの主張について、控訴審判決は、本件説明が正当な信頼を惹起するものとはいえない以上、少なくとも本件において、そのような対応を積極的に行う法的義務を負う理由はないとして、採用しませんでした。

主文及び結論

第一審判決の主文は、「原告の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」というものです。控訴審判決の主文は、「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は、控訴人の負担とする。」というものです(「原告」「控訴人」はいずれもゲーム開発会社TRVを指します)。

控訴審判決は、その余の点について検討するまでもなく請求はいずれも理由がないとして、第一審判決を相当と判断しました。少数株主による6億3,822万5,000円の損害賠償請求は、両審級を通じて認められませんでした。損害の有無・額と消滅時効の成否については、両判決とも判断を示していません。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、両判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

  • 二段階目の実施義務は、契約がなければ原則として生じないこと。両判決は、スクイーズアウトの実施は支配株主が決定できるものであり、実施する義務を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、買収者も対象会社も少数株主に対して実施義務を負わないとしました。二段階目の現金化に期待して一段階目に応じない株主にとっては、実施そのものを約束させる契約を得ていない限り、二段階目は実施されないことがあり得るという前提で判断する必要があります。
  • 信頼の保護は、説明の文言だけでなく総合的に判断されること。控訴審判決は、第一審判決の「明確に宣言する」特段の事情を求める基準を改め、説明の内容や趣旨、経緯、関係者の属性その他諸般の事情を考慮する枠組みを示しました。買収者の側からみれば、文言だけで責任の有無が決まるわけではなく、説明の目的や前後のやり取りも評価の対象になることを意味します。
  • 対価の約束と実施の約束は区別されること。2通目のメールには「同じ株価でのスクイーズアウト実施をお約束するために」という表現がありましたが、両判決とも、実施される場合の対価を同じにする趣旨と解しました。少数株主の側で実施そのものの約束を求めていたのに、書面化を断られていた経緯も、判断の材料になっています。
  • 投資家としての知見や地位が考慮されること。控訴審判決は、少数株主が非上場のベンチャー企業に投資し、株主間契約を締結するなどしていた投資家であり、必要な情報を収集分析して適切な判断をすることが期待できる地位にあったことを、信頼の保護を否定する事情の一つとしました。
  • 上場会社の二段階買収の議論は、非上場会社にそのまま持ち込めないこと。控訴審判決は、上場会社のマネジメント・バイアウトの指針や強圧性の議論について、非上場会社の事案には直ちに当てはまらないとしました。

一般化できない点

  • 両判決は、本件提案書の記載、メールのやり取り、同意書の内容、プレスリリースの警告文、少数株主の属性といった本件の具体的な事情に基づく判断です。買収者又は対象会社が少数株主との間でスクイーズアウトの実施を約する契約を結んでいた事案や、実施を明確に約束する説明があった事案では、結論が異なり得ます。
  • 本件は非公開会社の事案です。上場会社の公開買付けとその後のスクイーズアウトについては、控訴審判決も、指針の位置付けや強圧性の問題が異なることに触れており、本件の結論をそのまま当てはめることはできません。
  • 同意書によって株主間契約上の権利が放棄されたかについて、控訴審判決は、スクイーズアウトの実施を条件とする同意と解する余地があり、権利を保持していると解する余地もあると述べるにとどまり、確定的な判断を示していません。
  • 損害の有無・額(本件株式譲渡に応じた場合の対価を損害とする構成の当否や、保有株式の価値の扱い)と消滅時効について、両判決は判断していません。
  • 控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び確定は確認できていません。

二段階買収に臨む際に確認しておきたいこと

少数株主の側では、二段階目による現金化を選ぶ場合、実施そのものと実施時期・対価を買収者又は対象会社との間で契約上明確にできるか、できない場合には一段階目に応じるか、株主間契約上の権利(共同売却権、同時売却請求権等)を手放してよいかを、メール等の文言だけでなく書面の内容で確認しておくことが考えられます。買収者や対象会社の側では、二段階目の実施が状況により見合わされ得ることを、提案書や株主への連絡の中で誤解のない形で示しておくことが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、両判決が特定の条項例や説明の方法の当否を判断したものではありません。

よくあるご質問

二段階買収で一段階目が成立すれば、買収者は二段階目のスクイーズアウトを必ず実施しなければなりませんか。

両判決は、買収者又は対象会社が少数株主との間でスクイーズアウトを実施する義務を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、実施する義務は負わないとしました。本件では、一段階目が完了した後もスクイーズアウトは実施されず、その取りやめは業績の悪化を踏まえた経営判断に基づくものとの説明を裏付ける事実があるとされています。

提案書やメールにスクイーズアウトの予定が書かれていれば、実施を信頼したことが保護されますか。

それだけでは足りません。控訴審判決は、説明の内容や趣旨、説明がされるに至った経緯、関係者の属性その他諸般の事情を考慮して判断するとし、本件では、提案書の主眼が一段階目の推奨にあったこと、メールの狙いが対価を同じにすることを示す点にあったこと、少数株主が知見のある投資家であったことなどから、正当な信頼の惹起を否定しました。

「同じ株価でのスクイーズアウト実施をお約束する」と書かれたメールは、実施の約束になりませんか。

本件では、両判決とも、実施される場合の対価を一段階目と同じ価格にする趣旨と解しました。控訴審判決は、文言だけをとらえると実施が前提とされているように読む余地がないとはいえないとしつつ、少数株主が支払期限等を明記した書面化を求め、これが断られていた経緯なども考慮して、確実な実施を前提とする趣旨ではないと判断しています。

スクイーズアウトに協力する同意書を出して株主間契約上の権利を手放した場合、その権利はどうなりますか。

控訴審判決は、本件の同意書について、スクイーズアウトの実施を条件として株主間契約の解約に同意するものと解する余地があり、実施されなかった本件では権利をなお保持していると解する余地もあると述べました。ただし、確定的な判断は示していません。同意書の文言、特に条件の定め方が重要になります。

上場会社の二段階買収の実務は、非上場会社の少数株主の主張の根拠になりますか。

控訴審判決は、上場会社のマネジメント・バイアウトに関する指針は非上場会社の事案に適用されるものではなく、特に株主が少数の非上場会社では強圧性の問題は生じにくいとして、上場会社の実務を根拠とする主張を採用しませんでした。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。