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フランチャイズ加盟店への事業譲渡と公序良俗違反・優越的地位の濫用の主張―東京地方裁判所令和5年3月30日判決

公開 2023年3月30日更新 2026年10月30日

▶ 株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果

フランチャイズ本部から直営店の事業を譲り受けた加盟店が、事業譲渡代金と過去の未払ロイヤリティ等を長期の分割で支払う覚書を結んだものの、その後に支払が滞り、本部から代金等の支払を請求された場面の判例です。加盟店側は、フランチャイズ契約も事業譲渡を含む覚書も、本部が優越的地位を濫用して結ばせたもので公序良俗に反し無効であると主張し、加盟店の代表者も、期限や極度額の定めのない根保証は無効であるなどと争いました。

東京地方裁判所令和5年3月30日判決は、加盟店側の主張をいずれも退け、加盟店とその代表者に対し、連帯して1億円及び遅延損害金の支払を命じました。本部の請求は、未払債権の一部として1億円を求めるもので、裁判所は、本部の債権の残額を1億2,250万0,959円と認定したうえで、請求の全部を認めています。判決は、本部が情報開示書面と収支シミュレーションを示して検討期間を与えたこと、覚書がロイヤリティの減額や分割払など加盟店の経営に配慮した内容であったこと、譲り受けた事業を統合した店舗が開設の月に黒字となっていたことなどを重視しました。

本記事では、事業譲渡を含む債務整理の覚書がどのような理由で有効とされたのか、代表者の個人保証がなぜ覚書の後も存続するとされたのかを、判決本文に沿って整理します。事業を譲り受けた後に収支の見通しが外れたと考えている方にも、事業を譲り渡して代金を分割で回収している方にも参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―直営店の事業を譲り受けた加盟店が、代金等の支払を求められた
    1. 温泉とリハビリテーションを組み合わせたデイサービスのチェーンに加盟した
    2. 売上が伸び悩み、本部はロイヤリティの減額や支払猶予で支援した
    3. 介護保険法の改正を前に、直営店の事業を譲り受けて店舗を統合した
    4. 新会社の設立、取締役の就任、仮差押えと契約の解除
    5. 株式譲渡の打診と、事業譲渡による承継の協議
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった契約条項
    1. 本件フランチャイズ契約33条1項―契約期間中の競業避止義務
    2. 本件フランチャイズ契約41条1項―重要な資本構成及び役員の変更
    3. 本件フランチャイズ契約44条1項―本部による契約解除
    4. 本件覚書―事業譲渡と債務の分割弁済
  6. 原告の請求と当事者の主な主張
    1. 本部KRHの請求と、裁判所が認めた額
    2. 加盟店側の主な主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 重視された事実
    2. 判断の枠組み―独占禁止法の優越的地位の濫用と、民法90条の公序良俗
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 本件フランチャイズ契約―情報開示、検討期間、加盟者の経験、開業後の支援を重視
    2. 本件覚書と事業譲渡―経営改善のための提案であり、シミュレーションも達成不可能ではなかった
    3. 信義則上の保護義務違反―仮差押えと解除は、加盟店側の契約違反を踏まえたもの
    4. SGW氏の根保証(1)―改正前の民法が適用され、極度額の定めがなくても直ちに無効ではない
    5. SGW氏の根保証(2)―覚書の当事者から外れたことは、保証の免除や解除を意味しない
    6. SGW氏の根保証(3)―覚書による債務も保証の範囲に含まれ、信義則による制限もない
    7. 未払債権の認定―請求書のない月の分と、解除後の出向料は認められなかった
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 譲渡側の収支見通しが外れて赤字になった場合、事業譲渡契約を公序良俗違反で無効にできますか。
    2. フランチャイズ本部と加盟店の間の契約は、優越的地位の濫用に当たれば無効になりますか。
    3. 新しい覚書に代表者が保証人として署名していなければ、以前の連帯保証はなくなりますか。
    4. 極度額の定めのない根保証は無効ですか。
    5. 本部が仮差押えをして店舗の運営が行き詰まった場合、本部の請求は信義則に反しますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第23部
裁判日 令和5年3月30日
事件番号 平成30年(ワ)第19080号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(フランチャイズ本部)の請求を全部認容。被告ら(加盟店及びその代表者)に対し、連帯して1億円及びこれに対する平成30年11月10日から支払済みまで年6%の割合による金員の支払を命じました。訴訟費用は被告らの負担。第1項について仮執行宣言
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません
関連する手続 本部が申し立てた債権仮差押えは平成30年9月4日に東京地方裁判所により取り消され、本部の保全抗告は平成30年12月26日に東京高等裁判所により棄却されています(判決本文の前提事実による)。これは保全手続であり、本件訴訟の上訴審ではありません

この表は、判決本文の冒頭、前提事実及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号や、店舗・チェーンの名称も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
フランチャイズ本部である介護事業会社KRH(以下「本部KRH」) 原告。介護保険法に基づく介護事業等を行う株式会社で、天然温泉を使った入浴サービスとリハビリテーションを組み合わせたデイサービス(通所介護)のフランチャイズチェーンの本部です。直営店も運営しています
加盟店である介護事業会社DSV(以下「加盟店DSV」) 被告。本部KRHとのフランチャイズ契約の締結に当たって設立された介護事業の株式会社で、本部KRHの直営店の事業を譲り受けました
加盟店の代表者で連帯保証人のSGW氏(以下「SGW氏」) 被告。加盟店DSVの代表者で、フランチャイズ契約上の債務等を連帯保証しました。介護福祉士及び介護支援専門員の資格を持ち、病院の通所リハビリテーション部門、特別養護老人ホームの通所部門、クリニックのデイケア施設長等を務めた経験があります
新会社である介護事業会社NWK(以下「新会社NWK」) SGW氏が本部KRHの事前の承諾を得ずに設立し、代表取締役に就任した介護事業等を目的とする株式会社です
取締役に就任した人物QRT氏(以下「QRT氏」) 本部KRHへの事前の報告なく、加盟店DSVの共同代表として取締役に就任した人物です。判決本文では「いわゆる整理屋として報道されている」人物とされています
フランチャイズ指導会社BNM 本部KRHが、フランチャイズ契約の情報開示や契約条件の設定について指導を受けた会社です
本部の関連会社である食事提供会社SKJ及びTKJ 加盟店DSVの店舗に昼食を提供していた本部KRHの関連会社です。本部KRHは両社から昼食代金の債権を譲り受けたと主張しました
本部の関連医療法人MDC 加盟店DSVとSGW氏が利用する携帯電話の料金を立て替えていた本部KRHの関連の医療法人です
当初店舗UMS 加盟店DSVが平成23年9月から平成28年4月まで運営したデイサービスの店舗です
譲渡対象店舗TKS 本部KRHの直営店で、本件の事業譲渡の対象となった店舗です
統合店舗NGS 当初店舗UMSを移転し、譲渡対象店舗TKSの利用者や従業員を引き継いで、加盟店DSVが平成28年5月に開設した店舗です
直営店WKB 本部KRHが、統合店舗NGSの内装・設備をそのまま引き継いで、平成30年2月以降に直営で運営している店舗です
競合事業所BLM 新会社NWKが、当初店舗UMSがあった場所で運営を始めたデイサービス事業所です

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。引用部分の数字は、判決本文の表記(全角の算用数字)のままとしています。判決本文が「本件FC契約」と呼ぶフランチャイズ契約は、本記事では「本件フランチャイズ契約」と表記します。

事案の概要―直営店の事業を譲り受けた加盟店が、代金等の支払を求められた

温泉とリハビリテーションを組み合わせたデイサービスのチェーンに加盟した

本部KRHは、介護保険部門で、温泉とリハビリテーションにより他店との差別化を図ったデイサービスのフランチャイズチェーンを立ち上げ、平成22年12月にフランチャイズの1号店を開設しました。判決の認定によれば、当時、デイサービスを行うとともに天然温泉を使った入浴介助とリハビリテーションを同時に行う試みは画期的であり、同種のサービスを提供する事業者は他に存在しませんでした。

本部KRHと加盟店DSVは、平成23年7月30日、本件フランチャイズ契約を締結しました。SGW氏は同日、加盟店DSVが本件フランチャイズ契約上及び施設を運営するに当たって本部KRHに対して負担する一切の債務を連帯保証する旨の書面に署名押印しました(以下「本件保証契約」)。この保証は、期限や極度額の定めのない根保証であり、無制限に主債務を連帯保証する内容でした。

本件フランチャイズ契約の契約期間は5年間で、加盟店が中途解約する場合には、平均ロイヤリティの24か月分相当額又は480万円のいずれか高い金額を違約金として支払うこと、契約終了後も2年間の競業避止義務を負うことが定められていました。ロイヤリティは当初、月間総売上高の8.5%であり、本件フランチャイズ契約に付随する温泉水の売買では、温泉水の代金は1リットル当たり10円とされていました(温泉水の代金は本部KRHの主張に基づく記載です)。

加盟店DSVは、平成23年9月から当初店舗UMSを運営しました。平成23年9月から平成28年3月までの間に、加盟店DSVは本部KRHに対し、少なくとも合計2,596万1,744円の未払債務を負担しています(この点は当事者間に争いがありません)。

売上が伸び悩み、本部はロイヤリティの減額や支払猶予で支援した

判決の認定によれば、本部KRHは、開業前の資金調達、事業収支の確認、人材教育、物件選定、人材採用等を支援し、開設後も、スーパーバイザーとして本部KRHのエリアマネージャーが毎月平均1回ほど店舗を訪れて巡回指導を行いました。加盟店DSVが内装工事の契約を結ぶ際には、加盟店DSVの資金力に不安があったことから、本部KRHが工事会社に請負代金相当額の630万円を保証金として預託しています。平成24年3月から5月の売上不振の際には、訪問の回数を増やし、本来は別途費用(1名1回当たり5万円)が生じるところを請求せずに支援しました。

判決は、当初店舗UMSが平成26年5月末期には黒字となって利益が出たと認定しています(判決本文には「開設後10か月程度した」との記載もありますが、時期は判決本文のとおり記載しています)。もっとも、利用者の獲得にはケアマネージャーへの営業が不可欠であるところ、当初店舗UMSでは当初の想定に比べて売上が伸び悩む状況が続きました。本部KRHは、スーパーバイザーの臨店費用の追加請求をしない、平成25年4月売上分からロイヤリティを8.5%から5%に減額する、ロイヤリティや温泉費用等の支払を猶予するなどの措置を講じました。加盟店DSVが支払を遅滞し始めても、本部KRHは直ちに支払を請求したり、契約を解除したりはしませんでした。

介護保険法の改正を前に、直営店の事業を譲り受けて店舗を統合した

平成27年秋頃、平成28年4月の介護保険法の改正により、定員18名以下の小規模な通所介護事業所は地域密着型通所介護事業所とされ、事業所所在地の市町村に指定・指導の権限が移り、利用者が生活圏域に在住している者に限られる見通しとなりました。当初店舗UMSも定員18名以下で、周辺都市からの利用者も多かったため、改正後は利用者と売上の大幅な減少が見込まれ、経営の改善が困難となる可能性がありました。

そこで本部KRHは、比較的大きな物件を借り上げ、当初店舗UMSと本部KRHの直営店である譲渡対象店舗TKSを統合する案を、加盟店DSVに提案しました。譲渡対象店舗TKSは営業黒字が続いている事業所で、平成26年10月期は売上4,199万4,327円・経常利益1,093万9,025円、平成27年10月期は売上4,292万1,298円・経常利益1,275万7,914円でした。判決本文の前提事実では、この提案は譲渡対象店舗TKSを「吸収合併すること」と表現されていますが、その内容は、会社の合併ではなく、本部KRHが新たに賃借する物件に当初店舗UMSを移転させ、譲渡対象店舗TKSの利用者や従業員を引き継いで、加盟店DSVが統合店舗NGSを新たに開設して運営するというものでした。

判決の認定によれば、本部KRHは、直ちに未払債務の支払を求めるより、支払猶予、経営支援、弁済条件の再設定を行って加盟店DSVの事業を立て直した上で返済を求めた方が回収金額の増大につながると考え、加盟店DSVの再建、自社のフランチャイズブランドの維持、債権回収を目的として、事業譲渡を含む覚書の締結を提案しました。事業譲渡代金3,002万4,000円は、譲渡対象店舗TKSの直近の経常利益が約1,000万円であったことを踏まえ、経常利益3年分を基準として、当事者間で協議して決められました。本部KRHは、統合店舗NGSの建物の敷金や内装工事費用等の合計3,095万円を立て替えて支払い、加盟店DSVの分割支払額を家賃比率10%になるよう設定しました。

加盟店DSVは、上記の統合により、事業譲渡代金、店舗の初期費用及び内装・設備工事費用として合計6,100万7,000円の債務を新たに負うことになるとの説明を受けた上で、平成28年4月15日付けで本部KRHと覚書を締結しました(以下「本件覚書」。そのうち事業譲渡の部分を「本件事業譲渡」)。本件覚書の当事者は本部KRHと加盟店DSVだけで、SGW氏は保証人として署名押印していません。加盟店DSVは平成28年5月から当初店舗UMSを閉鎖して統合店舗NGSに移り、運営を始めました。判決の認定では、統合店舗NGSは平成28年5月末には黒字化しています。

新会社の設立、取締役の就任、仮差押えと契約の解除

SGW氏は、本部KRHの事前の承諾を得ることなく、平成28年6月29日に新会社NWKを設立して代表取締役に就任し、新会社NWKは同年10月1日、当初店舗UMSがあった場所で競合事業所BLMの運営を始めました。また、加盟店DSVは、平成28年9月10日、本部KRHに事前に報告することなく、QRT氏を共同代表として取締役に就任させました。

本部KRHは、平成28年12月頃、新会社NWKによる競合事業所BLMの開業とQRT氏の就任を把握し、SGW氏に新会社NWKの取締役の辞任を、加盟店DSVにQRT氏の退任を求めましたが、いずれも従われませんでした。SGW氏は平成29年4月27日、経営面をQRT氏に一任するため直接話をすることはできない旨をメールで伝え、以後はQRT氏とやり取りするよう一方的に伝えました。本部KRHが同年6月6日に未払金等の支払を求めても、入金はありませんでした。平成29年8月末日の時点で、加盟店DSVは本部KRHに対し、少なくとも総額1億0,525万9,039円の債務を負っていました(この点は当事者間に争いがありません)。

平成29年9月25日に所管の区の介護保険課による指導と事情聴取が行われましたが、経営改善の見込みはありませんでした。本部KRHは、協議の継続は困難と判断し、翌26日付けで本件覚書に記載された債務の一部を被保全債権として債権仮差押えを申し立て、同月28日、加盟店DSVの預金債権や介護給付費を仮に差し押さえる決定がされました(以下「本件仮差押え」)。これにより介護給付費等の支払が止まり、加盟店DSVの施設運営は行き詰まりました。本部KRHは、同年10月11日、本件フランチャイズ契約を直ちに解除するとともに、未払の転貸賃料を1週間以内に支払わなければ店舗の転貸借契約も解除するとの意思表示をしました(以下、これらの解除を併せて「本件解除」)。

株式譲渡の打診と、事業譲渡による承継の協議

加盟店側は、平成29年10月25日、本部KRHに対し、加盟店DSVの株式の譲渡を持ち掛けました。本部KRHは、加盟店DSVに簿外債務が多数存在する可能性があると考え、株式譲渡ではなく、事業譲渡の方法による事業承継について協議しました。同じ頃、SGW氏は、代表取締役を辞任して退職金1,200万円を受領すること、QRT氏に加盟店DSVの全株式を贈与すること、統合店舗NGSの利用者を新会社NWKに移転させることなどを検討しましたが、実行には移されませんでした。

SGW氏は同年11月16日に統合店舗NGSの廃業届を提出し、区の介護保険課の要望を受けて、同月30日には、区の介護保険課の立会いの下で、本部KRHが事業を引き継ぐことの合意がされました。しかし、SGW氏は12月4日にQRT氏の解任の中止と交渉の決裂を連絡し、その後、双方が代理人弁護士に交渉を依頼して、12月15日に店舗の明渡しの合意に至りました。統合店舗NGSは閉鎖されて本部KRHに引き渡され、本部KRHは、内装・設備等をそのまま引き継いで、平成30年2月以降、直営店WKBとして運営しています。判決の認定では、直営店WKBは安定的に黒字を計上しています。

本部KRHは、平成30年6月14日に本件訴訟を提起しました。他方、加盟店DSVは本件仮差押えに対して起訴命令の申立てをし、本部KRHが所定の期間内に本案訴訟の提起を証する書面を提出しなかったことから保全取消しを申し立て、本件仮差押えは平成30年9月4日に取り消されました。本部KRHの保全抗告は、同年12月26日に東京高等裁判所により棄却されています。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成22年12月 本部KRHがフランチャイズの1号店を開設
平成23年7月1日 本部KRHが加盟店DSVに情報開示書面を交付(本件フランチャイズ契約の前文の記載による)
平成23年7月30日 本件フランチャイズ契約を締結。SGW氏が本件保証契約(期限・極度額の定めのない根保証)の書面に署名押印
平成23年9月 加盟店DSVが当初店舗UMSの運営を開始
平成24年3月から5月 売上不振。本部KRHがスーパーバイザーの臨店を増やし、追加費用を請求せずに支援
平成25年4月売上分から ロイヤリティを8.5%から5%に減額
平成26年5月末期 当初店舗UMSが黒字となる
平成27年秋頃 介護保険法の改正の情報。本部KRHが当初店舗UMSと譲渡対象店舗TKSの統合を提案
平成28年3月末 加盟店DSVの未払債務が少なくとも2,596万1,744円
平成28年4月15日付け 本件事業譲渡を含む本件覚書を締結(SGW氏は保証人として署名押印せず)
平成28年4月20日付け 什器・備品等の物品売買契約
平成28年5月1日 本件事業譲渡の譲渡日。加盟店DSVが統合店舗NGSを開設(同月末には黒字化)
平成28年6月29日 SGW氏が本部KRHの承諾なく新会社NWKを設立し、代表取締役に就任
平成28年9月10日 加盟店DSVが本部KRHへの事前の報告なく、QRT氏を共同代表として取締役に就任させる
平成28年10月1日 新会社NWKが当初店舗UMSの跡地で競合事業所BLMの運営を開始
平成28年12月頃 本部KRHが競業避止義務違反とQRT氏の就任を把握し、辞任・退任を求めるが従われない
平成29年4月27日 SGW氏が、経営面をQRT氏に一任するため直接話はできない旨をメールで伝える
平成29年6月6日 本部KRHが未払金等の支払を求めるが、入金なし
平成29年8月末日 加盟店DSVの債務が少なくとも総額1億0,525万9,039円
平成29年9月25日 区の介護保険課による指導と事情聴取
平成29年9月26日付け・28日 本部KRHが債権仮差押えを申し立て、28日に仮差押決定。介護給付費等の支払が止まる
平成29年10月11日 本件解除(本件フランチャイズ契約の即時解除と、転貸借契約の催告解除の意思表示)
平成29年10月25日 加盟店側が株式譲渡を持ち掛け、本部KRHは事業譲渡の方法による承継を協議
平成29年11月16日 SGW氏が統合店舗NGSの廃業届を提出
平成29年11月30日 区の介護保険課の立会いの下、本部KRHが事業を引き継ぐことの合意(12月4日にSGW氏が交渉の決裂を連絡)
平成29年12月15日 代理人間の交渉により、統合店舗NGSの明渡しの合意
平成29年12月16日・17日 統合店舗NGSを閉鎖し、17日に本部KRHへ引渡し(判決の認定事実の部分では、17日に閉鎖されたと記載されています)
平成30年2月以降 本部KRHが直営店WKBを開設・運営
平成30年6月14日 本部KRHが本件訴訟を提起
平成30年9月4日 本件仮差押えの取消し(保全取消し)
平成30年11月9日 訴状が被告らに送達(遅延損害金の起算日は翌10日)
平成30年12月26日 東京高等裁判所が本部KRHの保全抗告を棄却
令和5年3月30日 東京地方裁判所が本部KRHの請求を全部認容する判決

判断の前提となった契約条項

本件フランチャイズ契約33条1項―契約期間中の競業避止義務

以下の3つの条項は、判決本文に記載された条項の文言を、そのまま引用したものです。判決本文では当事者が「原告」「被告会社」と表記されているため、本記事の表記に置き換えています。

〔加盟店DSV〕は、その名義・態様の如何を問わず、〔本部KRH〕の事前の文書による承諾無き限り、直接又は間接的に、本FCチェーン事業と同種又は類似の営業ないし営業の部類に属する取引を行ってはならないのみならず、第三者をして行なわせてはならないものとする。

本件フランチャイズ契約41条1項―重要な資本構成及び役員の変更

〔加盟店DSV〕は、その代表者又は役員もしくは株主を変更しようとする場合、〔本部KRH〕に対し、事前にその旨を書面により詳細に報告しなければならない。

本件フランチャイズ契約44条1項―本部による契約解除

〔加盟店DSV〕に、次の各号に定める事由が一つでも発生したとき、〔本部KRH〕は何ら催告することなく直ちに本件FC契約を解除することができる。

判決本文は、この各号の事由として「ロイヤルティ又は物品購入代金の支払が2回以上遅滞したとき」「第33条(競業避止義務)に違反したとき」等を挙げています。

本件覚書―事業譲渡と債務の分割弁済

以下は、判決本文が「次の内容の」覚書として整理した記載に基づくものです。覚書の原文をそのまま再現したものではありません。判決本文の「平成33年」「平成38年」との表記は、そのまま記載しています。

(1)本件フランチャイズ契約で定められたロイヤリティ8.5%を、平成25年4月分より5%に減額する。
(2)譲渡対象店舗TKSの事業を平成28年5月1日付けで加盟店DSVに譲渡価格3,002万4,000円で売却する。
(3)本部KRHが、統合店舗NGSの建物の賃貸借に関して、敷金、礼金、仲介手数料、保証料、前家賃及び設計料等の合計998万3,000円並びに内装工事費用等2,100万円の合計3,095万9,000円を支払ったことを確認する。加盟店DSVは本部KRHから建物を借り受け、統合店舗NGSを開設する。
(4)上記3,095万9,000円については、平成28年5月から平成33年4月まで(5年間・60回払)、分割金月額51万5,983円を、店舗の原賃料70万2,000円に上乗せして転貸賃料として支払う(合計121万7,983円)。
(5)5,666万6,144円(事業譲渡代金3,002万4,000円、統合店舗NGSの運営に必要な物品購入代金68万0,400円及び平成28年3月末時点の未払債務2,596万1,744円)については、平成28年5月から平成38年4月まで(10年間・120回払)、分割金月額47万2,217円を支払う。

(3)の金額は判決本文の記載のとおりです。998万3,000円と2,100万円の和は3,098万3,000円ですが、判決本文は、立替諸経費の請求を認める箇所で「合計3098万3000円のうち3095万9000円」と記載しています。

事業譲渡代金は、譲渡対象店舗TKSの経常利益3年分を基準として決められ、それまでの未払債務と合わせて10年間の分割払とされました。店舗の初期費用と内装工事費用は本部KRHが立て替え、転貸賃料に上乗せして5年間で回収する仕組みです。また、温泉水の代金は、本部KRHの主張によれば、本件覚書に基づき平成28年5月分以降は1リットル当たり5円とされていました。

原告の請求と当事者の主な主張

本部KRHの請求と、裁判所が認めた額

本部KRHは、加盟店DSVに対しては本件フランチャイズ契約、これに付随する契約、本件覚書等に基づき、SGW氏に対しては本件保証契約に基づき、連帯して、未払債権の残額1億3,743万7,678円の一部である1億円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成30年11月10日から支払済みまで、判決本文のいう「平成29年法律第45号による廃止前の商事法定利率である年6%」の割合による遅延損害金の支払を求めました。請求債権の内訳と、裁判所が認めた額は次のとおりです。

請求債権 請求額 認定額 差額の理由
ロイヤリティ等(本件フランチャイズ契約) 2,067万9,930円 1,824万5,451円 請求書がない月の分243万4,479円を控除
温泉水の配湯料、温泉保守料、リース料、立替費用等 1,975万9,340円 1,415万6,662円 請求書がない月の分560万2,678円を控除
出向料(出向契約) 3,385万0,274円 3,067万5,782円 請求書がない月の分26万3,807円を控除。本件解除後の平成29年10月分から12月分は、出向契約も解除されたとして否定
昼食代金(関連会社から譲り受けた債権) 1,234万0,310円 861万5,240円 判決本文は861万5,240円の支払請求権を認めるにとどまり、差額についての理由の説示はありません
事業譲渡代金(本件覚書) 3,002万4,000円 3,002万4,000円 ―
什器・備品等の売買代金 68万0,400円 68万0,400円 ―
転貸賃料等(平成29年10月分以降は転貸賃料相当損害金) 2,380万9,603円 2,380万9,603円 ―
立替金(人材紹介手数料2件、車検費用、携帯電話料金) 146万1,522円 146万1,522円 ―
店舗の初期費用・内装工事等の立替諸経費のうち、転貸賃料で回収されていない残額 2,087万2,365円 2,087万2,365円 ―
合計 1億6,347万7,744円 1億4,854万1,025円 ―
既払金の控除後 1億3,743万7,678円 1億2,250万0,959円 既払金2,604万0,066円を控除

立替諸経費の残額は、立替額3,095万9,000円から、転貸賃料のうち原賃料を超える上乗せ分(月額51万5,983円)の19か月分と、17日分の日割り額を差し引いて計算されています。本部KRHが請求したのは1億円の一部請求であり、裁判所の認定額はこれを上回っています。

加盟店側の主な主張

加盟店DSVとSGW氏は、請求債権の発生そのものよりも、契約の効力と請求の当否を争いました。主な主張と本部KRHの反論は次のとおりです。

論点 加盟店DSV・SGW氏の主張 本部KRHの主張
本件フランチャイズ契約の効力 加盟金100万円、開業支援金200万円、保証金100万円を支払い、初期投資に約1,350万円を支出しており、違約金や契約終了後の競業避止義務もあって取引先の変更は事実上不可能であった。不正確かつ過大な収支見通しの説明を受け、赤字の不利益をすべて負う内容であり、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)に当たり、情報格差に乗じた暴利行為として公序良俗に反し無効である 契約を結ぶかは自由意思で決定できた。SGW氏は介護業界で約13年の経験を持ち、物件も自ら主導して選定するなど対等以上の関係にあった。合理的かつ保守的な収支計画を説明し、契約条件もフランチャイズ指導会社BNMの指導に基づいて設定し、十分な検討期間を与えた
本件覚書(事業譲渡を含む)の効力 多額の負債を抱え取引先の変更が困難な状況で、本件フランチャイズ契約の対象ではない直営店の事業の譲受けを強制された。事業を拡大すれば累積債務の返済が可能となるとの収支見通しは外れ、本部は費用を負担せずに利益だけを得る内容であり、優越的地位の濫用に当たり、窮状に乗じた暴利行為として公序良俗に反し無効である 加盟店の経営を改善するために提案し、何度も話し合って内容を十分に説明した結果、加盟店側も締結を望んだ。合理的かつ保守的な収支計画を説明し、契約条件にも多大な配慮をし、締結の前後を通じて指導・支援をした
信義則上の保護義務違反 過大な収支見通しや楽観的な収益見通しを説明して多大な債務を負わせた。指導援助すべき立場にありながら一方的に仮差押えをして施設運営を破綻させ、初期投資を負担させた店舗の設備をそのまま使って直営店WKBを運営しており、請求は信義則に反する 採算の取れそうな直営店の事業譲渡の提案、ロイヤリティ率の見直し、人員の出向など様々な配慮をした。仮差押えは、加盟店が義務を怠り、違法な手段で支払を免れようとしたためやむを得ず行った
SGW氏の根保証の効力 極度額の定めのない個人根保証は改正前の民法の下でも無効と解すべきであり、優越的地位の濫用として公序良俗にも反する。本件覚書は、SGW氏が著しく多額の債務を保証するのは相当でないとの双方の認識からあえてSGW氏を外して結んだもので、保証債務の免除と保証契約の解除があった。少なくとも請求は信義則により制限される 改正前の民法では、根保証の規律は貸金等債務に限られ、極度額の定めは不要であった。債務の拡大はSGW氏の経営判断と経営改善の努力を怠ったことによる。保証債務を免除し、保証契約を解除する意思はなかった

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を、(1)加盟店DSVの本部KRHに対する未払債務、(2)優越的地位の濫用及び公序良俗違反、(3)信義則上の保護義務違反、(4)SGW氏の個人根保証債務の無効等の4つに整理しました。

結論を左右したのは、第2の争点で、本件フランチャイズ契約と事業譲渡を含む本件覚書が優越的地位の濫用や公序良俗違反により無効となるかという点です。これが否定されたことで、ロイヤリティや事業譲渡代金等の債権が存在することが前提となりました。また、SGW氏については、第4の争点で、極度額の定めのない根保証の効力と、SGW氏が当事者とならなかった本件覚書による保証の免除の有無が問題となりました。第1の争点では、債権の一部が証拠不足等で認められなかったものの、認定額の合計が1億円の一部請求を上回ったため、請求の全部が認められています。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

重視された事実

判決は、前提事実に加えて、事案の概要で述べた経緯を認定しました。結論との関係で特に重視されたのは、次の事実です(判決本文の認定事実の要約です)。

  • 本部KRHは、フランチャイズ指導会社BNMの指導に基づき、情報開示書面を開示し、当初店舗UMSの収支シミュレーション(以下「本件シミュレーション」)を説明しました。売上は、直営店とフランチャイズ1号店の売上高を参考にしつつ、一般的な稼働率、営業日数を想定し、当時の介護報酬の基本報酬・加算報酬から算出したもので、経費も同様に、想定される人件費、家賃、ロイヤリティその他の経費を説明しました。週5日稼働と週6日稼働の月次収支プランも作成して説明しています。
  • 加盟案内には、「当該シミュレーションは収入や支出を保証するものではありません」「週5・週6プランもあり、売上・支出・営業利益等は変化します」との記載があり、本部KRHはこれについても説明しました。
  • 本部KRHは、情報開示書面の交付と収支の説明の後、加盟店DSVに2週間以上の検討期間を与え、その同意を得て本件フランチャイズ契約を締結しました。
  • 本件覚書の締結時にも、本部KRHは、直営店や他の加盟店の売上を参考にしつつ、統合店舗NGSの条件を前提とした収支シミュレーションを説明しました。
  • 統合店舗NGSは平成28年5月末には黒字化し、本部KRHが引き継いだ後の直営店WKBも安定的に黒字を計上しています。同様の仕組み(定員30名のデイサービスを1日3回転させる仕組み)で運営する本部KRHの他の直営店やフランチャイズ1号店も黒字運営となっています。
  • 本部KRHは、本件覚書の締結後も、スーパーバイザーによる無償の臨店、ロイヤリティの減額の継続、月に数回の打合せなどの支援を行いました。

判断の枠組み―独占禁止法の優越的地位の濫用と、民法90条の公序良俗

加盟店側は、本件フランチャイズ契約と本件覚書が独占禁止法2条9項5号の優越的地位の濫用に当たり、民法90条の公序良俗に反して無効であると主張しました。判決は、独占禁止法19条が「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定め、同法2条9項5号が不公正な取引方法の一つとして、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、継続して取引する相手方に取引に係る商品又は役務以外のものを購入させること、経済上の利益を提供させること、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること等を定めていることを確認しました。

そのうえで判決は、本件フランチャイズ契約と本件覚書のそれぞれについて、(1)契約が自由な意思に基づいて締結されたか、(2)情報開示や収支シミュレーションの説明が適切であったか、(3)契約の内容や締結後の支援が加盟店の経営に配慮したものであったか、という観点から、優越的地位を濫用した正常な商慣習に照らして不当な取引方法に当たるか、及び情報格差や窮状に乗じた一方的な搾取として公序良俗に反するかを検討しています。なお、判決は、優越的地位の濫用に当たる場合に契約が直ちに私法上無効となるかという一般論は示していません。いずれも、前提となる濫用や搾取が認められないとして主張を退けています。

各主張を採用し又は排斥した理由

本件フランチャイズ契約―情報開示、検討期間、加盟者の経験、開業後の支援を重視

判決は、まず、本件フランチャイズ契約は「原告と被告らの自由な意思に基づいて新たに締結されたものである」と述べました(「原告」は本部KRH、「被告ら」は加盟店DSV及びSGW氏を指します)。そのうえで、次の事情を挙げています。

  • 本部KRHが、フランチャイズ指導会社BNMの指導に基づき、情報開示書面を開示して情報提供を行い、本件シミュレーションを説明したこと
  • 加盟店DSVに十分な検討期間を与えたこと
  • SGW氏が介護業界に長年携わり、デイケア施設の施設長も務めていたこと
  • 本部KRHが開業支援と開店後の臨店による巡回指導を行い、売上不振時には臨店回数を増やしたり、未払債務の支払を猶予したりするなどの支援を行い、その結果、平成26年5月期の当初店舗UMSの売上は黒字であったこと

これらを踏まえて、判決は次のように判断しました。

「本件FC契約の締結が、上記法所定の優越的地位を濫用した、正常な商慣習に照らして不当な取引方法に当たるとは認められない。また、〔本部KRH〕が〔加盟店DSV〕との情報格差に乗じて、本件FC契約を締結し、経済的弱者である〔加盟店DSV〕を一方的に搾取したと認めることもできず、本件FC契約が公序良俗に違反するものとも認められない。」

加盟店側が主張した加盟金や開業支援金、違約金、契約終了後の競業避止義務等の条項について、判決は個別に評価を示していません。判決の判断は、契約締結の過程と締結後の支援の状況を中心に組み立てられています。

本件覚書と事業譲渡―経営改善のための提案であり、シミュレーションも達成不可能ではなかった

事業譲渡を含む本件覚書について、判決は、本部KRHが、介護保険法の改正を控えて当初店舗UMSの経営改善が難しくなる可能性を踏まえ、その立て直しを図るために、営業黒字が続いている譲渡対象店舗TKS(直近の経常利益は年約1,000万円)の事業譲渡を伴う統合店舗NGSの開設を提案したものであると認定しました。そして、次のように述べています。

「本件事業譲渡を含む本件覚書は、〔本部KRH〕と〔加盟店DSV〕との間の自由な意思によって締結されたものである。」

収支シミュレーションについては、統合店舗NGSが平成28年5月には黒字化したこと、本部KRHが引き継いだ後の直営店WKBが安定的に黒字を計上していること、同様の仕組みの本部KRHの他の直営店及びフランチャイズ店も黒字経営を達成していることから、判決は、「上記シミュレーションが達成不可能な不相当な内容であるとは認められない。」としました。

さらに判決は、本件フランチャイズ契約の締結時の事情に加えて、次の点を挙げました。

  • 本件覚書は、「ロイヤリティの減額の継続や未払債務の分割支払等、〔加盟店DSV〕の経営に配慮した内容であること」
  • 本部KRHは、本件覚書の締結後も無償で臨店を行い、統合店舗NGSの経営支援を行っていたこと

これらを踏まえ、判決は、本件覚書の締結は、優越的地位を濫用した、正常な商慣習に照らして不当な取引方法に当たるとは認められないとし、本部KRHが情報格差や多額の負債を抱えていた加盟店DSVの窮状に乗じて本件覚書を締結し、経済的弱者である加盟店DSVを一方的に搾取したと認めることもできないとして、本件覚書の締結が公序良俗に違反するとは認められないと判断しました。

加盟店側は、本件フランチャイズ契約の対象ではない直営店の事業の譲受けを強制されたとも主張していましたが、判決は、本件事業譲渡を含む本件覚書は自由な意思によって締結されたと認定しており、強制の主張は採用されていません。事業譲渡代金3,002万4,000円の額そのものが相当かどうかについて、判決は独立の検討を示していません。代金が経常利益3年分を基準として当事者間の協議で決められたことは、認定事実として記載されています。

信義則上の保護義務違反―仮差押えと解除は、加盟店側の契約違反を踏まえたもの

判決は、本件シミュレーションや本件覚書の締結時の収支シミュレーションが、不正確かつ過大な収支見通しであるとか、楽観的な収益見通しを説明して多大な債務を負わせたものであるとは認められないとし、本部KRHは加盟店DSVに対して経営を指導・支援していたと認めました。

本件仮差押えと本件解除については、加盟店DSVが本件フランチャイズ契約上の義務に違反して、本部KRHに事前に報告することなく、判決本文で「整理屋として活動している」とされたQRT氏を就任させ、解任の要求にも従わなかったこと、加盟店側が競業避止義務に違反して新会社NWKを設立し、当初店舗UMSがあった場所でデイサービス事業所を開設し、SGW氏の辞任の要求にも従わなかったことなどを踏まえて行われたものであるとしました。本部KRHが統合店舗NGSの明渡しを受けて直営店WKBとして事業を継続していることも、加盟店DSVとの交渉の結果と区の介護保険課の要請を踏まえたものであるとしています。そして、次のように結論付けました。

「以上の経緯に照らせば、〔本部KRH〕の本件請求が、信義則に違反するものと認めることはできない。」

SGW氏の根保証(1)―改正前の民法が適用され、極度額の定めがなくても直ちに無効ではない

SGW氏は、極度額の定めのない個人根保証は無効であると主張しました。判決は、保証契約の締結の時点で極度額を定めなければならないとする規律を定めた民法465条の2は令和2年4月1日に施行されたものであり、施行日前に締結された契約には改正前の民法が適用されるとしました。本件保証契約は平成23年7月30日に締結されたものであるため、極度額の定めがないことをもって直ちに無効になるとの主張は採用されませんでした。

また、本件フランチャイズ契約の締結が優越的地位を濫用した取引方法に当たらないのと同様に、代表取締役であるSGW氏と本部KRHとの間の本件保証契約の締結も、フランチャイザーの優越的な地位を濫用した取引とは認められないとしました。

SGW氏の根保証(2)―覚書の当事者から外れたことは、保証の免除や解除を意味しない

SGW氏は、本件覚書が、SGW氏が著しく多額の債務を保証するのは相当でないという双方の認識から、あえてSGW氏を外して結ばれたものであり、保証債務の免除と保証契約の解除があったとみるべきだと主張しました。判決は次のように述べて、この主張を退けました。

「本件全証拠によっても、〔本部KRH〕が、〔SGW氏〕に対し、本件保証債務を免除するとの意思表示又は本件保証契約を解除するとの意思表示をしたと認めることはできない。」

SGW氏の根保証(3)―覚書による債務も保証の範囲に含まれ、信義則による制限もない

SGW氏は、本部KRHが多額の未払債務を知りながら事業譲渡代金や内装費用等を負担させ、その後もロイヤリティ等の債務を増大させたのに、極度額を設けるなどの措置をとらずに1億円を上回る主債務について保証責任を追及するのは信義則に反すると主張しました。判決は、「本件覚書によって、〔加盟店DSV〕が〔本部KRH〕に対して負う債務が、〔加盟店DSV〕が本件FC契約上及び施設を運営するに当たって〔本部KRH〕に対して負担する一切の債務に含まれることは明らかであり」と述べ、SGW氏の主張する事実を前提としても、保証債務の履行の請求が信義則に違反するとは認められないとしました。

未払債権の認定―請求書のない月の分と、解除後の出向料は認められなかった

第1の争点について、判決は、請求債権の大部分を認める一方で、ロイヤリティ等、配湯料等及び出向料のうち、請求書がない月の分を控除しました。また、出向契約は本件フランチャイズ契約の存在を前提とするものであり、本件解除によって出向契約も解除されたとして、本件解除後の平成29年10月分から12月分までの出向料(合計291万0,685円)は理由がないとしました。昼食代金は、主張額のうち861万5,240円の支払請求権が認められています。こうした控除の後も、既払金を差し引いた残額は1億2,250万0,959円となり、1億円の一部請求を上回りました。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(「原告」は本部KRH、「被告ら」は加盟店DSV及びSGW氏を指します)。

  1. 「被告らは、原告に対し、連帯して、1億円及びこれに対する平成30年11月10日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。」
  2. 「訴訟費用は被告らの負担とする。」
  3. 「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」

本部KRHの1億円の一部請求は、全部認められました。加盟店側の公序良俗違反・優越的地位の濫用、信義則上の保護義務違反、根保証の無効等の主張は、いずれも採用されていません。

争点 判決の判断
(1)未払債務 既払金控除後の残額1億2,250万0,959円を認定(請求書のない月の分、解除後の出向料等を除く)
(2)優越的地位の濫用・公序良俗違反 本件フランチャイズ契約、本件覚書(事業譲渡を含む)のいずれも否定
(3)信義則上の保護義務違反 否定
(4)代表者の根保証の無効等 改正前の民法が適用され極度額がないことで直ちに無効とはならない。保証の免除・解除の意思表示は認められない。信義則による制限も否定

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

  • 事業譲渡を含む債務整理の覚書でも、締結の過程と内容に合理性があれば公序良俗違反とはされにくいこと。本件の覚書は、多額の未払債務を抱えた加盟店に、さらに約6,100万円の債務を負わせて直営店の事業を譲り受けさせるものでした。それでも判決は、経営改善のための提案であったこと、収支シミュレーションを説明したこと、ロイヤリティの減額の継続や10年間の分割払など加盟店の経営に配慮した内容であったこと、締結後も無償で支援を続けたことから、優越的地位の濫用にも公序良俗違反にも当たらないとしました。
  • 収支シミュレーションの相当性が、事後の実績からも評価されたこと。判決は、統合店舗が開設の月に黒字化したこと、譲渡側が店舗を引き継いだ後も安定的に黒字であること、同じ仕組みの他の店舗も黒字であることを挙げて、シミュレーションが達成不可能な不相当な内容ではないとしました。譲り受けた事業の収支が悪化した場合でも、その原因が見通しの誤りにあるのか、譲受け後の経営にあるのかが、事後の資料を含めて検討されることを示す一例です。
  • 譲受け側の経験や、締結前の検討期間が考慮されたこと。判決は、加盟店の代表者が介護業界に長年携わり施設長も務めていたことや、2週間以上の検討期間があったことを、優越的地位の濫用を否定する事情に挙げています。情報開示書面の交付、シミュレーションの前提や「保証するものではありません」との記載の説明も、記録として重視されました。
  • 譲受け側の契約違反が、信義則の判断に影響したこと。加盟店側は、仮差押えで運営を破綻させられ、自らが費用を負担した店舗の設備を本部が利用していると主張しましたが、判決は、加盟店側の競業避止義務違反や、事前の報告のない役員の就任と解任要求の拒否を踏まえた措置であったとして、信義則違反を否定しました。
  • 覚書の当事者から保証人が外れても、従前の根保証は当然には消えないこと。保証人が新たな合意書に署名していなくても、債権者が保証債務の免除や保証契約の解除の意思表示をしたと認められなければ、従前の包括的な根保証は存続し、新たな合意による債務も主債務に含まれると判断されました。保証人を外すことを意図するのであれば、その旨を書面で明確にしておく必要があります。
  • 請求書等の裏付けがない債権は認められないことがあること。譲渡側(本部)の請求のうち、請求書がない月の分は控除されました。代金やロイヤリティを分割で回収する側は、請求と支払の記録を月ごとに残しておくことが重要です。

一般化できない点

  • 判決は、優越的地位の濫用に当たる契約が私法上どのような場合に無効となるかについて、一般的な基準を示していません。本件の契約締結の経緯、支援の内容、店舗の実績を前提に、濫用や搾取そのものが認められないと判断したものです。
  • 加盟金や違約金、契約終了後の競業避止義務等の個々の条項の有効性について、判決は個別に判断していません。これらの条項の効力が直接争われる事案では、別の検討が必要です。
  • 事業譲渡代金の額(経常利益3年分を基準とした3,002万4,000円)が相当であるかについて、判決は独立の判断を示していません。代金の算定方法の当否について、本判決から一般的な結論を導くことはできません。
  • 本件保証契約は平成23年に締結されたもので、判決は改正前の民法を適用しました。現在の民法では、個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。令和2年4月1日以降に締結された個人の根保証契約には、本判決の結論はそのまま当てはまりません。また、SGW氏が主張した、改正前の民法の下でも著しく多額の個人根保証を無効とすべき特段の事情の有無について、判決は詳しい検討を示していません。
  • 遅延損害金の年6%は、判決本文のとおり、改正前の商事法定利率によるものです。現在の法定利率とは異なります。
  • 昼食代金の一部が認められなかった理由は、判決本文に示されていません。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

契約や交渉で確認しておきたいこと

事業を譲り受ける側では、譲渡側が示す収支シミュレーションについて、売上の前提(稼働率、営業日数、単価)、経費の前提、比較対象とした店舗の実績を確認し、その前提が自らの店舗に当てはまるかを検討することが考えられます。収支の見通しが保証されない旨の記載がある場合は、価格の決め方や支払条件、収支が見込みを下回った場合の扱いを、契約交渉の段階で検討しておくことが大切です。代表者が保証人となっている場合は、新たな合意の際に、従前の保証の扱いを明確にしておく必要があります。

事業を譲り渡す側では、情報開示や説明の内容、検討期間、締結後の支援の内容を記録に残し、分割払の債権について月ごとの請求書と入金の記録を整えておくことが、後に契約の効力や請求額が争われた場合の立証の材料になります。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例や手順の当否を判断したものではありません。

株式譲渡契約の解除や、詐欺・錯誤による取消しを検討する場合の進め方は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

譲渡側の収支見通しが外れて赤字になった場合、事業譲渡契約を公序良俗違反で無効にできますか。

見通しが外れたことだけでは足りません。本判決では、譲渡側が収支シミュレーションを説明し、その前提や保証するものではない旨も説明していたこと、統合後の店舗が開設の月に黒字化し、譲渡側が引き継いだ後も黒字であることなどから、シミュレーションが達成不可能な不相当な内容とは認められず、公序良俗違反は否定されました。

フランチャイズ本部と加盟店の間の契約は、優越的地位の濫用に当たれば無効になりますか。

本判決は、優越的地位の濫用に当たる場合に契約が無効となるかという一般論は示さず、本件では、契約が自由な意思で締結され、情報開示や検討期間、締結後の支援があったことなどから、そもそも優越的地位の濫用に当たらないと判断しました。濫用に当たるかどうかは、契約締結の過程と内容を具体的に検討して判断されます。

新しい覚書に代表者が保証人として署名していなければ、以前の連帯保証はなくなりますか。

当然にはなくなりません。本判決では、代表者が覚書の当事者から外れていても、債権者が保証債務を免除し、又は保証契約を解除する意思表示をしたとは認められないとして、従前の根保証が存続するとされました。覚書による債務も、フランチャイズ契約上及び施設の運営に関して負担する一切の債務に含まれるとされています。

極度額の定めのない根保証は無効ですか。

現在の民法では、個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じません。ただし、この規律は令和2年4月1日に施行されたもので、本判決は、平成23年に締結された本件の保証契約には改正前の民法が適用されるとして、極度額の定めがないことをもって直ちに無効にはならないとしました。保証契約の締結時期によって結論が異なります。

本部が仮差押えをして店舗の運営が行き詰まった場合、本部の請求は信義則に反しますか。

本判決では、本部の仮差押えと契約解除は、加盟店側の競業避止義務違反や、事前の報告のない役員の就任と解任要求の拒否などを踏まえたものであるとして、信義則違反は否定されました。もっとも、本件の仮差押え自体は、本部が期間内に本案訴訟の提起を証する書面を提出しなかったために取り消されています。仮差押えの経緯や当事者双方の対応によって評価は異なり得るため、個別の検討が必要です。

M&Aをめぐる紛争で、期限の確認、証拠の保全、仮処分・仮差押えといった初動を誤らないための進め方は、次のページでご案内しています。

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事業や店舗を譲り受けた後に、譲渡側の説明や収支の見通しと実態が異なっていた場合や、譲渡代金の支払を求められて契約の効力を争いたい場合は、契約書・覚書の条項、締結前に示された資料とその説明の記録、締結後の収支の推移、当事者双方の対応を整理し、契約の効力と請求額を分けて検討します。M&Aの契約の解消を検討する場合の考え方は株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果で解説しています。譲渡側の説明や保証と異なる事実が判明した場合の当事務所の対応は、表明保証違反の御相談のページで御案内しています。

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フランチャイズ本部から直営店の事業を譲り受けた加盟店と、その代表者で連帯保証人となった方に向けて、事業譲渡代金や未払ロイヤリティを請求された場面の判例を、公序良俗違反と優越的地位の濫用の主張の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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