医療法人の買収を仲介した会社に減額合意後の仲介手数料2,200万円の支払を命じた事例―東京地方裁判所令和5年2月28日判決

仲介会社の紹介によって医療法人の出資持分と診療所の経営権を譲り受ける契約を結んだ買主が、仲介手数料の減額を求め、仲介会社もこれに応じて減額後の金額で合意したのに、その手数料を支払わなかった。この場合、仲介会社は減額後の手数料と遅延損害金を請求できるのでしょうか。
東京地方裁判所令和5年2月28日判決は、企業提携等の仲介の業務委託を受けた仲介会社が、買主に対し、減額後の仲介手数料2,200万円と遅延損害金の支払を求めた事案で、仲介会社が主張した請求原因事実はすべて認められるとして、請求の全部を認容しました。あわせて判決は、医療法人の唯一の出資者との間で出資持分譲渡契約が締結されたことから、その契約が有効に成立したと推認しています。
判決本文は短く、買主側の主張は記載されていません。本記事では、判決本文から分かる契約の内容、手数料の計算と減額の経緯、判決の判断を整理し、この判決から読み取れることと読み取れないことを区別して解説します。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第32部 |
|---|---|
| 裁判日 | 令和5年2月28日 |
| 事件番号 | 令和4年(ワ)第26761号 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 原告(仲介会社)の請求を全部認容。被告(買主)に2,214万4,657円及びうち2,200万円に対する令和4年10月20日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を命じ、訴訟費用は被告の負担。第1項について仮執行宣言 |
| 上訴の状況 | 上訴の有無及び確定は確認できていません |
この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 仲介会社KRS(以下「仲介会社KRS」) | 原告。買主HMTから、企業提携等の仲介についての業務委託を受けた株式会社です |
| 買主である会社HMT(以下「買主HMT」) | 被告。仲介会社KRSに業務を委託し、その紹介した案件で医療法人の出資持分等を譲り受ける契約を結んだ株式会社です。業種は判決本文に記載がありません |
| 売主である医療法人経営者NKS氏(以下「売主NKS氏」) | 複数の医療法人を経営する人物で、対象法人である医療法人社団RCMの唯一の出資者です |
| 対象法人である医療法人社団RCM(以下「医療法人社団RCM」) | 出資持分と、運営する診療所の経営権が譲渡の対象となった医療法人社団です |
判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。主文の引用では、「原告」は仲介会社KRS、「被告」は買主HMTを指します。判決本文の数字は全角の算用数字で記載されているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。
事案の概要―医療法人の買収が成立したのに、減額後の仲介手数料が支払われなかった
以下は、判決本文に記載された仲介会社KRSの主張(請求原因)の内容です。判決は、この請求原因事実を「全て認められる」としています(後記の裁判所の判断を参照)。
企業提携等の仲介についての業務委託契約
買主HMTは、令和4年2月25日付けで、仲介会社KRSに対し、買主HMTを当事者とする企業提携等の仲介についての業務を委託し、仲介会社KRSはこれを受託しました(判決本文はこの契約を「本件業務委託契約」と呼んでいます)。
本件業務委託契約には、買主HMTと、仲介会社KRSの紹介する企業(及びその株主等)との間で業務提携に関する契約が締結された場合に、買主HMTが仲介会社KRSに所定の仲介手数料を支払う旨の合意がありました。
医療法人の経営権を譲渡する案件の紹介と、出資持分譲渡契約の締結
仲介会社KRSは、本件業務委託契約に基づき、複数の医療法人を経営する売主NKS氏が運営する複数の法人及び事業所の経営権を譲渡する案件を、買主HMTに紹介しました。その結果、買主HMTは、売主NKS氏から、総額9億8,490万6,868円と試算される経営権の譲渡を受けることとし、令和4年7月10日付けで、売主NKS氏との間で出資持分譲渡契約を締結しました(判決本文はこの契約を「本件譲渡契約」と呼んでいます)。
判決は、証拠及び弁論の全趣旨により、本件譲渡契約の譲渡対象が医療法人社団RCMの出資持分及び同社団が運営する診療所の経営権であったこと、売主NKS氏が同社団の唯一の出資者であったことを認定しています。
仲介手数料の減額の合意と、支払の請求
本件業務委託契約の定めによって計算した仲介手数料の額は、4,883万5,902円でした。買主HMTから仲介手数料の減額の要望を受けた仲介会社KRSは、令和4年7月6日、仲介手数料の元金を2,200万円とする旨を提案し、買主HMTはその提案に合意しました。仲介会社KRSは、買主HMTに対し、同月31日までに2,200万円を支払うよう求めましたが、支払はありませんでした。
なお、判決本文には、買主HMTが減額の提案に合意した日や、合意の方法(書面か口頭か等)は記載されていません。また、出資持分譲渡契約で定められた実際の譲渡代金の額も記載されていません。
事案の経緯の時系列
| 日付 | 出来事(判決本文の請求原因及び判断による) |
|---|---|
| 令和4年2月25日付け | 買主HMTが仲介会社KRSに企業提携等の仲介についての業務を委託(本件業務委託契約) |
| (時期の記載なし) | 仲介会社KRSが、売主NKS氏の運営する法人及び事業所の経営権を譲渡する案件を紹介 |
| 令和4年7月6日 | 買主HMTの減額要望を受け、仲介会社KRSが仲介手数料の元金を2,200万円とする旨を提案。買主HMTがこれに合意(合意の日の記載なし) |
| 令和4年7月10日付け | 買主HMTと売主NKS氏が出資持分譲渡契約(本件譲渡契約)を締結 |
| 令和4年7月31日 | 仲介会社KRSが定めた2,200万円の支払期限 |
| 令和4年8月1日 | 遅延損害金の起算日(請求の日の後の日) |
| 令和4年10月19日 | 確定遅延損害金14万4,657円の計算の終期 |
| 令和4年10月20日 | 主文で、2,200万円に対する遅延損害金の起算日とされた日 |
| 令和5年2月28日 | 東京地方裁判所が請求を全部認容する判決 |
減額の提案(7月6日)は、出資持分譲渡契約の締結(7月10日付け)の前に行われています。
仲介手数料の定めと計算
手数料の発生についての合意
判決本文に記載された仲介会社KRSの主張では、本件業務委託契約の手数料の合意は、次のとおりとされています。契約書原本の条文をそのまま再現したものではなく、判決本文が請求原因として記載した内容です(当事者の呼称は本記事の表記に置き換えています)。
本件業務委託契約においては、〔買主HMT〕と〔仲介会社KRS〕の紹介する企業(及びその株主等)との間で業務提携に関する契約が締結された場合には、〔買主HMT〕が〔仲介会社KRS〕に対し、以下のとおりの仲介手数料を支払う旨の合意がある。
この記載に続く手数料の表は、判決本文では「表(省略)」とされており、料率表の全体は判決本文からは分かりません。
手数料の計算式
仲介会社KRSは、仲介手数料の額を、次の計算式により4,883万5,902円と主張していました(判決本文の記載のままです)。
5億円×0.05+4億8490万6868円×0.04+税
経営権の譲渡の試算額9億8,490万6,868円を、5億円の部分と、これを超える4億8,490万6,868円の部分に分け、前者に5%、後者に4%を乗じ、消費税を加えた計算です。当事務所で検算すると、5億円の5%は2,500万円、4億8,490万6,868円の4%は約1,939万6,275円で、その合計に10%の消費税を加えると約4,883万5,902円となり、主張の金額と一致します。取引金額の区分ごとに料率を変える段階的な料率表であったことがうかがわれますが、5億円を超える部分の上限や、最低手数料の定めの有無などは、表が省略されているため分かりません。
減額後の金額
減額後の仲介手数料の元金2,200万円は、上記の計算による4,883万5,902円の半分を下回る金額です。仲介会社KRSは、減額前の金額ではなく、合意した減額後の2,200万円を請求しました。
原告の請求と当事者の主な主張
仲介会社KRSの請求
仲介会社KRSは、本件業務委託契約に基づき、買主HMTに対し、次の支払を求めました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仲介手数料(元金) | 2,200万円(減額の合意後の金額) |
| 確定遅延損害金 | 14万4,657円(令和4年8月1日から同年10月19日まで、年3分) |
| その後の遅延損害金 | 2,200万円に対する令和4年10月20日から支払済みまで年3分 |
遅延損害金の割合は、判決本文では「民法所定の年3分の割合」とされています。令和2年4月1日に施行された改正後の民法の法定利率によるものです。確定遅延損害金14万4,657円は、2,200万円に年3分を乗じ、令和4年8月1日から10月19日までの80日分を日割りで計算した額(14万4,657円余り)と一致します(当事務所の検算です)。
仲介会社KRSの主張
仲介会社KRSの主張は、本件業務委託契約に基づいて案件を紹介し、その結果、買主HMTが出資持分譲渡契約を締結したから、業務提携に関する契約の締結という手数料の発生の要件を満たし、減額の合意によって元金は2,200万円となった、というものです。
買主HMTの主張
判決本文には、買主HMTの主張(請求原因に対する認否や反論)の記載はありません。また、判決本文の当事者の表示には、買主HMTの訴訟代理人の記載がありません。買主HMTが口頭弁論に出頭して争ったかどうかは、判決本文からは分かりません。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
結論を左右した争点
判決本文は、争点を整理する形をとっていません。判決が判断したのは、次の2点です。
- 仲介会社KRSが主張する請求原因事実(業務委託契約と手数料の合意、案件の紹介と出資持分譲渡契約の締結、減額の合意)が認められるか。
- 出資持分譲渡契約(本件譲渡契約)が有効に成立したといえるか。
第2の点は、手数料の発生の前提となる契約の締結に関わるもので、判決は「なお」として、譲渡対象と契約の相手方を確認したうえで判断を示しています。
裁判所が認定した事実と判断
請求原因事実はすべて認められる
判決は、まず、次のとおり判断しました。
「本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば、〔仲介会社KRS〕主張の請求原因事実は全て認められる。」
判決本文は、業務委託契約の締結、手数料の合意、案件の紹介、出資持分譲渡契約の締結、減額の合意の一つ一つについて、個別の証拠の評価を示していません。請求原因事実の全体を、証拠及び弁論の全趣旨によって認めるという判断です。
出資持分譲渡契約は有効に成立したと推認される
判決は、続けて、証拠及び弁論の全趣旨により、本件譲渡契約の譲渡対象は医療法人社団RCMの出資持分及び同社団が運営する診療所の経営権であったこと、買主HMTと同社団の唯一の出資者である売主NKS氏との間で本件譲渡契約が締結されたことを認定しました。そのうえで、次のとおり述べています。
「これらの事実関係によれば本件譲渡契約は有効に成立したものと推認され、これに反する証拠はない。」
仲介会社KRSの主張では、売主NKS氏は「複数の医療法人を経営する」人物で、「複数の法人及び事業所の経営権」を譲渡する案件とされていました。判決は、実際に締結された本件譲渡契約の譲渡対象を医療法人社団RCMの出資持分と診療所の経営権と特定し、契約の相手方が同社団の唯一の出資者であることを根拠に、契約の有効な成立を推認しています。
手数料と遅延損害金の支払義務
以上から、判決は、買主HMTが、本件業務委託契約に基づき、仲介会社KRSに対し、仲介手数料2,200万円と、請求の日の後である令和4年8月1日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金(令和4年10月19日時点の確定遅延損害金は14万4,657円)を支払う義務を負うと判断しました。
判決が判断を示していない点
判決本文には、次の点についての説示はありません。
- 出資持分譲渡契約が、手数料の発生の要件とされた「業務提携に関する契約」に当たるかどうかの解釈
- 減額の合意が、どのような方法で、いつ成立したか
- 手数料の算定の基礎とされた9億8,490万6,868円という試算額と、実際の譲渡代金との関係
- 医療法人の出資持分の譲渡に伴う医療法上の手続(社員や役員の変更等)の要否や履践の有無
判決は、これらを含む請求原因事実の全体を認め、契約の有効な成立について反対の証拠がないとして、請求を認容しています。
主文及び結論
判決の主文は、次のとおりです(ここでの「原告」は仲介会社KRS、「被告」は買主HMTを指します)。
- 「被告は、原告に対し、2214万4657円及びうち2200万円に対する令和4年10月20日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」
- 「訴訟費用は被告の負担とする。」
- 「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」
主文の2,214万4,657円は、仲介手数料の元金2,200万円と、令和4年10月19日までの確定遅延損害金14万4,657円の合計です。仲介会社KRSの請求は全部認められました。
判断の射程―参考となる点と一般化できない点
以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。
参考となる点
第1に、医療法人の出資持分と診療所の経営権の譲渡という形の買収でも、仲介会社の紹介によって契約が締結されれば、仲介の業務委託契約に基づく手数料の請求が認められた例であることです。医療法人は株式会社と異なり株式を発行しないため、出資持分のある医療法人社団の買収は、出資持分の譲渡の形をとることがあります。本判決は、そのような契約についても、唯一の出資者との間で締結されたことから有効な成立を推認し、手数料の発生を認めました。
第2に、手数料の減額を合意した場合には、減額後の金額が請求の基礎となったことです。本件では、料率表による計算額は4,883万5,902円でしたが、買主の要望を受けて仲介会社が2,200万円を提案し、買主が合意していました。仲介会社は減額後の金額を請求し、判決もその金額で支払を命じています。買主の側からみれば、減額に応じてもらった後に支払を怠ると、減額後の金額に遅延損害金を加えた支払を命じられることになります。
第3に、遅延損害金が、仲介会社が支払を求めた後の日から認められたことです。仲介会社は7月31日までの支払を求めており、判決本文は「請求の日の後である令和4年8月1日」から遅延損害金の支払義務を認めました。手数料の支払を求める際に、金額と期限を明示して請求しておくことの意味を示す例といえます。
一般化できない点
本判決の判決本文には買主の主張が記載されておらず、判決は、争点を整理して双方の主張を比較検討する形をとっていません。請求原因事実の全体を証拠及び弁論の全趣旨により認めたもので、手数料の発生要件の解釈や、減額の合意の成否について、争いがある場合の判断の基準を示したものではありません。
特に、手数料の発生の要件は「業務提携に関する契約」の締結とされていましたが、出資持分譲渡契約がこれに当たるかについて、判決は独立の検討を示していません。契約の文言、紹介の対象、締結された契約の種類について争いがある事案では、まずその条項の解釈が問題となり、本判決の結論をそのまま当てはめることはできません。
また、本判決は、医療法人の出資持分の譲渡について、唯一の出資者との間で契約が締結されたことから有効な成立を推認したものです。医療法上の手続や、出資者が複数いる場合、契約の有効性に争いがある場合の扱いについて、本判決から一般的な結論を導くことはできません。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。
契約や交渉で確認しておきたいこと
仲介会社の側では、手数料の発生の要件を「業務提携に関する契約」のように広い言葉で定める場合には、株式の譲渡のほか、医療法人の出資持分の譲渡、事業譲渡、経営権の取得等の契約が含まれることを明記しておくことが考えられます。手数料の算定の基礎となる金額(試算額か、実際の譲渡代金か)や、減額に合意した場合の金額と支払期限も、書面で確認しておくことが重要です。買主の側では、手数料の減額を求める場合に、減額後の金額、支払期限、支払の条件(契約の実行を条件とするか等)を明確にし、合意した内容に沿って支払を行うことが重要です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。
M&Aが成立しなかったのに、M&A仲介会社から手数料を請求された場合の対応は、次のページでご案内しています。
よくあるご質問
医療法人の出資持分を譲り受ける買収でも、仲介会社に手数料を支払う必要がありますか。
仲介の契約の定めによります。本判決では、買主と紹介先との間で業務提携に関する契約が締結された場合に手数料を支払う旨の合意があり、仲介会社の紹介した案件で医療法人の出資持分等の譲渡契約が締結されたことから、仲介会社の請求が全部認められました。
仲介手数料の減額に合意した後、支払をしないとどうなりますか。
本判決では、料率表による計算額は4,883万5,902円でしたが、減額後の2,200万円で合意しており、その2,200万円と、仲介会社が定めた支払期限の翌日からの年3分の遅延損害金の支払が命じられました。
仲介手数料の遅延損害金は、どの割合で、いつから発生しますか。
本判決では、民法所定の年3分の割合により、仲介会社が定めた支払期限(令和4年7月31日)の翌日である8月1日から遅延損害金が計算されました。契約に支払期限や遅延損害金の割合の定めがある場合は、その定めが問題になります。
この判決は、出資持分譲渡契約が「業務提携に関する契約」に当たると判断したのですか。
判決本文には、その点の独立の検討は示されていません。判決は、仲介会社が主張する請求原因事実が全て認められるとし、出資持分譲渡契約が有効に成立したと推認して請求を認容しました。買主側の主張は判決本文に記載されておらず、契約の文言の解釈に争いがある事案では、別に検討が必要です。
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