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業務提携にとどめた場合のM&A仲介の成約報酬―東京地方裁判所令和4年5月27日判決

公開 2022年5月27日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面

M&A仲介会社の仲介で、依頼者が相手先の会社の株式を取得する予定だったのに、事情が変わって株式の取得は2年ほど先に送り、当面は業務提携契約だけを結んだ。この場合、仲介会社は、仲介依頼契約に定められた最低2,000万円の成約報酬を請求できるのでしょうか。東京地方裁判所令和4年5月27日判決は、このような事案で、業務提携契約の締結が成約報酬の発生要件である「最終契約」の締結に当たると判断し、仲介会社の請求を全部認めました。

本判決は、仲介依頼契約の「企業提携」の定義に業務提携が含まれていたこと、方針の変更の際に担当者が業務提携でも成約報酬が発生すると説明し、依頼者が減額の交渉をしていたこと、業務提携契約の後に仲介業務が予定されておらず、双方が仲介業務の終了を認識していたことを重視しています。依頼者が主張した錯誤や、中小M&Aガイドラインを根拠とする信義則違反・権利濫用の主張も退けられました。仲介会社として報酬を請求する立場の方にも、仲介会社から報酬を請求された依頼者の立場の方にも、取引の形が途中で変わったときに何を確認しておくべきかを考えるうえで参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―株式の取得を予定していたのに、業務提携契約だけが結ばれた
    1. 売主側の運送会社も、同じ仲介会社に仲介を依頼していた
    2. 依頼者は、配送業務の課題からBKTに関心を持った
    3. 仲介依頼契約の締結―株式の譲渡の段階で成約報酬を支払うとの説明
    4. 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、株式の取得から業務提携へ方針を変更
    5. 基本合意と業務提携契約の締結
    6. 報酬の不払と業務提携の解消
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった契約条項
    1. 本件仲介依頼契約2条―企業提携の定義
    2. 本件仲介依頼契約3条1項―仲介会社の業務の範囲
    3. 本件仲介依頼契約9条1項―着手金
    4. 本件仲介依頼契約9条2項―成約報酬(本件成約報酬条項)
    5. 本件仲介依頼契約9条の合併等以外の方法による企業提携の場合の成約報酬
    6. 本件提携契約2条―提携内容
  6. 原告の請求と当事者の主な主張
    1. NKSの請求
    2. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 判断の枠組み―仲介依頼契約の文言と、仲介業務が終了したかどうか
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 業務提携契約は、本件仲介依頼契約上の最終契約に当たる
    2. 契約書の内容を確認せずに押印したとの供述は信用できない
    3. 本件基本合意にいう最終契約と、本件仲介依頼契約にいう最終契約は別の問題
    4. 動機の錯誤の主張を採用しない
    5. 中小M&Aガイドラインを根拠とする信義則違反・権利濫用の主張を採用しない
    6. 着手金と成約報酬の支払義務
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 株式の取得を先送りして業務提携契約だけを結んだ場合でも、M&A仲介会社の成約報酬は発生しますか。
    2. 相手先との基本合意で、株式譲渡契約を最終契約と定めていれば、業務提携の段階では報酬は発生しないのではありませんか。
    3. 成約報酬の減額を交渉しただけでも、報酬の発生を認めたことになりますか。
    4. 仲介会社の説明が中小M&Aガイドラインに沿っていなかった場合、報酬の支払を拒めますか。
    5. 業務提携を後で解消したり、錯誤を理由に取り消したりすれば、報酬を支払わなくてよいですか。
  13. 関連する記事と相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第31部
裁判日 令和4年5月27日
事件番号 令和2年(ワ)第31971号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(M&A仲介会社)の請求を全部認容。依頼者に2,310万円及び遅延損害金の支払を命じ、訴訟費用は依頼者の負担、仮執行宣言付き
上訴の状況 判決本文に控訴・確定の記載はなく、上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

  • 原告:企業の合併等の組織再編行為、資本提携、業務提携の仲介及びアドバイザリー業務等を目的とする「M&A仲介会社NKS」(以下「NKS」)。
  • NKSの従業員で、本件の担当者であった者を「NKSの担当者ATK氏」(以下「ATK氏」)とします。
  • 被告:合成染料、有機顔料及びその原料となる中間物の製造・販売等を目的とする「染料・顔料製造メーカーSNR」(以下「SNR」)。仲介依頼契約の依頼者です。
  • SNRの代表取締役を「SNRの代表者YMS氏」(以下「YMS氏」)、SNRの課長を「SNRの課長FJT氏」(以下「FJT氏」)とします。
  • SNRが株式の取得を検討した相手先の運送会社を「運送会社BKT」(以下「BKT」)、その代表者を「BKTの代表者DGW氏」(以下「DGW氏」)とします。

判決が用いる「本件仲介依頼契約」「本件成約報酬条項」「本件基本合意」「本件提携契約」の略称は、本記事でもそのまま用います。判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

事案の概要―株式の取得を予定していたのに、業務提携契約だけが結ばれた

売主側の運送会社も、同じ仲介会社に仲介を依頼していた

判決が認定した事実によれば、BKTは運送業務を行う会社で、代表者のDGW氏は、令和元年ころ、年齢や後継者がいないこと等から他社に事業承継をすることを希望するようになりました。DGW氏は、会議所の事業引継ぎ支援センターに相談したところNKSを紹介され、令和元年10月10日、NKSとの間でM&Aについて仲介依頼契約を締結しました。DGW氏は、担当者となったATK氏に、株式譲渡の方法によるM&Aを希望していることを伝えていました。

依頼者は、配送業務の課題からBKTに関心を持った

SNRは、令和2年ころ、ある地区の配送を委託していた業者が廃業することとなり、その地区の配送業務について課題を抱えていたところ、NKSからのダイレクトメールによりBKTの存在を知って興味を持ちました。ATK氏は、令和2年4月6日、YMS氏と会い、BKTの純資産額等を記載した企業概要書を渡して、その内容を説明しました。

仲介依頼契約の締結―株式の譲渡の段階で成約報酬を支払うとの説明

ATK氏は、令和2年4月14日、SNRの事務所で、YMS氏に対し、M&A仲介依頼契約書の内容を読み上げて説明したほか、BKTとのM&Aについて、株式の譲渡が予定されており、その段階で成約報酬の支払をすること等を説明しました。YMS氏は異議を述べることなく契約書に押印し、同日、NKSとSNRとの間で、SNRが企図するBKTとの企業提携(本件提携)の実現を目的とする本件仲介依頼契約が締結されました。

本件仲介依頼契約では、企業提携の定義に、株式の移転や事業の譲渡のほか、資本出資、技術提携・販売提携等の業務一般に関する提携が含まれていました。報酬は、基本合意書の締結時に着手金100万円(消費税別)、最終契約の締結時に成約報酬(最低金額2,000万円(消費税別))とされていました。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、株式の取得から業務提携へ方針を変更

YMS氏とDGW氏は、令和2年4月22日に面会し、SNRがBKTの株式を取得することを前提に、新型コロナウイルスの感染拡大の中でどのように企業提携を実施していくか等について意見交換をしました。

ところが、YMS氏は、同月27日、ATK氏に対し、新型コロナウイルス感染症の拡大の下ではBKTの株式取得による資本提携はできないことを述べました。これを受けて、ATK氏は当初の方針を変更し、BKTとの業務提携を目指すこと、その場合でも成約報酬が発生することを述べました。YMS氏は成約報酬等の減額を求めましたが、成約報酬が発生すること自体には異議を述べませんでした。その後、ATK氏は、DGW氏に対し、当面SNRがBKTの株式を取得することは難しく、2年程度かかることを伝えました。

基本合意と業務提携契約の締結

令和2年5月13日、YMS氏とFJT氏は、ATK氏の立会いの下でDGW氏と面会し、BKTの車庫や事務所等を見学したうえで、業務提携の実施後、2年程度DGW氏がBKTの経営を続け、その後にSNRがBKTの株式を取得する計画や、これによって企業提携の相乗効果を発生させられることを説明しました。同じ日、ATK氏はSNR側に、成約報酬と着手金の合計2,100万円を5月ないし6月に入金してほしいと伝えましたが、SNR側は、その時期に入金するのは不可能と伝えています。

SNRとBKTは、令和2年5月20日、NKSの仲介により、ATK氏の立会いの下で企業提携に係る基本合意書を作成し、本件基本合意をしました。本件基本合意は、将来、両社の間で企業提携についての諸条件が合意された際には、SNRがBKTの株式を取得する旨の最終契約が締結されるものとする内容でした。その際、YMS氏があらためて成約報酬の減額を申し入れたところ、ATK氏は、BKTから1,500万円を支払ってもらえるのであれば減額に応じるなどと伝えました。

その5日後の令和2年5月25日、SNRとBKTは、NKSの仲介により、ATK氏の立会いの下で業務提携契約書を作成し、本件提携契約を締結しました。その際、YMS氏は、ATK氏に対し、2年後にBKTの株式の譲渡を受ける予定であり、成約報酬の支払はその際にしたいと申し入れましたが、ATK氏はこれを断りました。

報酬の不払と業務提携の解消

本件提携契約の後、SNR及びBKTは、NKSからの成約報酬の請求に応じませんでした。その際、NKSやATK氏に対して、仲介業務の遂行を具体的に求めることはありませんでした。SNRは、令和3年7月3日付けで、BKTに対し、本件提携契約を錯誤により取り消すとの意思表示をしました。また、BKTがSNRに業務提携の解消を申し入れ、その後、両社は業務提携を解消しました(解消の時期は判決本文に記載がありません)。

NKSは、SNRに対し、本件仲介依頼契約に基づき、着手金と成約報酬の支払を求めて訴えを提起しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事
令和元年ころ DGW氏が他社への事業承継を希望し、事業引継ぎ支援センターに相談してNKSを紹介される
令和元年10月10日 DGW氏がNKSとの間でM&Aについて仲介依頼契約を締結(株式譲渡の方法を希望)
令和2年ころ SNRが配送業務の課題を抱え、NKSのダイレクトメールでBKTを知る
令和2年4月6日 ATK氏がYMS氏にBKTの企業概要書を渡して説明
令和2年4月14日 ATK氏が契約書を読み上げ、株式の譲渡の段階で成約報酬を支払うこと等を説明。本件仲介依頼契約を締結
令和2年4月22日 YMS氏とDGW氏が、株式の取得を前提に意見交換
令和2年4月27日 YMS氏が、株式取得による資本提携はできないと述べる。ATK氏が業務提携を目指すこと、その場合も成約報酬が発生することを述べ、YMS氏は減額を求める
令和2年5月13日 BKTの見学。業務提携の後、2年程度経過後に株式を取得する計画を説明。ATK氏が2,100万円の入金を求め、SNR側は不可能と回答
令和2年5月20日 本件基本合意。YMS氏が再び減額を申し入れる
令和2年5月25日 本件提携契約の締結。YMS氏の支払猶予の申入れをATK氏が断る
令和3年7月3日付け SNRがBKTに本件提携契約の錯誤による取消しの意思表示
時期の記載なし BKTの申入れにより、両社が業務提携を解消
令和4年5月27日 東京地方裁判所がNKSの請求を全部認容する判決

判断の前提となった契約条項

以下は、判決本文の前提事実に「下記の内容を含む」ものとして掲げられた条項を、判決本文の文言のまま引用したものです。当事者の呼称だけを本記事の表記に置き換えています。「(中略)」「(以下略)」等は判決本文自体の省略であり、契約書原本の全文ではありません。

本件仲介依頼契約2条―企業提携の定義

本契約において企業提携とは、次の各号に定めるものとする。

(1) 法人の合併、譲渡その他の方法による株式の移転
(2) 事業の譲渡その他資産等の譲渡
(3) 法人又は個人による資本出資、技術提携・販売提携等業務一般に関する提携
(4) 上記の他、対象企業の経営権取得又は事業取得を目的としたもの

本件仲介依頼契約3条1項―仲介会社の業務の範囲

〔NKS〕は、本契約に基づき次の業務を行う。

(1) 本件提携に必要な対象企業に関する資料の入手及び作成
(2) 本件提携に関する契約条件の調整
(3) 本件提携に関するスケジュールの調整及び立会い等
(4) 本件提携に必要な契約書等の草案作成のサポート
(5) 上記の他、本件提携に付随する業務として、〔SNR〕が〔NKS〕に助言を求めた業務

本件仲介依頼契約9条1項―着手金

〔SNR〕は、〔NKS〕に対し、〔SNR〕と対象企業又はその株主との間の基本合意書締結時(中略)に、着手金として、100万円(消費税別)を支払う。

本件仲介依頼契約9条2項―成約報酬(本件成約報酬条項)

〔SNR〕は、〔NKS〕に対し、本件提携に係る最終契約締結時に、成約報酬として、(中略)を支払う。なお、成約報酬の最低金額は2000万円(消費税別)とし、着手金は成約報酬に含まれない(内金として取り扱わない)ものとする。

本件仲介依頼契約9条の合併等以外の方法による企業提携の場合の成約報酬

合併、株式譲渡、事業譲渡又は資産譲渡以外の方法による企業提携を行った場合、その成約報酬の額は本条に定める成約報酬の額を基準として個別に協議のうえ決定し(中略)とする。

この定めは、判決本文の前提事実では9条の「3」として掲げられていますが、判断の部分では「9条4項」と表記されています。判決本文の記載に食い違いがあるため、本記事では項の番号を特定せずに示しています。

本件提携契約2条―提携内容

〔SNR〕及び〔BKT〕は、本件提携契約に基づき、現在の〔BKT〕の運送事業の検証、共同又は協力による運送事業の企画・運営・検証、〔BKT〕の業務や経営方針に関する意見交換、人材派遣等(括弧内省略)を行う。(以下略)

本件基本合意については、判決本文は条項の文言を引用しておらず、将来、両社の間で企業提携についての諸条件が合意された際には、SNRがBKTの株式を取得する旨の最終契約が締結されるものとした、と内容を整理しています。

原告の請求と当事者の主な主張

NKSの請求

NKSは、SNRに対し、2,310万円と、そのうち110万円に対する令和2年5月21日から、2,200万円に対する同月26日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めました。判決本文は、事案の概要で、本件仲介依頼契約に基づく着手金110万円及び成約報酬2,000万円等の支払を求める事案であると整理しています。

争点ごとの主張

判決は争点を4つに整理しています。各争点についての当事者の主張は、次のとおりです。

争点 仲介会社NKSの主張 依頼者SNRの主張
本件成約報酬条項の最終契約に、株式譲渡を伴わない業務提携契約が含まれるか 本件提携には資本関係を伴わない業務提携が含まれており、最終契約には業務提携契約も含まれる 最終契約とはSNRとBKTとの株式譲渡契約をいい、業務提携契約は含まれない
本件提携契約が最終契約に当たるか 本件提携契約は両社の業務提携に係る最終契約である 両社は株式譲渡契約を最終合意と考えていた。YMS氏は、本件提携契約の前に、最終的な契約を締結するのは2年後であるとATK氏に明言していた
本件提携契約について動機の錯誤があるか 本件提携契約は業務提携契約であり、錯誤はない。ATK氏は、本件提携契約が最終契約に当たり報酬が発生することを説明していた YMS氏は、ATK氏から、最終的な契約は2年後で、本件提携契約はそれに向けた形式的なものと説明され、これを信じて締結した。本件提携契約を最終契約とは認識していなかった
成約報酬の請求が信義則違反又は権利濫用に当たるか ATK氏らの行動に中小M&Aガイドラインに違反する内容はなく、SNRの主張する信義則上の義務も認められない 中小企業庁の中小M&Aガイドラインは、M&A専門業者に最終契約の法的意味を含めた説明を求めている。M&Aの経験がないSNRに対し、NKSは、本件提携契約が最終契約であること、これで関与が終了し成約報酬が発生することを十分に説明する信義則上の義務を負っていたのに、説明を尽くさなかった

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は4つの争点を順に判断していますが、結論を左右したのは、次の2点です。

  1. 本件成約報酬条項の「最終契約」に、株式譲渡等による資本提携を伴わない業務提携契約が含まれるか(契約の解釈)。
  2. 将来の株式取得を見据えて結ばれた本件提携契約が、本件仲介依頼契約上の「最終契約」に当たるか(あてはめ)。

錯誤と信義則違反・権利濫用の主張は、いずれも、方針の変更の際にATK氏が業務提携でも成約報酬が発生することを説明していたという認定事実を前提に退けられています。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

判決は、前提事実に加えて、証拠及び弁論の全趣旨により、上記の事案の概要で述べた経過を認定しました。結論との関係で特に重要なのは、方針の変更の際にATK氏が業務提携でも成約報酬が発生すると述べ、YMS氏が減額を求めながら報酬の発生自体には異議を述べなかったこと、その後も入金時期、減額、支払時期をめぐるやり取りが続いたこと、本件提携契約の後にSNR及びBKTが仲介業務の遂行を具体的に求めなかったことです。

判断の枠組み―仲介依頼契約の文言と、仲介業務が終了したかどうか

裁判所は、まず、本件成約報酬条項の「最終契約」の意味を、本件仲介依頼契約の文言から解釈しました。企業提携の定義(2条)に業務一般に関する提携が含まれていること、合併等以外の方法による企業提携の場合の成約報酬の算定に係る規定があることから、最終契約には株式譲渡を伴わない業務提携も含まれると解するのが自然であるとし、契約締結の際の説明と押印の経過から、契約書の記載と異なる合意をした事情もないとしました。

「本件成約報酬条項にいう最終契約には、株式譲渡等による資本提携を伴わない業務提携契約が含まれるというのが相当である。」

次に、本件提携契約が最終契約に当たるかについては、①本件提携契約が、その当時、依頼者が実現を求めていた内容であったか、②業務提携契約として完結した内容で、それ自体として依頼者に利益となるものか、③本件提携契約の後に仲介業務が残っていたか、という観点から検討しています。

各主張を採用し又は排斥した理由

業務提携契約は、本件仲介依頼契約上の最終契約に当たる

裁判所は、YMS氏が当初はBKTの株式の取得を意図していたものの、令和2年4月27日までに方針を変更し、当面は業務提携をして、株式の取得は2年程度経過後とすることとし、これをATK氏とBKTにも伝えたことを認定しました。そして、こうしたSNRの意向に基づいて本件基本合意が締結され、その5日後に本件提携契約が締結されたこと、本件提携契約の後、NKSの仲介業務は具体的に予定されておらず、NKSとSNRは、本件提携契約をもってNKSの業務が終了したと認識していたことを認めました。

そのうえで、将来の資本提携を見据えた業務提携をする本件提携契約は、当時SNRが実現を求めていた内容であったとし、さらに次のように述べています。

「本件提携契約は、将来の資本提携を見据えたものではあるが、その判断をする上で相互に有用な情報提供をすることや、業務分担を定めた上で、運送業務における相互協力を約束する内容を含むものであり(甲4)、業務提携契約として一応完結した内容であって、かつ、それ自体として〔SNR〕にとって利益となるものであったといえる。」

仲介業務の終了についても、次のとおり判断しました。

「本件提携契約の後、〔NKS〕が行うべき仲介業務はなくなったといえ、本件仲介依頼契約に基づく〔NKS〕の業務は終了したものというべきであり、本件仲介依頼契約上、最終的なものであったといえる。」

結論として、裁判所は、本件提携契約は株式譲渡等による資本提携を伴わない業務提携にかかる最終契約であって、本件成約報酬条項にいう最終契約に該当すると判断しました。

契約書の内容を確認せずに押印したとの供述は信用できない

YMS氏は、本人尋問で、本件基本合意や本件提携契約の際、ATK氏から内容の説明を受けることも、自ら契約書の内容を確認することもせず、言われるままに押印したなどと供述しました。裁判所は、この供述は「それ自体およそ不自然不合理」であり、YMS氏がそのような行動をすべき理由が見当たらないこと、YMS氏らが令和2年5月当時、ATK氏との間で成約報酬の発生を前提とする交渉をしていることに照らして、信用できないとしました。さらに、このような供述態度から、YMS氏の供述内容と陳述書の内容は全体として信用できず、認定事実と異なる内容はすべて採用できないとしています。

なお、本件基本合意書には、BKTの株式の譲渡価額について一桁誤った金額が記載されていました。裁判所は、内容に照らして誤記であることが明らかで、ATK氏は正しい内容を口頭で説明したと考えられるとして、判断を左右しないとしました。

本件基本合意にいう最終契約と、本件仲介依頼契約にいう最終契約は別の問題

SNRは、SNRとBKTは株式譲渡契約を最終合意と考えていたと主張しました。裁判所は、両社が本件基本合意で、SNRがBKTの株式を取得することを念頭とした企業統合を前提としており、本件提携契約は本件基本合意にいう最終契約には該当しないとも思われることは認めました。しかし、次のように述べて、SNRの主張を採用しませんでした。

「そのことと、株式取得等を伴わない業務提携契約についても成約報酬の発生事由とする本件仲介依頼契約における最終契約に該当するか否かは別の問題であって」

つまり、依頼者と相手先との間の基本合意でどの契約を「最終契約」と位置付けていたかと、仲介会社との間の仲介依頼契約で報酬の発生事由とされた「最終契約」に当たるかは、それぞれの契約に即して判断されるということです。

動機の錯誤の主張を採用しない

裁判所は、ATK氏がYMS氏の意向を受けて、本件提携を業務提携の内容とすること、これによって成約報酬が発生することを説明したと認め、YMS氏が本件提携契約の際、これが実質的な意義を有しない形式的なものであるとか、最終契約に該当しないとかの認識を有していたとは認められないとしました。

さらに、本件提携契約の内容と、それが本件成約報酬条項の最終契約に該当せず、SNRが成約報酬の支払義務を負わないこととは直接関係するものではなく、このような事情は社会通念に照らして本件提携契約において重要な内容とはいえないし、YMS氏にとって本件提携契約を締結する動機であったとも認め難いとして、錯誤の主張を退けました。

判決本文は条文を示していませんが、令和2年4月1日に施行された改正後の民法第95条は、法律行為の基礎とした事情についての錯誤(いわゆる動機の錯誤)による取消しについて、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであることなどを要件としています。判決の判断は、この要件に沿ったものと当事務所は理解しています。なお、SNRが錯誤を主張した対象は、仲介会社との本件仲介依頼契約ではなく、相手先BKTとの本件提携契約です。

中小M&Aガイドラインを根拠とする信義則違反・権利濫用の主張を採用しない

裁判所は、ATK氏がYMS氏やSNRに対し、本件提携を業務提携とすることや、これによって成約報酬が発生することを説明していたと認めました。そのうえで、これを含め、NKSやATK氏の行動について中小M&Aガイドラインの内容に抵触する内容があったとは認められず、ほかに、成約報酬の請求が信義則に違反し、又は権利の濫用であるというべき事情も認められないとして、SNRの主張を採用しませんでした。

着手金と成約報酬の支払義務

裁判所は、SNRが令和2年5月20日に本件基本合意を締結したことにより着手金100万円の支払義務を負い(SNRもこの点は争わないとしていました)、同日の経過をもって弁済期が経過したと認めました。また、同月25日に本件提携契約を締結したことにより、本件成約報酬条項に基づき、少なくとも最低報酬額である2,000万円の支払義務を負い、同日の経過をもって弁済期が経過したと認め、SNRの抗弁はいずれも理由がないとしました。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(「被告」はSNR、「原告」はNKSを指します。数字の表記は本記事の表記に改めています)。

  1. 被告は、原告に対し、2,310万円及びうち110万円に対する令和2年5月21日から、うち2,200万円に対する令和2年5月26日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。
  3. この判決は、仮に執行することができる。

判決は、「原告の請求には理由があるからこれを認容する」として、NKSの請求を全部認めました。判決本文は2,310万円の内訳を明示していませんが、着手金100万円及び成約報酬の最低金額2,000万円がいずれも消費税別とされていることからすると、それぞれに10パーセントの消費税相当額を加えた110万円と2,200万円の合計と考えられます(当事務所の理解)。遅延損害金の起算日は、着手金が本件基本合意の翌日、成約報酬が本件提携契約の翌日です。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、成約報酬の発生要件である「最終契約」の意味は、仲介依頼契約の文言、特に「企業提携」の定義と報酬条項の全体から解釈されたことです。本件では、企業提携の定義に業務一般に関する提携が含まれ、合併等以外の方法による企業提携の場合の報酬の定めもあったことが、業務提携契約も最終契約に含まれるとの解釈の根拠になりました。仲介依頼契約で企業提携を広く定義している場合、依頼者が株式の取得を予定していたとしても、業務提携契約の締結によって成約報酬が発生すると判断される可能性があります。

第2に、依頼者と相手先との基本合意で何を「最終契約」と位置付けていたかと、仲介依頼契約上の「最終契約」に当たるかは、別の問題とされたことです。本件では、本件基本合意が将来の株式取得の最終契約を予定していたにもかかわらず、本件提携契約が仲介依頼契約上の最終契約に当たると判断されました。依頼者の側からみると、相手先との間で今回の契約は第1段階にすぎないと合意していても、仲介会社との関係でも同じに扱われるとは限らないことになります。

第3に、取引の方針が変わった後の説明と、依頼者の反応が重視されたことです。担当者が方針の変更の際に業務提携でも成約報酬が発生すると述べたこと、依頼者が減額を求めながら報酬の発生自体には異議を述べなかったこと、その後も入金時期や減額、支払時期をめぐる交渉が続いていたことが、報酬の発生を依頼者が認識していた事情として扱われ、錯誤や信義則違反の主張を退ける理由にもなっています。仲介依頼契約の締結の際には、株式の譲渡の段階で成約報酬を支払うと説明されていたことも認定されていますが、判決は、その後の方針の変更の際の説明とやり取りを重視しています。報酬の減額や支払の猶予を求める交渉は、報酬の発生を前提とした行動と評価され得ることに注意が必要です。

第4に、業務提携契約が「一応完結した内容」で「それ自体として」依頼者に利益となるものであったこと、その後に仲介業務が予定されておらず双方が仲介業務の終了を認識していたことが、最終契約に当たるとの判断を支えたことです。仲介業務が終わっているかどうかという観点は、取引が複数の段階に分かれる場合の報酬の判断で重要な手掛かりになります。

第5に、契約書の内容を確認せずに押印したとの依頼者の代表者の供述は、成約報酬をめぐる交渉の経過と矛盾するとして信用されず、陳述書を含めて全体として信用できないとされたことです。

一般化できない点

本判決は、本件仲介依頼契約の具体的な文言と、方針の変更の経過、業務提携契約の内容に基づく判断です。企業提携の定義が株式の移転や事業の譲渡に限られている契約や、成約報酬の発生事由を株式譲渡契約の締結と明記している契約では、結論が異なり得ます。また、業務提携契約が実質的な内容を持たない形式的なものであった場合や、業務提携の後も仲介会社が株式取得に向けた業務を続けることが予定されていた場合には、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。

本件仲介依頼契約には、合併等以外の方法による企業提携の場合には、成約報酬の額を個別に協議のうえ決定する旨の定めがありました。判決は、この定めを業務提携も最終契約に含まれるとの解釈の根拠としつつ、成約報酬の額については、少なくとも最低報酬額である2,000万円の支払義務を負うとしています。協議による決定の定めと最低報酬額との関係について、判決は詳しい検討を示していないため、この点について一般論を導くことはできません。

本件提携契約は、その後、SNRによる錯誤取消しの意思表示を経て解消されていますが、判決は、業務提携の解消が報酬請求に与える影響について独立した検討を示していません。また、NKSは売主側のBKTの代表者DGW氏とも仲介依頼契約を結んでおり、ATK氏がBKTからの支払を条件に減額に応じる意向を示したことも認定されていますが、双方から依頼を受ける仲介の在り方やBKT側の報酬は、本件の争点になっていません。

中小M&Aガイドラインについては、判決は、NKSやATK氏の行動にガイドラインの内容に抵触するものがあったとは認められないとしただけで、ガイドラインに反する行動があった場合に報酬の請求が信義則違反や権利濫用となるかについての一般的な判断は示していません。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

依頼者の側では、仲介依頼契約に署名・押印する前に、「企業提携」の定義と報酬の発生事由を確認し、株式の取得を目的とするのであれば、業務提携や資本出資の段階で成約報酬が発生するのかどうかを明確にしておくことが考えられます。取引の方針が途中で変わった場合には、変更後の取引で報酬が発生するのか、発生するならいつ、いくらなのかを書面で確認し、合意できない点を残したまま次の契約に進まないことが大切です。

仲介会社の側では、方針の変更の際に、変更後の取引でも報酬が発生することと、その契約の締結で仲介業務が終了することを、書面やメールで明確に説明し、記録に残しておくことが考えられます。本件では、担当者の説明と依頼者の反応が認定されたことが、請求が認められた大きな理由になっています。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

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よくあるご質問

株式の取得を先送りして業務提携契約だけを結んだ場合でも、M&A仲介会社の成約報酬は発生しますか。

仲介依頼契約の定め方と、取引の経過によります。本判決では、仲介依頼契約の「企業提携」の定義に業務一般に関する提携が含まれていたこと、業務提携契約が完結した内容で依頼者に利益となるものであったこと、その後に仲介業務が予定されていなかったことなどから、業務提携契約の締結が成約報酬の発生要件である「最終契約」の締結に当たると判断され、最低報酬額2,000万円(消費税別)の支払が命じられました。

相手先との基本合意で、株式譲渡契約を最終契約と定めていれば、業務提携の段階では報酬は発生しないのではありませんか。

本判決は、相手先との基本合意にいう最終契約に当たるかどうかと、仲介依頼契約にいう最終契約に当たるかどうかは「別の問題」であるとしました。仲介会社に対する報酬の発生は、仲介依頼契約の文言に即して判断されます。

成約報酬の減額を交渉しただけでも、報酬の発生を認めたことになりますか。

減額の交渉だけで直ちに報酬の発生が決まるわけではありません。もっとも、本判決では、依頼者の代表者が減額を求めながら報酬の発生自体には異議を述べなかったこと、入金時期や支払時期をめぐる交渉をしていたことが、報酬の発生を前提とした行動として認定され、契約書の内容を確認しなかったとの供述を信用しない理由とされました。報酬の発生自体に異議がある場合は、その旨を明確に伝え、記録に残しておくことが大切です。

仲介会社の説明が中小M&Aガイドラインに沿っていなかった場合、報酬の支払を拒めますか。

本判決では、担当者が業務提携でも成約報酬が発生することを説明していたと認められ、ガイドラインの内容に抵触する行動があったとは認められないとされました。ガイドラインに反する行動があった場合の扱いについて、本判決は一般的な判断を示していません。説明の内容や時期が問題になる場合は、当時のやり取りの記録を具体的に整理して検討する必要があります。

業務提携を後で解消したり、錯誤を理由に取り消したりすれば、報酬を支払わなくてよいですか。

本件では、依頼者が相手先との業務提携契約について錯誤による取消しの意思表示をし、業務提携もその後解消されましたが、成約報酬の支払義務は認められました。錯誤の主張は、担当者の説明が認定されたことなどから退けられています。業務提携の解消が報酬に与える影響について、判決は独立した検討を示していません。

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関連する記事と相談のご案内

M&A仲介会社との間で、取引の形が途中で変わった場合の報酬の発生や、仲介業務がどこで終わったのかをめぐって意見が食い違った場合は、仲介依頼契約の定義条項と報酬条項の文言だけでなく、方針の変更の経過や報酬をめぐるやり取りを示すメール等の記録を整理して検討します。仲介会社・アドバイザーの義務が問題となる場面については、M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面で解説しています。当事務所の対応は、M&A仲介会社の対応についてのご相談でご案内しています。

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この記事の位置付け

M&A仲介会社と、その仲介で相手先と契約した依頼者の双方に向けて、予定していた株式取得を先送りし、当面は業務提携にとどめた場面の判例を、成約報酬の発生要件である最終契約の意味と仲介業務の終了の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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