営業秘密とは?該当する情報の具体例・三つの要件・管理方法を解説

この記事の位置付け

営業秘密の意義と三つの要件に関するメインのページです。本ページは、M&Aトラブルの前提として、保護される情報の範囲と管理の方法をご説明します。従業員の退職の際の確認事項は別のページをご参照ください。

譲り受けた会社の従業員が相次いで退職した場合の確認事項は譲り受けた会社の従業員が相次いで退職した場合に確認する事項を、退職者が顧客名簿を持ち出した場合の対応は退職者による顧客名簿の持ち出しへの対応をご覧ください。

同じ主題を扱う関連ページ

企業が保有する顧客情報、技術情報、営業ノウハウ、価格情報などは、事業活動を支える重要な情報です。これらの情報が外部に流出すると、競合他社に利用されたり、取引先や顧客からの信用を失ったりするおそれがあります。
ただし、会社が「重要な情報」「社外に出したくない情報」と考えているだけでは、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるとは限りません。営業秘密として保護されるには、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす必要があります。
この記事では、営業秘密の意味、該当する情報の具体例、営業秘密として認められるための3要件、企業が取るべき管理方法、漏えい時の対応について解説します。

Contents
  1. 営業秘密とは?
  2. 営業秘密は不正競争防止法で保護される企業情報
  3. 会社が重要だと考える情報がすべて営業秘密になるわけではない
  4. 営業秘密として認められるための三つの要件
    1. 秘密管理性|秘密として管理されていること
    2. 有用性|事業活動に役立つ情報であること
    3. 非公知性|公然と知られていないこと
  5. 営業秘密に該当する可能性がある情報の具体例
    1. 技術情報
    2. 営業情報
    3. 経営・財務・人事に関する情報
    4. 営業秘密に該当しにくい情報
  6. 営業秘密に該当するか確認するチェックポイント
    1. 社外秘表示やアクセス制限があるか
    2. 従業員が秘密情報だと認識できる状態か
    3. 公開情報や一般的な業界知識ではないか
    4. 契約書・誓約書・社内規程で管理されているか
  7. 営業秘密と混同しやすい情報
    1. 秘密情報との違い
    2. 個人情報との違い
    3. 特許・著作権との違い
    4. ノウハウとの違い
  8. 営業秘密を適切に管理する方法
    1. 守るべき情報を洗い出す
    2. 情報を重要度ごとに分類する
    3. アクセス権限を限定する
    4. 秘密表示や社内ルールを整備する
    5. 秘密保持契約・誓約書を作成する
  9. 営業秘密が漏えいした場合に起こり得る問題
    1. 差止請求の対象になる可能性がある
    2. 損害賠償請求の対象になる可能性がある
    3. 刑事責任を問われる可能性がある
    4. 取引先や顧客からの信用低下につながる
  10. 営業秘密が漏えいした場合の初動対応
    1. 漏えいした情報の内容を確認する
    2. 営業秘密の3要件を満たしているか確認する
    3. 証拠を保全する
    4. 社内外への拡散を防ぐ
  11. 営業秘密トラブルを防ぐために企業が見直すべきこと
    1. 社内規程・情報管理規程を定期的に見直す
    2. 従業員教育を継続的に実施する
    3. 業務委託先・取引先との情報管理状況を確認する
    4. テレワーク・クラウド利用時の情報管理を見直す
    5. 退職者による情報持ち出しを防止する
  12. 営業秘密についてよくある質問
    1. 顧客リストは営業秘密になりますか?
    2. 社外秘と書いていれば営業秘密になりますか?
    3. 退職者が資料を持ち出した場合は問題になりますか?
    4. 営業秘密と個人情報は同じですか?
    5. 営業秘密が漏えいした場合、弁護士へ相談すべきですか?
  13. まとめ

営業秘密とは?

営業秘密とは、不正競争防止法上、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものをいいます。
顧客情報、取引先情報、製造方法、設計図、営業資料、価格情報、経営計画など、企業には社外に知られると不利益が生じる情報が多くあります。その中でも、法律上の営業秘密として保護されるには、一定の要件を満たしている必要があります。

営業秘密は不正競争防止法で保護される企業情報

不正競争防止法では、営業秘密について、秘密として管理されていること、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること、公然と知られていないことを要件としています。経済産業省も、営業秘密は「有用性」「秘密管理性」「非公知性」の3要件を満たす情報と説明しています。
営業秘密に該当する情報について、不正競争防止法上の不正競争に当たる不正取得・使用・開示等があった場合には、差止請求や損害賠償請求などの民事上の対応を検討することになります。不正競争防止法上の営業秘密侵害罪の要件を満たす場合には、刑事責任を問われる可能性があります。

もっとも、営業秘密として保護されるかどうかは、情報の内容だけで決まるわけではありません。顧客リストや技術資料に事業上の価値があっても、社内で誰でも閲覧・持ち出しできる状態であれば、営業秘密として認められにくくなる可能性があります。

会社が重要だと考える情報がすべて営業秘密になるわけではない

会社にとって重要な情報でも、法律上の営業秘密に当たるとは限りません。

情報の例 問題になりやすい点
社内で誰でも見られる顧客リスト 秘密管理性
Webサイトに掲載済みの価格表 非公知性
業界で一般的に知られているノウハウ 非公知性
事業と関係の薄い情報 有用性

営業秘密として保護されるには、情報の価値だけでなく、秘密として管理されているか、事業活動に役立つか、社外に知られていないかを確認する必要があります。

営業秘密として認められるための三つの要件

営業秘密として認められるには、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす必要があります。
経済産業省の営業秘密管理指針でも、不正競争防止法上の営業秘密は、これら3要件すべてを満たす必要があると整理されています。

秘密管理性|秘密として管理されていること

秘密管理性とは、対象となる情報が秘密として管理されていることです。3要件の中でも、実務上特に問題になりやすい要件です。
重要なのは、会社だけが「秘密だ」と考えている状態ではなく、従業員や関係者が「この情報は外部に出してはいけない」と認識できる状態にしておくことです。
秘密管理性を示す事情としては、以下が挙げられます。

管理方法 具体例
秘密表示 資料に「社外秘」「Confidential」と記載する
アクセス制限 特定の部署・担当者だけが閲覧できるようにする
保管管理 紙資料を施錠できる場所で保管する
社内ルール 情報管理規程や持ち出しルールを定める
契約管理 従業員や取引先と秘密保持契約を締結する

例えば、顧客リストを営業担当者だけが閲覧できるフォルダに保管し、社外秘表示を付け、社内規程で持ち出しを禁止している場合は、秘密管理性を基礎づける事情になります。
一方で、同じ顧客リストでも、全従業員が自由に閲覧でき、印刷や持ち出しに制限がなく、秘密情報であることも示されていない場合には、秘密管理性が問題になります。
秘密表示だけで十分とは限りません。アクセス制限、持ち出し制限、従業員教育、契約書、退職時対応などを組み合わせて管理することが重要です。

有用性|事業活動に役立つ情報であること

有用性とは、その情報が事業活動に役立つことです。
営業秘密として保護される情報は、技術上または営業上の情報であり、企業の事業活動に有用なものである必要があります。製造方法、販売方法、顧客情報、仕入先情報、営業ノウハウなどは、有用性が問題になりやすい情報です。

情報の種類 有用性が認められやすい理由
顧客リスト 営業活動や顧客管理に利用できる
仕入価格・販売価格 価格戦略や利益管理に関係する
製造方法・配合情報 商品の品質や競争力に関係する
研究開発データ 新製品開発や技術改善に役立つ
営業マニュアル 営業効率や成約率に影響する

例えば、顧客ごとの購買傾向、担当者情報、過去の取引履歴、提案履歴などをまとめた顧客リストは、営業活動に直接役立つ情報です。
有用性は、情報が高度でなければ認められないという意味ではありません。営業活動、技術開発、商品開発、経営判断などに役立つ情報であれば、有用性を検討する余地があります。

非公知性|公然と知られていないこと

非公知性とは、その情報が公然と知られていないことです。
すでに一般に知られている情報や、インターネット、公開資料、業界誌などから容易に入手できる情報は、営業秘密として保護されにくくなります。

情報の例 非公知性が問題になる理由
Webサイトで公開している料金表 一般に閲覧できる
カタログ掲載済みの商品仕様 顧客や取引先が入手できる
業界で一般的な営業手法 独自性・秘密性が乏しい
公開特許公報に掲載された技術内容 公開情報になっている

例えば、製品の基本的な使い方がWebサイトやパンフレットに掲載されている場合、その情報自体は非公知とはいえない可能性があります。
一方で、社外に公表していない製造条件、原材料の配合比率、品質管理データ、不良率を下げるための工程上の工夫などは、非公知性が問題になり得ます。
営業秘密として保護されるには、一般に知られておらず、容易に入手できない情報であることが重要です。

営業秘密に該当する可能性がある情報の具体例

営業秘密に該当する情報は、業種や事業内容によって異なります。製造業では技術情報、サービス業や小売業では顧客情報や営業ノウハウが重要になることがあります。

技術情報

技術情報とは、製品開発、製造、研究、品質管理などに関する情報です。製造業、IT企業、研究開発型企業では、技術情報が営業秘密として重要になることがあります。

技術情報の例 内容
製造方法 製品を効率よく製造する手順や条件
設計図 製品や部品の構造を示す図面
実験データ 試験結果、検証結果、分析データ
研究開発データ 新技術や新製品の開発資料
ソースコード システムやアプリのプログラム
配合・レシピ 食品、化粧品、化学製品などの配合比率
生産工程上のノウハウ 不良品を減らす作業条件や工夫

例えば、製品の品質を安定させるための温度、時間、材料の組み合わせなどは、外部から容易に分からない情報です。これらが秘密として管理され、事業上有用であれば、営業秘密に該当する可能性があります。
ソフトウェアのソースコードやアルゴリズムも、社外に公開していない重要な技術情報として扱われることがあります。ただし、オープンソースとして公開している部分や、一般に知られている仕様は、非公知性が問題になります。

営業情報

営業情報とは、営業活動、販売戦略、取引先対応、価格設定などに関する情報です。多くの企業にとって、営業情報は競争力に直結します。

営業情報の例 内容
顧客リスト 顧客名、担当者、連絡先、取引履歴
取引先情報 仕入先、外注先、代理店などの情報
仕入価格 商品や原材料の仕入条件
販売価格 顧客別の価格、割引条件
見積書 価格設定や提案内容
営業資料 提案書、営業トーク、商談資料
マーケティング戦略 広告施策、販売計画、ターゲット
事業計画 新規事業や販売拡大の計画

特に、顧客リストは営業秘密として問題になりやすい情報です。単なる会社名や住所の一覧ではなく、担当者名、購買履歴、予算感、商談内容、決裁者情報などが含まれている場合、営業上の価値が高いといえます。
ただし、顧客情報が営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていることが必要です。営業担当者が自由に私用端末へ保存できる状態だったり、退職時に返却・削除確認をしていなかったりすると、秘密管理性が問題になります。

経営・財務・人事に関する情報

営業秘密は、技術情報や営業情報だけに限られません。経営判断、財務状況、人事戦略に関する情報も、事業活動や競争力に関係する場合には、営業上の情報として営業秘密性が問題になることがあります。

情報の種類 具体例
経営情報 未公表の経営計画、新規事業計画、M&A計画
財務情報 未公表の売上、利益率、資金繰り情報
人事情報 人員配置計画、採用計画、報酬体系
事業戦略 出店計画、価格改定方針、提携交渉の内容

例えば、未公表のM&A計画や新規事業計画が外部に漏れると、取引先、競合他社、従業員、株主などに影響する可能性があります。
店舗展開を予定している地域、仕入先との交渉条件、主要人材の異動計画なども、競合他社に知られることで不利益が生じる場合があります。

営業秘密に該当しにくい情報

次のような情報は、営業秘密に該当しにくいと考えられます。

情報の例 該当しにくい理由
Webサイトで公開している情報 一般に閲覧できる
商品カタログに掲載している情報 顧客や取引先が入手できる
業界で一般的に知られている知識 非公知性が認められにくい
社内で自由に閲覧・持ち出しできる情報 秘密管理性が問題になる
従業員の一般的な経験やスキル 会社固有の秘密情報とはいえない

営業担当者が業務を通じて身につけた一般的な営業スキルや接客ノウハウは、それ自体が直ちに営業秘密になるわけではありません。
一方で、会社独自の営業手法、顧客分析データ、成約率を高める提案資料などが秘密として管理されていれば、営業秘密に該当する可能性があります。

営業秘密に該当するか確認するチェックポイント

営業秘密に該当するかを判断する際は、3要件を具体的な管理状況に落とし込んで確認することが重要です。

社外秘表示やアクセス制限があるか

対象情報に社外秘表示やアクセス制限があるかを確認します。
紙資料であれば「社外秘」「秘」「Confidential」などの表示があるか、施錠できる場所で保管しているかを確認します。電子データであれば、共有フォルダの閲覧権限、ダウンロード制限、パスワード設定、ログ管理などが重要です。
ただし、社外秘表示だけで必ず営業秘密になるわけではありません。表示と実際の管理が一致していることが必要です。

従業員が秘密情報だと認識できる状態か

従業員がその情報を秘密情報だと認識できる状態になっているかも確認します。
会社が秘密情報だと考えていても、従業員が通常資料と同じように扱っていれば、秘密管理性が争点になる可能性があります。
秘密情報だと認識させる方法としては、秘密表示、社内規程、従業員研修、誓約書、アクセス制限などがあります。

公開情報や一般的な業界知識ではないか

対象情報が公開情報や一般的な業界知識ではないかを確認します。
Webサイト、パンフレット、商品カタログ、公開特許公報、業界誌などで確認できる情報は、非公知性が問題になります。
一方で、公開情報をもとにしていても、独自に分析・整理したデータや、社内で蓄積したノウハウが含まれている場合には、営業秘密として問題になる余地があります。

契約書・誓約書・社内規程で管理されているか

営業秘密を管理するには、契約書、誓約書、社内規程の整備も重要です。

書類 確認内容
情報管理規程 秘密情報の分類・管理方法
就業規則 従業員の秘密保持義務
秘密保持契約 取引先・委託先との情報管理
入社時誓約書 従業員の秘密保持義務
退職時誓約書 退職後の持ち出し・利用禁止

経済産業省の営業秘密関連ページでは、秘密保持誓約書など各種契約書の参考例も提供されています。社内だけでなく、外部関係者との契約管理も重要です。

営業秘密と混同しやすい情報

営業秘密は、秘密情報、個人情報、特許・著作権、ノウハウと混同されることがあります。重なる部分はありますが、それぞれ意味や保護の仕組みが異なります。

秘密情報との違い

秘密情報は、社外に出したくない情報や、契約上秘密として扱う情報を広く指します。
一方、営業秘密は、不正競争防止法上の3要件を満たす情報です。契約書で「秘密情報」と定めていても、直ちに営業秘密に該当するとは限りません。

個人情報との違い

個人情報は、個人情報保護法上の概念です。政府広報オンラインでは、個人情報について、生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などにより特定の個人を識別できる情報などと説明しています。
一方、営業秘密は、不正競争防止法上の概念です。顧客リストのように、個人情報であると同時に営業秘密に該当する可能性がある情報もあります。

特許・著作権との違い

特許は、発明について出願し、審査を経て権利化する制度です。特許出願は、原則として出願日から1年6か月経過後に公開されます。これに対し、営業秘密は情報を公開せず、秘密として管理することで保護を図るものです。
著作権は、著作物を創作した時点で自動的に発生し、権利取得のために登録手続を必要としないとされています。営業秘密とは保護対象や仕組みが異なりますが、ソースコードのように著作権と営業秘密の両方が問題になる情報もあります。

ノウハウとの違い

ノウハウは、業務上の知識、経験、技術、工夫などを指す言葉です。
ノウハウは営業秘密になり得ますが、すべてのノウハウが営業秘密になるわけではありません。会社独自の営業マニュアル、顧客分析資料、作業手順などが秘密として管理されていれば、営業秘密に該当する可能性があります。

営業秘密を適切に管理する方法

営業秘密として保護を受けるには、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす必要があります。このうち秘密管理性については、会社が秘密にしたいと考えているだけでなく、従業員や取引先などの関係者が秘密情報であると認識できる状態にしておくことが重要です。
そのため、営業秘密として管理する情報を特定し、重要度に応じた管理方法や取扱ルールを整備する必要があります。

守るべき情報を洗い出す

まず、自社にどのような重要情報があるのかを洗い出します。

部門 情報の例
営業部門 顧客リスト、商談履歴、見積情報
開発部門 設計図、実験データ、ソースコード
製造部門 製造条件、品質管理データ、作業手順
管理部門 財務情報、経営計画、契約情報
人事部門 人事評価、報酬体系、配置計画

情報を洗い出す際は、外部に知られた場合に競争上の不利益が生じるか、事業活動に利用できる価値があるか、すでに公開されていないかを確認します。
すべての社内情報を一律に秘密扱いするのではなく、保護する必要性が高い情報を具体的に特定することが重要です。

情報を重要度ごとに分類する

営業秘密として管理する情報を特定した後は、重要度や漏えい時の影響に応じて分類します。
すべての情報に同じ管理水準を適用すると、従業員の負担が大きくなり、かえって管理が形骸化する可能性があります。情報の性質に応じて、閲覧できる人や保管方法を分けましょう。

区分 情報の例 管理方法の例
最重要情報 製造方法、主要顧客情報、未公表のM&A情報 閲覧者を限定し、ログ管理を行う
部門限定情報 営業資料、部門別予算、開発資料 部門内だけ閲覧可能にする
社内限定情報 社内マニュアル、会議資料 社外持ち出しを制限する
一般情報 公開済み資料、広報資料 通常管理とする

情報の区分と取扱方法を明確にしておくことで、従業員が秘密情報を識別しやすくなります。

アクセス権限を限定する

営業秘密を守るうえで、アクセス権限の管理は重要です。
重要情報に誰でもアクセスできる状態では、秘密管理性が認められにくくなる可能性があります。ただし、アクセス制限そのものが独立した絶対的な要件ではありません。秘密表示や社内ルールなども含め、秘密情報であることを関係者が認識できる状態を整えることが重要です。
具体的な管理方法としては、次のようなものがあります。

  • 共有フォルダの閲覧権限を部署や担当者ごとに設定する
  • 顧客データベースの閲覧・ダウンロードを制限する
  • 重要ファイルにパスワードを設定する
  • 紙資料を施錠できる場所に保管する
  • アクセス履歴や操作履歴を記録する

単に情報を保管するだけでなく、誰が利用できるのかを明確にしておく必要があります。

秘密表示や社内ルールを整備する

営業秘密として管理する資料やデータには、「社外秘」「秘」「Confidential」などの表示を付け、通常の情報と区別します。
また、情報管理規程などを整備し、次の事項を明確にしておくことが重要です。

  • 秘密情報に該当する情報の範囲
  • 情報の分類方法
  • 閲覧・印刷・複製に関するルール
  • 社外への持ち出しや送信に関するルール
  • 紙資料や電子データの保管・廃棄方法

秘密表示を付けただけで、直ちに秘密管理性が認められるわけではありません。表示、アクセス制限、社内ルールなどを組み合わせ、会社が秘密として管理する意思を関係者が認識できる状態にする必要があります。

秘密保持契約・誓約書を作成する

営業秘密を取り扱う従業員、業務委託先、取引先などとは、秘密保持契約や誓約書を取り交わし、秘密保持義務を明確にしておくことが重要です。
契約書や誓約書には、主に次の内容を定めます。

  • 秘密情報の範囲
  • 情報を利用できる目的
  • 第三者への開示制限
  • 複製や持ち出しに関する制限
  • 契約終了後の返還・削除義務
  • 秘密保持義務が継続する期間

契約書や誓約書の作成は、秘密管理意思を関係者に示す一つの方法です。ただし、書面を作成するだけではなく、秘密表示やアクセス制限などの管理措置と組み合わせる必要があります。

営業秘密が漏えいした場合に起こり得る問題

営業秘密侵害罪の詳しい成立要件や罰則については、別記事で解説しています。

差止請求の対象になる可能性がある

営業秘密が不正に取得・使用・開示された場合、差止請求が問題になることがあります。
不正競争防止法では、不正競争によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は、侵害の停止または予防を請求できるとされています。
例えば、退職者が持ち出した顧客情報を転職先で使用している場合、その使用停止を求めることが考えられます。

損害賠償請求の対象になる可能性がある

営業秘密の漏えいによって損害が発生した場合、損害賠償請求が問題になることがあります。
不正競争防止法では、故意または過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています。
顧客情報が持ち出されて競合他社に顧客を奪われた場合や、製造ノウハウが流出して競争上の優位性を失った場合には、損害の有無や金額が問題になります。

刑事責任を問われる可能性がある

営業秘密の不正取得・使用・開示が営業秘密侵害罪の要件を満たす場合には、刑事責任を問われる可能性があります。
ただし、営業秘密侵害罪が成立するかどうかは、3要件、不正取得・使用・開示の態様、目的、関与者の認識などを踏まえて判断されます。

取引先や顧客からの信用低下につながる

営業秘密の漏えいは、取引先や顧客からの信用低下にもつながります。
顧客情報や取引条件が外部に漏れた場合、「情報管理が不十分な会社」と見られるおそれがあります。契約解除、取引条件の見直し、新規取引の停止など、事業全体に影響する可能性もあります。

営業秘密が漏えいした場合の初動対応

営業秘密の漏えいが疑われる場合は、事実関係を整理し、証拠を確保しながら拡散防止を進めることが重要です。

漏えいした情報の内容を確認する

まず、何が漏えいしたのかを確認します。

確認項目 内容
情報の種類 顧客情報、技術資料、価格表、契約情報など
情報の範囲 一部資料か、データベース全体か
漏えい時期 いつ持ち出された可能性があるか
関与者 従業員、退職者、委託先、外部者など
利用状況 第三者に使われているか
拡散状況 社外に共有・転送されているか

この段階では、感情的に関係者を追及するのではなく、客観的な事実を整理することが重要です。

営業秘密の3要件を満たしているか確認する

次に、漏えいした情報が営業秘密の3要件を満たしているか確認します。

要件 確認内容
秘密管理性 秘密表示、アクセス制限、社内規程、契約があるか
有用性 事業活動に役立つ情報か
非公知性 公開情報や一般的な業界知識ではないか

営業秘密に該当する可能性がある場合は、差止請求や損害賠償請求などの対応を検討します。3要件を満たさない場合でも、契約違反、就業規則違反、個人情報保護法上の問題が生じる可能性があります。

証拠を保全する

営業秘密の漏えい対応では、証拠保全が重要です。時間が経つと、ログが消えたり、メールが削除されたりする可能性があります。
保全すべき証拠の例は、以下のとおりです。

  • アクセスログ
  • ダウンロード履歴
  • メール送受信履歴
  • チャット履歴
  • USBメモリなどの接続履歴
  • クラウドストレージの共有履歴
  • 退職時誓約書
  • 秘密保持契約
  • 就業規則・社内規程

証拠を保全する際は、改ざんや削除を疑われないよう注意が必要です。

社内外への拡散を防ぐ

漏えいが疑われる場合は、被害の拡大を防ぐ対応も必要です。
関係アカウントの停止、パスワード変更、共有リンクの停止、外部共有設定の見直し、委託先への確認、関係部署への情報共有などを行います。
外部に情報が渡っている可能性がある場合には、相手方への通知、使用停止の申し入れ、削除要請などを検討します。
ただし、対応方法を誤ると証拠隠滅や紛争拡大につながるおそれがあるため、重要な営業秘密が含まれる場合には、必要に応じて弁護士への相談を検討しましょう。

営業秘密トラブルを防ぐために企業が見直すべきこと

営業秘密を管理する仕組みを整備しても、実際の業務で適切に運用されていなければ、情報漏えいを十分に防ぐことはできません。
業務環境や使用するシステムは変化するため、従業員教育、委託先の管理、テレワークやクラウドサービスの利用状況などを定期的に確認し、管理体制を改善することが重要です。

社内規程・情報管理規程を定期的に見直す

情報管理規程を整備した後は、規程どおりに情報が取り扱われているかを定期的に点検します。
例えば、次のような状態が生じていないか確認しましょう。

  • 異動前の部署の情報に引き続きアクセスできる
  • 共有フォルダの権限が必要以上に広く設定されている
  • 秘密情報が私用端末や私用メールに保存されている
  • 廃棄すべき資料やデータが残っている
  • 実際の業務と社内規程の内容が合っていない

業務内容や使用するシステムが変わった場合は、規程や管理方法も見直す必要があります。ルールを作成したままにせず、実際の運用状況に合わせて改善しましょう。

従業員教育を継続的に実施する

営業秘密の漏えいを防ぐには、従業員が秘密情報の範囲と取扱方法を理解していることが重要です。
入社時だけでなく、定期的に教育や研修を行い、次の事項を周知します。

  • 自社で営業秘密として管理している情報
  • 資料やデータの持ち出しルール
  • 私用端末や私用メールを利用するリスク
  • クラウドサービスや生成AIへ情報を入力する際の注意点
  • 誤送信や紛失が発生した場合の報告先
  • 退職後も負う秘密保持義務

実際に起こり得る場面を想定した研修を行うことで、従業員が日常業務の中で適切に判断しやすくなります。

業務委託先・取引先との情報管理状況を確認する

業務委託先や取引先に営業秘密を共有している場合は、共有後の取扱状況も確認する必要があります。
秘密保持契約を締結していても、実際の管理が不十分であれば、情報漏えいを防げない可能性があります。次の項目を定期的に確認しましょう。

  • 共有する情報が必要最小限に限定されているか
  • 情報へアクセスできる担当者が限定されているか
  • データの保存場所や保管方法は適切か
  • 無断で再委託されていないか
  • 契約終了後に情報が返還・削除されているか

取引が終了した場合や担当者が変更された場合には、不要になったアクセス権限や共有データを速やかに削除することも重要です。

テレワーク・クラウド利用時の情報管理を見直す

テレワークやクラウドサービスの利用では、社外から秘密情報へアクセスする機会が増えるため、利用状況に応じた対策が必要です。
確認すべき項目としては、次のようなものがあります。

  • 私用端末の利用可否
  • 端末のパスワードや画面ロックの設定
  • 多要素認証の導入
  • クラウドストレージの外部共有設定
  • 共有リンクの有効期限や閲覧範囲
  • 自宅や外出先での印刷・保管方法
  • 公共のWi-Fiを利用する場合のルール

クラウドサービスの初期設定のまま運用すると、意図せず外部へ情報が公開されることもあります。利用者や共有先を定期的に確認し、不要な権限を削除しましょう。

退職者による情報持ち出しを防止する

退職時には、顧客情報や技術資料などが持ち出されないよう、社内で定めた手続を確実に実施する必要があります。
主な対応としては、次のようなものがあります。

  • 貸与したパソコンやスマートフォンを回収する
  • 紙資料や記録媒体を返却させる
  • メールやクラウドサービスのアカウントを停止する
  • 共有フォルダや社内システムのアクセス権限を削除する
  • 会社データが私用端末などに残っていないか確認する
  • 秘密保持義務や資料の返還・削除義務を改めて説明する

退職日になってから対応を始めるのではなく、退職が決まった段階でアクセス権限や担当業務を確認し、計画的に手続を進めることが重要です。
ただし、メールや端末を調査する場合は、就業規則や社内規程、プライバシーへの配慮が必要です。情報持ち出しが疑われる場合は、証拠を失わないよう慎重に対応しましょう。

営業秘密についてよくある質問

顧客リストは営業秘密になりますか?

顧客リストは、営業秘密に該当する可能性があります。
ただし、単なる会社名や電話番号の一覧で、公開情報から容易に作成できるものは、営業秘密として認められにくい場合があります。
一方で、顧客ごとの担当者、購買履歴、商談履歴、予算、提案内容、取引条件などが含まれ、秘密として管理されている顧客リストであれば、営業秘密に該当する可能性があります。

社外秘と書いていれば営業秘密になりますか?

「社外秘」と書いていることは、秘密管理性を示す事情の一つになり得ます。
ただし、社外秘表示だけで必ず営業秘密になるわけではありません。アクセス権限が制限されているか、従業員が秘密情報だと認識しているか、社内規程や契約で管理されているかも重要です。

退職者が資料を持ち出した場合は問題になりますか?

退職者が会社の資料を持ち出した場合、情報の内容や管理状況によっては、営業秘密の不正取得・使用・開示が問題になる可能性があります。
特に、顧客情報、技術資料、価格情報、営業資料などが持ち出され、転職先や独立後の事業で利用された場合には、差止請求や損害賠償請求などを検討することがあります。

営業秘密と個人情報は同じですか?

営業秘密と個人情報は同じではありません。
個人情報は、特定の個人を識別できる情報などを指します。一方、営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性を満たす事業上の情報をいいます。
ただし、顧客リストのように、個人情報であると同時に営業秘密として問題になる情報もあります。

営業秘密が漏えいした場合、弁護士へ相談すべきですか?

営業秘密が漏えいした場合、必要に応じて弁護士への相談を検討すべきです。
特に、退職者や競合他社による利用が疑われる場合、重要な顧客情報や技術情報が流出した場合、相手方に使用停止を求めたい場合には、早めに対応方針を整理する必要があります。
相談前には、漏えいした情報の内容、管理状況、関係者、証拠、拡散状況を整理しておくと、対応を検討しやすくなります。

まとめ

営業秘密とは、不正競争防止法上、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものをいいます。
営業秘密として保護されるには、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす必要があります。会社が重要だと考えているだけでは足りず、秘密表示、アクセス制限、社内規程、秘密保持契約、従業員教育などによって、秘密として管理されている状態を整えることが重要です。
営業秘密に該当する情報には、製造方法、設計図、ソースコード、顧客リスト、価格情報、営業資料、経営計画などがあります。一方で、公開情報や一般的な業界知識、社内で秘密として管理されていない情報は、営業秘密として保護されにくくなります。
営業秘密が漏えいした場合には、情報の内容、3要件の有無、証拠、拡散状況を確認し、必要に応じて差止請求や損害賠償請求などの対応を検討します。
営業秘密を守るためには、日常的な情報管理だけでなく、社内規程、従業員教育、取引先との契約、テレワーク・クラウド利用時の管理、退職者対応まで含めて、継続的に体制を見直すことが大切です。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。