M&Aの後に経営者保証が解除されない場合の弁護士対応

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株式の譲渡が完了し、代金も受領し、取締役の退任の登記も済んでいる。ところが、半年が経っても、会社の借入れに差し入れた個人の連帯保証だけが外れない。買主に問い合わせると「銀行と協議中です」との返答が繰り返され、金融機関に尋ねると「新しい体制での決算を1期分は見たい」と言われる。本記事は、そのような状態に置かれている譲り渡し側の方に向けた解説です。
この事態が生ずるのは、保証がどこで成立しているかという点に理由があります。連帯保証は、契約としては、保証人となった方と金融機関との間で成立しています。株式を誰が持っているかは、この契約の要素ではありません。したがって、株式を全部譲渡し、代表者の地位を離れても、保証契約は当然には終了しません。
結論から申し上げます。保証を外す権限を持っているのは金融機関だけであり、買主に対しては契約上の義務の履行を、金融機関に対しては保証人としての権利の行使を、それぞれ別の筋道で求めることになります。以下、順にご説明します。
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譲渡の後に生ずる問題は、争点となる債務の種類ごとに手当てが異なります。
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会社は売ったのに、保証だけが残っているという状態
民法第446条第1項は、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うと定め、同条第2項は、保証契約は書面でしなければその効力を生じないと定めています。保証は、借入れとは別個の、書面によって成立した独立の債務です。株式の譲渡は、この債務を消滅させる効力を持ちません。
譲渡の後に買主の経営の下で会社が返済できなくなった場合、金融機関は旧経営者に残債務の全額を請求することができます。保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含しますので(民法第447条第1項)、遅延損害金を含めた金額が対象です。譲渡代金を超える請求も、十分にあり得ます。
さらに注意を要するのが、根保証の形式で差し入れている場合です。元本が確定するまでは、譲渡の後に会社が新たに行った借入れも保証の対象に取り込まれる余地があります。
保証を外す義務は、誰が負っているのか
当事者は三者です。保証契約の相手方である金融機関、株式譲渡契約の相手方である買主、そして主たる債務者である会社です。この区別を曖昧にしたまま交渉を始めますと、労力が空回りします。
金融機関は、保証契約の当事者ですから、これを解除する権限を持ちます。もっとも、解除しなければならない法律上の義務を負っているわけではありません。判断は、後述する自主的なルールと、会社の信用力の評価によって行われます。
これに対し、買主は保証契約の当事者ではありませんから、これを解除する権限を持ちません。買主が負っているのは、株式譲渡契約に定められた義務、すなわち解除に向けて金融機関と協議し、必要な措置を講ずる義務です。請求は、この義務の不履行を捉えて行います。
契約書に解除に関する条項があるかどうかで、請求の仕方が変わります
条項の書きぶりは、概ね四つの型に分かれます。解除に向けて努力する旨の型。期日までに解除させる旨とその不達成の効果を定める型。解除までの間、買主が保証人となり又は預託金を差し入れる旨の型。解除されない場合に損害を補償する旨の型です。
第二から第四の型であれば、期日の経過又は保証債務の履行という事実を示すことで請求が組み立てられます。民法第415条第1項は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は損害の賠償を請求することができると定めています。契約に期日が書かれていれば、その経過が不履行の起点です。
難しいのは第一の型です。どこまで行えば履行したことになるのかが文言から定まりません。この場合には、金融機関との協議の経過を書面で報告するよう求め、何らの申入れも行っていないことが判明した段階で、不履行を主張する筋道を採ります。条項が全く置かれていない場合には、金融機関への働きかけに注力します。
金融機関に対して、売主自身が求めることができる事項
第一に、情報の提供の請求です。委託を受けた保証人から請求があったときは、債権者は、主たる債務の元本及び利息等についての不履行の有無、残額、そのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければなりません(民法第458条の2)。会社を離れた後は借入れの状況が分かりませんので、この請求により現状を把握します。
第二に、保証の範囲の確認です。民法第448条第2項は、主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されても、保証人の負担は加重されないと定めています。あわせて、個人根保証契約は極度額の定めがなければ効力を生じず(民法第465条の2第2項)、事業のための貸金等債務についての個人の保証契約は、締結の日前1か月以内の公正証書で履行の意思が表示されていなければ効力を生じません(民法第465条の6第1項)。
第三に、根保証であれば、将来に向かって新たな借入れを保証の対象としない旨の申入れ、すなわち元本の確定に向けた交渉です。保証の対象が譲渡時点の残高に固定され、返済に伴って負担が軽くなりますので、全部の解除に至らない場合の次善の策として有効です。
経営者保証に関するガイドラインの位置付け
「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会)は、法令ではなく、金融機関と中小企業者との間で自発的に尊重され遵守されることが期待される自主的なルールです。これに反したことをもって直ちに金融機関の責任が生ずるという性質のものではありません。
もっとも、実務上の重みは相当にあります。事業の承継の場面については、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(令和元年12月、同研究会)が策定され、前経営者と後継者の双方から保証を徴求する二重徴求を原則として行わないこと、及び前経営者の保証の解除の可否を検討することが掲げられています。
協議においては、これらの該当箇所を示した上で、解除に応じられない理由を具体的に説明するよう求めます。いつまでに、何が整えば、どの部署の判断で解除が可能となるのかを、書面で回答させてください。
代替の保証、債務引受け及び借換えによる解除
金融機関が売主の保証を外すのは、外しても債権の保全に支障がないと判断できる場合です。したがって、解除を求める交渉は、代わりとなる保全の手立てを提示する交渉となります。実務上用いられる手立ては、次の4つです。
第1に、買主又は買主の代表者による保証への差替えです。最も直接的な方法です。買主が法人であり、対象会社より信用力が高い場合には、買主法人の保証を差し入れることで足りる場合があります。買主が個人又は資産管理会社である場合には、その代表者個人の保証が求められることが通例です。この方法を採る場合には、最終契約において、買主が自ら又はその代表者をして保証を差し入れさせる義務を負う旨を定めておくことが重要です。
第2に、債務引受けです。買主又は買主グループの会社が、対象会社の債務を引き受ける方法です。引受人が債務者と連帯して同一の内容の債務を負担する形態を併存的債務引受と申します(民法第470条第1項)。これに対し、引受人が同一の内容の債務を負担し、元の債務者が自己の債務を免れる形態を免責的債務引受と申します(民法第472条第1項)。免責的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってする場合には、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることが必要ですので(民法第472条第3項)、金融機関の同意なしに行うことはできません。
第3に、借換えです。買主の取引金融機関から新たに融資を受け、その資金で従前の借入れを完済する方法です。主たる債務が弁済によって消滅すれば、保証債務も保証の付従性により当然に消滅いたします。売主にとっては最も確実な方法であり、買主の資金調達力が十分である場合には、これを求めることが合理的です。
第4に、担保の差替え又は追加です。対象会社の不動産、売掛債権、在庫といった資産に担保を設定し、又は買主が保有する資産を担保に供することにより、保証に代えるものです。
前項で申し上げたガイドライン及びその特則に加え、「経営者保証改革プログラム」(令和4年12月23日、経済産業省、金融庁及び財務省)を受けて監督指針が改正され、金融機関が経営者保証を求める場合には、保証契約の必要性等に関する説明及びその記録が求められることとなりました。売主といたしましては、金融機関に対し、なぜ売主の保証を外すことができないのかについて、その理由の説明を求めることが可能です。
なお、信用保証協会の保証が付されている借入れにつきましては、事業承継特別保証制度など、経営者保証を不要とする制度が設けられておりますので、買主の側でこれらの制度を利用し得るかを確認することも有用です。
買主に対して損害の賠償を求める場合の考え方
まず損害の内容を特定します。保証債務の履行を求められて支払った場合には、その支払額が損害です。委託を受けて保証をした保証人が債務を消滅させる行為をしたときは求償権を有しますが(民法第459条第1項)、その相手方は会社であって買主ではありません。会社に資力がなければ、買主に対する契約上の請求が実質的な回収手段となります。
まだ現実の支払に至っていない段階でも、個人の信用情報に保証債務が計上されていることにより、新たな借入れが制約されるという不利益が生じます。これを金銭に換算するのは容易ではありませんので、契約に違約金の定めや、期日までに解除されない場合に一定額を支払う旨の定めがあるかが、請求の成否を分けます。
なお、弁済期が到来している場合には、委託を受けた保証人はあらかじめ求償権を行使することができ(民法第460条第2号)、弁済期前に弁済等をした場合の求償の範囲については民法第459条の2に定めがあります。いずれも会社に対する権利ですが、会社の資産状況を明らかにさせる手段として機能します。
保証を外すまでの間に、売主が採っておくべき措置
第一に、保証の対象となっている借入れの一覧を作成します。金融機関名、契約日、当初の借入額、現在の残高、返済期日、保証の形式、極度額の有無を記載します。この一覧がないまま交渉に入りますと、どれが解除され、どれが残っているのかが把握できません。
第二に、譲渡の後の新たな借入れが保証の対象となるかを各金融機関に書面で確認し、根保証であれば元本の確定を申し入れます。第三に、買主に対し、返済が遅滞していないことを定期的に書面で報告するよう求めます。契約に条項がなくとも、覚書で定めることは可能です。
第四に、金融機関及び買主とのやり取りを、日付の分かる形で保存します。電話での会話は、その日のうちに要旨を電子メールで相手方に送ってください。後に買主の不履行を主張する際、この記録の有無が結論を左右します。
なぜ金融機関は、直ちに保証を外さないのか
既存の借入れは、旧経営者の個人資産と経営手腕を含めて審査した上で実行されたものです。経営者の交代は、審査の前提が変わったことを意味します。金融機関にとっては、保証を外すかどうかの問題ではなく、新しい体制に同じ金額を貸せるかどうかの再審査です。
再審査には、買主の側の資料が要ります。買主となった法人の決算書、事業計画、資本関係、場合によっては買主による保証又は追加の担保の差入れです。「新体制での決算を1期分見たい」という回答は、この材料を待っているという意味です。
したがって、旧経営者から解除を求め続けるだけでは動きません。買主に対し、金融機関が求めている資料を提出させ、保証又は担保の差入れの可否を回答させることが前進につながります。買主がこれを行わない場合には、契約上の義務の不履行として書面で催告する段階に移ります。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士に依頼していただける事項は、保証解除の条項の効力と射程の検討、買主への催告書の作成と交渉の代理、金融機関に対する情報提供の請求及び解除に向けた協議、根保証の元本確定の申入れ、並びに買主が応じない場合の損害賠償請求の提起です。
依頼の時期は、買主から「協議中です」という返答が2回続いた時点を目安としてください。譲渡から1年以上が経過している場合には、解除がいっそう困難になっている可能性がありますので、早急にご相談ください。
これから譲渡を行う段階の方であれば、株式譲渡契約に、解除の期日、その不達成の場合の買主の負担、及び解除までの情報提供の義務を明記させておくことが、最も費用のかからない対処です。
いま確認していただきたいこと
まず、保証契約書の写しを用意し、保証の形式が特定の債務に対するものか根保証か、根保証であれば極度額はいくらか、元本確定期日の定めがあるか、署名しているのがご自身のみか親族も含まれているかを確認してください。親族が保証人となっている場合、その方の債務も同時に外す必要があります。
次に、株式譲渡契約書について、保証の解除に関する条項の有無、期日の定めの有無、期日までに解除されない場合の効果、及び違反した場合の補償の定めを確認します。補償請求の期間制限が保証解除の条項にも及ぶ書き方になっていないかも確かめてください。
してはならないのは、金融機関から督促を受けた段階で、内容を確認しないまま個人の資産から支払ってしまうことです。保証の範囲に争いがある場合には、支払う前に検討する余地があります。買主の口頭の説明を受けて交渉を先送りすることも避けてください。
ご相談の際にお持ちいただく資料
前項の確認を踏まえ、初回のご相談の際に次の資料をお持ちいただけますと、その場で採り得る手立てとその順序をご説明することができます。すべてが揃っていなくても差し支えありません。
- 株式譲渡契約書その他の最終契約書の全文(別紙及び開示別紙を含みます。)
- 基本合意書、意向表明書その他の交渉の過程で作成された書面
- 保証契約書、根保証契約書及び保証書の写し
- 金銭消費貸借契約書、銀行取引約定書及び返済の予定表
- 対象会社の直近3期の計算書類及び勘定科目内訳明細書
- 対象会社の履歴事項全部証明書
- 担保に供されている不動産の登記事項全部証明書
- 金融機関との面談の記録並びに電子メール及び書面での往復
- 買主との間で保証の解除について取り交わした電子メール及び書面
- 信用保証協会の保証がある場合には、その保証書の写し
保証の解除は、時間の経過とともに難しくなる傾向があります。譲渡の後に対象会社の業績が悪化し、又は買主が新たな借入れを行いますと、金融機関としては保証を外しにくくなるためです。したがいまして、ご相談は早い時期になさることをお勧めいたします。
よくあるご質問
株式を全部譲渡し、代表取締役も退任しました。それでも保証は残るのですか
残ります。保証契約は、株主であることや代表取締役であることを効力の要件としていないためです。退任の登記を行っても、金融機関に対する関係では何の効果も生じません。金融機関が終了に同意するか、契約に定められた終了事由が発生しない限り、責任は続きます。
買主が解除に努力する旨を約束していますが、何もしていないようです
まず、金融機関との協議の日時、相手方の部署名、提出した資料、及び回答の内容を書面で報告するよう、期限を定めて求めてください。報告がされない場合には、義務の不履行として催告を行う段階に入ります。この過程の書面が、後の立証の中心となります。
譲渡の後に会社が新たに借り入れた分まで、私が責任を負うのでしょうか
根保証で元本が確定していない場合には、その可能性があります。保証契約書で根保証か否かと極度額を確認し、根保証であれば、直ちに、新たな債務を保証の対象としない旨の申入れを書面で行ってください。この申入れの日付が、後に責任の範囲を画する事実となります。
金融機関が、買主による保証の差入れを条件に解除に応ずると言っています
鍵を握るのは買主の対応です。買主が保証又は追加の担保を差し入れれば解除が実現しますので、契約上の義務の履行として、期限を定めてこれを求めます。拒否する場合には、条項の書きぶりに応じて損害賠償又は違約金の請求を検討します。争いの相手方は買主であるという整理になります。
解除に応じないことについて、金融機関の責任を追及できますか
困難です。金融機関は、保証契約を解除しなければならない法律上の義務を負っていないためです。ガイドライン及びその特則は自主的なルールであり、これに沿わない対応が直ちに違法となるものではありません。解除の条件を明確にさせ、その条件を買主に整えさせる方向で進めてください。
おわりに
保証が残ったままの状態は、対価を受け取った後も、自らの手を離れた会社の業績によって個人の資産が失われ得るという状態です。しかも、時間の経過とともに解除は難しくなります。買主と金融機関の双方に対し、別の筋道で、同時に働きかけてください。
当事務所では、保証契約と株式譲渡契約の双方を検討し、買主への催告と金融機関との協議を一体として進めています。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
M&Aの後の経営者保証の解除に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第446条第1項及び第2項(保証人の責任等)、第447条第1項(保証債務の範囲)、第448条第2項(保証人の負担と主たる債務の目的又は態様)、第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)、第459条第1項(委託を受けた保証人の求償権)、第459条の2(委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権)、第460条第2号(委託を受けた保証人の事前の求償権)、第465条の2第2項(個人根保証契約の極度額)、第465条の6第1項(公正証書の作成と保証の効力)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)
- 「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会)
- 「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(令和元年12月、経営者保証に関するガイドライン研究会)
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


