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株式譲渡の条件とされた赤字補填の主張と寄託金の返還―東京地方裁判所令和4年2月22日判決

公開 2022年2月22日更新 2022年2月22日

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赤字続きの会社の全株式を無償で譲り受けて経営を引き継いだ人物が、その前後に旧オーナー側から受け取った4,500万円について、株式譲渡の条件とされた赤字補填の資金であり返す必要はないと主張した。このような場面で、資金を渡した側は返還を求めることができるのでしょうか。

東京地方裁判所令和4年2月22日判決は、医療法人社団の理事長である眼科医が、法人の事務局長であった人物に交付した5,000万円のうち未返還の4,500万円の返還を求めた事案で、株式譲渡を停止条件とする贈与や負担付贈与であったとの主張を退け、金銭の保管を目的とする消費寄託契約であったと認定しました。判決は、事務局長が当初から返還の意思を持たずに預かりを申し向けた詐欺に当たるとまで認めながら、訴状で寄託金の返還を請求したことが法定追認に当たるとして詐欺取消しを前提とする主位的請求は棄却し、消費寄託契約の終了に基づく予備的請求を認容して4,500万円の支払を命じました。

本記事では、株式の無償譲渡と赤字補填の条件という説明がなぜ採用されなかったのか、詐欺が認められたのに取消しが認められなかったのはなぜかを、判決本文に沿って整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―赤字補填の資金か、預けた金銭か
    1. 医療法人社団の経営権が外部の会社に譲渡された
    2. 赤字補填のために設立された対象会社DYK
    3. 保険契約を解約し、5,000万円を現金で交付した
    4. 返還を求めると「赤字補填の条件だった」との回答
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判決本文に現れた株式譲渡契約書と回答書
    1. 株式譲渡契約書―全株式の無償譲渡
    2. 令和元年10月21日付けの回答―累積赤字の補填が条件
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 理事長KMR氏の請求
    2. 理事長KMR氏の主張
    3. 元事務局長SKT氏の主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 重要な認定事実
    2. 判断の枠組み
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 理事長側に、4,500万円を出してまで株式を譲渡する差し迫った動機はなかった
    2. 株式譲渡契約書が交付と同じ時期に作成されたとは認められない
    3. 本件交付を主導したのは元事務局長SKT氏であった
    4. 贈与であれば書面があるはずなのに、契約書もなく現金で交付された
    5. 元事務局長SKT氏の側に動機があり、赤字補填は株式譲渡の必須条件ではなかった
    6. 詐欺―返還の意思は当初からなかった
    7. 法定追認―訴状での返還請求が取消権を失わせた
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  12. よくあるご質問
    1. 赤字会社の株式を無償で譲り受ける条件として旧オーナーが資金を出した、という主張は認められないのですか。
    2. 預けたお金を返してもらえない場合、詐欺による取消しと寄託金の返還請求のどちらを主張すべきですか。
    3. 契約書の日付欄を空欄のまま署名し、後から日付を記入すると、どのような問題がありますか。
    4. 受け取ったお金を会社の売上げに計上していれば、贈与を受けたことになりますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第7部
裁判日 令和4年2月22日
事件番号 令和元年(ワ)第34676号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(理事長)の主位的請求(詐欺取消しを前提とする不当利得返還請求)を棄却。予備的請求(消費寄託契約の終了に基づく寄託金返還請求)を認容し、被告(元事務局長)に4,500万円及びこれに対する令和2年1月11日から支払済みまで年5%の割合による金員の支払を命じた。訴訟費用は被告の負担。第2項について仮執行宣言
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。本件には、平成29年法律第44号による改正前の民法(判決本文では「旧民法」)が適用されています。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
理事長である眼科医KMR氏(以下「理事長KMR氏」) 原告。医療法人社団GKSを設立し、その理事長を務める眼科医です。元事務局長SKT氏に5,000万円を交付しました
元事務局長SKT氏 被告。医療法人社団GKSの事務局長として業務全般を取り仕切っていた人物です。後に対象会社DYKの全株式を取得し、代表取締役に就任しました
理事長の妻TMK氏 理事長KMR氏の妻。対象会社DYKの全株式を保有し、代表取締役を務めていました
眼科診療所を運営する医療法人社団GKS(以下「医療法人社団GKS」) 理事長KMR氏が設立し、複数の眼科クリニックを開設する医療法人社団です
経営権を取得した会社RVH(以下「会社RVH」) 医療法人社団GKSの経営権を譲り受けた株式会社です。業種は判決本文に記載がありません
対象会社DYK(以下「対象会社DYK」) 通所リハビリ事業(デイサービス)と焼肉店のフランチャイズ事業を営む株式会社。全株式が無償で譲渡されたとされる会社です
焼肉店チェーンYKN 対象会社DYKがフランチャイズチェーン加盟契約を結んだ焼肉店のチェーンです
HSM弁護士 理事長KMR氏が会社RVHへの対応を依頼していた弁護士。訴え提起時の理事長KMR氏の代理人です
別の医療法人KKI 元事務局長SKT氏が会社RVHから人事部長としての勤務を求められていた医療法人です

金融機関や保険会社は、「地方銀行ABK」のように業態とイニシャルで表記します。判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。主文の引用では、「原告」は理事長KMR氏、「被告」は元事務局長SKT氏を指します。

事案の概要―赤字補填の資金か、預けた金銭か

医療法人社団の経営権が外部の会社に譲渡された

理事長KMR氏は、平成12年に医療法人社団GKSを設立して理事長を務め、法人が開設する複数のクリニックで眼科医として勤務していました。元事務局長SKT氏は平成16年頃から医療法人社団GKSで勤務し、理事長KMR氏が病気で入院・療養した平成18年頃に事務局長となって、業務全般を取り仕切るようになりました。

医療法人社団GKSは経営状態の悪化により平成29年末頃には自主運営が困難になり、理事長KMR氏の出資持分の全部を会社RVHの関係者に譲渡することにより、平成30年2月、経営権が会社RVHに譲渡されました。その後も理事長KMR氏は理事長に、元事務局長SKT氏は事務局長にとどまりましたが、会社RVHの強力な支配の下で、二人の役割と権限は縮小し、特に金銭管理は会社RVHが支配するようになりました。

赤字補填のために設立された対象会社DYK

対象会社DYKは、医療法人社団GKSの赤字を補填することを目的として平成26年7月28日に設立され、理事長の妻TMK氏が全株式を保有して代表取締役に就任しました。対象会社DYKはデイサービス事業を行っていましたが、赤字であったことから、元事務局長SKT氏の提案により、平成29年6月頃に焼肉店チェーンYKNのフランチャイズチェーン加盟契約を締結しました。それでも、平成31年2月時点で借入金は1億円を超え、約4,000万円の債務超過の状態にありました。

対象会社DYKの日常の業務は元事務局長SKT氏が管理監督し、社判や実印は医療法人社団GKSの金庫で保管されていました。理事長の妻TMK氏は経営に具体的に関与しておらず、署名押印を求められると内容を精査せずに応じることがありました。

保険契約を解約し、5,000万円を現金で交付した

理事長KMR氏は、平成25年5月24日、生命保険会社LFIの年金原資保証型変額個人年金保険に加入し、保険料5,000万円を一括で支払っていました(判決本文は「本件保険契約」と呼んでいます)。

平成31年2月中旬、元事務局長SKT氏は理事長室で理事長KMR氏に対し、保険料は医療法人社団GKSから出たもので本来理事長KMR氏が取得できるものではない、保険契約の存在が会社RVHに露見すれば返還を求められる、今のうちに解約して返戻金を保管しておく必要がある、理事長KMR氏が保管していると危険なので自分に預けてほしい、などと述べました。理事長KMR氏は保険契約を解約し、平成31年3月1日、銀行の店舗近くの駐車場で、元事務局長SKT氏に5,000万円を現金で交付しました(判決本文は、この金員を「本件金員」、交付を「本件交付」と呼んでいます)。

元事務局長SKT氏は、受け取った現金を医療法人社団GKSの金庫にいったん保管したうえで、同月5日、信用金庫SKNの担当者らに4,500万円を交付し、証券会社SCSの対象会社DYK名義の口座に振り込ませました。残りの500万円は、同月頃、理事長KMR氏に返されています。

返還を求めると「赤字補填の条件だった」との回答

元事務局長SKT氏は令和元年5月31日に医療法人社団GKSを退職し、同年9月8日には対象会社DYKの代表取締役に就任しました。遅くとも同年7月16日までに、理事長の妻TMK氏から対象会社DYKの全株式を譲り受けています。

理事長KMR氏の代理人となったHSM弁護士が保険の解約返戻金の保管状況と返還についての考えを尋ねたところ、令和元年10月21日付けで対象会社DYK名義の回答があり、株式譲渡を受けて経営権を譲り受けるに当たって累積赤字の補填が条件とされ、これを了承した理事長KMR氏が4,500万円を対象会社DYKに支払ったもので、返還義務はないとの内容でした。理事長KMR氏は、同年12月21日、4,500万円の返還を求めて提訴しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成12年 理事長KMR氏が医療法人社団GKSを設立し、理事長に就任
平成16年頃 元事務局長SKT氏が医療法人社団GKSで勤務を始める(平成18年頃に事務局長)
平成25年5月24日 理事長KMR氏が変額個人年金保険に加入し、保険料5,000万円を一括で支払う
平成26年7月28日 対象会社DYKを設立(理事長の妻TMK氏が全株式を保有し、代表取締役)
平成28年3月 理事長KMR氏が心原性脳梗塞で入院し、失語症を患う
平成29年6月頃 対象会社DYKが焼肉店チェーンYKNのフランチャイズチェーン加盟契約を締結
平成30年2月 医療法人社団GKSの経営権が会社RVHに譲渡される
平成30年10月ないし11月頃 理事長KMR氏と元事務局長SKT氏が介護老人保健施設の運営計画を検討(平成31年2月13日頃に実現しないことが確定)
平成31年2月中旬 元事務局長SKT氏が保険の返戻金を自分に預けてほしいなどと述べ、理事長KMR氏が金銭の寄託を申し込む
平成31年2月21日・25日 保険契約を解約し、4,390万705円が理事長KMR氏の口座に振り込まれる
平成31年3月1日 理事長KMR氏が元事務局長SKT氏に5,000万円を現金で交付(本件交付)
平成31年3月5日 うち4,500万円が対象会社DYK名義の証券口座に振り込まれる
平成31年3月頃 残りの500万円が理事長KMR氏に返される
平成31年3月29日付け 元事務局長SKT氏の求めで、理事長KMR氏が医療法人社団GKSの業務の責任を負う旨の誓約書に署名押印
平成31年4月2日・令和元年5月16日 元事務局長SKT氏が対象会社DYKの口座から3,000万円・2,000万円を出金
令和元年5月28日 元事務局長SKT氏が理事長の妻TMK氏に、対象会社DYKは引き継いだので保証を外す、代表者も時期をみて変更するなどとメッセージを送信
令和元年5月31日 元事務局長SKT氏が医療法人社団GKSを退職(6月10日に退職金3,453万円を受領)
令和元年7月7日 理事長KMR氏、理事長の妻TMK氏、元事務局長SKT氏が面談
令和元年7月16日 HSM弁護士の事務所での面談。日付欄が空欄の株式譲渡契約書に、理事長の妻TMK氏が「平成31年3月1日」と記入
令和元年8月30日頃・9月18日頃 HSM弁護士が返還についての考えを問う通知と催促を送付
令和元年9月8日 理事長の妻TMK氏が代表取締役を辞任し、元事務局長SKT氏が代表取締役に就任
令和元年10月21日付け 対象会社DYK名義で、累積赤字の補填が株式譲渡の条件であり返還義務はないと回答
令和元年12月21日 理事長KMR氏が消費寄託契約に基づく4,500万円の返還を求めて提訴
令和2年1月11日 訴状送達の日の翌日(予備的請求の遅延損害金の起算日)
令和2年8月27日付け 訴えの変更申立書(詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求を主位的請求に追加。同年9月7日に送達)
令和4年2月22日 東京地方裁判所が主位的請求を棄却し、予備的請求を認容する判決

保険の解約返戻金は4,390万705円で、交付された5,000万円との差額について判決本文は特に説明していません。判決は、本件金員を「本件保険契約の返戻金を主たる原資とする」ものと述べています。

判決本文に現れた株式譲渡契約書と回答書

本件では、株式譲渡契約や贈与の契約の条項が争点になったのではなく、そもそも株式譲渡と資金の交付がどう結び付いていたかが争われました。判決本文から分かる書面の内容は、次のとおりです。いずれも契約書や回答書の原文をそのまま再現したものではなく、判決本文の記載を当事務所が要約したものです。

株式譲渡契約書―全株式の無償譲渡

理事長の妻TMK氏が、元事務局長SKT氏に対し、対象会社DYKの普通株式の全部を平成31年3月1日付けで無償譲渡することなどが記載されたもの(理事長の妻TMK氏の署名押印はあるものの、日付は記入されていなかった)。

判決によれば、元事務局長SKT氏は令和元年7月16日、HSM弁護士の事務所でこの契約書を取り出し、理事長の妻TMK氏に日付欄への「平成31年3月1日」の記入を求めました。理事長の妻TMK氏は、署名押印した具体的な記憶はなかったものの、株式を譲渡すること自体に異議はなく、日付に意味があるとも考えずに記入しました。

令和元年10月21日付けの回答―累積赤字の補填が条件

元事務局長SKT氏が平成31年2月28日付けで理事長の妻TMK氏から対象会社DYKの株式譲渡を受けて経営権を譲り受けるに当たり、累積赤字の補填が条件とされていたところ、これを了承した理事長KMR氏が、同年3月5日に本件金員のうち4,500万円を対象会社DYKに支払ったものであり、HSM弁護士も法的な返還義務のないことを面談時に確認している(対象会社DYK名義)。

回答書は株式譲渡の日を平成31年2月28日付けとし、契約書の日付欄に記入されたのは平成31年3月1日でした。この食い違いについて判決本文は特に言及していませんが、判決は、契約書が本件交付と近い時期に作成されたとは認め難いと判断しています(後記)。

当事者の請求と主要な主張

理事長KMR氏の請求

区分 内容
主位的請求 消費寄託契約を詐欺により取り消したとして、不当利得返還請求権に基づき、返還済みの500万円を控除した4,500万円と、交付日である平成31年3月1日から支払済みまで年5%の割合による民法704条前段の利息(判決本文の表現では「遅延利息」)
予備的請求 消費寄託契約の終了に基づく寄託金返還請求として、4,500万円と、訴状送達の日の翌日である令和2年1月11日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金

当初の訴状は、消費寄託契約に基づく4,500万円の返還を求めるものでした。令和2年3月に訴訟代理人が交代した後、同年8月27日付けの訴えの変更申立書で、詐欺取消しを理由とする不当利得返還請求が主位的請求とされ、当初の請求は予備的請求となりました。主位的請求と予備的請求で元本は同じ4,500万円ですが、利息・遅延損害金の起算日が異なります。

理事長KMR氏の主張

理事長KMR氏は、元事務局長SKT氏が医療法人社団GKSと対象会社DYKを実質的に意のままに経営していたところ、経営権が会社RVHに移ったことで退職を考えるようになり、子の学費をねん出するために収入を確保しようと対象会社DYKを名実ともに引き継ごうと考えたが、対象会社DYKは経営がひっ迫していたため、赤字補填に充てる資金を手に入れたいと考えた、と主張しました。

そのうえで、元事務局長SKT氏は、理事長KMR氏が保険料の原資の会計処理を認識していなかったことや、脳梗塞の影響で失語症を患い言語の理解に難があったことに乗じて、後日返還する意思があるかのように申し向けて保管を申し入れ、理事長KMR氏はこれを信じて金銭を寄託した、真実は返還の意思はなかったから詐欺に当たる、と主張しました。株式譲渡契約が平成31年3月1日付けで締結された事実はないとも主張しています。

元事務局長SKT氏の主張

元事務局長SKT氏は、理事長KMR氏と理事長の妻TMK氏は対象会社DYKの経営が思わしくないため、株式を元事務局長SKT氏に譲渡して経営を引き継がせ、連帯保証人の地位からも外れたいと希望していたと主張しました。元事務局長SKT氏は、借入れが1億円以上あり、経営を引き継げば連帯保証人になる必要があることなどから、一定の損失補填をしてくれるのであれば引き継いでもよいと提案し、理事長KMR氏が解約返戻金のうち4,500万円を支払うことを提案したので、株式譲渡を受けて経営を引き継ぐことを了承した、というのです。

この主張を法的に整理して、元事務局長SKT氏は、4,500万円は次のいずれかの契約に基づいて理事長KMR氏から対象会社DYKに贈与されたもので、保管や返還の合意はないと主張しました。

  • 停止条件付きの第三者のためにする贈与契約:理事長KMR氏と元事務局長SKT氏の間で、株式譲渡契約の締結を停止条件とし、対象会社DYKのためにする贈与契約が成立した。平成31年3月1日に株式譲渡契約が締結されて条件が成就し、同月5日に支払われた。令和元年7月の面談の際に理事長KMR氏らが異議を述べなかったことなどから、対象会社DYKによる受益の意思表示もあった。
  • 三者間の負担付贈与契約:理事長KMR氏、対象会社DYK及び元事務局長SKT氏の三者間で、元事務局長SKT氏が株式譲渡を受けて経営を引き継ぐという負担を条件として、理事長KMR氏が対象会社DYKに贈与する契約が成立し、元事務局長SKT氏は株式の譲渡を受け、代表取締役に就任して負担を履行した。

あわせて、元事務局長SKT氏は、仮に理事長KMR氏に意思表示の瑕疵があったとしても、訴状で異議をとどめずに寄託金の返還を請求したことは旧民法125条の法定追認に当たると主張しました。これに対し理事長KMR氏は、提訴の時点では返還を受けられると考えており、詐欺であるとの認識を欠いていたから、追認をすることができる時以後の行為ではないと反論しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を次の3つに整理しました。

  1. 本件交付は、理事長KMR氏と元事務局長SKT氏との間の消費寄託契約に基づくものか、それとも理事長KMR氏と対象会社DYKとの間の贈与契約に基づくものか(主位的請求と予備的請求に共通の請求原因)。
  2. 理事長KMR氏は、元事務局長SKT氏の詐欺により、返還の意思がないのにあると誤信して消費寄託契約の申込みをしたか(主位的請求の請求原因)。
  3. 訴状の提出による法定追認があるか(主位的請求に対する抗弁)。

本件の実質的な分かれ目は第1の争点です。資金の交付が株式譲渡の条件としての赤字補填であれば返還請求はいずれも成り立たず、預けた金銭であれば少なくとも予備的請求は認められることになります。第2・第3の争点は、元本ではなく、利息の起算日に関わる主位的請求の成否を左右しました。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

重要な認定事実

判決は、前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨により、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約です)。

  • 理事長KMR氏は、平成28年の心原性脳梗塞の影響で中等度の感覚性失語症が残存し、医師の診断書では、やや複雑な文を初めて聞いたり読んだりする場合に内容を理解することが極めて困難で、社会的に責任が生じる判断や決定には家族など信頼のおける第三者の見守りや支援が必須であったとされていました。眼科医としての診察業務は支障なく行うことができています。
  • 理事長の妻TMK氏は、平成31年3月1日は一日中東京都内で過ごしており、医療法人社団GKSで勤務し、銀行で現金の受渡しをしていた元事務局長SKT氏と面談する機会はありませんでした。
  • 令和元年7月7日の面談では、元事務局長SKT氏が交付された金員は個人ではなく対象会社DYKの資金だと述べ、理事長KMR氏がそれに沿うような発言をする場面がありましたが、交付の性質や返還の要否は具体的な話題になりませんでした。
  • 令和元年7月16日の面談で、元事務局長SKT氏は交付の事実は認めたものの、対象会社DYKの経営の話を始め、「あんな赤だらけの会社だれが引き継ぎますか。」などと述べました。
  • 理事長KMR氏や理事長の妻TMK氏が保証人となっていた対象会社DYKの借入れのうち、地方銀行ABKからの借入れは令和元年5月17日に残債務1,888万円が一括返済され、地方銀行BCKからの借入れは同月30日に、地方銀行CDKとの当座貸越契約は令和2年1月31日に、それぞれ消滅しました。信用金庫SKNからの借入れと焼肉店チェーンYKNの加盟契約の債務については、令和元年10月25日と同年11月1日に元事務局長SKT氏が連帯保証人となりました。
  • 対象会社DYKは設立以来第5期まで各期とも営業損失を出していましたが、第6期(平成30年10月1日から令和元年9月30日まで)は約3,730万円の営業利益を計上しており、そこには4,500万円が売上げとして計上されていました。残高試算表上、平成31年3月から令和元年9月までの毎月の営業損益はいずれも黒字でした。
  • 医療法人社団GKSは、令和3年12月時点で金融機関に約40億円の債務を負っており、理事長KMR氏はその連帯保証人の地位にあります。

判断の枠組み

判決は、まず、本件交付に至る経緯として、元事務局長SKT氏が保険の返戻金を自分に預けてほしいと述べ、信頼していた元事務局長SKT氏の申出に従って理事長KMR氏が保険を解約し、5,000万円を交付したという経過を認定しました。そのうえで、次のとおり述べています。

「本件交付は、本件保険契約の返戻金を主たる原資とする本件金員を保管のために一時的に〔元事務局長SKT氏〕に預けるというものであり、消費寄託契約であったというべきである。」

そのうえで、元事務局長SKT氏の贈与の主張について、①理事長KMR氏側に株式譲渡や連帯保証人の地位を外れることを急ぐ具体的な動機があったか、②株式譲渡契約が本件交付と時間的に接着して締結されたか、③誰が本件交付を主導したか、④贈与であれば当然あるはずの書面や送金の方法がとられたか、⑤元事務局長SKT氏の側の動機と、赤字補填が株式譲渡の必須の条件といえる客観的状態があったか、という観点から検討し、いずれも贈与の主張を裏付けないと判断しました。

各主張を採用し又は排斥した理由

理事長側に、4,500万円を出してまで株式を譲渡する差し迫った動機はなかった

判決は、理事長KMR氏が約40億円に上る医療法人社団GKSの債務の連帯保証人の地位にあったことと比べると、対象会社DYKの借入金1億円の連帯保証は「些少なもの」であり、どうしても解決を急がなければならない問題であったとは解し難いとしました。そのため、平成31年2月の時点で、理事長KMR氏や理事長の妻TMK氏が、一般的、抽象的な希望としてはともかく、積極的、具体的に株式譲渡、経営の引継ぎ、連帯保証人の地位から外れることを希望していたとは考え難いと判断しています。

また、4,500万円もの資金を連帯保証債務の削減等に用いるのであれば、医療法人社団GKSの債務の連帯保証の件と併せて十分に検討し、最大の効果が生じるように使途を決めるはずなのに、そのような検討の形跡は証拠上認められないとしました。さらに、連帯保証を外すことが目的であれば、あらかじめ金融機関と交渉して目途がついてから交付すれば足りるのに、実際には交付から一定の時間が経ってから交渉が行われているようにうかがわれるとして、連帯保証を外すことが本件交付の主要な目的であったことも疑わしいとしました。

令和元年7月7日の面談での理事長KMR氏の発言については、前後の文脈に照らし、迎合的に話を合わせたという程度のものであり、本件交付が対象会社DYK宛てであったと認めたものとは解されないとしています。

株式譲渡契約書が交付と同じ時期に作成されたとは認められない

株式譲渡契約書には平成31年3月1日の日付が記入されていますが、判決は、その日に理事長の妻TMK氏が元事務局長SKT氏と面談した事実はないことから、少なくとも本件交付と近接した時期に理事長の妻TMK氏が契約書に署名押印したと認めることは困難であるとしました。元事務局長SKT氏の陳述書が、平成31年3月1日当日に契約書を作成して手渡したかのように読める記載をしている点も、認定に照らして不自然であるとしています。そして、次のとおり述べました。

「本件交付と、本件株式譲渡契約の契約書作成(すなわち本件株式譲渡契約の締結)とが時間的に接着しているかは不明確であるといわざるを得ない。」

むしろ、元事務局長SKT氏が退職直前の令和元年5月28日になって、対象会社DYKを引き継いだので保証を外し、代表者を時期をみて変更するという話を理事長の妻TMK氏にしていることからすると、株式の譲渡は退職のタイミングに近い時期になって話題とされた可能性もあると判断しました。株式譲渡契約の締結が贈与の停止条件だとする主張は、その前提となる時期の結び付きから揺らいだことになります。

本件交付を主導したのは元事務局長SKT氏であった

判決は、理事長KMR氏が普段は眼科医として診療に従事しており、経営の重大事項に関する判断力は十全とはいい難い状態にあったこと、理事長の妻TMK氏は実務に全く関与していなかったことを指摘しました。そのうえで、医療法人社団GKSについても対象会社DYKについても、最終的な決定権限が理事長KMR氏に留保されていた面はあるにしても、実質的には元事務局長SKT氏が運営していた(少なくとも元事務局長SKT氏が運営の方向性を提案し、理事長KMR氏がそれを了承する関係にあった)と認定しています。

平成31年3月29日付けの誓約書(医療法人社団GKSの業務は理事長KMR氏の指示で行わせたもので、民事、刑事など全ての責任を理事長KMR氏が負うとするもの)についても、判決は、まさにそのような関係にあったからこそ求められるままに安易に応じたものと解されるとし、認定を左右しないとしました。結論として、理事長KMR氏が保険料の原資を詳細に理解していたとは考え難く、理事長の妻TMK氏も令和元年7月まで本件交付自体を知らなかったのであるから、元事務局長SKT氏が主導しなければ理事長KMR氏が保険を解約して交付することもなかったとうかがわれると判断しました。

贈与であれば書面があるはずなのに、契約書もなく現金で交付された

判決は、元事務局長SKT氏の主張によれば4,500万円もの金員の贈与であり、本件交付によって理事長KMR氏と元事務局長SKT氏ないし対象会社DYKとの資本的、人的関係がなくなるのであるから、贈与に係る契約書等の書面が作成され、銀行振込みなど証拠の残る方法がとられてしかるべきであると述べました。そのうえで、次のとおり指摘しています。

「本件において本件交付に係る契約書等の書面は作成されておらず、また、現金交付という方法がとられているのは不合理である。」

判決は、このことはむしろ、会社RVHの目から本件金員を見えなくするという目的があったという理事長KMR氏の主張に親和的であるとしました。

元事務局長SKT氏の側に動機があり、赤字補填は株式譲渡の必須条件ではなかった

判決は、会社RVHによる支配に批判的であった元事務局長SKT氏は、介護老人保健施設の運営計画を検討していた時期には、早晩医療法人社団GKSをやめるか、少なくともほかに生活の基盤となる収入を得る場を作ることを企図していたと推認でき、その場として自らが実質的に運営していた対象会社DYKを利用しようと考えることは自然であるとしました。子の学費や別の医療法人KKIからの借入れなどから、金銭的に余裕のある状況ではなかったことも認定しています。

さらに、元事務局長SKT氏は対象会社DYKの現状をよく知っており、自ら引き継げば収益を上げられると考えたと推認できるところ、実際に平成31年3月以降の月次の営業損益は黒字であり、月次の営業利益は1か月40万円ないし200万円に及んでいたから、取締役報酬の支払を仮定しても相応の営業利益を確保し得たとうかがわれるとしました。そして、次のとおり判断しています。

「本件交付が〔対象会社DYK〕の株式譲渡における必須の条件であり、それがなければ〔元事務局長SKT氏〕が無償の株式譲渡を受けるはずがない、というべき客観的状態にあったとまではいい難いものといえる。」

以上から、判決は、元事務局長SKT氏は名実ともに自らが対象会社DYKの経営者となって収入を得る場を確保しようと考え、その運営のために少しでも自由になる金員を確保しようとして、保険契約についても会社RVHに目を付けられているかのように伝えて4,500万円を一時的に預かることを提案し、理事長KMR氏からの申入れを受けて消費寄託契約を締結したものと認定しました。贈与の主張は、停止条件付きの贈与と負担付贈与のいずれについても前提を欠くものとして退けられています。

詐欺―返還の意思は当初からなかった

第2の争点について、判決は、元事務局長SKT氏が、令和元年7月頃に返還を求められるや一転して返還を拒み、同年10月には書面で返還義務はないと回答していることから、預かった金員を返還する意思を当初から有していなかったと認定しました。そのうえで、次のとおり述べています。

「〔元事務局長SKT氏〕が〔理事長KMR氏〕に対して本件金員を預けてほしいと申し向けたことは詐欺の欺罔行為に当たる。」

理事長KMR氏は信頼する事務局長の発言を信じ、返還を求めることができるものと誤信して消費寄託契約の申込みをしたのであるから、詐欺があったと判断されました。

法定追認―訴状での返還請求が取消権を失わせた

ところが、第3の争点で結論は分かれました。判決は、理事長KMR氏が、HSM弁護士を通じて令和元年8月頃以降に文書で返還についての考えをただし、同年10月21日付けの回答によって、元事務局長SKT氏側が返還義務を負わないと考えていることを知ったうえで、本件訴状を提出して消費寄託契約に基づく4,500万円の支払を求めたと認定しました。

判決は、この時点で理事長KMR氏は、元事務局長SKT氏が、返戻金を預かるという返還義務の存在を前提とする説明を受けたとする自らの認識と異なる立場を表明したことを認識していたのであるから、「追認をすることができる状況にあったものといえる。」とし、その状況の下で訴状において寄託物の返還を請求したのであるから、法定追認があったと判断しました(判決本文は根拠として旧民法125条1号、124条1項を掲げています)。そして、次のとおり結論付けています。

「そうすると、〔理事長KMR氏〕は、詐欺による取消権を行使することができない。」

提訴時には詐欺であるとの認識を欠いていたという理事長KMR氏の反論は、元事務局長SKT氏側の返還義務を否定する回答を受け取った後に提訴したという経過から、採用されませんでした。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(ここでの「原告」は理事長KMR氏、「被告」は元事務局長SKT氏を指します)。

  1. 「原告の主位的請求を棄却する。」
  2. 「被告は、原告に対し、4500万円及びこれに対する令和2年1月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。」
  3. 「訴訟費用は被告の負担とする。」
  4. 「この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。」

判決は、まとめとして、理事長KMR氏と元事務局長SKT氏は消費寄託契約を締結し、その申込みは詐欺によるものであったから取消権はあったが、訴状による寄託物の返還請求によって法定追認の要件を満たしたので取り消すことはできない、したがって詐欺取消しを前提とする不当利得返還請求(主位的請求)は理由がないが、消費寄託契約の終了に基づく寄託物返還請求(予備的請求)は理由がある、と整理しています。

結果として、元本4,500万円の返還は認められ、主位的請求と予備的請求の違いは、利息・遅延損害金の起算日(平成31年3月1日か、令和2年1月11日か)の差として現れました。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 株式の無償譲渡に「赤字補填の条件」があったという主張は、客観的な裏付けで判断されること。赤字会社の株式を無償で譲り受ける側が、旧オーナー側からの資金拠出を譲渡の条件だったと主張しても、本判決は、譲渡契約書の作成時期、資金の交付方法、書面の有無、当事者の動機、会社の実際の収益状況を一つずつ検討し、条件の存在を認めませんでした。M&Aで株式を無償又は低額で譲り受ける際に旧オーナー側が資金を拠出する場合には、その資金の性質(贈与か、出資か、貸付けか、預かり金か)と株式譲渡との関係を、譲渡契約書に明記しておくことが重要です。
  • 契約書の日付と実際の作成時期の食い違いが重視されたこと。本件の株式譲渡契約書は、日付欄が空欄のまま署名押印され、後に紛争が表面化してから日付が記入されました。判決は、その日付の日に当事者が会っていないことから、資金の交付と近い時期に契約が締結されたとは認めませんでした。後から日付を補う運用は、契約の成立時期をめぐる紛争で不利に働き得ることを示す例です。
  • 多額の資金を現金で、書面なく交付したことが、贈与の主張に不利に働いたこと。判決は、4,500万円もの贈与であれば書面を作り、証拠の残る方法で送金するのが通常であるとして、現金交付と書面の欠如を不合理と評価しました。資金を受け取る側にとっても、資金の性質を書面で明確にしておかなければ、後に預かり金と認定されるおそれがあります。
  • 詐欺が認められても、訴状での履行請求が法定追認と判断され得ること。本判決は、相手方が返還義務を否定する回答をした後に、契約の有効を前提とする返還請求の訴えを提起したことを、取消権を行使できなくなる法定追認と判断しました。詐欺取消しを主張する可能性がある場合には、訴えを提起する前の段階で、契約の有効を前提とする請求と取消しを前提とする請求の関係を整理しておく必要があります。本件では予備的請求で元本が認められましたが、利息の起算日は約10か月遅くなりました。

一般化できない点

  • 本判決は、理事長KMR氏の失語症による判断力の状態、元事務局長SKT氏が医療法人社団GKSと対象会社DYKを実質的に運営していた関係、医療法人社団GKSの経営権が外部の会社に移った後の特殊な状況など、本件に固有の事情を前提とした事実認定です。株式の無償譲渡に伴う資金拠出が一般に贈与と認められないという判断を示したものではありません。
  • 判決は、贈与の主張(停止条件付きの第三者のためにする贈与、三者間の負担付贈与)について、その前提となる合意自体を認めなかったものです。株式譲渡の条件として旧オーナーが会社の赤字を補填する合意が書面で明確に成立していた場合の法的性質や効力について、判断を示したものではありません。
  • 法定追認の判断は、相手方の返還義務を否定する書面の回答を受け取った後に提訴したという本件の経過に基づくものです。どの時点で「追認をすることができる」状況になったといえるかは事案によって異なり、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。判決本文は根拠条文として旧民法125条1号を掲げていますが、条文の各号の適用関係について詳しい説示はありません。
  • 本件には改正前の民法が適用され、遅延損害金の割合も年5%とされています。改正後の民法の施行日(令和2年4月1日)以降に締結された契約や、同日以降に遅滞となった債務の遅延損害金には改正後の規定が適用され、法定利率や消費寄託に関する規定の内容が異なる点に注意が必要です。
  • 判決は、4,500万円の支払義務を負う者を元事務局長SKT氏個人とし、対象会社DYKの責任や、対象会社DYKの口座から出金された合計5,000万円の使途については判断していません。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

よくあるご質問

赤字会社の株式を無償で譲り受ける条件として旧オーナーが資金を出した、という主張は認められないのですか。

一律に認められないわけではありません。本判決では、株式譲渡契約書が資金の交付と同じ時期に作成されたとは認められず、資金の性質を示す書面もなく、現金で交付されていたこと、会社が引継ぎ後すぐに月次で黒字になっていたことなどから、赤字補填が株式譲渡の必須の条件であったとは認められませんでした。条件とするのであれば、株式譲渡契約書にその旨と資金の性質を明記しておくことが重要です。

預けたお金を返してもらえない場合、詐欺による取消しと寄託金の返還請求のどちらを主張すべきですか。

事案によります。本判決では、詐欺は認められましたが、相手方が返還義務を否定した後に寄託金の返還を求める訴えを起こしたことが法定追認と判断され、取消しは認められませんでした。元本は寄託金の返還請求で認められましたが、利息の起算日が交付日ではなく訴状送達の翌日となりました。訴えを提起する前に、どの請求を主位的に構成するかを検討しておく必要があります。

契約書の日付欄を空欄のまま署名し、後から日付を記入すると、どのような問題がありますか。

本判決では、後から記入された日付の日に当事者が会っていなかったことから、その日に契約が締結されたとは認められず、資金の交付と株式譲渡の結び付きが否定される一因となりました。日付は署名押印の時に記入し、作成の経過が分かる記録を残しておくことが望ましいといえます。

受け取ったお金を会社の売上げに計上していれば、贈与を受けたことになりますか。

なりません。本件の対象会社DYKでは4,500万円が売上げとして計上されていましたが、判決は、交付の経緯や方法などから、理事長KMR氏と元事務局長SKT氏との間の消費寄託契約と認定し、元事務局長SKT氏個人に返還を命じました。判決は売上計上の事実を認定したうえでこの結論をとっており、会計上の処理だけで贈与と認められるわけではないことがうかがわれます(当事務所の評価です)。

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株式の譲渡に伴って旧オーナー側から資金が拠出された場合や、譲渡の経緯に詐欺や錯誤が疑われる場合は、株式譲渡契約書の日付と作成の経過、資金の交付方法と書面、当事者間のメッセージや面談の記録を整理し、資金の性質と取消しの可否を分けて検討します。詐欺・錯誤による取消しや債務不履行による解除については株式譲渡契約の解除・取消しの御相談で、契約の解消を検討する場合の考え方は株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果で解説しています。ほかの裁判例はM&Aトラブルの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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この記事の位置付け

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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