M&Aの後に旧経営者が退任に応じないとき 買主が採る解任の手続と、損害賠償・登記・競業の整理

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会社を買収した買主の側から、退任に応じない旧経営者を取締役及び代表取締役の地位から外し、会社の経営を引き継ぐための手続に関するメインのページです。会社を売却した旧経営者の側から見た解任の問題は、会社売却後の引継ぎ期間中に買主から役員を解任された場合で述べていますので、あわせてご覧ください。
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株式譲渡によって会社の株式を取得し、代金も支払った。それにもかかわらず、旧経営者が代表取締役の地位にとどまり、会社の実印や預金の通帳を手放さず、従業員や取引先に対して従前どおり指示を出し続けている。買収の後に、このような事態に直面する買主は少なくありません。
株式を取得した買主は、株主として、取締役を選任し、解任する権限を有しています。ただし、解任には損害賠償の問題が伴い、登記や会社の財産の引継ぎには実務上の手順があります。本ページでは、買主の側から旧経営者を経営から外すための手続を、株式譲渡契約の定めとともに整理します。
まず、株式譲渡契約の定めを確認します
旧経営者の退任が、取引の実行の条件とされているか
多くの株式譲渡契約では、取引の実行日に旧経営者が取締役を辞任することや、辞任届を交付することが、売主の義務又は取引の実行の前提条件として定められています。また、一定期間は顧問や取締役として引継ぎに協力すること、その期間の報酬の額を定めていることもあります。
旧経営者が退任に応じない場合には、まず契約にどのような定めがあるかを確認してください。辞任の義務が定められているのに辞任しないのであれば、それは売主の契約違反であり、補償や損害賠償の請求の根拠になります。反対に、一定期間は取締役として在任することが合意されている場合には、その期間中の解任が契約上どのように扱われるかを検討する必要があります。
辞任届は、取引の実行日に受け取っておくことが原則です
取締役は、いつでも会社に対する意思表示によって辞任することができます。取引の実行日に、日付を記入した辞任届と、役員の変更の登記に必要な書類を受け取っておけば、後に旧経営者が翻意しても、辞任の効力を争われる余地は小さくなります。既に取引を実行してしまい、辞任届を受け取っていない場合には、次に述べる解任の手続によることになります。
株主総会の決議によって、取締役を解任します
解任は、株主総会の普通決議で足ります
取締役は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。決議の要件は、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行う普通決議です(会社法第341条)。定款でこの要件が加重されている場合がありますので、定款を確認してください。累積投票によって選任された取締役の解任には、特別決議が必要です(会社法第309条第2項第7号)。
買主がすべての株式を取得している場合
買主が発行済株式のすべてを取得している場合、株主は買主のみです。株主全員の同意があれば、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができ(会社法第300条)、また、議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により提案に同意すれば、決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。買主は、自ら取締役の解任と後任の選任を提案し、書面で同意することによって、速やかに決議を成立させることができます。
なお、株主総会の招集は取締役が行うのが原則であり(会社法第296条第3項)、旧経営者が招集に応じない場合でも、上記の方法を用いれば、旧経営者の協力を得ずに決議をすることができます。
旧経営者が株式の一部を保有し続けている場合
旧経営者が株式の一部を保有したままである場合には、株主総会の招集の手続を省略することはできません。招集の権限を有する取締役が招集しないときは、議決権の3パーセント以上を有する株主は、取締役に対して株主総会の招集を請求し、それでも招集されない場合には、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(会社法第297条第1項、第4項)。公開会社でない会社では、6か月の保有期間の要件はありません(同条第2項)。残存する株式の整理については、M&Aの後に旧経営者の株式が残っている場合の整理をご覧ください。
代表取締役の地位から外す手続
取締役会を設置している会社
取締役会を設置している会社では、代表取締役の選定及び解職は、取締役会の決議によって行います(会社法第362条第2項第3号)。取締役の過半数を買主の側の者で占めれば、取締役会で旧経営者を代表取締役から解職することができます。取締役の解任と同時に、代表取締役の地位も当然に失われます。
取締役会を設置していない会社
取締役会を設置していない会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、又は株主総会の決議によって代表取締役を定めます(会社法第349条第3項)。定款の定め方によって手続が異なりますので、定款を確認したうえで手順を組み立てます。
正当な理由のない解任と、損害賠償の請求
正当な理由がなければ、損害賠償を請求されることがあります
解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。損害の額は、解任されなければ残りの任期の間に得られたはずの報酬の額が基準とされることが多いものです。
公開会社でない会社では、定款によって取締役の任期を10年まで伸ばすことができます(会社法第332条第2項)。旧経営者の任期が長く残っている場合には、請求される額が大きくなるおそれがあります。
正当な理由となり得る事情
職務の執行における法令又は定款の違反、会社の財産の私的な流用、病気等による職務の執行の困難、経営判断の明白な誤りなどは、正当な理由に当たり得る事情とされています。株式譲渡契約で辞任が合意されていたのに辞任しないことや、引継ぎを妨害していることも、事情として主張することが考えられます。
株式譲渡契約による調整
旧経営者は、多くの場合、株式の売主でもあります。株式譲渡契約に、取引の実行後は会社に対して報酬その他の請求をしない旨の定めや、辞任義務の違反に対する補償の定めがあれば、解任に伴う損害賠償の請求との調整を図ることができます。役員の退職慰労金は、定款の定め又は株主総会の決議がなければ支払う義務は生じません(会社法第361条第1項)ので、旧経営者からの退職慰労金の請求にも、この観点から対応します。
登記と、会社の財産の引継ぎ
役員の変更の登記
取締役又は代表取締役に変更が生じたときは、2週間以内に、本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。登記の申請は、新たに選定された代表取締役が行います。旧経営者の協力が得られない場合でも、商業登記規則の定めに従い、議事録に出席した取締役等の個人の実印を押印して印鑑証明書を添付する方法により、登記を申請することができます。
実印、通帳、帳簿等の引渡し
旧経営者が会社の実印、銀行の届出印、預金の通帳、帳簿、契約書の原本等を返還しない場合には、まず書面で引渡しを求めます。これらは会社の財産であり、退任した旧経営者が保持し続ける権限はありません。応じない場合には、引渡しを求める訴えや、引渡しを命ずる仮処分の申立てを検討します。あわせて、取引先の金融機関に対し、代表者の変更を速やかに届け出ることが重要です。
解任の効力を争われた場合
旧経営者が、解任の決議の効力を争い、自らが代表取締役であると主張して職務を続けようとする場合があります。このときは、旧経営者の職務の執行を停止し、必要に応じて職務を代行する者を選任する仮処分(民事保全法第23条第2項)を検討します。決議の手続に瑕疵を残さないことが、紛争を長引かせないための前提です。
退任後の競業と、営業秘密の保護
取締役である間は、会社法上の競業の制限(会社法第356条第1項第1号)が及びますが、退任した後は、この制限は及びません。退任後の競業を制限できるかどうかは、株式譲渡契約の競業避止の定めによることになります。また、顧客の情報や技術上の情報を持ち出して使用する行為については、不正競争防止法による差止めや損害賠償の請求が問題となります(不正競争防止法第2条第1項第4号から第10号まで、第3条、第4条)。退任の手続と並行して、パソコン、電子メールの記録、顧客名簿等の保全を行ってください。旧経営者が同じ事業を始めた場合の対応は、売主が買収後に同じ事業を始めた場合の競業避止義務と差止めの進め方で解説しています。
旧経営者が従業員を兼ねている場合
旧経営者が、取締役であると同時に、会社との間で雇用契約を結んでいる場合(いわゆる使用人兼務取締役)には、取締役の解任によって雇用契約が当然に終了するわけではありません。雇用契約を終了させるには、労働契約法第16条の解雇の規律を踏まえた検討が必要です。株式譲渡契約の段階で、雇用関係の有無を確認しておくことが望まれます。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次のことを確認してください。
- 株式譲渡契約の、辞任、引継ぎ、競業避止、補償に関する条項を確認してください。旧経営者に対する主張の根拠は、まず契約の中にあります。
- 定款の、取締役の任期、解任の決議要件、代表取締役の定め方に関する条項を確認してください。手続の組み立てと、損害賠償の額の見通しが変わります。
- 株主名簿上の株主の構成を確認してください。買主がすべての株式を保有しているかどうかで、決議の方法が変わります。
- 会社の実印、届出印、通帳、帳簿、契約書の原本が、いま誰の手元にあるかを確認してください。引渡しを求める対象を特定します。
- 旧経営者が従業員や取引先に対して行っている指示の内容を記録してください。正当な理由の有無や、損害の立証に用いる資料になります。
よくあるご質問
旧経営者に辞任を求めましたが、引継ぎが終わるまでは辞めないと言われています。
引継ぎへの協力と、代表取締役の地位にとどまることとは別の問題です。株式譲渡契約で引継ぎの期間と方法が定められていれば、その範囲で協力を求めることができます。地位にとどまる必要がない場合には、顧問契約等の別の形で協力を得ることを提案し、それでも応じないときは解任の手続を進めます。
解任すると、残りの任期の報酬を全額支払わなければなりませんか。
正当な理由がない場合には、残りの任期の報酬に相当する額の賠償を請求される可能性があります。もっとも、正当な理由の有無、株式譲渡契約の定め、旧経営者が受け取った株式の代金との関係などを踏まえて、請求の当否と額を争う余地があります。解任の前に、見通しを確認しておくことが重要です。
旧経営者が会社の預金を引き出しています。
会社の資金を権限なく引き出す行為は、取締役としての任務の懈怠に当たり、会社は損害賠償を請求することができます(会社法第423条第1項)。直ちに金融機関に対して代表者の変更を届け出るとともに、引き出された金額と使途を記録し、返還を求めます。株式譲渡契約の表明保証や補償の定めにも当たるかどうかを確認します。
旧経営者に会社への貸付金があり、返済しなければ辞めないと言われています。
旧経営者の会社に対する貸付金の扱いは、株式譲渡契約で清算の方法が定められていることが多いものです。契約の定めを確認したうえで、退任の問題とは切り分けて協議します。反対に、会社から旧経営者への貸付金がある場合については、会社から前の経営者への貸付金を買主が回収する方法をご覧ください。
おわりに
買収した会社の経営を引き継ぐには、株主としての権限を、定款と株式譲渡契約に沿った手順で行使することが必要です。解任の決議、代表取締役の解職、登記、会社の財産の引継ぎを順序立てて進め、損害賠償の請求や競業の問題に備えておけば、旧経営者が退任に応じない場合でも、経営の空白を最小限にとどめることができます。
当事務所は、M&Aの後に生じる買主と売主の間の紛争について、多くのご相談をお受けしています。契約の定めを踏まえ、交渉や裁判により解決を図る方法をご提案します。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 会社法第296条第3項、第297条第1項、第2項、第4項(株主総会の招集及び株主による招集の請求)
- 会社法第300条、第319条第1項(招集手続の省略及び株主総会の決議の省略)
- 会社法第309条第2項第7号、第341条(解任の決議の要件)
- 会社法第332条第2項(公開会社でない株式会社における取締役の任期)
- 会社法第339条第1項、第2項(役員の解任及び損害賠償)
- 会社法第349条第3項、第362条第2項第3号(代表取締役の選定及び解職)
- 会社法第356条第1項第1号(競業の制限)
- 会社法第361条第1項(取締役の報酬等)
- 会社法第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
- 会社法第915条第1項(変更の登記)
- 民事保全法第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)
- 不正競争防止法第2条第1項第4号から第10号まで、第3条、第4条(営業秘密に係る不正競争、差止請求及び損害賠償)
- 労働契約法第16条(解雇)
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