売上除外・未払租税債務と表明保証違反―東京地方裁判所平成30年3月28日判決

株式買収後に修正申告が行われた場合でも、その原因が契約前の売上除外や請求書等の不保存にあるときは、税務に関する表明保証違反が問題になります。東京地方裁判所平成30年3月28日判決は、こうした事実を認定し、買主に生じた株式価値の減少について9714万8061円の賠償を認めました。

本ページは一審の税務上の事実認定と、調査で気付かなかった買主の過失等の判断を中心に解説します。控訴審による補償義務の法的な説明の補正は、東京高等裁判所平成30年10月4日判決の解説をご覧ください。

株式買収から税務調査までの経過

対象は東京地方裁判所平成30年3月28日判決、平成26年(ワ)第29077号・損害賠償請求事件です。以下では買主をA社、売主をBさん、水産物等の販売を行う対象会社をC社と表記します。BさんとC社は別の当事者であり、被告となったのは株式の売主Bさんです。

A社は平成24年2月27日、Bさんが保有するC社の全60株を1億5000万円で買い取り、代金を支払いました。C社は同年8月27日に税務調査を受け、過年度の売上除外と、消費税の仕入税額控除に必要な請求書等の保存が問題となりました。

同年10月、C社は税理士に調査への対応を委任しました。税理士は課税当局の提示資料を会計資料と照合し、C社は同月31日に法人税、消費税及び地方消費税の修正申告をしています。その後、A社は平成25年3月21日に株式を第三者へ再譲渡しましたが、売主に対する損害賠償請求を行いました。

税務問題を対象とした契約条項

本件契約には、計算書類等の適正な表示に関する財務条項に加え、納付期限が到来した公租公課の適正な申告と納付、将来具体化する課税問題の原因となる事実等の不存在に関する表明保証がありました。原判決別紙1から、判断の中心となった条項を引用します。「原告」はA社、「被告」はBさん、「本件会社」はC社です。

3条1項柱書 被告は、原告に対し、本件契約の締結日及び決済日において、以下の事項が重要な点において真実かつ正確であることを表明し保証する。

3条1項(3)⑧ 本件会社は、本件契約の締結日以前に納付期限が到来した、本件会社に課せられた法人税その他の公租公課(社会保険料を含む。)につき適法かつ適正な申告を行っており、その支払及び納付を完了していること。

3条1項(3)⑰ 上記各号に記載する他、本件株式の譲渡の内容に関する原告の判断に影響を及ぼす情報及び本件会社の経営に影響を与える事実(保証債務、損害賠償債務等経営に影響を及ぼす簿外負債の存在、将来具体化する課税問題や係争問題の原因となる事実を含む。)が存在しないこと。

6条1項 被告は、本件契約に基づく被告の義務又は3条1項に定める被告の表明及び保証の違反によって原告が被った損害、損失及び費用の賠償をするものとする。

申告条項は、単に実際に申告した金額を払ったかどうかだけを対象とするものとは解されませんでした。適正に申告し、本来支払うべき税金を納付しているかが問われています。

裁判所が認定した売上除外と請求書等の不保存

取引先の資料と総勘定元帳の照合

対象会社に売上があったことと、それが税務申告されていたことは別の問題です。本件では、取引先側の仕入計上額等とC社の総勘定元帳が照合され、第9期から第11期にかけての売上が帳簿に計上されていないことが確認されました。他の会計書類で計上されていることを示す証拠も見当たりませんでした。

税理士は、課税当局の資料をそのまま受け入れただけではなく、会社の会計資料を調べ、経理責任者にも取引の帰属を確認していました。裁判所は、資料の記載内容と修正申告に至った経過などから、申告されていない売上の存在を認定しました。

別名義の領収書がある取引の帰属

一部には会社名とは異なる名義の領収書があり、経理責任者は自分の個人事業による取引だったと説明しました。しかし税理士への回答では会社の売上と確認されていたことや、個人事業としての所得税申告がされていなかったこと等が検討され、その説明は採用されませんでした。

名義が会社と違うことだけで会社の取引ではないとしたのではなく、実際の取引、会計処理及び説明の整合性を検討しています。

仕入税額控除に必要な書類の保存

経理責任者は、仕入れの際に仕切伝票を作成・保管していたと説明しました。他方、税理士の調査では法定の請求書等の保存が確認できず、海産物の現金仕入れでは相手方が書類の発行に応じないという説明もされていました。

裁判所は保存を裏付ける客観的証拠等を検討し、必要な書類が保存されていなかったと認定しました。ここで解説しているのは本件当時の取引と消費税法の適用に関する判断です。

買収後の修正申告でも、契約前の問題が表明保証違反になる

Bさんは、税務申告や課税処分は買収後のものであり、表明保証の対象にならないと争いました。しかし裁判所は、売上除外及び請求書等の不保存という原因が契約前に存在していたことを重視しました。

申告条項の「本件会社に課せられた」という文言は、会社が実際に申告した税額を納付していれば足りるという意味ではなく、本来支払うべき税金の申告・納付も対象とすると解釈されています。また、契約時までの仕入れについて書類が保存されておらず、将来具体化する課税問題の原因が存在していたことは、判断影響条項の対象とされました。

裁判所は、この二つの条項に違反すると認め、財務条項違反の有無を判断するまでもなく表明保証違反があるとしました。修正申告の日付だけで、買収前と買収後の責任を区切ったわけではありません。

対象会社の税金と、買主の損害を区別した算定

認定された租税債務は、重加算税や延滞税等も含めて少なくとも1億4261万2385円でした。しかしこれはC社の租税債務であり、その金額がそのままA社への賠償額となったわけではありません。

A社の損害は、租税債務がないと仮定した場合の株式価値と、実際にその債務がある場合の株式価値との差額として検討されました。裁判所は、会計士の評価報告の資料選択、方法及び計算過程を合理的と認めています。

租税債務を織り込んだ再計算では、修正純資産方式がマイナス1億2024万円、DCF方式が1億0745万4000円で、両者の加重平均はマイナス639万3000円となっていました。二つの方式がそれぞれゼロだったのではなく、この評価結果等を踏まえて株式価値がゼロとされました。

租税債務がない場合については、買収前の評価幅の下限である9714万8061円を採用し、その差額を認容しました。請求額1億0794万2000円の全額を認めたわけではありません。評価報告の数値と控訴審による補正の詳細は、同事件の控訴審解説に整理しています。

買主が事前調査をしていたことは、免責理由になったか

Bさんは、A社が財務・税務の調査をして株価を算定していた以上、問題を知ることができたとして、買主側の重大な過失を主張しました。

裁判所は、帳簿に計上されていない売上や請求書等の不保存という問題の性質から、A社が契約前に認識するのは困難であり、認識しなかったことに過失があるとはいえないとしました。

調査を実施したという事実と、その問題を具体的に発見できたかは区別されています。本判決は、事前調査をしていれば必ず免責されるとも、調査不足がどのような場合でも問題にならないとも述べていません。

売主の貸付けや、株式の再譲渡は賠償を妨げなかった

Bさんは、対象会社に5000万円を貸し付け、買収後も会社の事業に貢献していたこと等を挙げ、請求が信義則に反すると主張しました。しかし貸付けは資産と同額の負債を増やすもので、買主の株式価値の減少を回復させるとはされませんでした。

また、A社が株式を第三者へ売却したことについても、租税債務はもともとC社の債務であってA社の債務ではないため、A社が税負担を転嫁したとはいえないとされました。

株式再譲渡の際に損害賠償請求権まで譲り渡す明示又は黙示の合意があったと認めるに足りる証拠もなく、A社の請求権が移転したという主張は退けられました。

控訴審による補正と本判決の位置付け

一審は、表明保証違反による債務不履行を理由に賠償を認めました。その後、東京高等裁判所平成30年10月4日判決は認容額を維持しつつ、表明保証自体と損害填補義務を区別し、損害填補義務を履行しないことによる債務不履行という説明に補正しています。

したがって、一審の「補償条項がなくても請求できる」という説明だけを取り出して契約実務の一般則とするのは適切ではありません。最終的な検討では、控訴審の説明と実際の契約条項を併せて読む必要があります。

本判決の実務上の検討点は、税金が追加で請求された時期だけでなく、その原因となる取引・帳簿・証拠書類がいつ存在したかを整理すること、そして会社の税負担と買主の株式価値の損失を分けて捉えることにあります。

出典:東京地方裁判所平成30年3月28日判決・平成26年(ワ)第29077号、東京高等裁判所平成30年10月4日判決・平成30年(ネ)第2772号。契約条項は原判決別紙1によります。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、租税債務の表明保証違反について、売上除外・請求書等の不保存の認定、契約前の原因事実及び買主の過失の判断を扱う一審の解説です。同事件の控訴審は、補償義務の法的な構成と評価計算を中心とする別ページにまとめています。


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