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M&Aコンサルタントの成功報酬と売主である理事長個人の支払合意―東京地方裁判所令和5年1月30日判決

公開 2023年1月30日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面

医療法人の事業承継を支援したM&Aコンサルタントが、医療法人との間で成功報酬を定めた業務契約を結んでいたところ、最終的な取引は、医療法人自身ではなく、理事長個人が出資持分と関連会社の株式を譲渡し、退職慰労金を受け取る形で成立した。この場合、コンサルタントは誰に成功報酬を請求できるのでしょうか。また、報酬の算定の基礎となる取引対価には、出資持分の代金だけでなく、関連会社の株式の代金や退職慰労金も含まれるのでしょうか。

東京地方裁判所令和5年1月30日判決は、医療法人との業務契約に基づいて理事長個人が報酬を支払う義務は負わないとしつつ、取引対価の交渉の過程で、理事長がコンサルタントから成功報酬の7,000万円の減額の提案を受けて了解したことから、理事長個人が成功報酬を支払う旨の合意が成立したと認め、取引対価の総額89億3,000万円の3%から7,000万円を差し引いた1億9,790万円の支払を命じました。コンサルタントは、先に医療法人を相手に同じ報酬を請求して敗訴しており、本件はその後に理事長個人を相手に提起された訴訟です。M&Aの助言業務を行う立場の方にも、オーナーとして会社や法人を譲渡する立場の方にも、報酬の支払義務者と算定の基礎を契約でどう定めるか、交渉の過程での言動がどう評価されるかという両面で参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―医療法人と結んだ業務契約と、理事長個人が受け取った取引対価
    1. 高齢の理事長に事業承継を勧め、コンサルタントを紹介した
    2. 業務契約書と覚書―契約当事者は医療法人、報酬の料率は面談で決まった
    3. 買手側の提案は、株式譲渡・出資持分譲渡・退職慰労金の三本立て
    4. 総額が90億円を下回るなら止めてもよい―成功報酬の7,000万円減額の提案
    5. 中止の申入れと翻意、そして取引の実行
    6. 医療法人を被告とした先行訴訟での敗訴
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 業務契約書と覚書の定め
    1. 業務契約書1条―コンサルティング業務の委託
    2. 業務契約書3条(1)―成功報酬の支払
    3. 覚書1条―成功報酬の内容
  6. 原告の請求と当事者の主な主張
    1. RVCの請求
    2. 争点1―HYM氏が成功報酬の支払債務を負うか
    3. 争点2―成功報酬の額と算定の基礎
    4. 争点3及び4―商法512条に基づく報酬と消滅時効
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 重視された事実
    2. 判断の枠組み
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 業務契約に基づく請求―医療法人の契約は理事長個人の支払義務を定めたものではない
    2. 報酬支払合意―減額の提案に了解したことから、理事長個人が支払う合意を認めた
    3. HYM氏の否認―関係者の供述等による裏付けがあり、採用できない
    4. 算定の基礎―出資持分の対価だけではなく、総額89億3,000万円
    5. 認められた額―1億9,790万円
    6. 商法512条と消滅時効―判断の必要がないとされた
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 医療法人と結んだコンサルティング契約の報酬を、理事長個人が支払う義務を負うことはありますか。
    2. 成功報酬の減額の提案に了解しただけで、報酬を支払う合意が成立するのですか。
    3. 報酬の算定の基礎には、出資持分の代金だけでなく、関連会社の株式の代金や退職慰労金も含まれますか。
    4. 医療法人を相手にした訴訟で敗訴した後でも、理事長個人に報酬を請求できますか。
    5. 報酬の合意が認められない場合、商法512条に基づく報酬は請求できますか。
  13. 関連する記事と相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第25部
裁判日 令和5年1月30日
事件番号 令和2年(ワ)第28073号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(コンサルタント)の主位的請求2億6,790万円のうち、報酬支払合意に基づく1億9,790万円及び遅延損害金の限度で一部認容。その余の主位的請求及び予備的請求(商法512条)は棄却
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません
先行する別の訴訟 原告が医療法人を被告として同じ成功報酬を請求した訴訟(東京地方裁判所平成29年(ワ)第2493号。令和元年11月13日に請求棄却。控訴審の東京高等裁判所令和元年(ネ)第5192号は令和2年9月9日に控訴棄却、後に確定)。本判決の前提事実に記載された範囲でのみ紹介します

この表は、判決本文の冒頭、前提事実及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。先行する別の訴訟は、被告が異なる別の事件であり、本件の上訴審ではありません。その判決本文は当事務所では確認しておらず、本記事の記載は、本判決が前提事実として摘示した内容によります。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
経営コンサルティング会社RVC(以下「RVC」) 原告。企業経営に関する相談、分析及び計画等の助言等を目的とする株式会社で、医療法人の事業承継のM&Aコンサルタントを務めました
RVCの代表者WTN氏 RVCの代表取締役。買手候補の紹介、デュー・ディリジェンス、買手側との交渉を担当しました
売主である元理事長HYM氏(以下「HYM氏」) 被告。平成28年3月31日まで医療法人MDKの理事長を務め、当時、MDKの出資持分全部とメディカル・サービス法人LBSの発行済株式全部を保有していました
医療法人社団MDK(以下「MDK」) 診療所を経営し、検診等の事業を推進すること等を目的とする医療法人社団です。RVCとの業務契約の契約当事者です
メディカル・サービス法人LBS(以下「LBS」) 衛生検査所の運営等を目的とする株式会社で、MDKの医療機関の経理・財務・出納に係る業務代行等を事業目的とする、いわゆるメディカル・サービス法人でした
買主である医療コンサルティング会社QHC(以下「QHC」) 医療に関するコンサルティング及び情報提供等を目的とする株式会社で、HYM氏からLBSの株式全部を買い受けました。平成29年11月1日にLBSを吸収合併し、商号を変更しています
事業会社WVN、事業会社FNX QHCに出資していた会社です(QHCは、WVNの完全子会社とFNXの共同出資により設立されました)。判決は、WVN、FNX及びQHCを総称して用いており、本記事ではこれを「買手側グループ」と表記します
MDKの顧問KJM氏 MDKの顧問。HYM氏に事業承継を勧め、WTN氏を紹介し、業務契約書にMDKの印章を押印しました
MDKの相談役SND氏 MDKの相談役。KJM氏とともに事業承継を勧め、RVC及び買手側グループとの窓口を務めました

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。判決本文の数字は全角の算用数字で記載されているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。

事案の概要―医療法人と結んだ業務契約と、理事長個人が受け取った取引対価

高齢の理事長に事業承継を勧め、コンサルタントを紹介した

判決が認定した事実によれば、MDKの顧問KJM氏は、平成26年秋頃、理事長であったHYM氏が高齢となり、後継者もいなかったことから、相談役SND氏とともに、HYM氏に対しMDKの事業を第三者に承継するよう勧めるようになりました。KJM氏は、SND氏とHYM氏に対し、事業承継のコンサルタントとして、自らの知人であったRVCの代表者WTN氏を紹介しました。

WTN氏は、同年11月頃、MDKの事業を承継する企業の候補として事業会社WVNを紹介し、12月にはWVNとの協議を開始しました。また、同年12月から平成27年1月にかけて、MDKの財産的価値を算定するためのデュー・ディリジェンスを実施し、HYM氏とSND氏にその結果の概要を報告しました。

業務契約書と覚書―契約当事者は医療法人、報酬の料率は面談で決まった

RVCは、デュー・ディリジェンス等に先立ってMDKやHYM氏との間で契約書を作成していなかったことから、平成26年12月15日頃、SND氏に対し、後の業務契約書とほぼ同内容の契約書の案文をメールで送付しました。当時は成功報酬の料率について協議が調っておらず、案文の料率の欄は空欄でした。

平成27年2月9日、WTN氏は、MDKの事務所でHYM氏、SND氏及びKJM氏と面談し、業務契約書の記載内容を読み合わせて確認しました。WTN氏が成功報酬を取引対価の4%とするよう求めたのに対し、HYM氏は3%とするよう求め、最終的に、取引対価が100億円以上の場合は4%、100億円未満の場合は3%とすることで合意に至りました。HYM氏は、契約の締結に先立ち、KJM氏から成功報酬の相場は取引対価の5%であると告げられ、料率が高すぎるとの不満を述べていました。

判決は、業務契約の成立について、次のとおり認定しています。

「〔KJM氏〕は、同日、〔HYM氏〕の面前において、本件業務契約書等の末尾に〔MDK〕の印章を押印し、〔RVC〕と〔MDK〕の間で、本件業務契約が締結された。」

HYM氏は、業務契約書等はKJM氏がMDKの印章を権限なく使って作成したものであると主張していましたが、判決は、上記のとおり、RVCとMDKの間で業務契約が締結されたと認定しました。契約書の当事者は、あくまでRVCとMDKであり、HYM氏個人ではありません。

買手側の提案は、株式譲渡・出資持分譲渡・退職慰労金の三本立て

買手側グループは、平成27年7月2日、WTN氏とHYM氏に対し、MDKとLBSの評価額を90億円と想定していることや、今後のデュー・ディリジェンスの結果を踏まえて正式な事業譲受けのスキームを提案することなどを記載した意向表明書を交付し、同年8月頃から、MDKとLBSのデュー・ディリジェンスを実施しました。

その結果を踏まえ、買手側グループは、同年11月25日頃、WTN氏とSND氏に対し、取引対価の総額を89億3,000万円とし、その内訳を次のとおりとすることを提案しました。

  • HYM氏が保有するLBSの株式全部の譲渡の対価:55億8,000万円
  • HYM氏が保有するMDKの出資持分全部の譲渡の対価:13億5,000万円
  • MDKからHYM氏に支給する退職慰労金:20億円

つまり、医療法人MDKそのものが事業を譲渡して対価を受け取るのではなく、理事長HYM氏個人が、出資持分と関連会社の株式を譲渡して対価を受け取り、あわせて退職慰労金を受け取るという形でした。

総額が90億円を下回るなら止めてもよい―成功報酬の7,000万円減額の提案

HYM氏は、同年11月30日、取引対価の総額が90億円を下回るのであれば、事業承継を止めても構わないなどと述べました。これを受けて、WTN氏は、同日、WVNの担当者と協議したうえで、HYM氏に次の提案をし、了解を得ました。判決の認定は次のとおりです。

「〔WTN氏〕は、同日、〔HYM氏〕の上記意向を踏まえて〔WVN〕の担当者と協議し、〔RVC〕が支払を受けるべき成功報酬について、〔HYM氏〕が取引対価の総額を90億円とした場合と実質的に同額の経済的利益を得られるよう、取引対価の総額89億3000万円の3%に相当する額から7000万円を減額することとし、〔HYM氏〕にその旨を提案して了解を得た。」

取引対価の総額89億3,000万円と、HYM氏が求めた90億円との差額が7,000万円です。WTN氏は、同年12月3日、買手側グループにこの7,000万円の一部を負担するよう求めましたが、了解は得られませんでした。買手側グループは、同年12月8日、HYM氏に対し、総額89億3,000万円を前提に諸契約の手続を行うことを承諾するよう求め、HYM氏は12月9日に承諾しました。

中止の申入れと翻意、そして取引の実行

HYM氏は、平成28年2月12日、WTN氏と買手側グループに対し取引を中止したい旨を伝えましたが、買手側グループの担当者の説得により翻意しました。同年3月17日、HYM氏は、QHCとの間でLBSの株式全部を55億8,000万円で譲渡する株式譲渡契約を、LBSとの間でMDKの出資持分全部を13億5,000万円で譲渡する出資持分譲渡契約を、それぞれ締結しました。

同年3月31日、両契約が実行され、HYM氏は、QHCから株式の対価55億8,000万円、LBSから出資持分の対価13億5,000万円、MDKから退職慰労金20億円をそれぞれ受領しました。判決は、これらの取引を包括して「本件M&A」と呼んでいます。HYM氏は、同日まで理事長を務めていました。

医療法人を被告とした先行訴訟での敗訴

RVCは、平成29年1月26日、MDKを被告として、業務契約に基づく成功報酬2億6,790万円等の支払を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し、HYM氏はMDKに補助参加しました。同裁判所は、令和元年11月13日、RVCとMDKとの間で業務契約が締結されたことは認められるものの、RVCのMDKに対する報酬支払請求権が発生したとは認められないとして、請求を棄却しました。

RVCは控訴しましたが、東京高等裁判所は令和2年9月9日に控訴を棄却し、その判決は後に確定しました。本判決は、この控訴審判決の判断を前提事実として次のように摘示しています。

「本件業務契約書等においては、取引対価を取得する者が成功報酬を支払うことが想定されていたと解されるところ、「本件取引」が〔MDK〕の事業譲渡を指す場合には〔MDK〕が成功報酬の支払義務を負うべきものといえるが、「本件取引」が〔HYM氏〕の出資持分譲渡を指す場合に成功報酬の支払義務を負うべきものとされたのは、〔MDK〕ではなく、出資持分を譲渡してその取引対価を取得することとなる〔HYM氏〕個人であると解するのが相当であり、本件M&Aが〔MDK〕の出資持分譲渡という取引形態をスキームとして成立した以上、〔RVC〕の〔HYM氏〕に対する成功報酬の支払請求権はともかく、〔RVC〕の〔MDK〕に対する成功報酬の支払請求権が発生したとは認められない」

こうして、医療法人MDKに対する請求が退けられたことを受け、RVCは、令和2年11月5日、HYM氏個人を被告として本件訴訟を提起しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成26年秋頃 KJM氏とSND氏がHYM氏に事業承継を勧め、KJM氏がWTN氏をコンサルタントとして紹介
平成26年11月頃 WTN氏が承継先の候補として事業会社WVNを紹介。12月にWVNとの協議を開始
平成26年12月15日頃 RVCがSND氏に契約書の案文をメールで送付(成功報酬の料率は空欄)
平成26年12月から平成27年1月 WTN氏がMDKのデュー・ディリジェンスを実施し、HYM氏とSND氏に結果の概要を報告
平成27年2月9日 MDKの事務所での面談で料率を合意。KJM氏がHYM氏の面前でMDKの印章を押印し、RVCとMDKの間で業務契約が締結される
平成27年7月2日 買手側グループが、MDKとLBSの評価額を90億円と想定する意向表明書を交付
平成27年8月頃 買手側グループがMDKとLBSのデュー・ディリジェンスを開始
平成27年11月25日頃 買手側グループが総額89億3,000万円(株式55億8,000万円、出資持分13億5,000万円、退職慰労金20億円)を提案
平成27年11月30日 HYM氏が90億円を下回るなら止めても構わない旨を述べる。WTN氏が成功報酬を総額の3%から7,000万円減額することを提案し、HYM氏が了解
平成27年12月3日 WTN氏が買手側グループに7,000万円の一部負担を求めるが、了解は得られず
平成27年12月8日・9日 買手側グループが総額89億3,000万円を前提とする諸契約手続の承諾を求め、HYM氏が承諾
平成28年2月12日 HYM氏が中止を申し入れるが、買手側グループの説得により翻意
平成28年3月17日 株式譲渡契約(HYM氏とQHC)及び出資持分譲渡契約(HYM氏とLBS)を締結
平成28年3月31日 両契約を実行。HYM氏が株式の対価、出資持分の対価及び退職慰労金を受領。同日まで理事長
平成28年4月11日 RVCが主張する弁済期の翌日(主位的請求の遅延損害金の起算日)
平成29年1月26日 RVCがMDKを被告として先行訴訟を提起(HYM氏が補助参加)
平成29年11月1日 QHCがLBSを吸収合併
令和元年11月13日 先行訴訟の第一審判決(請求棄却)
令和2年9月9日 先行訴訟の控訴審判決(控訴棄却。後に確定)
令和2年11月5日 RVCがHYM氏を被告として本件訴訟を提起
令和4年7月8日 RVCが商法512条に基づく請求を追加する訴え変更申立書を提出(同月12日にHYM氏の訴訟代理人に送達)
令和4年11月7日 HYM氏が口頭弁論期日で、商法512条に基づく報酬支払請求権について消滅時効を援用
令和5年1月30日 東京地方裁判所が1億9,790万円の限度で請求を認容する判決

業務契約書と覚書の定め

以下は、判決本文が業務契約書と覚書の「定め」として掲げた記載を、判決本文の文言のまま引用したものです。契約書原本の条文をそのまま再現したものとは限りません。当事者の呼称は本記事の表記に置き換えています。

業務契約書1条―コンサルティング業務の委託

〔MDK〕は、〔RVC〕を〔MDK〕の出資金譲渡又は事業譲渡(以下「本件取引」という。)に関する〔MDK〕のM&Aコンサルタントに指名し、〔RVC〕は上記指名を受託する。

委託者はMDKであり、対象となる「本件取引」は、MDKの出資金譲渡又は事業譲渡とされていました。

業務契約書3条(1)―成功報酬の支払

〔MDK〕が、〔RVC〕の紹介にかかる候補企業と本件取引に関する契約を締結した場合、〔MDK〕は、本件取引に関するコンサルティング業務の対価として、〔RVC〕に対し、上記取引のクロージング日から10日以内に本件覚書に定める成功報酬を支払うものとする。

覚書1条―成功報酬の内容

〔MDK〕は、〔RVC〕に対し、本件業務契約の成功報酬につき、以下のとおり合意する。

(ア) 本件業務契約に係る弁護士、公認会計士等の費用は、成功報酬に含まれるものとする。
(イ) 候補企業との本件取引は、候補企業による取引対価の払込みをもってクロージングとする。
(ウ) 〔RVC〕の成功報酬は、取引対価(譲渡金額)に応じ、以下のとおりとする。
a 取引対価が100億円(税込)以上の場合、取引対価の4%(税込)とする。
b 取引対価が100億円(税込)未満の場合、取引対価の3%(税込)とする。

業務契約書と覚書は、いずれも、支払義務を負う者としてMDKだけを掲げています。他方で、報酬の額は「取引対価(譲渡金額)」に応じて定まるとされ、取引対価が誰に支払われるかは明示されていません。実際の取引では、取引対価を受け取ったのはMDKではなくHYM氏個人でした。この食い違いが、先行訴訟と本件訴訟を通じた争いの出発点になっています。

原告の請求と当事者の主な主張

RVCの請求

RVCは、HYM氏に対し、次の請求をしました。

  • 主位的請求:業務契約又はHYM氏との報酬支払合意に基づく成功報酬2億6,790万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成28年4月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
  • 予備的請求:商法512条に基づく報酬相当額2億6,790万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和2年11月22日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金

主位的請求の遅延損害金の利率は、平成29年法律第44号による改正前の民法404条所定の年5分とされています。本件の取引と報酬の弁済期は、令和2年4月1日の改正民法の施行より前です。

争点1―HYM氏が成功報酬の支払債務を負うか

RVCは、業務契約は取引対価に応じて報酬額を定め、支払期限をクロージング日から10日以内としているから、取引対価を得る者が報酬を支払うことを内容とするものであり、HYM氏は、出資持分や株式の譲渡のスキームが採られた場合には自らが報酬を支払う可能性があることを認識していたと主張しました。また、HYM氏は理事長として業務契約書等の内容を理解したうえで、KJM氏に押印させたのであるから、業務契約の効果はMDKだけでなくHYM氏にも帰属すると主張しました。

あわせてRVCは、HYM氏が取引対価の増額交渉を求め、平成27年11月30日には成功報酬を7,000万円減額する提案を了承し、その後も再三報酬の減額を求めたものの、平成28年2月5日には成功報酬の支払債務を自認する書面を作成し、同年3月31日には自らが定められた料率の報酬を支払うことを了承したと主張しました。そのうえで、遅くとも同年3月30日には、HYM氏個人が業務契約の料率による成功報酬を支払う旨の合意が成立していたと主張しました。

HYM氏は、平成27年2月9日当時は事業譲渡に否定的ないし消極的で、スキームや取引対価、報酬債務の内容や帰属主体は確定していなかった、業務契約書等はKJM氏がMDKの印章を権限なく使って作成したもので業務契約は成立していない、と主張しました。さらに、先行訴訟ではHYM氏が報酬の支払義務を負うことを明確に否定していたRVCが、本件で反対の主張をすることは信義則上許されないこと、仮に業務契約が成立していても当事者はRVCとMDKであり、HYM氏に効果は帰属しないことも主張しました。報酬支払合意についても、取引対価の増額や報酬の減額を求めたことも、減額の提案を受けたことも、支払債務を自認する書面を作成したこともないとして、合意の存在を否定しました。

争点2―成功報酬の額と算定の基礎

RVCは、HYM氏は合計89億3,000万円の取引対価を得たのであるから、その3%の2億6,790万円の報酬を支払う義務があると主張しました。取引対価は、デュー・ディリジェンスをもとに総額を決めたうえで、HYM氏の相続税対策等を考慮して出資持分の対価、株式の対価及び退職慰労金の3つの費目に分けて支払われたにすぎないから、全額が報酬の対象となるという主張です。予備的に、少なくとも7,000万円の減額を了承していた以上、1億9,790万円の支払義務を負うとも主張しました。

HYM氏は、仮に報酬の支払義務を負うとしても、業務契約書等で報酬の対象となるのはMDKの出資金譲渡又は事業譲渡に関する契約に限られるから、算定の基礎は出資持分の対価13億5,000万円にとどまると主張しました。

争点3及び4―商法512条に基づく報酬と消滅時効

RVCは、予備的に、買手候補の選定・紹介、デュー・ディリジェンス、取引対価やスキームの交渉など、HYM氏個人のためにコンサルティング業務を行ったとして、商法512条に基づく報酬相当額として2億6,790万円を請求しました。

これに対し、HYM氏は、業務の利益を享受したのはMDKであってHYM氏のためにした行為とはいえないと争ったうえで、商法512条に基づく報酬請求権は、取引が成立した平成28年3月31日から5年(平成29年法律第45号による改正前の商法522条参照)の経過により令和3年3月31日の経過をもって時効が完成したと主張し、消滅時効を援用しました。商法512条に基づく請求は、令和4年7月8日の訴え変更申立書で追加されたものでした。RVCは、業務契約に基づく請求と商法512条に基づく請求は基本的な請求原因事実を同一とし、経済的にみて同一の給付を目的としているから、本件訴えの提起により時効の中断(完成猶予)が認められると反論しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は争点を4つに整理しました。

  1. HYM氏の成功報酬支払債務の有無(主位的請求関係)
  2. 成功報酬の額(主位的請求関係)
  3. 商法512条に基づく報酬支払債務の有無(予備的請求関係)
  4. 消滅時効の成否(予備的請求関係)

結論を左右したのは、第1の争点のうち、業務契約とは別に、HYM氏個人が成功報酬を支払う旨の合意が成立したかどうかと、第2の争点のうち、その合意で報酬の算定の基礎とされた取引対価が総額の89億3,000万円か、出資持分の対価13億5,000万円だけかという点です。裁判所は、主位的請求のうち報酬支払合意に基づく請求を一部認めたため、第3の争点(商法512条)と第4の争点(消滅時効)については判断を示していません。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

重視された事実

判決は、前提事実に加えて、事案の概要で述べた経緯を認定しました。結論との関係では、特に次の事実が重視されています(判決本文の認定事実の要約です)。

  • 業務契約の締結時点では、最終的にMDKの出資持分の譲渡と事業譲渡のいずれの形態を採るかは確定していなかったこと。
  • 買手側グループの提案は、取引対価の総額を89億3,000万円とし、その内訳を株式の対価、出資持分の対価及び退職慰労金とする三本立てであったこと。
  • HYM氏が、総額が90億円を下回るなら事業承継を止めても構わないなどと述べて取引対価の増額を求めたこと。
  • WTN氏が、HYM氏が総額90億円の場合と実質的に同額の経済的利益を得られるよう、総額89億3,000万円の3%に相当する額から7,000万円を減額することを提案し、HYM氏の了解を得たこと。
  • HYM氏が、その後の12月9日に、総額89億3,000万円を前提とする諸契約手続の承諾をしたこと。

判断の枠組み

裁判所は、まず、医療法人MDKとの業務契約に基づいて、HYM氏個人が報酬の支払義務を負うかを、業務契約書と覚書の定めの解釈から検討しました。次に、業務契約とは別に、HYM氏とRVCとの間で報酬支払の合意が成立したかを、取引対価の交渉の過程でのやり取りから検討し、合意が認められる場合には、その合意がどの取引対価を前提とするものであったかから報酬の額を定めるという順序で判断しています。

各主張を採用し又は排斥した理由

業務契約に基づく請求―医療法人の契約は理事長個人の支払義務を定めたものではない

裁判所は、業務契約には、MDKがRVCの紹介に係る候補企業と本件取引に関する契約を締結した場合にMDKが成功報酬を支払う旨の定めがあり、覚書には報酬を取引対価に応じた額とする定めがあることを確認しました。そして、業務契約の締結時点ではスキームが確定していなかったことを認めつつ、次のとおり判断しました。

「本件業務契約及び覚書の定めは、〔MDK〕が〔RVC〕の紹介にかかる候補企業と本件取引に関する契約を締結し、当該候補企業から取引対価の支払を受けることを停止条件として、〔MDK〕が〔RVC〕に対して取引対価に応じた成功報酬を支払うことを定めたものと解するのが相当であり、〔HYM氏〕個人が〔RVC〕の紹介に係る候補企業と本件取引に関する契約を締結し、当該候補企業から取引対価の支払を受けた場合に、〔HYM氏〕が本件業務契約に基づいて取引対価に応じた成功報酬を支払うことを定めたものとは解されない。」

こうして、裁判所は、HYM氏が業務契約に基づく報酬支払債務を負うとは認めませんでした。HYM氏が理事長として契約内容を理解し、押印に立ち会っていたことや、出資持分の譲渡の場合に自らが報酬を負担する可能性を認識していたとのRVCの主張は、業務契約の効果をHYM氏個人に及ぼす理由としては採用されていません。なお、HYM氏が主張した、先行訴訟と矛盾する主張は信義則上許されないとの点について、判決は個別の説示をしていません。

報酬支払合意―減額の提案に了解したことから、理事長個人が支払う合意を認めた

次に、裁判所は、平成27年11月末頃の交渉の経過(買手側グループの総額89億3,000万円の提案、HYM氏が90億円を下回ることに難色を示したこと、WTN氏の7,000万円の減額の提案とHYM氏の了解)を認定し、次のとおり判断しました。

「〔HYM氏〕は、平成27年11月30日、〔RVC〕との間で、〔HYM氏〕個人が本件業務契約書等において定められた料率の成功報酬を支払うことを前提として、取引対価の総額89億3000万円の3%に相当する2億6790万円から7000万円を減額した1億9790万円を支払うことを合意したものと認めるのが相当である。」

合意の成立日は平成27年11月30日とされ、内容は、業務契約書等の料率(3%)による額から7,000万円を減額した1億9,790万円を、HYM氏個人が支払うというものです。RVCは、遅くとも平成28年3月30日には業務契約の料率どおりの報酬を支払う合意が成立したと主張していましたが、裁判所が認めた合意は、7,000万円の減額を織り込んだ1億9,790万円の合意でした。RVCが主張した平成28年2月5日の自認書面や同年3月31日の了承については、判決は認定していません。

HYM氏の否認―関係者の供述等による裏付けがあり、採用できない

HYM氏は、取引対価の増額や報酬の減額を求めたことも、減額の提案を受けたことも、自ら報酬を支払うことを了承したこともないと主張しました。裁判所は、HYM氏が90億円を下回るなら止めても構わないなどと述べて増額を求めたこと、WTN氏から7,000万円の減額の提案を受けて了解したことは、関係者の供述等によって裏付けられているとしたうえで、12月9日の承諾について次のとおり述べ、HYM氏の主張を採用しませんでした。

「〔HYM氏〕が、同年12月9日、本件M&Aに関する諸契約手続を行うことを承諾したのも、〔RVC〕に支払う成功報酬が7000万円減額されることによって、取引対価の総額を90億円とした場合と実質的に同額の経済的利益を得られるものと考えたためであって、〔HYM氏〕自身が成功報酬を支払うことが前提であると認められる」

報酬が減額されることでHYM氏が経済的利益を得るという関係は、報酬を負担するのがHYM氏自身である場合に初めて成り立ちます。裁判所は、この点から、減額の了解がHYM氏自身による報酬の支払を前提とするものであったと評価したといえます(この段落の後半は、判決の説示についての当事務所の理解です)。

算定の基礎―出資持分の対価だけではなく、総額89億3,000万円

HYM氏は、業務契約書等で報酬の対象となるのはMDKの出資金譲渡又は事業譲渡に限られるから、算定の基礎は出資持分の対価13億5,000万円にとどまると主張しました。裁判所は、減額の提案が総額89億3,000万円を前提としてその3%に相当する額から7,000万円を減額するものであり、HYM氏がその提案に了解したことを指摘し、次のとおり判断しました。

「〔HYM氏〕が本件出資持分譲渡の対価である13億5000万円のみを成功報酬の対象とすることを前提として報酬支払を合意したものとは認められないから、〔HYM氏〕の上記主張は採用することができない。」

ここで注意が必要なのは、裁判所が、算定の基礎を業務契約書等の「取引対価」の解釈として決めたのではなく、11月30日の合意の内容として決めていることです。RVCは、取引対価が3つの費目に分けられたのはHYM氏の相続税対策等のためにすぎないと主張していましたが、判決はこの点を認定して判断の理由としたわけではありません。株式の対価と退職慰労金が算定の基礎に含まれたのは、当事者が総額89億3,000万円を前提に減額を合意したと認められたからです。

認められた額―1億9,790万円

以上から、裁判所は、HYM氏はRVCとの合意に基づき、1億9,790万円の報酬支払債務を負うと判断しました。RVCが主位的に求めた2億6,790万円との差額7,000万円は、HYM氏が了解した減額の分であり、この部分の請求は棄却されています。

商法512条と消滅時効―判断の必要がないとされた

予備的請求について、裁判所は次のとおり述べ、商法512条に基づく報酬請求権の成否も、その消滅時効の成否も判断しませんでした。

「〔HYM氏〕は、〔RVC〕との合意に基づき成功報酬支払債務を負うものと認められ、これとは別に予備的請求としての〔RVC〕の〔HYM氏〕に対する商法512条に基づく報酬支払請求が認められる余地はないから、争点3及び争点4について判断する必要はない。」

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(ここでの「原告」はRVC、「被告」はHYM氏を指します)。

  1. 「被告は、原告に対し、1億9790万円及びこれに対する平成28年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
  2. 「原告のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。」
  3. 「訴訟費用はこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。」
  4. 「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」

業務契約に基づくHYM氏個人への請求は認められませんでしたが、平成27年11月30日の報酬支払合意に基づき、1億9,790万円と平成28年4月11日からの年5分の遅延損害金の限度で、RVCの請求が認められました。訴訟費用は、4分の3がHYM氏、4分の1がRVCの負担とされています。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、法人名義で結んだM&Aの業務契約は、その法人を支配するオーナーや理事長個人に当然に効力が及ぶものではないとされたことです。本判決は、業務契約書と覚書の定めを、契約当事者であるMDK自身が候補企業と契約を締結し、取引対価を受け取ることを停止条件としてMDKが報酬を支払う定めと解しました。理事長が契約内容を理解し、押印の場に立ち会っていたとしても、契約上の支払義務者が個人に置き換わるわけではありません。先行訴訟では、医療法人MDKに対する請求も、MDK自身が取引対価を受け取っていないことを理由に退けられており、契約上の支払義務者と、実際に取引対価を受け取る者が食い違うと、コンサルタントは契約に基づく報酬をどちらにも請求できないという事態になり得ます。

第2に、それでも、取引対価の交渉の過程での売主個人の言動から、個人が報酬を支払う旨の合意が認定されたことです。本判決では、売主が総額の増額を求め、コンサルタントが自らの報酬を減額して売主の手取りを確保する提案をし、売主がこれを了解したという経過が、売主自身が報酬を負担することを前提とする合意と評価されました。報酬の減額交渉に応じることは、報酬を誰が支払うのかについての意思を示す行為として評価され得るといえます。

第3に、報酬の算定の基礎が、出資持分の対価だけでなく、関連会社の株式の対価と退職慰労金を含む総額とされたことです。医療法人の事業承継では、売主が受け取る対価が、出資持分の対価、メディカル・サービス法人等の関連会社の株式の対価、退職慰労金などに分けられることがあります。本判決は、当事者が総額を前提に報酬の減額を合意したことから、総額を算定の基礎としました。対価の名目が分けられても、報酬の交渉が総額を基準に行われていれば、その総額が基礎とされる可能性があることを示しています。

第4に、訴訟の進め方の面でも示唆があります。RVCは、取引の実行から約10か月後に医療法人を被告として提訴し、控訴審まで争って敗訴した後に、理事長個人を被告として本件訴訟を提起しました。さらに、商法512条に基づく予備的請求は、取引の実行から6年以上経った令和4年7月に追加されたため、消滅時効の援用を受けています。本判決は主位的請求で結論を出したため時効の判断はされていませんが、誰に対し、どの法的根拠で請求するかを早い段階で検討しておくことの重要性がうかがわれます。

一般化できない点

本判決が理事長個人の支払合意を認めたのは、総額が90億円を下回るなら止めるとの発言、売主の手取りを90億円相当とするための7,000万円の減額の提案、その了解、総額を前提とする諸契約手続の承諾という、具体的な交渉の経過が関係者の供述等で裏付けられていたからです。法人の契約について個人が報酬を支払う合意が、一般に交渉の過程から推認されるわけではありません。

また、本判決は、業務契約書等の「取引対価」が株式の対価や退職慰労金を含むかどうかを、契約の解釈として判断したものではありません。総額が算定の基礎とされたのは、11月30日の合意の内容によるものです。契約書の文言だけで報酬の算定の基礎が争われる事案に、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。

商法512条に基づく相当報酬の成否と額、業務契約に基づく請求と商法512条に基づく請求との関係での時効の中断(完成猶予)の可否については、判断が示されていません。先行訴訟の控訴審判決は、出資持分の譲渡の場合に報酬の支払義務を負うべきとされたのは理事長個人であると解したと摘示されていますが、本判決は、業務契約に基づく理事長個人の支払義務を否定しており、両者の判断の関係を本判決は特に論じていません。この点からも、業務契約の定めの解釈についての一般論を導くことには慎重であるべきです。

本件は、平成29年の民法改正及び商法改正の前の法令が適用された事案です。主位的請求の遅延損害金は改正前の民法404条による年5分とされ、HYM氏が援用した5年の時効期間は、改正前の商法522条によるものです。現在の法令の下では、法定利率や時効期間の扱いが異なります。上訴の有無及び確定も確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

コンサルタントや仲介会社の側では、業務契約の締結の時点でスキームが確定していない場合に、法人が対価を受け取る取引になるか、オーナー個人が持分や株式を譲渡する取引になるかを想定し、いずれの場合にも報酬の支払義務者が明確になるよう、オーナー個人も契約当事者に加えるか、連帯して支払う旨の定めを置くことが考えられます。報酬の算定の基礎となる取引対価についても、持分や株式の対価のほか、関連会社の株式の対価、役員の退職慰労金その他売主側が受け取る経済的利益を含むかどうかを定めておくことが重要です。

売主の側では、法人名義の契約であっても、取引の形が個人の持分譲渡等になる場合に誰が報酬を負担するのかを、取引の前に確認しておくことが重要です。また、報酬の減額や手取額の調整の交渉は、自らが報酬を負担することを前提とする合意と評価される可能性があるため、交渉の際には報酬の負担者と算定の基礎を明確にし、書面に残しておくことが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

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よくあるご質問

医療法人と結んだコンサルティング契約の報酬を、理事長個人が支払う義務を負うことはありますか。

本判決は、医療法人を当事者とする業務契約は、医療法人自身が取引対価を受け取ることを条件に医療法人が報酬を支払う定めであり、理事長個人が出資持分を譲渡して対価を受け取った場合に理事長が業務契約に基づいて報酬を支払う定めではないとしました。もっとも、業務契約とは別に、理事長個人が報酬を支払う旨の合意が交渉の過程で成立したと認められ、その合意に基づく支払が命じられました。

成功報酬の減額の提案に了解しただけで、報酬を支払う合意が成立するのですか。

本判決では、売主が取引対価の増額を求め、コンサルタントが売主の手取りを確保するために自らの報酬を7,000万円減額する提案をし、売主が了解したという経過から、売主自身が報酬を支払うことを前提とする合意が認められました。報酬の減額によって経済的利益を得るのは報酬を負担する者であるという関係が重視されています。減額の了解が常に支払の合意とされるわけではなく、交渉の具体的な経過によります。

報酬の算定の基礎には、出資持分の代金だけでなく、関連会社の株式の代金や退職慰労金も含まれますか。

本判決では、取引対価の総額89億3,000万円(関連会社の株式の対価55億8,000万円、出資持分の対価13億5,000万円、退職慰労金20億円)が算定の基礎とされました。ただし、それは、当事者が総額を前提として報酬の減額を合意したと認められたためであり、業務契約書の「取引対価」の文言の解釈として示された判断ではありません。

医療法人を相手にした訴訟で敗訴した後でも、理事長個人に報酬を請求できますか。

本件では、コンサルタントが医療法人を被告とした先行訴訟で敗訴が確定した後、理事長個人を被告として本件訴訟を提起し、報酬支払合意に基づく請求が認められました。もっとも、先行訴訟と本件訴訟は被告が異なる別の訴訟であり、その間に時間が経過したことで、後から追加した商法512条に基づく請求には消滅時効が主張されました。請求の相手方と法的根拠は、早い段階で検討しておくべきです。

報酬の合意が認められない場合、商法512条に基づく報酬は請求できますか。

本件では、コンサルタントは予備的に商法512条に基づく報酬を請求しましたが、裁判所は、報酬支払合意に基づく請求を認めたため、商法512条に基づく請求と消滅時効の成否については判断していません。商法512条に基づく相当報酬が認められるかどうかは、行った業務の内容や、誰のための行為であったかなどにより、別に検討が必要です。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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