M&A仲介業者は免許を持っていないのですか?

この記事の位置付け

M&A仲介業者を規律する制度に関するメインのページです。本ページは、M&Aトラブルの前提として、免許の要否と現に適用される規律の所在をご説明します。善管注意義務が問題となる場面は別のページをご参照ください。

個別の場面において仲介会社の注意義務の内容がどのように判断されるかは、M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面をご覧ください。

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M&A仲介会社との契約を検討している経営者の方の中には、宅地建物取引業のように免許を要する業種なのか、それとも誰でも自由に営むことができる業種なのか、疑問を感じておられる方が少なくありません。

M&A仲介業について免許制度の有無を理解しないまま契約すると、依頼先の信頼性を判断する材料を欠いたまま取引を進めることになり、トラブルに巻き込まれる危険が高まります。

本記事では、M&A仲介会社の免許制度の有無について説明いたします。

M&A仲介会社の免許

M&A業者には規制がないのですよね。不動産業者には宅建業法などの規制があるのになぜなのでしょうか。思い付きでM&A仲介を始めている人が多いせいか、非常に、M&Aトラブルの問い合わせが増えています。M&Aトラブルに巻き込まれたら、M&A契約を見ましょう。

おそらく、しっかりした契約書を作成していただいていれば、何等か手掛かりになるものが入っていることが多いです。そういう場合にこそ、M&A契約書に規定したことが思いのほか生きるのですね。

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免許制度はありませんが、規制がないわけではありません

M&Aの仲介を業として行うことについて、宅地建物取引業法のような免許又は許可の制度は設けられておりません。この点は現在も変わっておりません。

もっとも、M&A仲介業について何らの規律も存在しないという理解は、現在では正確ではありません。次の制度が整備されております。

1 中小M&Aガイドライン

中小企業庁は、令和2年3月に「中小M&Aガイドライン」を策定し、令和6年8月にその第3版を公表しております。同ガイドラインは、中小企業のM&Aに関わる当事者及びM&A支援機関を対象として、手続の流れ、各手続における当事者の役割及び留意点並びにトラブルが発生した場合の対応を示すものです。

2 M&A支援機関登録制度

令和3年8月、中小企業庁により、M&A支援機関登録制度が創設されました。登録を希望する支援機関には中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することが求められ、不適切な対応が確認された場合には登録の取消しが可能とされております。登録された仲介業者及びフィナンシャル・アドバイザーは、中小企業庁により公表されております。

したがいまして、仲介会社を選定される際には、当該会社がM&A支援機関として登録されているか、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言しているかが、一つの判断材料となります。

それでも契約書の確認が最も重要です

登録制度は登録の有無を確認する手掛かりを与えるものではありますが、個々の取引における契約内容の妥当性を保証するものではありません。実際にトラブルが生じた場合に頼りとなるのは、締結した契約の条項です。

仲介契約又はアドバイザリー契約を締結される前に、少なくとも次の各条項を確認してください。

第一に、専任条項です。他の支援機関への並行した依頼を禁止するものであり、期間及び範囲が過度に広範でないかを確認いたします。

第二に、テール条項です。契約の終了後一定の期間内に成約した場合にも手数料が発生する旨の条項であり、期間及び対象となる譲受け候補の範囲を確認いたします。

第三に、手数料の体系です。着手金、月額報酬、中間金及び成功報酬の別、算定の基礎となる金額(譲渡価額か、負債を含む移動総資産か)、最低手数料の額を確認いたします。

第四に、仲介者が譲り渡し側と譲り受け側の双方から手数料を受領する場合の利益相反に関する説明及び同意の有無です。

第五に、解除に関する条項です。

これらはいずれも締結前であれば交渉の余地がありますが、締結後に争うことは容易ではありません。契約書に押印される前に、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

他の業法との関係

M&A仲介それ自体を対象とする免許制度は存在いたしませんが、仲介会社が実際に行う個々の行為が、他の法律による規制の対象となる場合があります。仲介会社の業務の範囲を理解するうえで重要な点ですので、順に整理いたします。

1 弁護士法第72条との関係

弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることを禁じております。

M&A仲介会社が、譲り受け候補先の探索、企業概要書の作成、日程の調整といった事実行為を行うことは、この規制に触れるものではありません。他方で、株式譲渡契約書の条項を起案し、表明及び保証の範囲や補償の限度額について当事者に代わって相手方と交渉し、あるいは紛争が生じた後にその解決の条件を取りまとめるという行為は、法律事務の取扱いに当たり得ます。

実務上、この点は「契約書の雛形を提示するにとどまるのか」「個別の事情に応じて条項の是非を判断し、相手方と折衝しているのか」という区別によって考えられております。経営者の側からいたしますと、仲介会社が契約書の内容について助言をする場合であっても、それは法的な責任を伴う助言ではないという前提で受け止め、契約書の評価は別に弁護士に依頼するという構えが安全です。

2 宅地建物取引業法との関係

宅地建物取引業法第2条第2号は、宅地又は建物の売買若しくは交換、及び宅地又は建物の売買、交換若しくは貸借の代理又は媒介を業として行うものを宅地建物取引業と定め、同法第12条は免許を受けない者がこれを営むことを禁じております。

株式譲渡の方法によるM&Aでは、不動産の所有名義は対象会社のままであり、移転するのは株式ですので、宅地建物取引業には該当いたしません。これに対し、事業譲渡の方法により工場や店舗の不動産そのものを移転する場合において、仲介会社がその不動産の売買を媒介するときは、宅地建物取引業の免許の要否が問題となります。不動産の比重が大きい案件では、この点を確認しておくことをお勧めいたします。

3 金融商品取引法との関係

金融商品取引法上、株式は有価証券に当たり、有価証券の売買の媒介を業として行うことは、同法第28条以下にいう第一種金融商品取引業として登録の対象となり得ます。もっとも、非上場会社の株式の相対の取引を仲介する行為について、これを「業として」行うものと評価すべきかについては、従前から議論のあるところです。

現状において、多くのM&A仲介会社は金融商品取引業の登録を受けないまま業務を行っております。したがいまして、経営者の側といたしましては、金融商品取引業の登録がないことをもって直ちに問題があると評価するのではなく、後述の登録制度及び契約条項によって相手方を評価するほうが実際的です。

登録の有無を確認する方法

M&A支援機関登録制度による登録の有無は、中小企業庁が公表している登録支援機関の情報により確認することができます。登録を受けた仲介会社及びフィナンシャル・アドバイザーは、その商号、所在地及び業務の内容とともに公表されております。

登録を受けた支援機関には、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言し、その旨を自社のウェブサイト等において公表することが求められております。したがいまして、次の3点を確認することで、おおよその見当を付けることができます。

  • 中小企業庁の公表する登録支援機関の情報に、当該会社の商号が掲載されているか。
  • 当該会社のウェブサイトに、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した旨の記載があるか。
  • 提示された仲介契約書の内容が、その宣言の内容と整合しているか。

なお、中小企業庁には、登録支援機関の不適切な対応に関する情報を受け付ける仕組みが設けられており、確認された場合には登録の取消し等の措置が採られることとされております。もっとも、これは行政上の措置であり、経営者の受けた損害を回復する手続ではありません。損害の回復は、次に述べるとおり、契約及び民事上の責任の問題となります。

仲介会社の責任を問い得る場面

M&A仲介契約は、その性質において準委任契約と解されることが通常です。したがいまして、仲介会社は民法第644条により善良な管理者の注意をもって業務を処理する義務を負い、これに違反して依頼者に損害を与えた場合には、同法第415条により債務不履行に基づく損害賠償の責任を負い得ます。

実際に責任が問題となりやすいのは、次のような場面です。

  • 譲り受け候補先の財務の状況や資金調達の見込みについて、明らかに不十分な確認のまま交渉を進行させた場合。
  • 譲り渡し側と譲り受け側の双方から手数料を受領する立場にありながら、利益が相反する事項について説明をせず、又は一方に著しく偏った取りまとめをした場合。
  • 対象会社の重要な事項について、依頼者から伝えられた内容を相手方に正確に伝達せず、又は相手方から得た重要な情報を依頼者に伝達しなかった場合。
  • 専任条項及びテール条項の意味と効果について説明をせず、依頼者が他の支援機関に依頼する機会を失った場合。

もっとも、仲介会社は当事者のいずれか一方の代理人ではありませんので、依頼者にとって最も有利な条件を実現する義務までを負うものではありません。責任の追及に当たっては、どの義務に違反したのか、その違反によりいかなる損害が生じたのかを、契約書、提案書、面談の記録及び電子メールにより具体的に組み立てる必要があります。M&A仲介会社との業務委託契約の注意事項もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

免許のない会社に依頼するのは危険なのでしょうか。

免許制度そのものが存在いたしませんので、免許のないことは危険を意味いたしません。判断の材料となるのは、登録の有無、中小M&Aガイドラインの遵守の宣言、担当者の経験、及び提示された契約書の内容です。

登録を受けている会社であれば安心してよいのでしょうか。

登録は、届出の内容と遵守の宣言を前提とするものであり、個々の案件における対応の適否を保証するものではありません。登録の有無は出発点にとどまり、契約条項の確認は別途必要です。

仲介会社が契約書を作成してくれると言っておりますが、任せてよいのでしょうか。

契約書の起案及び条項の交渉は、弁護士法第72条との関係が問題となり得る領域です。雛形の提示を受けること自体は差し支えありませんが、その内容が自社にとって妥当かどうかの判断は、弁護士に依頼されることをお勧めいたします。

手数料の請求に納得がいかない場合はどうすればよいのでしょうか。

まず仲介契約書の手数料条項、算定の基礎、最低手数料及びテール条項を確認いたします。そのうえで、算定の基礎とされた金額が契約の定めと一致しているか、テール条項の期間及び対象の範囲に収まっているかを検討することになります。

まとめ

M&A仲介について免許の制度は設けられておりませんが、規律が存在しないわけではありません。中小M&Aガイドライン及びM&A支援機関登録制度による枠組みがあり、個々の行為については弁護士法、宅地建物取引業法及び金融商品取引法との関係が問題となり得ます。

もっとも、経営者を実際に守るものは、締結した契約の条項です。仲介契約書に押印される前の段階で、専任条項、テール条項、手数料の体系、利益相反に関する定め及び解除の条項を確認しておくことが、最も確実な備えとなります。仲介会社の対応に疑問を感じておられる場合、又は契約書の内容を確認しておきたい場合には、当事務所までご相談ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

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