M&A売却を中止したいオーナー様へ

この記事の位置付け
M&Aによる売却の中止に関するページです。本ページは、交渉の途中で売却を取りやめたい売主が、仲介契約及び交渉の相手方との関係で注意すべき事項をご説明します。
同じ主題を扱う関連ページ
本記事は、会社の売却の交渉を進めている、又は契約書を締結したものの、譲渡価格への不満などから売却を中止したいと考えているオーナー経営者の方に向けたものです。基本合意書を締結した後の中止を検討している方は、基本合意書の締結後に取引を中止する場合と独占交渉義務の解除をご覧ください。
売却を中止できるか、中止によりどのような責任が生じるかは、交渉の段階によって結論が異なります。交渉を打ち切った場合の責任、仲介契約の解約と手数料、中止を伝える書面、資料の返還及び秘密の保持を確認し、中途半端なところで中止することのないよう進める必要があります。以下、順にご説明します。
この記事の位置付け
会社の売却の中止に関するメインのページです。本ページは、M&Aトラブルを避けるため、交渉の段階ごとに取りやめる方法と留意点をご説明します。株式譲渡契約の解消の要件は別のページをご参照ください。
既に締結した株式譲渡契約そのものを解消する場合の要件と効果は、株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果をご覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
会社の売却の交渉を進めているオーナーの方の中には、条件面での不満などから、このまま交渉を続けてよいのか、売却自体を中止したいと考えておられる方は少なくありません。
交渉の段階によっては、中止することで違約金や損害賠償を求められる危険があり、これを理解しないまま一方的に交渉を打ち切ると、思わぬ紛争に発展することがあります。
本記事では、M&A売却を中止したいオーナー様に向けて、その進め方について説明いたします。
M&A売却を中止したいオーナー様へ
近時、①M&A会社売却手続きを進めているが取り止めたい、②M&A契約書を締結してしまったが中止したい、③M&A仲介会社が話を進めているが取り止めたい、というご相談をよく受けます。
売主の会社オーナー様のM&Aに関するご不満はいろいろあるかと思います。
最も多いのが譲渡価格のご不満です。
買主候補企業が交渉上手だったのでしょう、売主の希望はほとんど受け入れてもらえなかった、売主の考えている金額とは全く異なり安い金額に決まってしまったという理由が最も多いです。
事前に公認会計士・税理士に企業価値評価をしてもらっていたとしてもM&AアドバイザーやM&A仲介会社の「交渉能力」の問題などで想定通りの譲渡価格に落ち着かないこともままあります。また、買主候補企業ばかりがM&Aのプロフェッショナルを揃えて交渉に臨んできたため言い返す間もなく決まってしまったということもあります。
次に多いのがデューデリジェンス(DD)でいろいろ詮索されるのに辟易したとの不満です。
デューデリジェンス(DD)は経営者様にとっては経営者人生で1度きりまたはあってもそれほど多くあるものではありません。また、デューデリジェンス(DD)の過程で聞かれる内容は会社の問題点ばかりであり、それまで会社を経営してこられたオーナー経営者の問題点を責めるものばかりです。またそこで発見された問題点があるから譲渡価格を減額するということとなり、正直に説明してバカを見たという感覚に陥ることも確かです。
また多勢に無勢で不利な条件になっていることに対する不満もあります。
売主の会社オーナー様はM&Aの専門家を指名せずに自分自身で協議交渉しているのに、買主候補企業はM&Aの専門家を何名も連れて来て、いろいろ調べたり、いろいろ要求してきたりしており、売主のオーナー経営者様としては、いろいろな条件について考える暇もないということとなります。したがって、交渉も十分できませんし、いろいろ問題点の指摘をされるものの、それが本当かどうかも分からない、それを原因にM&Aの条件が悪くなっているが、本当にそれが原因で悪くなることが合理的なのか分からない。
最初に言ったことと違うとか最初そんなこと言ってなかったという不満も多いです。
また、M&Aの手続きを進めてゆく過程で、買主候補企業からいろいろ注文が出て来るものと思います。M&A手続きの過程で合理的な注文であればやむを得ないのですが、ややイレギュラーな注文だったりした場合、売主のオーナー経営者様としては、最初そんなこと言っていなかったとか、最初に言っていたことと違うとか、そんなことをするくらいなら売らないとか、いろいろな不満が出てきます。
M&A会社売却の中止方法
では、一旦契約を締結してしまったM&Aを中止することはできるのでしょうか。
これに対する回答としては、契約書に基づき中止することができると規定されていない場合は、中止することはできませんというのが正解です。やはり契約書ですから、署名押印する際にはそれなりに慎重に対応して頂く必要があります。慎重に対応した契約書であるからこそ、その契約書に違反してまで、M&Aを中止することはできません。もし、M&Aを中止した場合は、債務不履行として損害賠償請求がなされることとなります。
ただ、その損害賠償請求される額ですが、契約書で特に規定されていない限り、通常、逸失利益まで認められることは無く、M&A手続きにかかった費用と考えられますので、それほど大きな金額になるとは考えにくいかと思います。
そうですので、正直なところ、それくらいの金額さえ覚悟すれば、いつでもM&A会社売却を中止することはできるのです。
また損害賠償請求くらいであれば、弁護士の交渉力により、阻止することは必ずしも難しくはありません。
買主候補企業から見ると、このように損害賠償請求することができる金額は多額になりませんので、近時では、契約書の中に、具体的な損害賠償額を規定することがありますので、留意が必要です。
まだ契約していないなら自由にM&Aを取り止めることはできるのでしょうか。
反対に、まだM&Aの契約を締結していないのなら、自由にM&Aを取り止めることができるのが原則です。それはM&Aの契約を締結する前日でも可能ですし、M&Aの契約をする当日でも可能です。そこまで買主候補企業やM&Aアドバイザーが頑張ってくれたのだからと言ってM&Aを実行する必要はありません。
M&Aは人生で最大の取引ですので、釈然としないまま取引を実行するべきではありません。納得できない条件については、納得できるまで交渉し、納得のいかない相手方の態度には毅然とした態度で接して下さい。
M&A会社売却を中途半端なところで中止しないために
しかし、M&A会社売却の中止には非常にエネルギーがかかります。弁護士法人M&A総合法律事務所でも、M&A取引の中止の依頼を受け相手方と折衝することも少なくはありません。
M&A会社売却を中止することにならないのが最も良いのです。この点、M&A会社売却を中止する理由というのは上記のような理由が多いことからも分かりますが、やはり、相手方と納得のいく交渉をしっかり行うことが最も重要かと思われます。相手方とのコミュニケーションです。
また、対象会社の状況をあらかじめよく理解してから、M&A手続きに臨まないと、相手方がデューデリジェンス(DD)によって対象会社の問題点をいろいろ発見してきて、M&A価格のディスカウントや不利な契約条件を盛り込むことを要求してきても、それが問題なのか問題ではないのか、どの程度問題なのか、そこまで取り立てて言うほどの問題なのかもわかりません。
また、相手方が、M&A価格のディスカウントを要求してきたとしても、それが合理的なディスカウントなのか、過剰なディスカウントなのか、単に買い叩かれているだけなのかすらも分かりません。
すなわち、予め対象会社の企業価値評価を行っておく必要があるというのと、M&Aや法律の専門家をアドバイザーに付けて随時合理的な要求なのか不合理な要求なのか判断できる状態にしておく必要があるのです。
段階別に結論は異なります
「中止できるかどうか」という問いに一つの答えはありません。交渉がどの段階にあるかによって、結論も、負担し得る責任の範囲も全く異なるからです。まず、自社が次のどの段階にあるのかを確認してください。
1 打診の段階
仲介会社に相談をし、又は譲り受け候補先の名称を伏せた概要書が提示されているにとどまる段階です。この段階では、当事者間に何らの合意も成立しておりません。したがいまして、取りやめることに法的な障害はありません。仲介会社との間で着手金を支払っている場合に、その返還を求め得るかは、仲介契約の定めによります。
2 秘密保持契約の締結後
秘密保持契約は、情報の取扱いを定めるものであり、交渉を続ける義務を定めるものではありません。したがいまして、交渉を取りやめること自体は自由です。もっとも、秘密保持契約には、受領した資料の返還又は破棄の義務、及び契約終了後も一定期間は義務が存続する旨の定めが置かれていることが通常ですので、取りやめの際にはこれらの履行が必要となります。
3 基本合意書の締結後
最も判断を要する段階です。基本合意書は、価格や日程についての現時点での了解を確認するものであり、その大部分については法的な拘束力を持たせない旨が明記されていることが一般的です。他方で、独占交渉権、秘密保持、費用の負担及び有効期間に関する条項については、拘束力を持たせる旨が定められていることが多く、この部分は契約としての効力を有します。
したがいまして、基本合意書を締結した後に取りやめる場合であっても、価格や譲渡の実行そのものについて義務を負うことは通常ありません。問題となるのは、独占交渉権に違反して他の候補先と交渉を進めた場合、及び違約金の定めが置かれている場合です。違約金の定めは民法第420条により賠償額の予定と推定されますので、実際の損害額の立証を要せずに請求され得ます。ご自身の基本合意書に違約金の条項があるかどうかは、必ず確認してください。
4 デュー・ディリジェンスの実施中
調査が始まっている段階です。この段階でも、最終契約を締結する義務は生じておりません。ただし、調査に要した費用の負担について基本合意書に定めがある場合には、その定めに従うことになります。また、調査の過程で提出した資料の取扱いについては、秘密保持契約の定めるところによります。
5 最終契約の締結後
株式譲渡契約を締結した後は、契約上の債務が発生しております。契約書に解除に関する定めが置かれている場合には、その要件を満たすかを検討することになります。定めがない場合に一方的に履行を拒むことは債務不履行となり、相手方から損害賠償を請求され、又は履行を求められる可能性があります。この段階に至った後の取りやめは、それ以前の段階とは全く性質が異なりますので、伝える前に必ず弁護士にご相談ください。
6 クロージング後
代金の決済及び株券又は株主名簿の名義書換えが完了した後です。この段階では、取引を白紙に戻すことは原則として困難です。錯誤、詐欺又は契約の重大な違反といった限られた事由に該当するかどうかの検討となり、実際には、表明及び保証の違反に基づく補償の請求といった金銭による調整が中心となります。
交渉を打ち切った場合に生じ得る責任
契約が成立していない段階であっても、交渉の打切りが常に無責任であると評価されるわけではありませんが、例外的に責任が問題となる場合があります。民法第1条第2項が定める信義誠実の原則により、交渉が相当程度に進行し、相手方が契約の成立を信頼することがもっともであると認められる状況をみずから作り出しておきながら、正当な理由なく突然に交渉を打ち切った場合には、相手方が支出した費用について賠償の責任を負うことがあり得ます。
もっとも、この責任が認められる範囲は限られており、賠償の対象となるのも、原則として調査の費用や交通費といった実際に支出された費用にとどまります。売却が実現していれば得られたであろう利益にまで及ぶことは通常ありません。したがいまして、過度に恐れる必要はありませんが、次の点にはご留意ください。
- 取りやめの理由を説明せず、連絡を絶つ形で打ち切ること。
- 取りやめを決めた後も、相手方に費用の支出を続けさせること。
- 独占交渉の期間中に、他の候補先との交渉を開始すること。
仲介契約の解約と手数料
仲介契約又はアドバイザリー契約は、その性質において準委任契約と解されることが通常です。民法第651条第1項は、委任は各当事者がいつでも解除することができる旨を定めており、同法第656条によりこれが準用されます。したがいまして、仲介契約それ自体は、原則として解約することができます。
問題となるのは、解約に伴う金銭の負担です。実務上、次の3点を確認する必要があります。
- 既に支払った着手金及び中間金の返還の可否。返還しない旨の定めが置かれていることが多くあります。
- 解約の申入れの方法及び予告の期間。書面による旨、又は一定の期間前に通知する旨の定めが置かれていることがあります。
- テール条項。契約の終了後、一定の期間内に、仲介会社が紹介した候補先との間で成約した場合には手数料が発生する旨の定めです。期間及び対象の範囲を確認してください。
テール条項は、いったん取りやめた後、時期をあらためて同じ相手方と譲渡を行う場合に問題となります。取りやめの時点で、対象となる候補先の範囲と期間を確認し、記録として残しておくことをお勧めいたします。仲介契約の内容については、M&A仲介会社との業務委託契約の注意事項もあわせてご覧ください。
中止を伝える書面の作り方
取りやめの意思は、口頭ではなく書面又は電子メールにより伝えてください。後日、いつ、どの範囲で、どのような理由により取りやめたのかが争点となることがあるためです。記載すべき事項は、次のとおりです。
- 取りやめの対象。どの取引について、どの段階の手続を取りやめるのかを特定いたします。
- 取りやめの意思表示であることが明確に読み取れる表現。「一旦保留といたします」という表現は、独占交渉の期間が継続していると解される余地を残しますので避けてください。
- 理由。詳細に述べる必要はありませんが、正当な理由があることが分かる程度には記載いたします。
- 資料の返還又は破棄の方法及び期限。
- 秘密保持の義務が引き続き存続する旨の確認。
相手方が譲り受け候補先である場合と、仲介会社である場合とでは、宛先も内容も異なります。仲介会社を経由してのみ連絡をしている場合であっても、独占交渉権の帰属先が譲り受け候補先であるときは、その候補先に対する意思表示が必要となる場合があります。
資料の返還及び秘密の保持
取りやめの後に最も残りやすい問題が、提出した資料の取扱いです。決算書、試算表、従業員の名簿、取引先の一覧、賃貸借契約書といった資料は、いずれも対象会社の重要な情報です。
秘密保持契約に基づき、返還又は破棄を求め、破棄した旨の証明書の提出を求めてください。電子データについては、共有された保管領域からの削除、及び担当者の端末に保存された複製の削除を明示的に求めることが重要です。また、秘密保持の義務は契約の終了後も一定の期間存続する旨の定めが置かれていることが通常ですので、その期間についても確認しておいてください。
よくあるご質問
基本合意書を締結してしまいました。もう後戻りはできないのでしょうか。
基本合意書は、その大部分について法的な拘束力を持たせない旨が定められていることが一般的です。取りやめること自体は可能である場合が多いといえます。ただし、独占交渉権及び違約金の条項の有無を必ず確認してください。
仲介会社から、今さらやめることはできないと言われております。
仲介会社の説明が、契約書の条項に基づくものであるかを確認してください。仲介契約は原則として解約することができます。取りやめの可否は、仲介会社の意向ではなく、締結した契約の条項によって決まります。
取りやめた場合、支払った着手金は返ってくるのでしょうか。
仲介契約の定めによります。返還しない旨の定めが置かれていることが多くありますが、その定めが手数料の対価との関係で著しく均衡を失する場合には、争う余地が生じることもあります。
いったん取りやめた後、数年後に同じ相手方に譲渡してもよいのでしょうか。
テール条項の期間及び対象の範囲によります。期間内であれば、仲介会社から手数料を請求される可能性があります。取りやめの時点で条項を確認しておくことが必要です。
まとめ
弁護士法人M&A総合法律事務所では、企業価値評価やM&Aアドバイザリー業務以外にも、法律の専門家の観点から、M&A会社売却をどのように進めればよいのか、どのくらいのタイミングで行うべきか、M&A会社売却の中止の交渉などについても、ご相談に応じております。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


