合弁契約の経営主体変更による解除と株式買取請求の効力―東京地方裁判所令和3年10月20日判決

合弁会社の株式を持ち合っていた事業会社の一方が、相手方に対し、合弁契約に定められた株式の買取請求権を行使したとして、株式の売買代金の支払を求めた場面の判例です。東京地方裁判所令和3年10月20日判決は、株主提案による取締役の大幅な交代が合弁契約の解除事由である「実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されるとき」に当たるとして、相手方による先行の解除を有効と認め、さらに、合弁契約上の株式買取請求・売渡請求は、それだけで売買契約を成立させるものではないと判断して、株式を保有する側の請求をすべて棄却しました。
本判決では、合弁会社が別の会社に吸収合併された後も合弁契約が続くか、経営陣の交代が解除事由に当たるか、契約上の買取請求・売渡請求にどのような効力があるか、相手方の売渡請求に後から応じれば売買が成立するか、という点が順に判断されています。本記事では、判決本文に基づいて、合弁の解消をめぐる各請求がどのような理由で退けられたのかを整理し、合弁契約の解消条項を定め、又は行使する際に参考となる点を解説します。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第16部 |
|---|---|
| 裁判日 | 令和3年10月20日 |
| 事件番号 | 令和2年(ワ)第13175号 |
| 事件の種類 | 株式売買代金請求事件 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 原告(株式を保有する合弁当事者)の第1次請求から第4次請求までをいずれも棄却。訴訟費用は原告の負担 |
| 上訴の状況 | 上訴の有無及び確定は確認できていません |
この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。同じ事件の控訴審等の判決本文は確認できていません。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 医療画像システム会社KGS(以下「KGS」) | 原告。コンピューター及び画像処理に関わるハードウェア・ソフトウェアの開発・販売等を目的とする上場会社です。医療施設を顧客として画像データ等を管理する情報システムを提供する事業を主に営んでいると主張していました。合弁会社の株式を保有し、その売買代金を請求した側です |
| 予約サイト運営会社PRN(以下「PRN」) | 被告。電気通信事業等を目的とする株式会社で、上場会社の子会社です。予約・送客サイトの運営事業のノウハウを持ち寄る立場で合弁に参加しました |
| PRNの親会社HKT(以下「HKT」) | PRNの親会社である上場会社。合併後の合弁会社の株主でもあります |
| 当初の合弁会社JVN(以下「JVN」) | 合弁契約に基づいてKGSが設立し、KGSとPRNが株式を保有した会社です |
| 合併後の合弁会社SNK(以下「SNK」) | JVNを吸収合併した会社です。KGSが保有するSNKの株式7,980株が、本件で売買の対象とされた株式です |
| 株主提案をした株主WTN氏(以下「WTN氏」) | KGSの株主。取締役の交代を内容とする株主提案をし、委任状の勧誘を行って可決させました |
| KGSの旧代表取締役OKB氏(以下「OKB氏」) | 合弁契約の締結当時からKGSの代表取締役であった人物です |
| KGSの新代表取締役NWR氏(以下「NWR氏」) | 株主提案の可決により取締役に選任され、KGSの代表取締役に就任した人物です |
| PRN側の取締役TKS氏(以下「TKS氏」) | PRNの代表者・取締役を務めた人物で、合弁の協議当初から関与し、SNKの取締役にも就任しました |
| SNKの代表取締役HYS氏(以下「HYS氏」) | PRNの指名によりSNKの代表取締役に就任した人物です |
| 投資会社FHS | 株式を買い増してKGSの筆頭株主となり、WTN氏の株主提案に賛同した会社です |
判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。主文の引用では、「原告」はKGS、「被告」はPRNを指します。判決本文の数字は全角の算用数字で記載されているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。
事案の概要―経営陣の交代をきっかけに、合弁の解消をめぐって争いになった
医療施設の予約・送客サイトを運営する合弁事業
判決が認定した事実によれば、KGSとPRN及びHKTは、平成27年9月頃から業務提携の協議を行い、平成28年5月頃、自由診療を行う医療施設への予約・送客サイトを運営する合弁事業を行うことを合意しました。この合弁事業は、当初の数年は赤字を前提とし、必要に応じて随時資金を注入するものとされていました。
平成28年8月頃にPRNが契約書のドラフトを示し、双方で修正を検討したうえで、平成28年10月24日、KGSとPRNは、合弁会社の設立等を定める合弁契約(判決本文は「本件合弁契約」と呼んでいます)を締結しました。KGSは同年11月1日にJVNを設立してその株式2万400株を取得し、PRNは同月18日までに第三者割当てによりJVNの株式1万9,600株を引き受けました。判決は、合弁会社での議決権割合をKGS側51パーセント、PRN側49パーセントとし、双方が指名する役員の数を同数とするなど、両社がおおむね対等の関係に立つ内容であったと認定しています。
合弁会社JVNの吸収合併と、合併後の株式の保有
平成30年5月7日、SNKとJVNは、SNKがJVNを吸収合併する合併契約を締結し、同月30日に合併の効力が生じました。これに先立つ同年4月25日、KGSは、合弁事業のパートナーであるPRN及びHKTと協議した結果、両社を合併して事業の加速と規模の拡大を目指すことで合意に至った旨、今後も強固なパートナーシップをもって合弁事業を拡大していく旨を適時開示していました。
合併により、JVNの株式1株につきSNKの株式0.2株が交付され、KGSは4,080株、PRNは3,920株のSNKの株式を保有することになりました。さらにKGSは、平成30年5月31日、SNKの第三者割当てを受けて1億9,500万円を払い込み、3,900株を引き受けました。KGSが保有することになった合計7,980株が、本件で売買の対象とされた株式です(判決本文は「本件株式」と呼んでいます)。
合併後のSNKの株主は、KGS(7,980株)、HKT(4,000株)、PRN(3,920株)のほか、合弁当事者と関係のない第三者株主2社(合計4,200株)で、KGSとPRN・HKTの議決権比率は133対132となりました。SNKの役員には、双方が半数ずつ指名した者が就任しました。
株主提案によるKGSの取締役の交代
平成30年10月9日、KGSの株主であるWTN氏が、定款の一部変更と、当時の代表取締役OKB氏以外の取締役の交代を内容とする株主提案をしました。判決は、WTN氏がこの提案をするまでKGSの経営に特段の影響を与えていなかったと認定しています。WTN氏は、ウェブサイトで賛同する株主を募るなどして、同年11月9日までに、当時の筆頭株主であった投資会社FHSを含め、賛同株主の株式等保有割合を40.60パーセントとしました。
KGSの取締役会は平成30年11月20日にこの提案への反対を表明し、当時の経営陣は取締役全員を再任する議案を提出しましたが、WTN氏は委任状の勧誘を行いました。同年12月26日の株主総会では、経営陣の議案はOKB氏の選任を除いて否決され、WTN氏の提案が可決されました。これにより、OKB氏以外の取締役3名が退任し、新たに取締役5名と取締役・監査等委員1名が選任され、代表取締役はOKB氏からNWR氏に交代しました。OKB氏も平成31年1月25日に取締役を辞任しています。
PRNによる解除と売渡請求、その後の交渉
KGSの株主総会と同じ平成30年12月26日、PRNは、合弁契約20条1項8号の事由が生じたとして合弁契約を解除し(判決本文は「被告解除」と呼んでいます)、同条2項に基づいて本件株式の売渡しを求める(同じく「被告売渡請求」)通知書を送付しました。あわせて、KGSが平成31年1月1日に本件株式7,980株をPRNに譲渡し、譲渡金額は1株当たり2万4,726円、総額1億9,731万6,000円として同月31日までに支払う旨などを記載した株式譲渡契約書を送付し、記名押印のうえ同月10日までに返送するよう求めました。この譲渡金額は、SNKの平成30年10月度の月次貸借対照表の純資産合計4億9,700万1,389円を前提に、1株当たりの純資産額を算出したものでした。
これに対しKGSは、平成31年1月9日付けの書面で、事業はこれまでどおり進める予定であり協業関係を維持したい旨、解除事由に該当すると判断した理由を教示されたい旨などを伝え、さらに同年2月6日付けの書面で、合弁契約20条2項の「合弁会社の株式」とはJVNの株式であり、JVNの株式は吸収合併で消滅しているから売渡請求に応じることは不可能である旨を伝えました。
その後、双方の代理人弁護士の間で交渉が続きました。平成31年3月20日の協議で、PRN側は、SNKの純資産は今後減少の一途をたどる予想であり、これに伴って本件株式の買取金額も下落し、平成31年4月には1億円を下回るとする試算表を示しました。同年4月2日付けの書面に添付された修正後の試算表では、買取価格は平成31年4月時点で8,642万9,941円とされ、その後も下落するとされていました。令和元年5月22日にも、PRN側は、時間が経過して純資産が目減りすれば提案できる買取金額も減額することになる旨をメールで伝えています。
合併後の合弁会社の役員選任をめぐる対立と、KGSによる解除・買取請求
令和元年7月31日のSNKの株主総会では、PRNが指名する取締役3名の選任議案が可決され、KGSが指名するNWR氏ら3名の選任議案は、PRNの反対により否決されました。
令和元年12月27日、NWR氏は、PRN側の取締役TKS氏に対し、「単刀直入に申し上げますと当社が保有している〔SNK〕の株式を2億円で買い上げて頂くことが第一希望となります。」(判決本文のメールの引用。会社の呼称は本記事の表記に置き換えています)などと記載し、これが難しい場合はPRN側が保有する株式をKGSに譲渡してもらうことを検討したいとするメールを送りました。
KGSは、令和2年3月3日付けの内容証明郵便で、PRNがSNKの株主総会でKGSの指名する取締役候補の選任に反対したことが合弁契約10条1項及び4項に違反するとして是正を求めました。そして、同年4月4日付けの書面(同月6日到達)で、期間内に是正がなかったとして、合弁契約20条1項1号に基づいて合弁契約を解除し(判決本文は「原告解除」と呼んでいます)、同条2項に基づいて本件株式の買取りを求めました(同じく「原告買取請求」)。この書面では、譲渡価額は「直近のファイナンス」(同条3項2号)に基づき1株当たり5万円とされていました。
KGSは令和2年5月28日に本件訴えを提起し、同日付けの連絡書(同年6月2日到達)で、PRNが平成30年12月26日付けで売渡請求をしているから売買契約の成立に争いはないとして、本件株式をPRNに譲渡する旨を伝えました。
事案の経緯の時系列
| 日付 | 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による) |
|---|---|
| 平成27年9月頃 | KGSとPRN及びHKTが業務提携の協議を開始 |
| 平成28年5月頃 | 医療施設への予約・送客サイトを運営する合弁事業を行うことを合意 |
| 平成28年10月24日 | KGSとPRNが合弁契約を締結 |
| 平成28年11月 | KGSがJVNを設立し2万400株を取得。PRNが1万9,600株を引受け |
| 平成30年4月25日 | KGSが、合併後も合弁事業を継続・拡大する旨を適時開示 |
| 平成30年5月7日 | SNKとJVNが吸収合併契約を締結 |
| 平成30年5月30日・31日 | 合併の効力発生。KGSが4,080株、PRNが3,920株を取得。翌日、KGSが第三者割当てで3,900株を引受け(合計7,980株) |
| 平成30年10月9日 | WTN氏がKGSに取締役の交代等の株主提案 |
| 平成30年11月20日 | KGSの取締役会が株主提案への反対を表明 |
| 平成30年12月5日 | KGSが株主総会招集通知を送付。WTN氏が委任状の勧誘通知を発出 |
| 平成30年12月26日 | KGSの株主総会でWTN氏の提案が可決され、代表取締役がNWR氏に交代。同日、PRNが合弁契約の解除と売渡請求を通知し、株式譲渡契約書(総額1億9,731万6,000円)を送付 |
| 平成31年1月9日 | KGSが協業関係の維持を希望し、解除事由の理由の教示を求める書面を送付 |
| 平成31年1月25日 | OKB氏がKGSの取締役を辞任 |
| 平成31年2月6日 | KGSが、JVNの株式は合併で消滅しているから売渡請求に応じられない旨の書面を送付 |
| 平成31年3月20日 | 代理人間の協議。PRN側が純資産の減少と買取金額の下落を予想する試算表を交付 |
| 平成31年4月2日 | PRN側が書面を送付。添付の試算表で同月時点の買取価格を8,642万9,941円とする |
| 令和元年5月22日 | PRN側が、純資産が目減りすれば買取金額も減額する旨をメール |
| 令和元年7月31日 | SNKの株主総会で、PRN指名の取締役選任議案が可決、KGS指名の取締役選任議案が否決 |
| 令和元年9月から10月 | 代理人間のメールのやり取り。PRN側が、KGSによる株式の買取りやSNKの解散も選択肢として解決方法を尋ねる |
| 令和元年12月27日 | NWR氏がTKS氏に、本件株式を2億円で買い取ってもらうことが第一希望とするメール |
| 令和2年3月3日(翌日到達) | KGSが、取締役選任議案への反対が合弁契約10条違反であるとして是正を求める |
| 令和2年4月4日(6日到達) | KGSが合弁契約を解除し、1株5万円で本件株式の買取りを請求 |
| 令和2年5月28日 | KGSが提訴。同日付けで、売買契約の成立に争いはないとして株式を譲渡する旨の連絡書を送付(6月2日到達) |
| 令和3年10月20日 | 東京地方裁判所がKGSの請求をいずれも棄却する判決 |
PRNの解除と売渡請求は、KGSの株主総会の当日に行われています。KGSによる解除と買取請求は、それから1年3か月余り後です。この順序が、後に見るとおり結論に大きく影響しました。
判断の前提となった合弁契約の条項
合弁契約書の全文は判決本文の別紙とされ、判決本文では省略されています。以下は、判決本文の中に現れた条項の文言又は内容です。判決本文が条項の文言を直接引用している部分は四角の囲みで示し、判決本文が内容を説明しているにとどまる部分は、その旨を記載しています。
20条1項8号―実質的な経営主体の変更による解除
実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されるとき。
判決本文の説明によれば、この号は、文言上、上位株主の構成の大幅な変更、取締役会における取締役の構成の変更による実質的経営主体の変更等を例示列挙したうえで、実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されることを解除事由としています。同じ項の6号は合弁契約の円滑な遂行に支障があると判断されること、9号は合弁契約の誠実な遂行に支障があると判断されることを解除事由としていると判決は説明しています。また、KGSは、契約違反の是正を求めたのに期間内に是正されなかったとして、同項1号の事由が生じたと主張して解除をしましたが、同号の文言は判決本文に記載されていません。
20条2項―株式の買取請求・売渡請求と合弁会社の解散請求
判決本文に記載されたKGSの主張では、20条2項の文言は次のとおりとされています(判決本文の引用のまま。中略の記号も判決本文のとおりです)。
被違反当事者が保有する合弁会社の株式を違反当事者が買い取ることを請求・・・することができる
違反当事者が保有する合弁会社の株式を被違反当事者に対して売り渡すことを請求・・・することができる
判決の説明によれば、同項は、被違反当事者が採り得る選択肢として、株式の買取請求・売渡請求(判決本文は両者をまとめて「株式買取等請求」と呼んでいます)のほか、合弁会社の解散請求も定めています。また、判決は、同項が、株式の売渡請求の際の譲渡金額について、「直近のファイナンスにおける1株当たりの金額」や「直近の1株当たり純資産額」等を比較検討して最も低い金額とする旨を定めていると述べています。他方、KGSは、自らの買取請求の譲渡価額を「直近のファイナンス」(同条3項2号)に基づき1株5万円としており、KGSの主張では、同条3項が株式買取等請求による譲渡価額を一義的に算出する旨を定めているとされています。譲渡価額の算定方法の全体は、判決本文からは分かりません。
20条4項―株式譲渡契約の締結に向けた措置の義務
違反当事者は、書面の発送日の翌日より1ヶ月以内に、株式譲渡契約(なお、株式の譲渡日および譲渡代金の支払期日は、株式譲渡契約締結日から1ヶ月以内に設定するものとする。)の締結・・・が行われるよう必要な措置をとらなければならない。
中略の部分には、PRNの主張によれば、合弁会社の解散決議に関する定めが含まれています。判決本文は、この項を別の箇所で引用する際には括弧内の末尾を「設定されるものとする」と記載しており、表記にわずかな違いがありますが、上記は判決本文が条項の規定として最初に引用した文言によっています。
19条5項―解散をめぐる対立時の株式買取請求(対比のために判決が引用した条項)
当該請求が行われた場合は、請求後1ヵ月以内に、反対当事者から存続希望当事者への合弁会社の株式等の譲渡を実施するものとする。
判決の説明によれば、この項は、合弁会社の解散をめぐって当事者の意見が対立したときに、一方当事者が反対当事者に対して行う株式買取請求についての定めです。判決は、20条4項と対比するためにこの項を取り上げています。
その他の条項
KGSは、PRNが合併後の合弁会社の株主総会でKGSの指名する取締役候補の選任に反対したことが10条1項及び4項に違反すると主張しましたが、これらの条項の文言は判決本文に記載されていません。また、判決は、合併後に双方が合弁契約14条2項の定めを遵守する行動を取っていたとし、その根拠として、合弁会社の月次決算等の主要な情報が取締役会やメール等で全役員に共有され、各当事者に伝達されていたことを認定しています。14条2項の文言も判決本文には記載されていません。
原告の請求と当事者の主な主張
KGSの4段階の請求
KGSは、本件株式についてPRNとの間で売買契約が成立したとして、次の4つの請求を順位を付けて行いました。
| 請求 | 売買契約が成立したとする根拠 | 請求の内容 |
|---|---|---|
| 第1次請求 | KGSの買取請求(令和2年4月6日到達)により、PRNの承諾を要することなく売買契約が成立した | 3億9,900万円(1株5万円×7,980株)及び令和2年4月7日から年3分の遅延損害金 |
| 第2次請求 | 買取請求による売買契約の成立にPRNの承諾が必要であるとしても、PRNは合弁契約に基づいて承諾する義務を負う | 売買契約締結の意思表示(承諾)と、3億9,900万円及び令和2年6月7日から年3分の遅延損害金 |
| 第3次請求 | PRNが先に行った売渡請求(平成30年12月26日)により売買契約が成立した | 1億9,731万6,000円及び平成30年12月26日から年6分の遅延損害金 |
| 第4次請求 | PRNの売渡請求による売買契約の成立にKGSの承諾が必要であるとしても、KGSが令和元年12月27日に承諾した | 1億9,731万6,000円及び令和元年12月28日から年3分の遅延損害金 |
第3次請求の遅延損害金の割合は、平成29年法律第45号による削除前の商法514条所定の年6分とされています。商事法定利率を定めていた同条は、民法の一部改正(令和2年4月1日施行)に伴って削除されており、第3次請求は改正前の規定を前提とするものです。現在の法令では、法定利率は民法の規定(同日以降は年3分)によります。第1次・第2次請求の年3分は、判決本文では民法所定の割合とされています。
KGS自身の買取請求による第1次・第2次請求は1株5万円で計算した3億9,900万円、PRNの売渡請求による第3次・第4次請求はPRNが提示した1億9,731万6,000円です。KGSは、自らの解除・買取請求が認められない場合に備えて、PRNが先に行った売渡請求の金額で売買が成立したという構成を予備的に用いたことになります。なお、判決本文の中には、PRNが提示した金額を「1億9371万6000円」、1株当たりの金額を「2万4276円」と記載する箇所もありますが、前提事実、請求の趣旨及び判決の結論部分では1億9,731万6,000円(1株当たり2万4,726円)とされているため、本記事ではこちらの金額で記載しています。
争点ごとの主張
| 争点 | KGSの主張 | PRNの主張 |
|---|---|---|
| 合併後も合弁契約が続くか | 平成30年4月25日頃、合併後もSNKを合弁会社として合弁契約を継続する合意をした。適時開示、議決権比率の調整、役員の選任、財務情報の提出、その後の交渉の経緯から明らかである。平成31年2月6日付けの書面は、事情を知る取締役が不在になったために継続合意を知らずに書いたものにすぎない | 合弁契約はJVNによる合弁事業を前提としており、効力をSNKに引き継ぐ条項はない。KGS自身が継続合意のないことを前提とする書面を送っている。SNKには第三者株主が20.9パーセントおり、JVNとは状況が異なる |
| PRNの解除は有効か | 20条1項8号に当たるには、信頼関係を喪失させ、合弁の解消が認められる程度に相手方にとって許容し難い者が現れたことが必要である。新しい大株主や役員は競業者ではなく、顧客基盤は健在で、合弁会社を支援する経営計画も変えておらず、財務基盤は強化されたから、同号に当たらない | 代表取締役以外の役員が交代しており、同号に当たる。仮に信頼関係の破壊が必要としても、新旧経営陣の激しい対立の末の交代であり、旧経営陣への信頼を新経営陣に引き継ぐことはできない。解除で合弁契約は終了したから、KGSの後の解除・買取請求は根拠を欠く |
| 20条2項の請求の法的性質 | 文言が会社法の株式買取請求等の規定と一致し、譲渡価額も一義的に算出される。デッドロックを避けて速やかに合弁を解消するという条項の趣旨からも、請求だけで相手方の承諾なく売買契約が成立する。4項は譲渡日・支払期日を最大2か月後にできると定めたにすぎない | 請求だけで売買契約は成立せず、請求を受けて売買契約を締結して初めて権利義務が生じる。4項は契約締結等のための措置を義務付けるにとどまり、解散の選択肢や期日の裁量もある。PRN自身も契約書案を送付している |
| PRNの売渡請求に後から応じて売買が成立したか | PRNの売渡請求は売買の申込みであり、平成31年4月2日にも改めて同額での売渡しを求めた。令和元年12月27日のメールで承諾し、遅くとも令和2年6月2日到達の連絡書で承諾した | 契約書案には押印がなく申込みではない。KGSは平成31年1月と2月に明確に拒絶した。交渉の打切りで申込みは効力を失った。申込みは当時の純資産を基にしたもので、2億円での売渡しや逆の買取りも提案したメールは承諾ではなく新たな申込みである |
| 代金請求が信義に反するか | 争う | KGSが売渡請求を拒んで株主であることに固執した結果、合弁会社の価値が毀損し純資産が大幅に減った。売渡請求時の価格で代金を求めることは信義に反する |
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
結論を左右した争点
判決は争点を5つに整理しましたが、結論を左右したのは次の3点です。
- KGSの取締役の交代が、合弁契約20条1項8号の「実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されるとき」に当たり、PRNの解除が有効か(第1次請求・第2次請求)。
- 合弁契約20条2項の株式買取等請求は、相手方の承諾なしに売買契約を成立させるものか(第3次請求)。
- PRNの売渡請求に示された金額での売買契約が、KGSの後の意思表示によって成立したか(第4次請求)。
第1の争点の前提として、合併後も合弁契約が続くかという争点がありましたが、判決はこの点ではKGSの主張を認めています。他方、第5の争点(代金請求が信義に反するか)については、各請求がそれぞれ別の理由で理由がないとされたため、判決本文には判断が示されていません。
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
合併後も合弁契約は継続する―KGSの主張を採用
判決は、まず、合併の後も合弁契約が続くかを検討しました。判決は、次の事情を挙げています。
- KGSが、合併契約の締結に先立ち、合併後はSNKで合弁事業を継続・拡大することを当事者間で合意した旨を適時開示したこと
- SNKが、合併の効力発生日に既存の役員を退任させ、合弁契約における役員の指名と同様に、双方が半数ずつ指名した者をおおむね取締役等に選任したこと
- HKTが合併前からSNKの株式4,000株を保有していたことを踏まえ、KGSが3,900株を引き受け、KGS側とPRN側の議決権比率が、JVNでの比率と同様に、僅差でKGS側が多い割合となったこと
- 合併後、双方が、SNKが合弁会社であることを前提として合弁契約14条2項を遵守する行動を取っていたこと
- PRN自身が、解除の際にSNKを合弁会社としてその株式の売渡しを求め、提訴に至るまで一貫してSNKが合弁会社であることを前提とするやり取りをしていたこと
判決は、これらに照らして、次のとおり判断しました。
「〔KGS〕と〔PRN〕が平成30年4月25日頃までに本件吸収合併の効力発生の日の後も〔SNK〕を合弁会社として本件合弁契約を継続する旨の合意(本件継続合意)をしたと認めるのが相当である。」
PRNが指摘したKGSの平成31年2月6日付けの書面については、取締役の交代直後に、合併前後の状況を十分に把握していない新経営陣によって作成されたものにすぎず、判断を左右しないとされました。また、SNKに第三者株主がいることについても、合弁契約が主要な部分で第三者株主の不存在を前提としているとまでは認められず、第三者株主の存在が合弁契約の目的達成を阻害するとも認められないとして、継続合意を否定するものではないとされました。
合弁契約は文言に忠実に解釈する
経営主体の変更による解除について、判決は、解釈の姿勢を次のように示しました。合弁契約書は、上場会社であるKGSと上場会社の子会社であるPRNが相当の期間をかけて作成し、条項は28条に及ぶものであるとして、次のように述べています。
「本件合弁契約の解釈は、本件契約書の文言に忠実に行うのが相当である」
この姿勢は、20条1項8号の解釈だけでなく、20条2項・4項の解釈でも繰り返し用いられています。
経営主体の連続性を実質的に欠けば解除事由に当たる
判決は、20条1項8号が、6号(円滑な遂行への支障)や9号(誠実な遂行への支障)と異なり、実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されることだけを解除事由としていること、まして、変更後の経営主体が相手方にとって許し難い者であることを要件としていないことを指摘しました。
さらに判決は、合弁契約の目的が、両社の出資と業務提携により、自由診療を行う医療施設への予約・送客サイト事業で業界の圧倒的首位を目指すことにあること、両社がおおむね対等の関係に立つこと、当初の数年は赤字を前提に資金注入が予定されていたことから、合弁契約は両社の高度な人的信頼関係が相当期間継続することを前提としたものであるとしました。そして、一方の当事者に実質的な経営主体の変更があったときは、相手方が有していた高度の人的信頼を維持することが困難であることも多いと考えられるとして、8号を文言に忠実に、実質的な経営主体の変更をもって直ちに解除し得る規定と解しても特段不合理とはいえないとしました。そのうえで、次の基準を示しています。
「一方当事者において、上記株主の大幅な変更や取締役会における取締役の構成の変更により、経営主体が本件合弁契約の締結時の経営主体との連続性を実質的に欠くに至ったときは、本件合弁契約20条1項8号の「実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されるとき」に当たるものと解するのが相当であり、これ以上に、同号の解除事由として、一方当事者の変更後の経営主体が、当事者間の信頼関係を喪失させ、合弁契約の解消が認められる程度に他方当事者にとって許し難い者であることを要するものではないというべきである。」
契約上の株式買取等請求は、それだけでは売買契約を成立させない
20条2項の請求の性質について、判決は、20条4項が、請求を受けた違反当事者に、所定の期間内に株式譲渡契約が締結されるよう必要な措置をとる義務を課していることに着目しました。この義務は、請求だけで直ちに売買契約が成立するのであれば発生し得ないものであるとしました。また、4項の文言によれば株式の譲渡日は株式譲渡契約で定められることになり、請求の日から1か月以内に譲渡を実施すると定める19条5項と対比しても、20条2項の請求だけでは譲渡日(株式の所有権移転の効力発生日)が定まらないことを前提としていると判断しました。
さらに、20条2項が株式買取等請求と並べて合弁会社の解散請求を定めており、解散請求だけでは合弁会社が解散する効果は生じないことからも、株式買取等請求だけで直ちに売買契約が成立すると解することが当然に当事者の合理的意思に沿うといえるか疑問の余地があるとしました。PRN自身が契約書案を送付していたこと、SNKが売渡請求後もKGSを株主として株主総会の招集通知を送付していたことも踏まえて、判決は次のとおり結論付けました。
「同項が、株式買取等請求により直ちに売買契約又はそれと類似する契約が成立することを定めたものとは認められない。」
KGSは、会社法上の株式買取請求が、その行使によって相手方の承諾なく売買契約が成立したのと同様の法律関係を生じさせるとされていること(判決本文は最高裁判所昭和48年3月1日第一小法廷決定を参照として掲げています)と文言が一致すると主張していましたが、判決は、合弁契約の各条項の文言と構造から、この主張を採用しませんでした。
各主張を採用し又は排斥した理由
第1次・第2次請求―PRNの解除が先に有効となっていたため、KGSの解除と買取請求は根拠を欠く
判決は、KGSの株主総会で、代表取締役OKB氏は重任されたものの、ほかの取締役3名が退任し、取締役5名と取締役・監査等委員1名が新たに選任され、代表取締役もNWR氏に交代したことから、取締役会の構成に変更があったと認めました。そのうえで、次の事情を挙げています。
- 提案をしたWTN氏は、提案までKGSの経営に特段の影響を与えていなかったこと
- WTN氏が、業績不振の原因は当時の経営陣にあるとし、抜本的な経営改善を実現するためなどと提案の理由を述べていたこと
- 旧経営陣が株主提案に反対し、取締役全員を再任する議案を提出し、株主総会までその議案を維持していたこと
- WTN氏が、委任状の勧誘通知を発送するなどして委任状の争奪に奔走したこと
判決は、これらの事実に照らして、次のように判断しました。
「〔KGS〕の新経営陣は、本件合弁契約締結時の〔KGS〕の経営陣との連続性を実質的に欠くものと認められるから、〔KGS〕の旧経営陣から新経営陣への交代は、本件合弁契約20条1項8号に該当するものということができ、同号に基づく被告解除は有効である。」
KGSが挙げた、新しい大株主や役員が競業者ではないこと、顧客基盤が健在であること、合弁会社を支援する経営計画を変えていないこと、財務基盤が強化されたことについては、判決は、要するに経営陣の交代後も顧客基盤、財政基盤及び事業方針に影響や変更がないことを指摘するにとどまり、判断を左右しないとしました。
PRNの解除が平成30年12月26日に有効に行われた以上、合弁契約はその時点で終了しています。判決は、これに後れる令和2年4月のKGSの解除及び買取請求は根拠を欠くとして、第1次請求と第2次請求を退けました。KGSが主張したPRNの合弁契約10条違反の有無や、KGSの解除事由の存否については、判決は判断を示していません。
第3次請求―PRNの売渡請求だけでは売買契約は成立していない
KGSは、PRNの売渡請求によって、譲渡価額を1億9,731万6,000円とする売買契約が成立したと主張しました。判決は、前記のとおり、20条2項の株式買取等請求は、それだけで売買契約又はそれと類似する契約を成立させるものではないと判断し、第3次請求を退けました。
ここで注目されるのは、KGSが、第1次・第2次請求では自らの買取請求について、第3次請求ではPRNの売渡請求について、いずれも請求だけで売買契約が成立するという同じ解釈を主張していた点です。判決がこの解釈を採らなかったことで、KGSは、自らの買取請求についても、PRNの売渡請求についても、請求だけで売買が成立したとの構成をとれなくなりました(第1次請求は、これとは別に、PRNの解除が先に有効となっていたことを理由に退けられています)。
第4次請求―申込みは効力を失っており、KGSのメールや連絡書も承諾ではない
KGSは、PRNの売渡請求を売買の申込みとみて、令和元年12月27日のメール、又は令和2年6月2日到達の連絡書でこれを承諾したと主張しました。判決は、次の理由でこれを退けました。
第1に、申込みの趣旨と効力です。判決は、PRNの売渡請求が、その時点の直近の1株当たり純資産額を基に譲渡金額を算出し、譲渡日を平成31年1月1日、支払期日を同月31日として売買契約の締結を求めたものであるから、支払期日までに売買契約が成立しなかったときにもなお同額での売渡しを求める趣旨まで含むものとは解し難いとしました。20条2項が譲渡金額を直近の数値に基づいて定めており、時間が経てば金額も変化すること、20条4項が1か月以内の契約締結を予定していることも、その理由とされています。
さらに判決は、PRNが、平成31年3月20日の協議で純資産の減少に伴って買取価格も下落する旨を伝えており、KGSもそのことを認識したといえること、同年4月2日付けの書面には同額での売渡しを求める記載はなく、むしろ添付の表で同月時点の譲渡金額を8,642万9,941円としていたこと、令和元年5月22日にも純資産の減少に応じて買取金額も減る旨を伝えていたことを指摘しました。そして、KGSが承諾したと主張する令和元年12月27日の時点では、1億9,731万6,000円で買い取る旨の申込みは「効力を失っていたものと認めるのが相当である(商法508条1項参照)。」と判断しました。
第2に、承諾に当たるかです。判決は、これを措くとしても、令和元年12月27日のメールは、第一希望として売渡請求の金額を上回る2億円での売渡しを求め、これが難しければKGSがPRNの株式を買い取ることも提案するものであって、売渡請求に係る申込みを承諾する意思表示とは認められないとしました。KGSが令和2年3月3日付けの内容証明郵便で、PRNの売渡請求は理由がないと考えている旨を記載していたことや、メールの後に双方が売買契約の成立を前提とする行動を取っていないことも、その裏付けとされています。
令和2年6月2日到達の連絡書についても、売買契約の成立に争いがない旨が記載されているにとどまり、譲渡金額の記載がないことから、承諾の意思表示とは認められないとされました。
代金請求が信義に反するかの争点
PRNは、KGSが売渡請求を拒んだ結果、SNKの純資産が大幅に減少したのであるから、売渡請求時の価格で代金を求めることは信義に反すると主張していました。判決は、第3次請求及び第4次請求を前記の理由で退けたため、この点について判断を示していません。
主文及び結論
判決の主文は、次のとおりです(ここでの「原告」はKGSを指します)。
- 「原告の請求をいずれも棄却する。」
- 「訴訟費用は、原告の負担とする。」
KGSの4つの請求のうち、第1次・第2次請求(3億9,900万円)は、PRNによる先行の解除が有効であったことを理由に、第3次請求(1億9,731万6,000円)は、契約上の売渡請求だけでは売買契約が成立しないことを理由に、第4次請求(同額)は、申込みが効力を失っており、承諾の意思表示も認められないことを理由に、いずれも認められませんでした。
| 請求 | 請求額 | 判断 |
|---|---|---|
| 第1次請求 | 3億9,900万円 | 棄却。PRNの解除(平成30年12月26日)が有効で、これに後れるKGSの解除・買取請求は根拠を欠く |
| 第2次請求 | 承諾の意思表示及び3億9,900万円 | 棄却。理由は第1次請求と同じ |
| 第3次請求 | 1億9,731万6,000円 | 棄却。20条2項の売渡請求だけでは売買契約は成立しない |
| 第4次請求 | 1億9,731万6,000円 | 棄却。申込みは効力を失っており、メール・連絡書は承諾に当たらない |
判断の射程―参考となる点と一般化できない点
以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。
参考となる点
第1に、合弁契約の解除事由は、契約書の文言に忠実に解釈されることがあるという点です。本判決は、上場会社と上場会社の子会社が相当の期間をかけて作成した28条に及ぶ契約書であることを理由に、文言に忠実な解釈を採りました。解除には信頼関係の破壊が必要であるという主張は、ほかの号が「支障」を要件としているのに8号は要件としていないという条項の書き分けを根拠に退けられています。解除事由を定める際には、どの号にどの程度の要件を課すのかを意識して書き分けることが、後の紛争で大きな意味を持ちます。
第2に、株主提案による取締役の大幅な交代が、合弁契約上の「実質的な経営主体の変更」に当たると判断された例であるという点です。本判決は、代表取締役が交代し、取締役会の構成が変わったことに加え、提案株主がそれまで経営に影響を与えていなかったこと、旧経営陣と提案株主が委任状を争って対立したことを考慮して、経営主体の連続性を実質的に欠くと判断しました。顧客基盤や事業方針に変更がないことは、判断を左右しないとされています。合弁当事者の一方にいわゆる委任状争奪による経営陣の交代が生じた場合、相手方がこの種の条項によって合弁を解消できる可能性があることを示す例といえます。
第3に、合弁契約上の株式の買取請求・売渡請求が、会社法上の株式買取請求と同じような形成権として当然に扱われるわけではないという点です。本判決は、請求を受けた側に株式譲渡契約の締結に向けた措置を義務付ける条項(20条4項)があること、譲渡日が株式譲渡契約で定まるとされていること、解散請求と並べて定められていることから、請求だけで売買契約は成立しないと判断しました。請求の意思表示だけで売買を成立させたい場合には、請求の到達により売買契約が成立すること、譲渡日、代金額の算定基準日、支払期日を条項に明記しておく必要があります。逆に、請求を受けた側に交渉の余地を残す設計であれば、その旨を明確にしておくことが考えられます。
第4に、解除と買取請求・売渡請求の先後が、結論を大きく左右したという点です。本件では、PRNが経営陣の交代の当日に解除と売渡請求を行い、KGSの解除と買取請求は1年3か月余り後でした。判決は、先に行われたPRNの解除が有効である以上、KGSの後の解除・買取請求は根拠を欠くとしています。他方で、PRNの売渡請求も、それだけでは売買契約を成立させず、売買の成立には改めて契約の締結が必要とされました。解除の効力と株式の売買の成否が切り離されて判断されたことにより、合弁契約は終了したものの、株式は当事者間で売買されないまま残るという結果になっています。
第5に、売渡請求に示された価格には、時間の経過による限界があるという点です。本判決は、直近の純資産額を基に算出され、1か月程度での契約締結を前提とした価格は、その期間内に契約が成立しなかった場合にまで同額での売渡しを求める趣旨を含まないと判断しました。価格の提示を受けた側が、交渉を続けるうちに当初の価格での売買を主張しようとしても、相手方が価格の下落を繰り返し伝えていれば、申込みは効力を失ったとされる可能性があります。条件の良い提示を受けた場合には、提示の趣旨と期限を確認し、承諾するのであれば金額を明示して速やかに承諾の意思表示をすることが重要です。
一般化できない点
本判決は、本件の合弁契約の具体的な文言、特に20条1項の各号の書き分けと20条4項の定めを前提とした判断です。解除事由が「信頼関係を損なう」ことや「契約の遂行に支障がある」ことを要件とする条項であれば、経営陣の交代があっても解除が認められない場合があり得ます。また、株式買取等請求について、請求の到達により売買契約が成立すると明記した条項であれば、結論は異なり得ます。
経営主体の変更についても、判決は、提案株主がそれまで経営に影響を与えていなかったこと、旧経営陣が提案に反対し委任状の争奪があったことなど、本件の具体的な事実を挙げて判断しています。取締役の一部の交代や、経営陣と協調した株主による交代について、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。
判決は、KGSが主張したPRNの合弁契約10条違反の有無、KGSの解除事由の存否、譲渡価額の算定方法の当否、代金請求が信義に反するかについては判断を示していません。また、合弁契約が終了した後、当事者が保有する合併後の合弁会社の株式をどのように扱うべきかについても、判決は判断していません。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。
契約や交渉で確認しておきたいこと
合弁契約を作成する段階では、経営主体の変更による解除事由について、株主構成や取締役会の構成のどの程度の変化を対象とするか、信頼関係の破壊等の追加の要件を課すかを明確にしておくことが考えられます。株式の買取請求・売渡請求については、請求だけで売買が成立するのか、請求後に株式譲渡契約を締結するのか、価格の算定基準日をいつとするのか、相手方が契約締結に応じない場合にどうするのかを定めておくことが重要です。合弁会社が合併等で別の会社になる場合には、合弁契約をどの会社について継続するのかを書面で確認しておくことも、本件の経緯から重要といえます。
合弁の解消を求める側では、解除事由が生じたと考えたときに、解除と株式の買取請求・売渡請求のどちらを、いつ行うかを早期に検討する必要があります。相手方から売渡請求や価格の提示を受けた側では、その提示に応じるか、拒絶するかを明確にし、応じる場合は金額を明示した承諾の意思表示を記録に残すことが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。
よくあるご質問
合弁の相手方の経営陣が株主提案で交代した場合、合弁契約を解除できますか。
合弁契約の解除事由の定め方によります。本判決では、「実質的に経営主体に変更があると合理的に判断されるとき」という条項について、経営主体が契約締結時の経営主体との連続性を実質的に欠くに至ったときはこれに当たるとし、代表取締役の交代と取締役の大幅な入替えがあった事案で解除を有効と認めました。信頼関係の破壊までは必要ないとされています。
経営陣が交代しても事業方針や顧客基盤が変わらなければ、解除は認められないのではありませんか。
本判決では、そのような主張は採用されませんでした。判決は、顧客基盤、財政基盤及び事業方針に影響や変更がないという事情は、経営主体の連続性を実質的に欠くという判断を左右しないとしています。ただし、これは本件の条項の文言を前提とした判断です。
合弁契約に株式の買取請求権が定められていれば、請求するだけで売買が成立しますか。
条項の定め方によります。本判決では、請求を受けた側に株式譲渡契約の締結に向けた措置を義務付ける規定があることなどから、請求だけでは売買契約は成立せず、売買契約を締結して初めて権利義務が生じると判断されました。請求だけで売買を成立させたい場合は、その旨を条項に明記しておく必要があります。
相手方から株式の売渡請求を受けていた場合、後からその金額で売ることを承諾できますか。
提示の趣旨と時間の経過によります。本判決では、直近の純資産額を基にした価格で約1か月後の支払を予定した売渡請求について、その後に相手方が価格の下落を繰り返し伝えていたことなどから、約1年後の時点では申込みは効力を失っていたと判断されました。また、別の金額での売渡しや逆の買取りを提案するメールは、承諾には当たらないとされました。
合弁会社が別の会社に吸収合併された後も、合弁契約は続きますか。
当事者の合意によります。本判決では、合併後も合弁事業を継続・拡大する旨の適時開示、双方の指名による役員の選任、議決権比率の調整、合併後の情報共有などの事情から、合併後の会社を合弁会社として合弁契約を継続する合意があったと認められました。合併等の際には、合弁契約の継続を書面で確認しておくことが望ましいといえます。
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