アーンアウトの追加代金は何年で時効になるのか

会社を譲渡した際の株式譲渡契約に、譲渡後2期の業績に応じて追加の代金を支払う旨のアーンアウト条項がありました。買主からは、目標に達しなかったとして支払がされないまま、数年が経過しております。その後も断続的に協議を続けてまいりましたが、解決には至っておりません。アーンアウトの追加代金の請求権は、何年で時効になるのでしょうか。また、起算点はいつになるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。アーンアウトの追加代金の請求権も、通常の債権と同じく、権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅いたします。もっとも、この類型においては、起算点がいつであるかが判然としないことが少なくありません。あわせて、契約に定められた異議申述の期限という別の期間の制限があり、こちらの方がはるかに短いことが通例です。本記事では、二つの期間の相違と、管理の方法を整理いたします。

第1節 二つの期間を区別いたします

 性質の異なる二つの期間

アーンアウトに関しては、性質の異なる二つの期間を区別して管理する必要があります。

表1 二つの期間の相違

項目 契約上の異議申述の期限 消滅時効
根拠 契約の定め 民法第166条第1項
期間 30日から90日程度が通例です 5年又は10年
起算点 算定書の交付又は受領の時 権利を行使することができる時等
徒過した場合 算定の結果が確定いたします 債権が消滅し得ます
実務上の重要性 極めて高いものです 長期の管理が必要です

 実務上はまず異議の期限です

消滅時効の期間は5年又は10年であるのに対し、契約上の異議申述の期限は、算定書の交付から30日から90日程度とされているのが通例です。

したがって、実務上、まず問題となるのは異議申述の期限です。この期限を徒過いたしますと、算定の結果が確定し、時効の期間が残っていても争うことが困難となります。

 異議を述べた後は時効の管理

期限内に異議を述べた後は、消滅時効の管理が課題となります。協議が長期に及ぶ場合には、時効の完成に留意する必要があります。

第2節 消滅時効の期間と起算点

 期間

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅するとされております(民法第166条第1項)。

 起算点が問題となる理由

アーンアウトの追加代金は、対象期間の業績が目標に達した場合に発生いたします。したがって、権利を行使することができる時がいつであるかが、契約の定めにより異なります。

表2 起算点として考えられる時点

時点 考え方
対象期間の終了時 業績が確定した時とする考え方
計算書類の確定時 算定の基礎が確定した時とする考え方
算定書の交付時 算定の結果が示された時とする考え方
異議の期限の経過時 算定が確定した時とする考え方
契約に定めた支払期日 履行期が到来した時とする考え方

 契約に支払期日の定めがある場合

契約において、算定の結果に基づく支払の期日が具体的に定められている場合には、当該期日の到来により権利を行使することができることとなります。この場合には、起算点が明確です。

アーンアウト条項を定める際には、支払の期日を明確に定めておくことが望まれます。

 定めがない場合

支払の期日が定められていない場合には、起算点が争点となり得ます。この場合には、最も早い時点を起算点として管理しておくことが安全です。

すなわち、対象期間の終了時から5年と考えて管理いたします。

 条件が付されている場合

目標の達成を停止条件とする定めがされている場合には、条件が成就した時から権利を行使することができることとなります。

目標の達成の有無について争いがある場合には、この点自体が争点となります。

第3節 異議申述の期限の管理

 期限の確認

算定書を受領した場合には、直ちに契約における異議申述の期限を確認いたします。起算点が交付の日か受領の日か、期間が暦日か営業日か、到達を要するかを確認いたします。

 期限内の異議

期限内に、書面により、争う項目を特定して異議を述べます。資料が不足しているために検討が及んでいない項目については、留保を付しておきます。

 徒過した場合

契約に確定に関する定めが置かれている場合には、争うことが困難となるのが通例です。もっとも、算定が契約に定められた方法によっていない場合や、買主が資料を交付しなかった場合には、なお主張の余地が残ることがあります。

 算定書が交付されない場合

買主が算定書を交付しない場合には、異議申述の期限は進行いたしません。他方、消滅時効については、契約の定めによっては進行し得ますので、注意が必要です。

この場合には、算定書の交付を求める書面を送付し、その経過を記録に残します。

第4節 時効の完成を防ぐ方法

 主な方法

時効の完成を防ぐ方法としては、裁判上の請求(民法第147条)、催告(民法第150条)、協議を行う旨の合意(民法第151条)、承認(民法第152条)があります。

 協議を行う旨の合意

アーンアウトに関する紛争は、協議が長期に及ぶことが少なくありません。権利についての協議を行う旨の合意が書面によってされたときは、一定の期間、時効は完成しないとされております(民法第151条第1項)。

協議を継続する場合には、この合意を書面により取り交わしておくことが有効です。単に協議を続けていたにとどまる場合には、この効力は生じません。

 催告

催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は完成しないとされております(民法第150条第1項)。催告を繰り返して期間を延ばし続けることはできません(同条第2項)。

 承認

買主が追加代金の支払義務を認める言動をした場合には、承認として時効が更新されることがあります(民法第152条第1項)。

もっとも、アーンアウトの紛争においては、買主が目標の未達成を主張して支払義務そのものを否定していることが通例です。したがって、承認が生じる場面は限られております。

 訴えの提起

協議が調わない場合には、訴えを提起することとなります。裁判上の請求があったときは、その事由が終了するまでの間は、時効は完成しないとされております(民法第147条第1項)。

第5節 実務上の進め方

 対象期間の終了時から準備いたします

対象期間が終了した段階で、算定書の交付を待つとともに、譲渡前の資料と対比するための準備を進めます。

 算定書の受領後

算定書を受領した場合には、直ちに異議申述の期限を確認し、内容の検証に着手いたします。あわせて、算定の根拠となる資料の交付を求めます。

 協議の期間の管理

協議に入った後は、消滅時効の完成の時期を算定し、管理いたします。協議が1年を超えて続く場合には、協議を行う旨の合意を書面により取り交わすことを検討いたします。

 買主の資力

時効の管理と併せて、買主の資力についても確認いたします。協議が長期に及ぶ間に、買主の状況が変化することがあります。

 契約における備え

アーンアウト条項を定める際には、算定書の交付の期限、異議申述の期限、支払の期日を明確に定めておくことが望まれます。これにより、二つの期間の起算点が明確となります。

第6節 弁護士に相談する意味

アーンアウトに関する期間の管理について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約における異議申述の期限を特定し、期限内に必要な異議を述べることです。第二に、消滅時効の起算点を検討し、完成の時期を算定することです。第三に、協議が長期に及ぶ場合に、協議を行う旨の合意を取り交わすことです。第四に、時効の完成が迫っている場合に、催告又は訴えの提起といった手続を選択することです。第五に、契約の作成の段階においては、期間に関する条項を明確に定めることです。

この類型においては、まず契約上の異議申述の期限が問題となり、その後に消滅時効の管理が課題となります。二つの期間を区別して管理することが重要です。

具体的な期間の算定及び手続の選択は、契約の定め、算定書の交付の状況、協議の経過等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 何年で時効になりますか。

権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅いたします(民法第166条第1項)。もっとも、起算点が契約の定めにより異なりますので、契約の確認が必要です。

質問2 起算点はいつですか。

契約に支払の期日が定められている場合には、当該期日の到来した時が起算点となります。定めがない場合には争点となり得ますので、対象期間の終了時から5年と考えて管理しておくことが安全です。

質問3 時効よりも先に注意すべき期間がありますか。

契約に定められた異議申述の期限です。算定書の交付から30日から90日程度とされているのが通例であり、消滅時効よりもはるかに短いものです。この期限を徒過いたしますと、算定の結果が確定し、争うことが困難となります。

質問4 協議を続けていれば時効は延びますか。

当然には延びません。協議を行う旨の合意が書面によってされたときは、一定の期間、時効は完成しないとされております(民法第151条第1項)。協議を継続する場合には、この合意を書面により取り交わすことが有効です。

質問5 買主が算定書を交付しません。

異議申述の期限は進行いたしませんが、消滅時効については契約の定めによっては進行し得ます。算定書の交付を求める書面を送付し、その経過を記録に残した上で、時効の管理を行う必要があります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、アーンアウトの追加代金の請求及び期間の管理に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、株式譲渡契約書、アーンアウトに関する別紙、買主から交付された算定書及び受領の日が分かる記録、これまでの協議の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。異議の期限が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第145条(時効の援用)、第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第150条(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第127条第1項(停止条件付法律行為の効力)、第130条第1項(条件の成就の妨害)、第412条(履行期と履行遅滞)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)

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