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病院を運営する一般財団法人の運営権取得契約の医療法違反の主張と仲介者の責任―大阪高等裁判所令和3年1月22日判決

公開 2021年1月22日更新 2021年1月22日

▶ M&A仲介会社への損害賠償請求を検討する際の確認事項

病院を運営する一般財団法人が、後継者問題を解決するためにM&A仲介会社と銀行に仲介を依頼し、その仲介で、経営コンサルタント業を営む株式会社に法人の「運営権」を移す契約を結んだ。ところが後になって、法人の側が、この契約は株式会社による病院経営を禁じる医療法の趣旨を潜脱するもので無効であり、仲介者は債務の本旨に従った履行をしていないとして、支払った仲介の報酬相当額の賠償を求めた。このような場面の判例です。

大阪高等裁判所令和3年1月22日判決は、運営権取得契約は病院の開設者である一般財団法人の法人格を変えるものではなく、一般財団法人は非営利法人であるから、株式会社が評議員会や理事会を通じて運営に影響を及ぼすことができるようになっても、直ちに医療法に違反し公序良俗に反して無効となるものではないと判断しました。そのうえで、仲介者がそのスキームを立案し、相手方を選定したことは仲介契約の債務の本旨に従った履行であったとして、債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却した第一審判決を維持し、控訴審で追加された仲介契約の弁護士法違反による無効、付随義務違反による解除の主張に基づく請求も棄却しました。

本記事では、控訴審の判決本文に基づいて、契約の仕組み、当事者の主張、医療法第7条第6項の趣旨についての判断の枠組み、仲介者の責任と弁護士法違反の主張を退けた理由を整理し、この判決から読み取れることと読み取れないことを区別して解説します。第一審の判決本文は入手できていないため、第一審の判断は、控訴審の判決本文から分かる範囲で記載しています。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―病院の承継の仲介で成立した運営権取得契約が、後に医療法違反として争われた
    1. 後継者問題の解決のための法人提携仲介契約
    2. 経営コンサルタント会社BCMとの運営権取得契約
    3. 契約締結後の紛議と訴えの提起
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった契約条項
    1. 運営権取得契約1条―運営権の移転の目的
    2. 仲介契約1条・3条―仲介に関する専門的な業務
  6. 財団HZDの請求と当事者の主な主張
    1. 財団HZDの請求
    2. 財団HZDの主な主張
    3. 仲介会社MSCと銀行GKBの主な反論
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
  9. 控訴審の判断
    1. 結論は維持し、理由の中心部分を補正した
  10. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 医療法7条6項の「営利」と、事後的に問題が生じた場合の扱い
    2. 運営権取得契約は開設者の法人格を変えない
    3. BCMは評議員会を通じて運営全般に影響を及ぼすことができる
    4. それでも、医療法7条6項の趣旨を損なう具体的な危険はない
    5. BCMの代理人の書面も、趣旨に反する運営の意図をうかがわせるものではない
  11. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 医療法違反・公序良俗違反の主張―開設者も非営利性も変わらない
    2. 履行不能の主張―前提を欠き、欠格事由の主張も失当
    3. 付随義務違反の主張―債務の本旨に従った履行があった
    4. 弁護士法違反の主張―代理は定めがなく、参考資料と草案の作成も違反と認められない
    5. 時機に後れた攻撃防御方法の主張―却下はしない
  12. 審級ごとの結論の推移
  13. 主文及び結論
  14. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  15. よくあるご質問
    1. 株式会社が一般財団法人の評議員や役員を入れ替えて病院の運営に関与することは、医療法違反になりますか。
    2. 仲介で成立した取引に問題があると感じた場合、仲介会社に報酬の返還や損害賠償を求められますか。
    3. M&A仲介会社が契約書の草案を作成することは、弁護士法に違反しますか。
    4. 控訴審で初めて主張を追加することはできますか。
  16. 第一審の判決についての付記
  17. 関連する記事と相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審(原審) 控訴審の判決本文に記載がありません 控訴審の判決本文に記載がありません 控訴審の判決本文に記載がありません 判決(控訴審の判決本文が「原判決」と表示しています) 病院を運営する一般財団法人の請求(仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償)をいずれも棄却
控訴審 大阪高等裁判所第7民事部 令和3年1月22日 令和元年(ネ)第2654号 判決 控訴をいずれも棄却。控訴審で追加された請求(不当利得返還、原状回復)もいずれも棄却。控訴審の訴訟費用は一般財団法人の負担

この表は、控訴審の判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。判決本文の冒頭には事件番号が「令和1年(ネ)第2654号」と記載されており、本記事では「令和元年(ネ)第2654号」と表記しています。控訴審判決に対する上告又は上告受理の申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。

第一審の判決本文は、現時点で入手できていません。第一審の裁判所名、裁判日及び事件番号も控訴審の判決本文には記載がないため、本記事には記載していません。第一審の判決本文を入手した後に、第一審の判断の内容を加筆する予定です。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
病院を運営する一般財団法人HZD(以下「財団HZD」) 第一審の原告で、控訴人。病院を開設運営する一般財団法人です。仲介契約の依頼者の一人で、運営権取得契約の「対象法人」です
財団HZDが開設する病院(以下「KSM病院」) 財団HZDが開設運営する病院です。判決本文には、KSM病院の名を冠する診療所の記載もあります
財団HZDの代表理事で医師のRJT氏(以下「代表理事RJT氏」) 財団HZDの代表者(代表理事・理事長)。財団HZDの主張によれば、財団HZDとともに仲介契約の依頼者となりました。また、運営権取得契約の当事者(「甲ら」)の一人となりました
KSM病院の院長HNS氏(以下「院長HNS氏」) KSM病院の管理者である医師で、財団HZDの理事です
診療所の所長TMK氏(以下「所長TMK氏」) KSM病院の名を冠する診療所の所長で、財団HZDの理事です
医療機関の承継を仲介するM&A仲介会社MSC(以下「仲介会社MSC」) 第一審の被告で、被控訴人。株式会社です。財団HZDとの間で法人提携の仲介契約を締結しました。控訴審では、医療機関の事業承継を多数手掛けてきたと主張しています(同社の主張であり、裁判所の認定ではありません)
銀行GKB 第一審の被告で、被控訴人。株式会社である銀行で、仲介会社MSCとともに仲介契約の当事者となりました
経営コンサルタント会社BCM(以下「BCM」) 病院、医院、福祉施設、一般企業への経営コンサルタント業等を目的とする株式会社で、運営権取得契約の相手方(「乙」)です。訴訟の当事者ではありません

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。判決本文の「控訴人」は財団HZD、「被控訴人ら」は仲介会社MSCと銀行GKBを指します。判決本文の数字は全角と半角の算用数字が混在しているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。判決本文が「一般法人法」と略している法律は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律です。

事案の概要―病院の承継の仲介で成立した運営権取得契約が、後に医療法違反として争われた

以下は、控訴審の判決本文の「事案の概要」、当事者の主張及び裁判所の判断から分かる事実です。第一審の判決が認定した前提事実の多くは控訴審判決で「引用する」とされており、控訴審の判決本文にはその全文が記載されていません。そのため、契約の締結日や報酬の内訳など、判決本文から分からない事項があります。

後継者問題の解決のための法人提携仲介契約

財団HZDは、KSM病院を開設運営する一般財団法人です。財団HZDは、仲介会社MSCと銀行GKBとの間で、KSM病院の後継者問題等を解決するための法人提携仲介契約を締結しました(判決本文はこの契約を「本件仲介契約」と呼んでいます)。仲介契約の依頼者側の当事者には、財団HZDのほか、代表理事RJT氏も含まれていたことが、当事者の主張の記載からうかがわれます。

財団HZDの主張によれば、仲介契約に基づいて財団HZDが支払った法人評価料・案件化料及び成功報酬の合計は5,038万8,480円でした。判決本文には、これらの報酬の内訳ごとの金額や、仲介会社MSCと銀行GKBのどちらにいくら支払われたかの記載はありません。

経営コンサルタント会社BCMとの運営権取得契約

仲介会社MSCと銀行GKBの仲介により、財団HZDの代表者ら(判決本文では「甲ら」)は、BCMとの間で運営権取得契約を締結しました(判決本文はこの契約を「本件運営権取得契約」と呼んでいます)。BCMは、病院、医院、福祉施設、一般企業への経営コンサルタント業等を目的とする株式会社です。

控訴審の判決は、運営権取得契約の内容を次のように認定しています。

  • 財団HZDの旧評議員ら、旧理事ら及び旧監事が辞任し、BCMが指定する者が財団HZDの評議員及び役員に就任することを目的としていました。
  • もっとも、理事である代表理事RJT氏(KSM病院の医師)、院長HNS氏及び所長TMK氏は、辞任するものとはされていませんでした(控訴審が原判決を補正して加えた事実です)。
  • 旧評議員が辞任した後の財団HZDの評議員には、BCMの代表取締役を始め、BCMの役員、従業員ないし関係者が就任しました(弁論の全趣旨による認定です)。
  • BCMが指定した新任の役員の中には、医師(医療法人の理事長)である者が含まれていました(控訴審が原判決を補正して加えた事実です)。

つまり、運営権取得契約は、病院の開設者である財団HZDそのものを売買したり、病院の事業を譲渡したりするのではなく、財団HZDの評議員と役員を入れ替えることによって、BCMが財団HZDの運営に影響を及ぼすことができるようにする仕組みでした。一般財団法人には株式や出資持分がないため、株式会社の株式譲渡や、持分のある医療法人の出資持分譲渡とは異なる方法がとられています。

契約締結後の紛議と訴えの提起

運営権取得契約の締結後、代表理事RJT氏ほか旧理事とBCM側との間で、財団HZDの運営をめぐって紛議が生じました。判決は、BCMの代理人が、平成29年11月30日付けで財団HZDに送付した書面において、代表理事RJT氏と院長HNS氏の解任並びに病院の売却の可能性に言及していたことを認定しています。もっとも、判決は、その書面に、最悪の選択に至ることだけは避けたいと考えている旨の記載もあったことを認定しています。

財団HZDは、運営権取得契約は医療法に違反する無効なものであり、仲介契約の本旨に基づく債務の履行があったとはいえないなどと主張し、平成30年5月30日に仲介会社MSCに、同月31日に銀行GKBに、それぞれ支払を催告したうえで、仲介会社MSCと銀行GKBを相手に訴えを提起しました。

第一審は、財団HZDの請求をいずれも棄却しました。財団HZDは控訴し、控訴審の令和2年2月18日の口頭弁論期日において、運営権取得契約を履行不能を理由として、仲介契約を付随義務違反を理由として、いずれも解除するとの意思表示をしました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(控訴審の判決本文による)
(時期の記載なし) 財団HZD(及び代表理事RJT氏)が、仲介会社MSC及び銀行GKBとの間で、法人提携仲介契約(本件仲介契約)を締結
(時期の記載なし) 仲介会社MSC及び銀行GKBの仲介により、財団HZDの代表者らがBCMとの間で運営権取得契約(本件運営権取得契約)を締結
(時期の記載なし) 旧評議員らが辞任し、BCMの代表取締役を始めBCMの役員、従業員ないし関係者が財団HZDの評議員に就任
平成29年11月30日付け BCMの代理人が財団HZDに書面を送付。代表理事RJT氏と院長HNS氏の解任並びに病院の売却の可能性に言及
平成30年5月30日 財団HZDが仲介会社MSCに支払を催告(遅延損害金の起算日として請求された日)
平成30年5月31日 財団HZDが銀行GKBに支払を催告(同上)
(時期の記載なし) 第一審が財団HZDの請求をいずれも棄却。財団HZDが控訴
令和2年2月18日 控訴審の口頭弁論期日で、財団HZDが運営権取得契約(履行不能を理由)及び仲介契約(付随義務違反を理由)の解除の意思表示
令和3年1月22日 大阪高等裁判所が控訴をいずれも棄却し、控訴審で追加された請求もいずれも棄却する判決

仲介契約と運営権取得契約の締結日、第一審の判決日は、控訴審の判決本文には記載がありません。

判断の前提となった契約条項

控訴審の判決本文には、契約書そのものの条文の全文は記載されていません。以下は、判決本文に記載された当事者の主張や裁判所の判断の中に現れる条項の内容です。契約書原本の条文をそのまま再現したものではない点にご注意ください。

運営権取得契約1条―運営権の移転の目的

財団HZDは、控訴審の補充主張の中で、運営権取得契約1条の文言を次のとおり引用しています(財団HZDの主張の中の引用であり、「…」による省略も判決本文の記載のままです)。

「本契約は、対象法人(控訴人)及び乙(〔BCM〕)の一層の発展を目指し、下記スキーム…を遂行することにより、対象法人の運営権を甲らから乙に移転することを目的として締結する。」

「スキーム」の具体的な内容は、判決本文では省略されています。裁判所の認定によれば、その中心は、旧評議員ら、旧理事ら及び旧監事が辞任し、BCMが指定する者が評議員及び役員に就任することでした。

仲介契約1条・3条―仲介に関する専門的な業務

財団HZDの主張によれば、仲介契約1条は、財団HZDと代表理事RJT氏が仲介会社MSCと銀行GKBに対し、「本件提携の仲介に関する専門的な業務」を委託するものと定め、3条は仲介者が行う業務を列挙していました。判決本文に現れる3条の業務は、次のとおりです。

  • 対象法人等についての法人価値判断の参考資料の作成(3条〈1〉)
  • 法人提携の基本スキームの立案及び助言
  • 提携に関する実務手続上の助言及び交渉のスケジューリング
  • 本件提携に必要な契約書等の草案の作成(3条〈6〉)
  • 本件提携交渉の立会及び助言

このほか、仲介会社MSCと銀行GKBは、仲介契約21条1項が仲介者の行う「本件業務」を「仲介に関する専門的な業務」と定めており、代理は定められていないと主張しました。裁判所も、証拠により、仲介契約における仲介者の業務として代理は定められていないと認定しています。

また、財団HZDは、仲介契約において、仲介者は候補先の選定及び候補先に対する情報提供や、提携の基本スキームの立案及び助言を行う義務を負うと主張しています。

財団HZDの請求と当事者の主な主張

財団HZDの請求

請求 内容
第一審からの請求(仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償) 仲介会社MSCに対し2,519万4,240円及び平成30年5月30日から、銀行GKBに対し2,519万4,240円及び同月31日から、それぞれ支払済みまで年6分の割合による遅延損害金
控訴審で追加した請求1(不当利得返還) 仲介契約が弁護士法に違反して無効であることを理由に、上記と同額の支払
控訴審で追加した請求2(原状回復) 仲介契約を付随義務違反を理由に解除したことによる原状回復として、上記と同額の支払

2,519万4,240円は、財団HZDが支払った報酬の合計5,038万8,480円の半額で、仲介会社MSCと銀行GKBのそれぞれに半額ずつを請求する形になっています。控訴審で追加された二つの請求は、第一審からの請求といずれも選択的併合とされました。選択的併合とは、いずれか一つが認められれば足りるとして、複数の請求を並べて審理を求める方法です。

遅延損害金の割合の年6分は、判決本文によれば、平成29年法律第45号による改正前の商法514条所定の商事法定利率です。商事法定利率の規定は、民法の一部を改正する法律の施行に伴い、令和2年4月1日に廃止されており、現在の法令による法定利率とは異なります。本件は、改正前の法令が前提とされた事案です。

財団HZDの主な主張

控訴審で財団HZDが補充した主張は、次の4点に整理できます。

  1. 運営権取得契約の医療法違反(公序良俗違反による無効) スキームの実行後は、BCMがKSM病院の経営主体となり、開設者となるから、KSM病院の開設許可も無効になり、BCMは新たに都道府県知事の開設許可を得なければならない。昭和29年の厚生省医務局長通知、昭和26年の同局長回答、平成5年通達もこれを裏付ける。株式会社による病院経営を目的とする契約を有効とすれば、事実上、株式会社による医療機関の経営を解禁するに等しい。運営権取得契約は、医療法7条1項・6項の許可制や非営利性原則を潜脱する重大な瑕疵を帯び、公序良俗に違反して無効である。
  2. 運営権取得契約の履行不能 スキームは、BCMが財団HZDを「藁人形」として無許可で病院を開設、運営するための脱法的スキームであり、株式会社であるBCMが開設許可を得られる見込みもないから、財団HZD側の債務は履行不能である。また、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(判決本文の記載では66条1項1号)は法人が一般財団法人の理事、監事、評議員になれないと定めているところ、BCMが指定した者は実質的にBCMの意思で職務を行うから、就任の効果意思を欠き、又はBCMが就任したものとして資格を失う。
  3. 仲介契約の付随義務違反 運営権取得契約は脱法スキームであり、そうでなくても少なくとも適法性に異論の余地のあるスキームであるのに、仲介者から適切な情報提供がなかった。情報提供がされていれば、財団HZD側は運営権取得契約を締結しなかった。したがって情報提供の付随義務違反があり、仲介契約を解除できる。
  4. 仲介契約の弁護士法違反 仲介契約3条の業務には、基本スキームの立案及び助言、契約書等の草案の作成、提携交渉の立会及び助言などが含まれ、弁護士法72条が禁止する「法律事件」に関する鑑定、代理その他の法律事務の取扱いを定めた契約であるから、無効である。

仲介会社MSCと銀行GKBの主な反論

  1. 医療法違反について 営利を目的とする者による病院の開設を規制するのは医療法7条6項であり、本件は事後的に運営権を取得する場面で、開設許可の違反が問題になるものではない。KSM病院の開設者は財団HZDのままであり、合意したのは評議員と役員の辞任と就任にすぎない。一般財団法人は設立者に剰余金や残余財産の分配を受ける権利を与えることができない非営利法人で、評議員や役員を入れ替えても営利を目的とすることはできない。代表理事は医師である代表理事RJT氏のままであり、院長も院長HNS氏のままで、新任役員は利害関係のある営利法人等の役員を兼務していないから、平成5年通達にも違反しない。
  2. 運営への影響について BCMが財団HZDに与える影響は評議員と役員を通じた間接的なものにとどまり、保険診療の枠内で不必要に高額な医療が行われるとはいえない。医療法施行後も株式会社立の病院が相当数存在し、特段の問題は生じていない。
  3. 実績について 仲介会社MSCは、同様のスキームで49例の医療機関の事業承継を手掛けてきたが、是正を求められた例はないと主張しました(同社の主張であり、裁判所はこの点について判断を示していません)。
  4. 履行不能・付随義務違反について いずれも運営権取得契約が医療法に違反することを前提とする主張であり、前提を欠く。
  5. 弁護士法違反について 仲介契約の業務は「仲介に関する専門的な業務」で、代理は定められていない。法人価値判断の参考資料は単なる参考資料にすぎず、契約書は「草案」を作成するにとどまり、最終的な合意内容は当事者間で決まる。
  6. 時機に後れた攻撃防御方法 控訴審での解除と弁護士法違反の主張は、第一審の弁論準備手続の終結後に提出されたもので、却下されるべきである。

結論を左右した争点

控訴審の判決本文から読み取れる、結論を左右した争点は次のとおりです。

  1. 運営権取得契約は、医療法7条1項・6項に違反し、又はその趣旨を潜脱するものとして、公序良俗に反し無効となるか(すべての請求の前提となる争点です)。
  2. 運営権取得契約は、医療法違反や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の欠格事由を理由に、履行不能となるか。
  3. 仲介者がそのスキームを立案し、BCMを候補先として選定したことは、仲介契約の債務の本旨に従った履行といえるか。情報提供についての付随義務違反があるか。
  4. 仲介契約は、弁護士法72条に違反して無効となるか。
  5. 控訴審で追加された主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるか。

第1の争点が否定されたことで、第2と第3の争点についての財団HZDの主張は前提を欠くことになりました。判決は、その余の点(損害の有無や額など)については「判断するまでもなく」として判断を示していません。

第一審の判断

第一審の判決本文は入手できていないため、ここでは、控訴審の判決本文から分かる範囲で第一審の判断を記載します。第一審の判決本文を入手した後に、この節を加筆します。

  • 第一審は、財団HZDの仲介会社MSC及び銀行GKBに対する仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償請求を、いずれも棄却しました。
  • 控訴審の判決が原判決の医療法7条6項に関する説示や、運営権取得契約が公序良俗に違反しないとする部分を補正していることから、第一審も、運営権取得契約の効力を否定せずに請求を棄却したものとうかがわれます。原判決には「直接違反」という文言を含む説示があり、控訴審はその部分以降を差し替えています。もっとも、第一審の説示の具体的な文言(控訴審で差し替えられた部分の元の記載)は、控訴審の判決本文からは分かりません。
  • 控訴審判決の補正の記載から、第一審の判決には、医療法7条6項の趣旨と、事後的に医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務するなどの場合についての記載があったこと、及び医療法24条に言及する部分があったことがうかがわれます。

以上は、控訴審の補正の指示(「原判決12頁2行目の…を…と改める」等)から読み取れる限度での記載であり、第一審の判断の全体ではありません。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

控訴審の判断

結論は維持し、理由の中心部分を補正した

控訴審は、まず次のとおり述べました。

「当裁判所は、原判決と同様に、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。」

控訴審は、第一審の「争点に対する判断」を引用しつつ、次の点を補正し、控訴審での補充主張に対する判断を付け加えました。結論は第一審と同じ(請求棄却)であり、控訴審は第一審の結論を維持したうえで、理由の中心部分を補正したものです。

補正の箇所(控訴審の判決本文の表示による) 補正の内容
原判決10頁 運営権取得契約で代表理事RJT氏、院長HNS氏及び所長TMK氏は辞任するものとされなかったこと、BCMが指定した者の中に医師(医療法人の理事長)がいたことを加えた
原判決12頁 医療法7条6項の「営利」は剰余金の配当をいうと明示し、同項の趣旨の説明を改めた。事後的に営利性の要件を欠くなどしても開設許可は無効にならず、医療法24条の2の監督処分の対象となり得るという枠組みに改めた
原判決13頁から15頁 運営権取得契約は開設者の法人格を変えず、開設者は非営利法人である一般財団法人のままであるとの理由を加えた。そのうえで、運営権取得契約が公序良俗に違反しない理由の部分を全面的に差し替えた(BCMが評議員会を通じて運営全般に影響を及ぼせることを認めつつ、医療法7条6項の趣旨を損なう具体的な危険はないとする説示)
原判決15頁 「違法な」から「できないから」までを「違法なものとは認められないから」と改め、「医療法7条」の次に「1項、」を加え、一部の記載を削除した(補正された部分の前後の記載は控訴審の判決本文からは分かりません)
原判決7頁(事案の概要) 一部の記載(「できる。」までの部分)を削除した。削除された記載の内容は控訴審の判決本文からは分かりません

控訴審はまた、前提事実として、財団HZDが控訴審の令和2年2月18日の口頭弁論期日に運営権取得契約と仲介契約の解除の意思表示をしたことを加えています。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

医療法7条6項の「営利」と、事後的に問題が生じた場合の扱い

控訴審は、医療法7条6項(営利を目的として病院等を開設しようとする者には許可を与えないことができるとする規定)について、まず次のとおり述べました。

「同法7条6項にいう「営利」とは、剰余金を配当することをいうものと解される。」

そのうえで、同項は許否の判断を許可権者の裁量に委ねていることなどから、事後的に病院等の開設者に問題が生じても、次のとおり、開設許可そのものが無効になるわけではないとしました。

「当該病院等の開設者に対して付与された許可が無効になると解することはできない。」

もっとも、開設者が事後的に営利性の要件を欠くに至った場合や、平成5年通達に定めるように開設者である法人の役員が利害関係のある営利法人等の役職員を兼務するなどして非営利性に疑義が生じた場合については、次のとおり、医療法に基づく監督処分の対象となり得るとしています。

「経営戦略によって医療の内容が左右されて患者の利益を損なうなど、同項の規定の趣旨に反するおそれや弊害が生じるに至ったときは、同法24条の2第1項にいう「その運営が著しく適正を欠くと認めるとき」に該当するものとして、同項及び同条2項の改善命令等の同法に基づく監督処分の対象となり得るものと解される。」

この枠組みでは、事後的な問題は、開設許可の効力や契約の効力の問題としてではなく、行政による監督処分の問題として扱われることになります。

運営権取得契約は開設者の法人格を変えない

控訴審は、運営権取得契約は、KSM病院の開設者の法人格を変更するものではなく、契約の履行の前後を通じて開設者は一般財団法人である財団HZDであると指摘しました。そして、一般財団法人は、設立者に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めが効力を有しない(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律153条3項2号)、営利を目的としない非営利法人であるから、運営権取得契約によって財団HZDが非営利性の要件を欠くことになるものではないとしました。控訴審での補充主張に対する判断でも、次のとおり述べています。

「もとより〔KSM病院〕の開設許可が無効になるものでも、〔BCM〕が新たに医療法7条1項の開設許可を取得しなければならなくなるものでもない。」

BCMは評議員会を通じて運営全般に影響を及ぼすことができる

控訴審は、一般財団法人の機関の仕組み(評議員会が理事及び監事を選任し、理事会が業務執行を決定し、代表理事が業務を執行し、監事が監査すること、評議員会は事業の全部の譲渡を決議できること)を確認したうえで、運営権取得契約の仕組みを次のように評価しました。

「すなわち、本件運営権取得契約においては、〔BCM〕が、その指定する評議員により組織される評議員会を通じて、理事会の組織及び運営に影響を及ぼすことができ、ひいては控訴人の運営全般に影響を及ぼすことができる仕組みが定められており、」

このように、控訴審は、運営権取得契約によって株式会社であるBCMが財団HZDの運営全般に影響を及ぼすことができるようになること自体は、正面から認めています。

それでも、医療法7条6項の趣旨を損なう具体的な危険はない

しかし、控訴審は、次の点を挙げて、運営権取得契約の履行によって直ちに医療法7条6項の趣旨を損なうような具体的な危険が生じるとはいえないとしました。

  • 運営権取得契約は、財団HZDの一般財団法人としての法人格を前提に、その枠内でBCMが運営に影響を及ぼすことを可能とするものであること。
  • 契約が履行されても、BCMが剰余金の分配を受けることができるようになるものではないこと。
  • BCMが病院等への経営コンサルタント業等を目的とする会社であるという業務内容にも鑑みると、BCMの経営方針が反映されることになっても、直ちに財団HZDの犠牲においてBCMの利益を図る運営が行われる具体的な危険があるとはいえないこと。
  • 営利法人が一般財団法人の枠内でその運営に自らの経営方針を反映させることが、直ちに、経営戦略によって医療の内容が左右されて患者の利益を損なうおそれや、病院経営からの撤退によって地域の適切な医療の確保に支障が生じるなどの弊害を生じさせる具体的な危険があると一般的にいうこともできないこと。

「そうであるとすれば、本件運営権取得契約の履行によって直ちに、医療法7条6項の規定の趣旨を損なうような具体的な危険が生じるということはできない。」

控訴審は、BCMの経営方針を反映した運営の結果として医療法7条6項の趣旨に反する事態が生じた場合には監督処分の対象となり得るとしつつ、運営権取得契約の仕組み自体から直ちにそのような事態が生じる具体的な危険はないから、契約の履行によって直ちに財団HZDが監督処分を受ける具体的な危険があるともいえないとしました。

BCMの代理人の書面も、趣旨に反する運営の意図をうかがわせるものではない

財団HZDの側からは、BCMの代理人が平成29年11月30日付けの書面で、代表理事RJT氏と院長HNS氏の解任並びに病院の売却の可能性に言及していたことが示されていました。控訴審は、この書面は、運営権取得契約の締結後に代表理事RJT氏ほか旧理事とBCM側との間で運営をめぐって紛議が生じる中での交渉に際して送付されたものであり、書面には最悪の選択に至ることだけは避けたいと考えている旨の記載もあったことから、BCMが医療法7条6項の趣旨に反する運営を行おうとしていることをうかがわせる事情とはいえないとしました。そして、本件全証拠によっても、そのような疑念を生じさせる具体的な事情は見いだせないとしています。

「以上認定説示したところによれば、本件運営権取得契約が公序良俗に違反して無効であるということはできない。」

各主張を採用し又は排斥した理由

医療法違反・公序良俗違反の主張―開設者も非営利性も変わらない

財団HZDは、スキームの実行によりBCMがKSM病院の経営主体・開設者となるから、新たな開設許可が必要であると主張しました。控訴審は、前記のとおり、開設者の法人格は変わらず、非営利法人である一般財団法人が開設者であり続けるから、開設許可が無効になることも、BCMが新たに開設許可を得なければならなくなることもないとしました。財団HZDが援用した通知等については、次のとおり述べています。

「なお、控訴人が援用する昭和29年通知及び昭和26年回答は、いずれも、事案を異にし本件に適切でなく、上記の認定判断が平成5年通達の趣旨に抵触するものでもない。」

判決本文の記載によれば、財団HZDが援用した昭和29年の通知は経営主体が開設許可を受けていない合資会社に変更されていた例を、昭和26年の回答は医師等の名義で開設許可を受けた後に営利法人の組織を開設主体として登記した例を扱うものとされています。控訴審は、本件はこれらと異なり、開設者そのものは一般財団法人のまま変わらないと判断したことになります。結論として、運営権取得契約は医療法7条1項・6項に違反するものでも、その趣旨に反するものでもなく、非営利性原則を潜脱する重大な瑕疵を帯びるものともいえないとして、公序良俗違反による無効の主張は採用されませんでした。

履行不能の主張―前提を欠き、欠格事由の主張も失当

運営権取得契約が履行不能であるとの主張は、契約が医療法に違反し、BCMが開設許可を得なければならないことを前提とするものでした。控訴審は、その前提が認められない以上、主張は前提を欠くとしました。評議員や役員の欠格事由をいう主張についても、次のとおり退けています。

「〔BCM〕が指定した者が所定の手続を経て評議員や役員に選任された場合に、その選任を無効とみる根拠はないし、〔BCM〕が評議員や役員に就任することは、一般法人法の認めるところではないから、控訴人の上記主張は失当というほかはない。」

BCMが指定した個人が手続を経て選任された以上、その個人が評議員や役員であり、法人であるBCM自身が就任したものとみることはできない、という判断です。

付随義務違反の主張―債務の本旨に従った履行があった

財団HZDは、適法性に異論の余地のあるスキームであるのに、仲介者から適切な情報提供がなかったと主張しました。控訴審は、運営権取得契約が医療法の規定を潜脱して無許可で病院を開設、運営するための脱法スキームであるとはいえず、契約の履行によって直ちに財団HZDが監督処分を受ける具体的な危険があるともいえないとしたうえで、次のとおり判断しました。

「したがって、被控訴人らが本件仲介契約に基づき控訴人に対し本件運営権取得契約に係るスキームを立案するとともに候補先として〔BCM〕を選定したことについては、本件仲介契約に基づく債務の本旨に従った履行があったというべきであるから、」

こうして、情報提供についての付随義務違反をいう主張は前提を欠くとされ、付随義務違反を理由とする仲介契約の解除と、それに基づく原状回復請求も認められませんでした。控訴審は、「少なくとも適法性に異論の余地のあるスキーム」であれば説明すべきであったという財団HZDの予備的な主張の組立てについて、独立に詳しい検討を示してはいません。スキームが違法とはいえず、監督処分を受ける具体的な危険もないという判断から、債務の本旨に従った履行があったと結論づけています。

弁護士法違反の主張―代理は定めがなく、参考資料と草案の作成も違反と認められない

財団HZDは、仲介契約が弁護士法72条に違反して無効であると主張しました。控訴審は、仲介契約の業務の内容に即して、次のとおり判断しました。

「本件仲介契約における被控訴人らの業務として、代理は定められておらず、「対象法人等についての法人価値判断の参考資料の作成」(本件仲介契約3条〈1〉)が弁護士法72条にいう鑑定に当たると認めるに足りる証拠はない。」

契約書等の草案の作成(3条〈6〉)についても、次のとおり述べています。

「それ自体が法律上の効果を発生させ又は変更する事項の処理とはいえないほか、本件における草案の作成がその内容や具体的な作成経過に照らして同法72条に違反することを認めるに足りる証拠もない。」

控訴審は、財団HZDが主張した弁護士法72条の「法律事件」「その他の法律事務」の解釈そのものについて一般的な判断を示してはいません。仲介契約の業務の定め方と、本件の証拠関係に即して、違反を認めるに足りないと判断したものです。この判断により、弁護士法違反による無効を前提とする不当利得返還請求も認められませんでした。

時機に後れた攻撃防御方法の主張―却下はしない

仲介会社MSCと銀行GKBは、控訴審での解除と弁護士法違反の主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張しました。控訴審は、次のとおり述べて、これを却下せず、内容に立ち入って判断しました。

「控訴人のこれらの主張が訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないから、これを却下しないこととする。」

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(原審) 控訴審(大阪高等裁判所令和3年1月22日判決)
仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償請求 棄却 控訴棄却(第一審の結論を維持)
運営権取得契約の公序良俗違反による無効 認めず(控訴審の補正からうかがわれる範囲。具体的な説示は未確認) 認めず(理由を補正。開設者の法人格と非営利性は変わらず、医療法7条6項の趣旨を損なう具体的な危険もない)
仲介契約の弁護士法違反による無効を理由とする不当利得返還請求 (控訴審で追加された請求) 棄却
仲介契約の付随義務違反による解除を理由とする原状回復請求 (控訴審で追加された請求) 棄却
訴訟費用 第一審の判決本文を入手できていないため未確認 控訴審の訴訟費用は全て財団HZDの負担

主文及び結論

控訴審判決の主文は、次のとおりです(ここでの「控訴人」は財団HZDを指します)。

  1. 「本件各控訴をいずれも棄却する。」
  2. 「控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却する。」
  3. 「当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。」

判決は、理由の結びで次のとおり述べ、損害の有無や額などの他の論点には立ち入りませんでした。

「以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がない。」

財団HZDが仲介会社MSCと銀行GKBに支払った報酬の返還又は賠償は、第一審からの請求も控訴審で追加された請求も、すべて認められませんでした。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。判断の射程は、最終的な判断である控訴審の判断を基準としています。

参考となる点

第1に、医療機関の承継の仲介で成立した契約の効力が争われた場合に、仲介者の債務不履行責任の成否が、まず承継の契約そのものが違法・無効かどうかにかかった例であることです。本件では、運営権取得契約が公序良俗違反で無効とはいえないと判断された結果、仲介者がそのスキームを立案し相手方を選定したことは、仲介契約の債務の本旨に従った履行とされました。依頼者が仲介者の責任を問う場合には、成立した取引のどこに法的な問題があったのか、その問題が仲介者の業務のどの部分に結び付くのかを具体的に示す必要があることがうかがわれます。

第2に、一般財団法人が開設する病院について、評議員と役員の入替えによって株式会社が運営に影響を及ぼすことができるようにする仕組みが、直ちには医療法7条1項・6項に違反しないとされた例であることです。控訴審は、開設者の法人格が変わらないこと、一般財団法人は剰余金や残余財産を設立者に分配できない非営利法人であることを重視しました。他方で、控訴審は、株式会社が評議員会を通じて運営全般に影響を及ぼすことができることを正面から認め、その後の運営によって医療法7条6項の趣旨に反する事態が生じれば監督処分の対象となり得ることも明示しています。違法でないとされたのは仕組みそのものであり、その後の運営の仕方まで一律に適法とされたわけではありません。

第3に、M&A仲介会社の業務が弁護士法72条に違反するとの主張に対し、仲介契約に代理の定めがないこと、参考資料の作成が鑑定に当たると認める証拠がないこと、契約書の草案の作成はそれ自体が法律上の効果を発生させ又は変更する事項の処理とはいえないことなどを理由に、違反を認めなかった例であることです。もっとも、判決は、草案の作成についても「その内容や具体的な作成経過に照らして」違反を認めるに足りる証拠がないとしており、事案によっては内容や経過を検討する余地を残しています。

第4に、控訴審で新たに提出された解除や弁護士法違反の主張が、訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないとして却下されず、内容の判断を受けたことです。手続面の一例として参考になります。

一般化できない点

本判決は、一般財団法人が開設する病院の事案です。医療法人(社団・財団)、社会福祉法人その他の法人が開設する病院や、開設者そのものを変更する取引(事業譲渡等)については、適用される法令や前提が異なり、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。

また、本判決は、BCMが病院等への経営コンサルタント業等を目的とする会社であったこと、新任の役員の中に医師がいたこと、代表理事・院長等の医師が辞任するものとされなかったこと、BCMが医療法7条6項の趣旨に反する運営を行おうとしているとの具体的な事情が証拠上見いだせなかったことなど、本件の個別の事情を踏まえて判断しています。株式会社の業務内容や運営への関与の態様、剰余金に相当する利益を株式会社に移転させる取引の有無などの事情が異なれば、別の判断となる可能性があります。

本判決は、運営権取得契約の締結後に実際にどのような運営がされたか、その運営が医療法に適合していたかを判断したものではありません。仲介者の情報提供義務についても、スキームが違法でないことを前提に付随義務違反を否定したもので、適法性に議論の余地がある取引について仲介者がどこまで説明すべきかという一般的な基準を示したものではありません。仲介会社MSCが主張した49例の実績についても、裁判所は判断を示していません。

さらに、第一審の判決本文は入手できておらず、第一審の判断の具体的な内容は確認できていません。控訴審判決に対する上告等の有無及び確定も確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

病院や診療所を開設する法人の承継を検討する依頼者の側では、承継の方法(出資持分の譲渡、事業譲渡、役員・評議員の入替え等)ごとに、開設者が変わるか、開設許可や届出の手続が必要か、承継後の運営にどのような制約があるかを、契約の締結前に確認しておくことが重要です。承継の相手方が営利法人である場合には、相手方の業務内容と、承継後に誰がどのように運営に関与するかを具体的に確認し、役員の構成や運営方針についての取決めを契約に盛り込むことが考えられます。仲介者の側では、立案したスキームの法的な位置付けと、承継後に生じ得る行政上の監督の可能性について、依頼者への説明の内容を記録に残しておくことが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例や説明の方法の当否を判断したものではありません。

よくあるご質問

株式会社が一般財団法人の評議員や役員を入れ替えて病院の運営に関与することは、医療法違反になりますか。

本判決は、開設者である一般財団法人の法人格は変わらず、一般財団法人は非営利法人であるから、評議員と役員の入替えを内容とする契約が直ちに医療法7条1項・6項に違反するとはいえないと判断しました。ただし、その後の運営によって医療法7条6項の趣旨に反する事態が生じれば、改善命令等の監督処分の対象となり得るとしています。個別の事情によって結論が異なり得る点にご注意ください。

仲介で成立した取引に問題があると感じた場合、仲介会社に報酬の返還や損害賠償を求められますか。

仲介会社の責任を問うには、仲介契約の内容に照らして、仲介会社の業務に債務不履行があったことを示す必要があります。本判決では、成立した運営権取得契約が違法・無効とはいえないとされた結果、仲介会社と銀行がスキームを立案し相手方を選定したことは債務の本旨に従った履行とされ、請求はすべて棄却されました。

M&A仲介会社が契約書の草案を作成することは、弁護士法に違反しますか。

本判決は、本件の仲介契約について、代理の定めはなく、契約書等の草案の作成はそれ自体が法律上の効果を発生させ又は変更する事項の処理とはいえないとし、本件での草案の作成がその内容や作成経過に照らして弁護士法72条に違反すると認めるに足りる証拠もないとしました。業務の内容や関与の仕方によっては別の検討が必要であり、本判決は仲介会社の業務一般が適法であると判断したものではありません。

控訴審で初めて主張を追加することはできますか。

本判決では、仲介者側が時機に後れた攻撃防御方法として却下を求めましたが、控訴審は、追加された主張が訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないとして却下せず、内容を判断しました。もっとも、却下されるかどうかは事案ごとの判断であり、主張は早い段階で整理して提出することが望ましいといえます。

第一審の判決についての付記

本記事は、控訴審である大阪高等裁判所令和3年1月22日判決の判決本文に基づいて作成しています。第一審の判決本文は現時点で入手できていないため、第一審の判断は、控訴審の判決本文から分かる範囲で記載しました。第一審の判決本文を入手した後に、第一審の裁判所、裁判日、事件番号、認定事実及び判断の内容を確認し、本記事に加筆します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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