アドバイザーの紹介先と直接交渉されても報酬を請求できない場合―東京地方裁判所令和7年6月20日判決

この記事の位置付け
M&Aのアドバイザーと、その紹介を受けた買主側の双方に向けて、事業譲渡を予定しながら不動産売買だけが成立した場面の判例を、成功報酬の発生と紹介先との直接交渉禁止条項の観点から解説します。
M&A仲介会社やアドバイザーの責任全般は、M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面をご覧ください。
M&Aのアドバイザーが紹介した相手先と、依頼者が契約の一部だけを結び、その後はアドバイザーを外して相手先と直接やり取りを進めた。この場合、アドバイザーは成功報酬や、直接交渉禁止条項違反による損害賠償を請求できるのでしょうか。東京地方裁判所令和7年6月20日判決は、ホテル事業の承継のために不動産売買契約と事業譲渡契約の締結が予定されていたのに、不動産売買契約だけが締結された事案で、アドバイザー側の請求をいずれも棄却しました。
本判決は、成功報酬の発生要件である契約の締結を最終的な契約の締結と解したうえで、アドバイザーが不動産売買契約の締結直後に報酬を請求し、業務の終了を表明したことを重く見ています。直接交渉禁止条項についても、条項の趣旨から、実質的にみて違反と評価できないと判断しました。アドバイザーとして報酬を請求する立場の方にも、アドバイザーから報酬を請求された依頼者の立場の方にも、契約条項の書き方と取引途中の言動の両面で参考になる判決です。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第50部 |
|---|---|
| 裁判日 | 令和7年6月20日 |
| 事件番号 | 令和5年(ワ)第21338号 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 原告(アドバイザー)の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却 |
| 上訴の状況 | 上訴の有無及び確定は確認できていません |
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。
- 原告:経営コンサルティング業務等を行う「経営コンサルティング会社CNS」(以下「CNS」)。その代表者を「CNSの代表者HRT氏」とします。
- 被告1:給排水の衛生設備工事等を行う「設備工事会社KSE」(以下「KSE」)。アドバイザリー業務委託契約の依頼者であり、ホテルの土地建物の買主です。
- 被告2:住宅設備・商材等を販売する「住宅設備販売会社JSH」(以下「JSH」)。CNSと秘密保持契約を結んだ会社で、KSEの関係会社です。
- 被告3:JSHの代表取締役であり、KSEの取締役でもある「両社の役員TKM氏」(以下「TKM氏」)。
- ホテルを保有・運営していた売主側の会社を「ホテル運営会社VHM」(以下「VHM」)、そのホテルを「本件ホテル」とします。
- 本件ホテルで旅館業営業許可を取得した会社を「ホテル営業会社NWC」(以下「NWC」)とします。
- JSHのM&A担当者を「担当者RNS氏」とします。
判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。
事案の概要―ホテル事業の承継のはずが、不動産売買契約だけが締結された
秘密保持契約とアドバイザリー業務委託契約の二本立て
CNSは、令和4年6月18日、JSHとの間で相互秘密保持契約を締結し、同月20日、JSHに対し、VHMが保有・運営していた本件ホテルに関する事業概要書を送付しました。この秘密保持契約には、相手方から提供された情報に基づいて候補企業に直接接触・直接交渉することを禁止する条項がありました。
次いで、CNSは、JSHの関係会社であるKSEとの間で、令和4年6月29日付けで、KSEの株式譲渡・譲受又は事業譲渡・譲受に関するアドバイザリー業務委託契約を締結しました。業務の内容は、相手方となる第三者の紹介、相手先の選定の援助、過程全体に対する助言及びこれらに付随するサービスです。報酬は、KSEが相手方と「本件に関する契約」を締結した場合に、取引対価に料率を乗じて計算する成功報酬型で、ミニマム手数料は300万円(税抜)とされていました。依頼者及びその関係会社が、CNSの承諾なく紹介先に直接接触し交渉することを禁止する条項もありました。
さらに、令和4年7月4日付けの覚書で、CNSが紹介したVHMとKSEが契約を締結した場合の報酬は、550万円(税込)の固定とすることが合意されました。
TKM氏は、令和3年3月26日にKSEの取締役に就任し、同日から同年11月24日まで代表取締役でした。また、JSHの代表取締役です。
事業譲受けの予定から、不動産売買契約と事業譲渡契約の二本立てへ
判決が認定した事実によれば、CNSの代表者HRT氏は、令和4年6月24日、TKM氏に対し、企業提携のスキームが事業譲渡となる予定である旨をメールで伝えました。7月1日には、取引形態を本件ホテル事業の譲受け、譲渡希望価格を3億円とし、基本合意、デュー・ディリジェンス、最終合意、クロージングの日程を記載したVHM宛ての意向表明書の案を送っています。
これに対し、TKM氏は7月3日、意向表明書の案の内容であれば不動産売買契約の方法で進めた方がメリットがある旨を返信し、同日、契約の方法について、不動産売買契約書及び事業譲渡契約書を作成することでよい旨のメールを送りました。HRT氏が同日送った日程の書面にも、不動産売買契約及び事業譲渡契約を締結する旨が記載されていました。HRT氏は、7月5日に両契約書の案を同月8日までに準備する予定であると伝え、同日、重要事項説明書や売買契約書等の各案を送り、7月10日にはホテルの修繕に関する資料と従業員の賃金台帳を送っています。
不動産売買契約の締結と、その直後の報酬請求
TKM氏は令和4年7月11日に重要事項の説明を受け、KSEは、7月12日付けで、VHMとの間で本件ホテルの土地及び建物の売買契約を締結しました。売買代金は3億円で、特約条項として、VHMがホテル事業承継について一定期間KSEに協力し、期間は契約締結後に協議して確定することが定められていました。事業譲渡契約は締結されていません。
CNSは、売買契約締結の2日後である7月14日、TKM氏及び担当者RNS氏に対し、アドバイザリー契約及び覚書に基づく手数料として550万円を請求しました。担当者RNS氏が翌15日、事業の譲受けが完了していないことや、CNSがアドバイザーとしての業務を全うしていないことなどを指摘したのに対し、HRT氏は、最終契約として不動産売買契約を締結しており、締結当日に被告ら側からその後は直接交渉をすると聞き、VHMも了承している、アドバイス業務もこの時点で終了したなどと返信しました。
直接交渉の中止要請と、資料提供の拒否
HRT氏は、7月29日、TKM氏に対し、VHMと直接交渉を行わないよう求めるメールを送りました。TKM氏は8月10日、HRT氏に、運営マニュアル、従業員雇用マニュアル、取引先一覧、顧客名簿一覧などの資料の提供を依頼しましたが、HRT氏は8月12日、請求に対する支払が確認できていない状況で追加の依頼は受けられない、資料の提供の求めについては、この部分の事業譲渡の契約は締結されていないと回答しました。
売買の残代金の支払日等は、9月27日付けの覚書で10月31日に変更されましたが、KSEとVHMは10月7日に所有権移転登記手続をしました。同日、NWCが本件ホテルの旅館業営業許可を取得し、TKM氏は12月12日にNWCの代表取締役に就任しました。
事案の経緯の時系列
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 令和3年3月26日 | TKM氏がKSEの取締役・代表取締役に就任(代表取締役は同年11月24日まで) |
| 令和4年6月18日 | CNSとJSHが相互秘密保持契約を締結 |
| 令和4年6月20日 | CNSがJSHに本件ホテルの事業概要書を送付 |
| 令和4年6月24日 | HRT氏がTKM氏に、スキームは事業譲渡となる予定とメール |
| 令和4年6月29日付け | CNSとKSEがアドバイザリー業務委託契約を締結 |
| 令和4年7月1日 | HRT氏がTKM氏に意向表明書の案(事業の譲受け、3億円)を送付 |
| 令和4年7月3日 | TKM氏が不動産売買契約の方法の方がメリットがある旨、両契約書を作成することでよい旨を返信 |
| 令和4年7月4日付け | CNSとKSEが報酬を550万円(税込)の固定とする覚書を締結 |
| 令和4年7月12日付け | KSEとVHMが本件ホテルの土地建物の売買契約(代金3億円)を締結 |
| 令和4年7月14日 | CNSが550万円の手数料を請求 |
| 令和4年7月15日 | 担当者RNS氏が業務未了等を指摘し、HRT氏はアドバイス業務は終了したなどと返信 |
| 令和4年7月29日 | HRT氏がTKM氏に、VHMと直接交渉しないよう求める |
| 令和4年8月10日 | TKM氏がHRT氏に運営マニュアル等の資料提供を依頼 |
| 令和4年8月12日 | HRT氏が、支払未確認のため追加依頼は受けられないと回答 |
| 令和4年9月27日付け | 残代金の支払日等を10月31日に変更する覚書 |
| 令和4年10月7日 | 所有権移転登記手続。NWCが旅館業営業許可を取得 |
| 令和4年12月12日 | TKM氏がNWCの代表取締役に就任 |
| 令和7年6月20日 | 東京地方裁判所が請求をいずれも棄却する判決 |
判断の前提となった契約条項
以下は、判決本文が「次のような内容の」契約として整理した記載に基づくものです。契約書原本の条文をそのまま再現したものではありません。当事者の呼称は本記事の表記に置き換えています。
秘密保持契約4条―候補企業への直接接触・直接交渉の禁止
CNS及びJSHは、相手方の事前の承諾なくして、相手方から提供された情報に基づいて、当該候補企業に直接接触又は直接交渉を行ってはならず、また、直接間接を問わず、候補企業に関する調査等を行ってはならない。
同契約6条1項は、秘密情報の漏えいや契約違反の場合に、開示者に対して「直接かつ現実的に発生した損害のみ」を賠償する責任を負うと定めていました。
アドバイザリー契約6条1項―成功報酬の発生
本件に関する契約をKSEが相手方となる第三者と締結した場合、6条5項に定める契約終了後1年間の期間が満了している場合でも、業務委託ないしアドバイザリー手数料として、KSEの相手方への取引対価を表の金額区分ごとに料率を乗じて計算した金額を支払う。CNSの手数料はミニマム手数料を300万円(税抜)として表に従うが、KSE・CNS協議の上、個別に決めることができる。
アドバイザリー契約6条5項―契約終了後1年間の報酬保護
6条1項及び2項の規定は、契約の終了後1年間は、KSEとCNSの紹介にかかる相手候補者が本件の実行に関して合意した場合にも有効とし、契約期間中に契約が締結されたものとみなし、KSEはCNSに手数料を支払う。
アドバイザリー契約11条―紹介先との直接交渉の禁止
KSE及びKSEの関係会社は、事前のCNSの承諾なく、業務の進展を目的として、CNSが本目的進展のために相手方へ紹介した企業又はその関係者に直接接触し、交渉をしてはならない。
令和4年7月4日付け覚書―VHMとの契約の場合の固定報酬
アドバイザリー契約に基づきCNSが紹介したVHMとKSEが契約を締結した場合、業務委託ないしアドバイザリー報酬は550万円(税込)の固定とする。
判決の整理では、この覚書には、専門機関への報酬に関する6条4項の規定を適用しない旨も定められていました。
原告の請求と当事者の主な主張
CNSの請求
CNSは、KSE、JSH及びTKM氏に対し、主位的に、連帯して1,980万円及び令和4年10月8日からの年3%の遅延損害金の支払を求めました。内訳は次のとおりです。
- KSEに対し、アドバイザリー契約に基づく手数料又は債務不履行・不法行為に基づく損害賠償として1,650万円(売買代金3億円の5%相当額に消費税を加算した額と主張)。
- KSEに対し、NWCが旅館業営業許可を取得したことによる営業権の譲受けに伴い、ミニマム手数料である330万円が発生したとして、債務不履行・不法行為に基づく損害賠償330万円。
- KSEに対し、TKM氏の不法行為について民法715条1項に基づく使用者責任として1,980万円(上記2つとの選択的請求)。
- JSHに対し、秘密保持契約4条違反の債務不履行又はTKM氏の行為についての会社法350条に基づく損害賠償として1,980万円。
- TKM氏に対し、会社法429条1項又は不法行為に基づく損害賠償として1,980万円。
予備的には、KSEに対し、覚書に基づく手数料として550万円及び令和4年7月23日からの年3%の遅延損害金を請求しました。
CNSの主な主張
CNSは、KSEがVHMから本件ホテルの土地建物を3億円で購入した以上、アドバイザリー契約6条5項又は覚書に基づく手数料請求権があると主張しました。また、KSEは令和4年7月29日以降、11条に違反してVHMと直接交渉を行い、手数料を支払わずに損害を与えた、JSHも秘密保持契約4条に違反した、TKM氏は直接交渉を主導し、事業譲渡を不動産売買と主張して故意に支払を拒否したと主張しました。
被告らの主な主張
KSEは、VHMとの間では不動産売買契約を締結したにすぎず、CNSが事業譲渡の部分に関与せず、選定の援助や助言をほとんど行わなかったため、事業譲渡という形式が採られなかったと主張しました。また、CNSと連絡を取る前から複数の不動産業者を通じて本件ホテルが売りに出ていることを知っており、登記情報で所有者も確認していたとも主張しました。
直接交渉禁止条項については、事業譲渡前に可否や条件を直接交渉することを禁止するもので、本件では事務的な引継ぎに関するやり取りがあったにすぎない、CNS自身が引継ぎの実務的・事務的な部分を直接やり取りすることを当初から承諾していたと主張しました。JSHも同じ主張をし、TKM氏は請求を争いました。
結論を左右した争点
判決は争点を5つに整理しましたが、結論を左右したのは、次の2点です。
- 不動産売買契約だけが締結された場合に、成功報酬の発生要件である「本件に関する契約」の締結に当たるか。
- アドバイザーが業務を事実上放棄した後に依頼者が紹介先と直接交渉した場合に、直接交渉禁止条項違反となるか。
営業権の譲受けに伴う請求、JSHの責任及びTKM氏の責任は、いずれもこの2点の判断を前提に退けられています。
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
成功報酬の「契約」は最終的な契約を意味する
裁判所は、アドバイザリー契約の手数料が、KSEが相手方と本件に関する契約を締結した場合に支払うものと規定されていることについて、成功報酬を定めたものであるから、ここでいう契約は最終的な契約を意味するものと解しました。
そのうえで、本件ホテルの事業承継については不動産売買契約と事業譲渡契約の締結が予定されていたこと、実際には不動産売買契約だけが締結され、事業譲渡契約は締結されていないことを認定しました。売買契約の特約条項にVHMの事業承継への協力が定められていた点についても、裁判所は「これをもって事業譲渡の効力が生じるものではない」と述べています。結論として、次のように判断しました。
「本件不動産売買契約のみの締結をもって、本件ホテルの事業承継に関する最終的な契約が締結されたということはできない」
直接交渉禁止条項は、アドバイザーの手数料を守るための条項
直接交渉禁止条項について、裁判所はその趣旨を次のように解しました。
「〔KSE〕が、〔CNS〕の紹介行為や交渉能力を不当に利用して、紹介相手と直接交渉して契約締結をすることにより、〔CNS〕が得るべき手数料等を害することを防ぐ趣旨であると解される」
つまり、条項の文言に形式的に当てはまる接触があるかどうかだけではなく、アドバイザーが得るべき手数料が害されたかどうかという実質から違反の有無を判断する枠組みです。
各主張を採用し又は排斥した理由
手数料請求―不動産売買契約だけでは報酬は発生しない
主位的請求の手数料1,650万円も、予備的請求の550万円も、裁判所は、不動産売買契約の締結だけでは「本件に関する契約」を締結した場合に当たらないとして認めませんでした。判決は覚書の「契約を締結した場合」について別に詳しく論じてはいませんが、アドバイザリー契約に基づく手数料を請求することはできないとの結論の中で、予備的請求も棄却しています。
NWCによる事業の承継―アドバイザーの業務との因果関係を否定
CNSは、NWCが旅館業営業許可を取得し、本件ホテルで事業を行うに至ったことを報酬の根拠として主張しました。裁判所は、CNSが売買契約締結の2日後に手数料を請求し、売買契約の締結時をもってアドバイザリー業務は終了したなどと主張して、助言を行う業務を事実上放棄したと認定しました。そして、NWCが事業を事実上承継したと評価する余地があるとしても、「それは、〔CNS〕による業務と相当因果関係を有するものということはできない」と判断しました。
依頼者側が報酬の発生を認めていたとの主張も採用しない
CNSは、売買契約締結当日に被告ら側から直接交渉をすると伝えられたなどと述べていましたが、裁判所は、TKM氏や担当者RNS氏が事業の譲受けが完了していないことを指摘したり、追加の資料の提供を求めたりしていたことから、次のとおり判断しました。
「〔TKM氏〕が、本件不動産売買契約締結時に、その時点で本件アドバイザリー契約に基づく手数料の支払義務が発生することを容認したり、その後の〔CNS〕からの助言を放棄したりする言動をしたとは考え難く、これを認めるに足りる的確な証拠はない」
直接交渉禁止条項違反―手数料が害されていない以上、実質的に違反ではない
裁判所は、上記の判断を前提に、CNSは売買契約締結後に業務を事実上放棄し、手数料を請求することはできないのであるから、次のように判断しました。
「〔KSE〕が〔VHM〕と直接交渉をしたとしても、〔CNS〕が得るべき手数料を害するものではなく、実質的にみて、直接交渉禁止条項に違反したと評価することはできない」
JSHの秘密保持契約4条違反の主張についても、同様の理由から、実質的にみて直接交渉禁止条項に違反したと評価することはできないとされました。なお、判決は、7月29日以降に実際にどのような直接交渉があったかを個別に認定したうえで判断したのではなく、条項の趣旨に照らして違反と評価できないという理由で請求を退けています。
営業権の譲受けに伴う330万円の請求
営業権の譲受けに伴う請求については、アドバイザリー契約に基づく手数料を請求できない以上、理由がないとされました。
役員TKM氏の責任
TKM氏の会社法429条1項又は不法行為に基づく責任についても、裁判所は、手数料請求と直接交渉禁止条項についての判断によれば、「〔TKM氏〕に任務懈怠があるとは認められず、不法行為が成立するということもできない」と判断しました。KSEの民法715条1項に基づく責任やJSHの会社法350条に基づく責任について、判決は個別の説示をしていませんが、結論として原告の請求はいずれも理由がないとして棄却しています。
主文及び結論
判決の主文は、「原告の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」というものです(ここでの「原告」はCNSを指します)。アドバイザーであるCNSの主位的請求(1,980万円)及び予備的請求(550万円)は、いずれも認められませんでした。
判断の射程―参考となる点と一般化できない点
以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。
参考となる点
第1に、成功報酬型のアドバイザリー契約で「本件に関する契約」を締結した場合とだけ定めていると、取引が複数の契約で構成される予定だった場合には、その一部の契約だけでは報酬が発生しないと解される可能性があることです。本件では、意向表明書の案や日程の書面、メールで、不動産売買契約と事業譲渡契約の両方を締結する予定であったことが認定されており、その記録が最終的な契約の範囲を判断する材料になっています。
第2に、アドバイザーが報酬を請求する際に、業務は終了したと表明したり、追加の協力を拒んだりすると、その後に相手方間で取引が進んでも、アドバイザーの業務との因果関係が否定され、直接交渉禁止条項による保護も受けにくくなることです。本件では、売買契約締結の2日後の報酬請求と、業務が終了したとの返信が、手数料請求と直接交渉禁止条項違反の主張の双方で結論を左右しました。
第3に、直接交渉禁止条項は、文言に当てはまる接触があれば当然に違反となるのではなく、アドバイザーの手数料を守るという趣旨から実質的に判断されたことです。依頼者側からみれば、アドバイザーが業務を放棄した後の直接のやり取りは、違反と評価されなかった例となります。
一般化できない点
本判決は、成功報酬の文言、意向表明書の案やメールの内容、報酬請求のタイミング、業務終了の表明といった本件の具体的な事情に基づく判断です。不動産売買契約だけで取引が完結する予定だった事案や、覚書で報酬の発生事由を明確に定めていた事案では、結論が異なり得ます。本件の覚書は「〔VHM〕と〔KSE〕が契約を締結した場合」に550万円とするもので、判決はこの文言について独立した検討を示していないため、覚書の文言だけを取り上げて一般論を導くことはできません。
また、アドバイザーが業務を継続していた段階で依頼者が紹介先と直接交渉した場合には、手数料が害されたと評価される余地があり、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。契約終了後1年間の報酬保護条項(6条5項)の適用の有無についても、判決は独立した判断を示していません。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。
契約や交渉で確認しておきたいこと
アドバイザーの側では、報酬の発生事由を、いずれかの契約を締結した場合とするのか、取引の全体を構成する契約がすべて締結された場合とするのかを明確にし、取引の形が変わった場合の報酬の扱いも定めておくことが考えられます。依頼者の側では、報酬を請求された時点で、予定されていた契約がすべて締結されたか、アドバイザーがどの業務を行い、どの段階で業務を終えたかを、メール等の記録で整理しておくことが重要です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。
よくあるご質問
アドバイザーが紹介した相手と不動産売買契約だけを結んだ場合、成功報酬は発生しますか。
契約の定め方と、予定されていた取引の内容によります。本判決では、不動産売買契約と事業譲渡契約の締結が予定されていたことから、成功報酬の発生要件である契約は最終的な契約を意味するとされ、不動産売買契約だけでは報酬は発生しないと判断されました。
直接交渉禁止条項があるのに、依頼者が紹介先と直接やり取りをすれば、必ず違反になりますか。
本判決は、条項の趣旨をアドバイザーが得るべき手数料等を害することを防ぐものと解し、アドバイザーが業務を事実上放棄して手数料を請求できない状況では、実質的にみて違反とは評価できないとしました。もっとも、アドバイザーが業務を継続している段階の直接交渉については、別に検討が必要です。
アドバイザーが報酬を請求するときに注意すべきことは何ですか。
本件では、売買契約締結の直後に報酬を請求し、業務は終了したと表明したことが、助言業務の事実上の放棄と評価されました。報酬の請求と業務の継続の意思は分けて伝え、取引の残りの部分についての協力をどうするかを記録に残しておくことが考えられます。
依頼者の役員個人も責任を問われることがありますか。
本件では、アドバイザーが役員個人に会社法429条1項や不法行為に基づく責任を主張しましたが、会社側の契約違反が認められなかったことから、役員の任務懈怠も不法行為も認められませんでした。役員個人の責任は、会社の行為が違法と評価されることが前提になる場面が多いといえます。
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