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譲渡承認のない株式譲渡と代金支払条件の解釈―東京地方裁判所令和3年2月25日判決

公開 2021年2月25日更新 2021年2月25日

▶ 表明保証違反・株式譲渡代金の未払いの御相談窓口

譲渡制限のある会社の株式を売った売主が、買主に株式の譲渡代金の支払を求めたところ、買主が、会社の株主総会の承認がないから契約は無効である、契約書に書かれた「謄本変更」と株券の引渡しがされていないから代金を支払う条件が成就していない、と主張して支払を拒んだ場面の判例です。東京地方裁判所令和3年2月25日判決は、買主の主張をいずれも退け、譲渡代金3,600万円と遅延損害金の全額の支払を命じました。

本件では、対象会社の代表取締役でもある買主が、自ら作成して売主に送った株式譲渡契約書の文言を根拠に支払を拒んでいました。判決は、譲渡承認がなくても当事者間の株式譲渡契約は有効であること、株主全員が当事者となる譲渡では株主総会の承認手続をとる必要もなかったこと、外国の書式を参考に書き加えられたとみられる文言は特段の意味を有しないことを示しています。本記事では、判決本文に基づき、各主張がどのような理由で退けられたのかを整理し、株式の売買代金の回収や、契約書の作成の際に参考となる点を解説します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―運転資金の援助として引き受けた株式を、代表取締役に買い取ってもらう約束だった
    1. 代表取締役が1人で設立した、譲渡制限のある会社
    2. 香港の会社が、第三者割当増資で3,000株を引き受けた
    3. 資本の回収のため、代表取締役が3,600万円で買い取る契約を結んだ
    4. 支払日の直前に、資本金を外国人に戻すことは難しいと言い出し、代金を支払わなかった
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 争いとなった株式譲渡契約書の文言
    1. 2条1項―代金の支払(判決本文に引用された部分)
  6. 当事者の請求と主な主張
    1. 売主SWMの請求
    2. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 重要な認定事実
    2. 譲渡承認がなくても、当事者間の株式譲渡契約は有効
    3. 契約書の文言は、契約の実態と日本の法制度に照らして解釈する
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 株式譲渡契約は無効との主張―二つの理由で排斥
    2. 「謄本変更」が条件との主張―中国の手続を指す文言で、特段の意味はない
    3. 株券と引換えとの主張―株券のない会社では引渡しは想定されない
    4. 真意ではなかったとの主張―心裡留保としても証拠がない
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 会社の譲渡承認がない株式の売買は、無効になりますか。
    2. 株主が売主と買主しかいない会社でも、株主総会の譲渡承認は必要ですか。
    3. 契約書に代金は「謄本変更後」に支払うと書いてあれば、その手続がされるまで代金を支払わなくてよいのですか。
    4. 株券を発行しない会社の株式譲渡で、契約書に代金は「株券と引き換えに」支払うとある場合はどうなりますか。
    5. 本心では払うつもりがなかったと主張すれば、代金の支払を免れますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第15部
裁判日 令和3年2月25日
事件番号 令和元年(ワ)第29620号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(株式の売主)の請求を全部認容。被告(株式の買主)に3,600万円及びこれに対する平成30年7月21日から支払済みまで年6%の割合による金員の支払を命じ、訴訟費用は被告の負担。第1項について仮執行宣言
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。判決本文の事件番号の表記は「令和1年(ワ)第29620号」です。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
売主である工業用ミシン製造販売会社SWM(以下「売主SWM」) 原告。工業用ミシンの製造販売等を営む香港の法人です。対象会社NTKの株式3,000株を保有し、これを買主GSR氏に売りました
売主SWMの代表者LNF氏(以下「LNF氏」) 売主SWMの代表者で、中国の国籍を有する人物です
買主である対象会社の代表取締役GSR氏(以下「買主GSR氏」) 被告。中国の国籍を有し、日本に居住する人物です。対象会社NTKの唯一の発起人兼設立時株主で、設立時から代表取締役を務めています
対象会社NTK(以下「対象会社NTK」) 平成28年に設立された日本の株式会社で、株式の譲渡制限があり、株券を発行しない会社です。事業の内容は判決本文に記載がありません

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。主文の引用では、「原告」は売主SWM、「被告」は買主GSR氏を指します。判決本文の数字は全角の算用数字で記載されているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。

事案の概要―運転資金の援助として引き受けた株式を、代表取締役に買い取ってもらう約束だった

以下は、判決本文の前提事実及び認定事実に基づく事案の概要です。判決本文は、特に断りのない限り、年月日を平成30年のものとして記載しています。

代表取締役が1人で設立した、譲渡制限のある会社

対象会社NTKは、平成28年7月4日、資本金1,000万円、当初の発行株式数1,000株で発起設立された日本の株式会社です。買主GSR氏は、その唯一の発起人兼設立時株主であり、設立時から現在に至るまで対象会社NTKの代表取締役を務めています。対象会社NTKは株式の譲渡制限がある株式会社で、株式を譲渡により取得するには株主総会の承認が必要とされていました。また、判決は、対象会社NTKが株券を発行しない会社であると認めています。

香港の会社が、第三者割当増資で3,000株を引き受けた

対象会社NTKは、平成28年12月20日、売主SWMから増資を受けて運転資金を調達することにし、株主総会において、売主SWMに普通株式3,000株を3,000万円(1株当たり1万円)で第三者割当により発行することを承認しました。売主SWMは同日、対象会社NTKとの間で募集株式の総数引受契約を締結し、平成28年12月27日、平成29年1月3日及び同月11日に合計3,000万円を払い込んで、3,000株を引き受けました。これにより、対象会社NTKの発行済株式総数は4,000株となり、売主SWMが3,000株、買主GSR氏が1,000株を保有することになりました。

判決は、この第三者割当増資と売主SWMによる引受けは、対象会社NTKの運転資金を一時的に援助することを目的としたもので、売主SWMが買主GSR氏に頼まれて引き受けたものであったと認定しています。

資本の回収のため、代表取締役が3,600万円で買い取る契約を結んだ

その後、売主SWMの財務状況が悪化し、LNF氏と買主GSR氏との間で、売主SWMが投下した資本を回収する方法が話し合われました。その結果、買主GSR氏が、売主SWMの保有する対象会社NTKの3,000株を購入することになりました。判決は、譲渡代金の決まり方について、次のとおり認定しています。

「譲渡代金は、〔買主GSR氏〕が借りた3000万円に600万円の利息を付けると申し出て、〔売主SWM〕と〔買主GSR氏〕との間で3600万円と合意された。」

株式譲渡契約書は、買主GSR氏が作成して押印したうえで売主SWMに送り、売主SWMがこれに押印して、平成30年7月2日に株式譲渡契約が締結されました。契約の内容は、売主SWMが対象会社NTKの普通株式3,000株を同年7月20日に買主GSR氏に移転し、買主GSR氏が3,600万円を支払うというものでした。

支払日の直前に、資本金を外国人に戻すことは難しいと言い出し、代金を支払わなかった

買主GSR氏からは、7月13日の段階で、3,000株の譲渡の手続を進めているとの報告がありました。しかし、7月16日には、日本から外国人に資本金を戻すことは難しいなどと話すようになりました。結局、7月20日になっても、買主GSR氏は譲渡代金3,600万円を支払いませんでした。

売主SWMは、買主GSR氏に対し、売買代金3,600万円と、株式の譲渡日の翌日からの遅延損害金の支払を求めて提訴しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成28年7月4日 買主GSR氏が唯一の発起人として対象会社NTKを設立(資本金1,000万円、1,000株)
平成28年12月20日 対象会社NTKの株主総会が、売主SWMへの3,000株(3,000万円)の第三者割当を承認。同日、総数引受契約を締結
平成28年12月27日、平成29年1月3日、同月11日 売主SWMが合計3,000万円を払い込む。株主は売主SWM(3,000株)と買主GSR氏(1,000株)の2名となる
(時期の記載なし) 売主SWMの財務状況が悪化し、投下資本の回収方法を協議。買主GSR氏が3,000株を購入することとなり、代金は3,600万円と合意
平成30年7月2日 買主GSR氏が作成・押印して送った株式譲渡契約書に売主SWMが押印し、株式譲渡契約が締結される
平成30年7月13日 買主GSR氏から、譲渡の手続を進めているとの報告
平成30年7月16日 買主GSR氏が、日本から外国人に資本金を戻すことは難しいなどと話すようになる
平成30年7月20日 株式の移転日・代金の支払日とされた日。買主GSR氏は3,600万円を支払わず
平成30年7月21日 遅延損害金の起算日(譲渡日の翌日)
令和3年2月25日 東京地方裁判所が売主SWMの請求を全部認容する判決

提訴の日は判決本文に記載がありませんが、事件番号から、令和元年に訴えが提起された事件であることが分かります。

争いとなった株式譲渡契約書の文言

判決本文には、株式譲渡契約書の条項の全文は記載されていません。判決本文で分かるのは、買主GSR氏の主張の中で引用された、契約書2条1項の次の文言だけです。条項の全文ではなく、その一部を判決本文の記載のまま示します。

2条1項―代金の支払(判決本文に引用された部分)

謄本変更後に本件株券と引き換えに代金全額を支払うもの

判決本文の主張の記載では、この文言は、買主GSR氏が売主SWMに対し、対象会社NTKの「謄本変更後に本件株券と引き換えに代金全額を支払うもの」とされている、という形で引用されています。株式の移転日(7月20日)と代金額(3,600万円)は、判決本文の前提事実の記載によるものです。

この文言を前提にすると、代金の支払は、(1)「謄本変更」がされた後に、(2)株券と引換えに行う、と読む余地があります。買主GSR氏は、この2つが代金支払の条件であると主張しました。他方で、対象会社NTKは株券を発行しない会社であり、日本の株式会社の株式の譲渡について「謄本変更」という手続は一般に予定されていません。この文言の意味が、第2の争点となりました。

当事者の請求と主な主張

売主SWMの請求

売主SWMは、買主GSR氏に対し、次の支払を求めました。

項目 内容
株式の売買代金 3,600万円
遅延損害金 3,600万円に対する株式の譲渡日(平成30年7月20日)の翌日から支払済みまで年6%

遅延損害金の割合について、判決本文は、平成29年法律第45号による改正前の商法による商事法定利率年6%と記載しています。

争点ごとの主張

争点 買主GSR氏の主張 売主SWMの主張
株式譲渡契約の有効性 対象会社NTKは株式の譲渡制限のある会社であり、株主総会の承認のない株式譲渡は無効であるから、株式譲渡契約は無効である 譲渡当事者の意思表示が一致すれば契約は有効に成立する。会社法136条の承認手続が履践されていない譲渡制限株式の譲渡でも、当事者間の契約の成立や有効性に影響はない。また、対象会社NTKの株主全員が売買の当事者となる譲渡であるから、別途、株主総会の承認手続をとる必要もない
代金支払の条件の有無 契約書2条1項で、代金は謄本変更後に株券と引換えに支払うものとされている。条件である謄本変更はされておらず、売主SWMは株券を渡していないから、代金支払の条件は成就していない 契約書は買主GSR氏が作成して送ってきたもので、「謄本変更」「本件株券と引き換えに」の記載は、おそらく中国における一般的な会社持分譲渡契約書やひな型を参考にして書き加えられたもの(中国では、当局の審査認可、変更登記を経なければ会社持分譲渡の効力を生じない)。登記簿等に変更を加えることを別途合意したものではなく、「謄本変更」の文言に特段の意味はない。対象会社NTKは株券不発行会社で株券は存在せず、引き渡すことも想定していない

このほか、判決本文の「まとめ」の部分によれば、買主GSR氏は、代金3,600万円についてはLNF氏から強く言われたために応じたにすぎず、自分の真意ではなかったとも主張していました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を次の2つに整理しました。

  1. 株式譲渡契約の有効性(株主総会の譲渡承認がないことによって、株式譲渡契約が無効となるか)
  2. 株式譲渡契約の条件の有無(契約書の「謄本変更」「本件株券と引き換えに」の文言が、代金支払の条件となるか)

判決は、この2つの争点に加え、買主GSR氏の「真意ではなかった」という主張を、改正前の民法93条の心裡留保による無効の主張と善解して判断しています。いずれの主張も退けられたため、売主SWMの請求が全部認められました。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

重要な認定事実

判決が結論を導くうえで用いた事実は、次のとおりです(判決本文の認定事実の要約です)。

  • 対象会社NTKは、買主GSR氏が唯一の発起人兼設立時株主として設立した会社で、買主GSR氏は設立時から代表取締役を務めている。
  • 第三者割当増資の後、対象会社NTKの株主は売主SWM(3,000株)と買主GSR氏(1,000株)だけであり、株式譲渡契約の締結当時も、株主はこの2者しかいなかった。
  • 増資の引受けは、対象会社NTKの運転資金を一時的に援助する目的で、売主SWMが買主GSR氏に頼まれて行ったものであった。
  • 譲渡代金3,600万円は、買主GSR氏が借りた3,000万円に600万円の利息を付けると申し出て合意された。
  • 株式譲渡契約書は、買主GSR氏が作成して押印したうえで売主SWMに送ってきたものであった。
  • 対象会社NTKは株券不発行会社であり、株券は存在せず、売主SWMも株券を保有していない。

譲渡承認がなくても、当事者間の株式譲渡契約は有効

判決は、譲渡制限株式の譲渡について、次のように述べました。

「株式譲渡制限のある会社の株式の譲渡において、譲渡当事者の意思表示の一致があれば、譲渡当事者間における本件株式譲渡契約は有効に成立しており、単に、株式譲渡の効力を会社に対して対抗できないだけにすぎない。」

つまり、会社の譲渡承認がないことは、株式の譲渡を会社に対抗できるかどうかの問題であって、売主と買主の間の株式譲渡契約そのものの効力を左右するものではない、という枠組みです。本件では、この枠組みにより、契約は無効であるという買主GSR氏の主張が退けられました。

契約書の文言は、契約の実態と日本の法制度に照らして解釈する

判決は、契約書2条1項の「謄本変更」「本件株券と引き換えに」の文言を、文字どおりに代金支払の条件とは扱いませんでした。契約書を誰が作成したのか、その文言がどこから来たのか、日本の法制度でそのような手続や株券が予定されているのか、という観点から、文言の意味を判断しています。

各主張を採用し又は排斥した理由

株式譲渡契約は無効との主張―二つの理由で排斥

判決は、株主総会の承認がないから株式譲渡契約は無効であるという買主GSR氏の主張を、次の二つの理由で退けました。

第1の理由は、上記のとおり、譲渡当事者の意思表示が一致すれば当事者間の株式譲渡契約は有効に成立しており、承認がないことは、株式譲渡の効力を会社に対抗できないだけにすぎないという点です。

第2の理由は、本件の株式譲渡が株主全員による譲渡であったという点です。判決は、株式譲渡契約の締結当時、対象会社NTKの株主は売主SWMと買主GSR氏しかいなかったことを指摘し、次のとおり述べました。

「本件株式譲渡契約は、〔対象会社NTK〕の株主全員が売買の当事者となって行う株式の譲渡であるから、別途、〔対象会社NTK〕の株主総会の承認手続をとる必要もなかった。」

判決は、「したがって、本件株式譲渡契約は有効であり、被告の主張は採用できない。」と結論付けています(「被告」は買主GSR氏を指します)。

「謄本変更」が条件との主張―中国の手続を指す文言で、特段の意味はない

判決は、まず、株式譲渡契約書は買主GSR氏が作成して売主SWMに送ってきたものであり、その中に「謄本変更」「本件株券と引き換えに」の記載があることを確認しました。

そのうえで、「謄本変更」とは、中国において、会社持分の譲渡に必要な当局の審査認可や変更登記のことを意味すると解され、日本ではそのような手続は特に必要とされていないと判断しました。さらに、この記載がされたのは、買主GSR氏が中国における一般的な会社持分譲渡契約書やひな型を参考にするなどしたために書き加えたものと考えられるとして、次のとおり述べました。

「特段の意味を有しない記載と解するのが相当である。」

判決は、株式譲渡契約書は単に売主SWMが買主GSR氏に対象会社NTKの株式を譲渡するものであり、登記簿等に何らかの変更を加えることを別途合意したものではないことも理由に挙げ、「謄本変更」の文言に特段の意味はないと解するのが相当であるとしています。

株券と引換えとの主張―株券のない会社では引渡しは想定されない

判決は、対象会社NTKは株券不発行会社であり、株券は存在せず、売主SWMも株券を保有していないことから、次のとおり判断しました。

「株券が引き渡されることを想定されるものではない。」

そして、契約書の「本件株券と引き換えに」の文言にも特段の意味はないと解するのが相当であるとし、結論として、次のとおり述べました。

「本件株式譲渡契約には〔買主GSR氏〕が主張するような条件が設定されていたと解することはできない。」

真意ではなかったとの主張―心裡留保としても証拠がない

買主GSR氏は、代金3,600万円について、LNF氏から強く言われたために応じたにすぎず、自分の真意ではなかったとも主張していました。判決は、この主張を善解すれば、LNF氏も買主GSR氏に株式の対価として3,600万円を支払う意思がなかったことを承知しており、改正前の民法93条の心裡留保に該当し、LNF氏において買主GSR氏の真意を知り又は知ることができたから無効であるという主張とも解されるとしました。

しかし、判決は、次のとおり述べて、この主張も採用しませんでした。

「〔LNF氏〕が、〔買主GSR氏〕において3600万円を支払う意思がないことを知り又は知り得ることができたと認めるに足りる証拠はなく、〔買主GSR氏〕の主張は採用できない。」

判決本文では、この点について、買主GSR氏が自ら3,000万円に600万円の利息を付けると申し出て代金が合意されたこと、買主GSR氏が契約書を作成して送ってきたことが認定されています。判決は、これらの事実と心裡留保の主張との関係を個別に述べてはいませんが、相手方の認識を認める証拠がないとして主張を退けています。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(ここでの「原告」は売主SWM、「被告」は買主GSR氏を指します)。

  1. 「被告は、原告に対し、3600万円及びこれに対する平成30年7月21日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。」
  2. 「訴訟費用は、被告の負担とする。」
  3. 「この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。」

判決は、「原告の請求は理由があるから認容し」としており、売主SWMの請求は、代金3,600万円及び譲渡日の翌日からの遅延損害金を含めて全部認められました。

なお、遅延損害金の年6%は、判決本文が記載するとおり、平成29年法律第45号による改正前の商法の商事法定利率によるものです。同法による改正で商事法定利率の規定は削除されており、令和2年4月1日以降に債務者が遅滞の責任を負った場合の遅延損害金は、原則として民法の法定利率(同日の時点で年3%)によります。本件は改正前の法令が適用された事案です。同様に、判決が適用した心裡留保の規定も、平成29年法律第44号による改正前の民法93条です。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、譲渡制限株式の売買で、会社の譲渡承認がないことを理由とする買主の無効の主張が退けられ、代金の支払が命じられた例であることです。判決は、承認がなくても当事者間の株式譲渡契約は有効に成立しており、承認の有無は会社に対抗できるかどうかの問題にすぎないとしました。本件では、対象会社の代表取締役が買主自身であり、承認がないことを買主自らが代金不払いの理由として持ち出していました。こうした主張は、売主の側からみれば、契約の効力そのものとは区別して反論できることが分かります。

第2に、株主全員が売買の当事者となる株式譲渡では、別途、株主総会の承認手続をとる必要がないとされたことです。本件の対象会社は、株主が売主と買主の2者だけの会社でした。中小企業の株式譲渡では、株主が少数で、売主と買主がその全員という場面は少なくありません。そのような場面で、買主が後から承認手続の欠如を持ち出しても、契約の効力を争う理由にはならないことを示す例といえます。

第3に、契約書の文言が、そのまま支払条件として扱われなかったことです。判決は、契約書を作成したのが買主であること、文言が中国の会社持分譲渡の手続を前提とした書式から来たとみられること、日本では「謄本変更」のような手続が必要とされていないこと、対象会社が株券不発行会社であることを踏まえて、文言に特段の意味はないとしました。外国の書式やひな型を流用して作成された契約書について、文言の形式ではなく、契約の実態と日本の法制度に照らして意味が判断された例として参考になります。

第4に、出資の回収を目的とした株式の売買で、代金の合意が尊重されたことです。本件の代金3,600万円は、払込額3,000万円に買主が申し出た600万円の利息を加えたものでした。判決は、買主が「真意ではなかった」と主張しても、相手方がそれを知り又は知ることができたと認める証拠がない限り、合意した代金の支払義務を免れないと判断しています。

一般化できない点

本判決は、株主が売主と買主の2者だけで、買主が対象会社の唯一の発起人兼代表取締役であり、契約書も買主が作成したという本件の具体的な事情に基づく判断です。他の株主がいる会社では、株主全員が当事者となる譲渡であるという第2の理由は当てはまりません。その場合でも、第1の理由(当事者間では契約が有効であること)は判決が一般的な形で述べていますが、会社との関係で株式を取得したことを認めさせるには、譲渡承認の手続が別に問題となります。

また、本判決は、「謄本変更」の文言について、中国の手続を指す文言で、日本では必要とされない手続であることを前提に、特段の意味を有しないと判断したものです。契約書の支払条件が日本で実際に行われる手続(例えば株主名簿の名義書換や、売主による必要書類の交付)を定めている場合には、その条件が満たされたかどうかが問題となり、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。株券を発行する会社の株式の譲渡で、株券との引換えが定められている場合も同様です。

さらに、判決本文には、株主名簿の名義書換がされたかどうか、株式が実際に買主に移転したかどうかの記載はありません。判決は、代金の支払義務が条件に係っていないことを判断したもので、売主が代金と引換えにどのような手続に協力すべきかについては判断を示していません。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

株式の売主の側では、代金の支払時期と、代金と引換えに行う手続(株式譲渡の承認の請求、株主名簿の名義書換の請求に必要な書類の交付等)を、対象会社の実態に合わせて具体的に定めておくことが考えられます。相手方が作成した契約書に、日本の手続と合わない文言や、株券がないのに株券の引渡しを前提とする文言がある場合は、締結前に修正を求めておくと、後の紛争を避けやすくなります。買主の側では、譲渡承認の手続や株式の移転の手続を、代金の支払と結び付けたいのであれば、その旨を明確な条件として定めておく必要があります。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

よくあるご質問

会社の譲渡承認がない株式の売買は、無効になりますか。

本判決は、譲渡当事者の意思表示が一致すれば、当事者間の株式譲渡契約は有効に成立しており、承認がないことは株式譲渡の効力を会社に対抗できないだけにすぎないと判断しました。本件では、承認がないことを理由とする買主の無効の主張は採用されず、代金の支払が命じられました。

株主が売主と買主しかいない会社でも、株主総会の譲渡承認は必要ですか。

本判決では、株式譲渡契約の締結当時、株主は売主と買主の2者だけであり、株主全員が売買の当事者となる株式の譲渡であるから、別途、株主総会の承認手続をとる必要もなかったと判断されました。

契約書に代金は「謄本変更後」に支払うと書いてあれば、その手続がされるまで代金を支払わなくてよいのですか。

文言の意味によります。本判決では、「謄本変更」は中国の会社持分譲渡に必要な当局の審査認可や変更登記を意味すると解され、日本ではそのような手続は必要とされておらず、買主が中国の書式を参考に書き加えたものと考えられることから、特段の意味を有しない記載とされ、代金支払の条件とは認められませんでした。

株券を発行しない会社の株式譲渡で、契約書に代金は「株券と引き換えに」支払うとある場合はどうなりますか。

本判決では、対象会社が株券不発行会社で株券が存在せず、売主も株券を保有していないことから、株券の引渡しは想定されていないとして、「本件株券と引き換えに」の文言にも特段の意味はないとされました。株券を発行する会社の株式の場合は、別に検討が必要です。

本心では払うつもりがなかったと主張すれば、代金の支払を免れますか。

本判決は、買主の主張を心裡留保による無効の主張と解したうえで、売主の代表者が、買主に支払う意思がないことを知り又は知ることができたと認めるに足りる証拠はないとして、主張を退けました。相手方の認識を立証できない限り、合意した代金の支払義務は免れないことになります。

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この記事の位置付け

株式を売ったのに代金が支払われない売主と、支払を拒む買主の双方に向けて、譲渡承認の欠如や契約書の文言を理由に代金の支払が拒まれた場面の判例を、契約の有効性と支払条件の解釈の観点から解説します。

株式の売買代金をめぐる紛争への当事務所の対応は、表明保証違反・株式譲渡代金の未払いの御相談窓口で御案内しています。

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株式の譲渡代金が支払われない場合の請求や、株式譲渡契約をめぐる紛争に関する当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

表明保証違反・株式譲渡代金の未払いの御相談窓口

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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