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M&A仲介会社の誤った情報提供と責任制限条項―東京地方裁判所令和5年4月17日判決

公開 2023年4月17日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面

M&A仲介会社から取引先の承諾は得られたと伝えられ、それを前提に株式譲渡契約を結んだのに、実際には承諾が得られておらず、取引先から取引を打ち切られてしまった。この場合、買主は仲介会社に損害の賠償を求めることができるのでしょうか。また、仲介契約に、故意又は重過失がない限り責任を負わず、賠償額は受領した報酬を限度とするという責任制限条項がある場合、その条項はどこまで効力を持つのでしょうか。

東京地方裁判所令和5年4月17日判決は、自動車メーカーの指定店として営業する自動車販売・整備会社の株式全部を買い受けた買主が、仲介会社に対して損害賠償等を求めた事案で、仲介会社の担当者が、売主の訪問結果について十分な確認をしないまま、ディーラーの承諾が得られたとの誤った情報を買主に伝えたことは重過失による不法行為に当たると判断しました。他方で、仲介契約の責任制限条項は無効ではないとして、賠償額を仲介会社が受領した成功報酬1,100万円の範囲に限り、デュー・ディリジェンス費用や弁護士費用などのその余の請求を棄却しています。

本記事では、仲介会社がどのような注意義務を負うとされたのか、重過失がどのような事実から認められたのか、責任制限条項がなぜ有効とされたのかを、判決本文に沿って整理します。仲介会社を利用して会社を買い受けた方にも、仲介契約の条項を検討している方にも参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 指定店の地位は、取得までに長い期間を要するものだった
    2. 仲介会社が、指定店であることを前提に買収を提案した
    3. 買主は、指定店であることを評価して買収を進めた
    4. 「承諾が得られた」との連絡を受けて、株式譲渡契約が締結された
    5. ディーラーが取引の打切りを求め、株式譲渡契約は錯誤により取り消された
  4. 事案の経緯
  5. 判断の前提となった契約条項
    1. 本件仲介契約3条1項―仲介会社の業務の内容
    2. 本件仲介契約5条1号―成功報酬
    3. 本件仲介契約13条2項―契約違反による損害賠償
    4. 本件仲介契約17条1項・2項―仲介者としての義務
    5. 本件仲介契約17条5項―責任制限条項
    6. 販売店取引基本契約8条2号・16条1項6号―ディーラーとの契約
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 買主の請求
    2. 買主が主張した損害の内訳
    3. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実
  9. 裁判所の判断
    1. 責任制限条項は無効ではない
    2. 仲介会社は、承諾の有無について正確かつ適切な情報を提供する義務を負っていた
    3. 令和2年11月5日の時点で、ディーラーは承諾していなかった
    4. 仲介会社側の担当者の供述を前提にしても、重過失がある
    5. 損害は成功報酬1,100万円に限られる
    6. 買主に過失相殺すべき過失はない
    7. 予備的請求は判断されなかった
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や取引の進め方で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. M&A仲介会社から誤った情報を伝えられて株式譲渡契約を結んだ場合、仲介会社に損害賠償を請求できますか。
    2. 仲介会社は故意又は重過失がない限り責任を負わず、賠償額は受領した報酬を限度とするという仲介契約の条項は有効ですか。
    3. 仲介会社の責任が認められれば、デュー・ディリジェンス費用や弁護士費用も賠償されますか。
    4. 買主が自分で取引先に確認しなかったことは、買主の落ち度になりますか。
    5. 株式譲渡契約が取り消された場合、支払った成功報酬は当然に返還されますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第4部
裁判日 令和5年4月17日
事件番号 令和3年(ワ)第8830号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 買主(原告)の主位的請求(不法行為に基づく損害賠償)を一部認容し、仲介会社(被告)に1,100万円及びこれに対する令和3年3月1日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を命じ、その余の請求を棄却。訴訟費用は5分の2を買主、5分の3を仲介会社の負担。第1項について仮執行宣言
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号や仮名も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分では、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。引用中の「原告」は買主GRV、「被告」は仲介会社NBLを指します。

本記事の表記 立場
買主である中古車輸出・販売会社GRV(以下「買主GRV」) 原告。中古車輸出業と、新車又は中古車の買取・販売事業を主たる事業とする株式会社で、上場会社LHDの子会社です。対象会社SBRの株式全部を買い受けました
M&A仲介会社NBL(以下「仲介会社NBL」) 被告。フランチャイズ形態のチェーン店の経営指導やコンサルティング、顧客の仲介・あっせん業務を営み、中小企業を対象としたM&A・事業承継の仲介業務も行う株式会社です
対象会社である自動車販売・整備会社SBR(以下「対象会社SBR」) 自動車メーカーMVRの車両や部品・用品の販売と、点検・整備を営む有限会社です。ディーラーDWNとの取引基本契約により、指定店として営業していました
売主であるオーナー経営者OKB氏(以下「売主OKB氏」) 対象会社SBRの代表取締役で、同社の株式全部を保有していました。この株式譲渡の前にM&Aに携わった経験はありませんでした
ディーラーである自動車販売会社DWN(以下「ディーラーDWN」) 自動車メーカーMVRから車両や部品を直接仕入れることができるディーラーで、対象会社SBRの取引先です
自動車メーカーMVR 対象会社SBRが販売・整備していた車両を製造する自動車メーカー(判決本文ではその企業グループを含みます)
買主GRVの担当者RKN氏 仲介会社NBLから承諾が得られた旨の連絡を受けた買主側の担当者です
仲介会社NBLの担当者MTZ氏 売主OKB氏から訪問結果の報告を受け、買主側に承諾が得られた旨を伝えた担当者です
仲介会社NBLの担当者WGS氏 仲介会社NBLのもう一人の担当者です
調査会社PRT 買主GRVがデュー・ディリジェンスに用いた会社です

また、判決本文でメーカーの名を冠した「ショップ」又は「サブディーラー」と呼ばれている、ディーラーとの取引基本契約を結んで自動車メーカーMVRの車両の販売から修理まで行うことのできる店舗を、本記事では「指定店」と表記します。判決本文が「本件承諾」と呼ぶ、株式譲渡契約の締結についてのディーラーDWNの承諾は、本記事でも「本件承諾」又は「ディーラーの承諾」と表記します。

事案の概要

指定店の地位は、取得までに長い期間を要するものだった

判決の認定によれば、自動車メーカーMVRから直接車両や部品を仕入れることができるディーラーは、各都道府県に1社に限られ、対象会社SBRの所在する県ではディーラーDWNがそれに当たりました。ディーラーとの間で取引基本契約を結ぶことで、車両の販売から修理まで行うことのできる店舗が指定店です。通常の販売店が指定店になるには、相当期間安定した財政基盤と販売台数を確保し、かつ、メーカー又はディーラーの推薦を受けることが必要とされるなど、一定の要件を満たす必要がありました。

対象会社SBRは、平成18年1月15日付けでディーラーDWNとの間で販売店取引基本契約を結んで販売店となり、平成25年3月24日付けで指定店としての取引基本契約を結んで指定店となりました。販売店から指定店になるまでに、約7年の期間を要しています。

仲介会社が、指定店であることを前提に買収を提案した

仲介会社NBLは、令和2年6月頃、買主GRVに対し、対象会社SBRの企業概要書を示して、同社の全株式を対象とする株式譲渡契約の締結と、仲介会社NBLによるその仲介を提案しました。その際、仲介会社NBLは、対象会社SBRが指定店であることを紹介したうえで、株式を取得すれば、指定店として顧客やディーラーから信頼されている対象会社SBRを運営することができると説明しました。

買主GRVは、令和2年6月29日、仲介会社NBLとの間で、対象会社SBRの全株式の取得を実現するために仲介に関する専門的な業務の提供を委託する提携仲介契約(以下「本件仲介契約」)を結びました。着手金は0円、成功報酬は1,100万円とする旨が合意されています。

買主は、指定店であることを評価して買収を進めた

買主GRVは、令和2年8月6日、仲介会社NBLを通じて対象会社SBRに意向表明書を交付しました。その中で買主GRVは、M&Aの目的等について、対象会社SBRが高い販売力と整備力を認められて指定店を運営していることや、中古車の販売台数、整備力への評価を述べ、共感を覚える旨の見解を示していました。

買主GRVは、調査会社PRTを用いてデュー・ディリジェンスを行いました。買主GRVと対象会社SBRとの間の企業価値等に関する質問と回答は、仲介会社NBLを介して行われました。その中で、買主GRVが指定店の地位を取得することの困難さや更新の条件を尋ねたところ、対象会社SBRは、指定店になることはかなり難しく、最低7年の実績、安定した財政基盤、販売台数、メーカー及びディーラーの推薦が必要であること、更新はディーラーが判断することなどを回答しました。

「承諾が得られた」との連絡を受けて、株式譲渡契約が締結された

仲介会社NBLは、株式譲渡契約の締結前に、売主OKB氏に対し、販売店取引基本契約8条2号に基づく代表者等の異動に関するディーラーDWNへの事前通知をするよう指示し、「役員等の変更のご案内」と題する書面(以下「本件案内書」)を準備して、ディーラーDWNに交付するよう指示しました。他方で、ディーラーの承諾に関し、売主OKB氏がディーラーDWNへの説明に使える書面を準備することはありませんでした。

売主OKB氏は、令和2年11月5日、ディーラーDWNを訪問し、本件案内書を交付しました。仲介会社NBLの担当者MTZ氏は、訪問後の売主OKB氏からの報告を受けて、承諾が得られたものと理解し、同日中に、買主GRVの担当者RKN氏に対し、ディーラーDWNから承諾が得られた旨を伝えました。

買主GRVと売主OKB氏は、令和2年11月9日、売主OKB氏が保有する対象会社SBRの株式全部を買主GRVに譲渡する株式譲渡契約を締結し、買主GRVは翌10日、仲介会社NBLに成功報酬1,100万円を支払いました。

ディーラーが取引の打切りを求め、株式譲渡契約は錯誤により取り消された

ディーラーDWNは、令和2年12月中旬頃、対象会社SBRに対し、指定店としての取引基本契約を更新せず取引を打ち切るために、取引終了合意書の締結を求めてきました。その合意書には、指定店としての取引基本契約が令和3年3月24日の期間満了により終了し、以後更新しないこと、それに代わる販売店取引基本契約を締結する意向であること、同月25日以降は指定店に対する優遇措置が適用されず、保証延長や点検に関する2つの商品を取り扱うことができなくなることなどが定められていました。

買主GRVは売主OKB氏に株式譲渡契約の錯誤取消しを主張し、双方の代理人の交渉を経て、令和3年2月22日、買主GRVと売主OKB氏は、要素の錯誤があったことから株式譲渡契約を取り消すことを相互に確認する合意書(以下「本件合意書」)を締結しました。本件合意書では、次の事実関係が確認されています。

  • 株式の譲渡において、対象会社SBRとディーラーDWNとの契約関係が株式譲渡契約の締結後も相当期間継続されることが重要な要素であり、買主GRVは仲介会社NBLを通じてそのことを表示しており、売主OKB氏もそのことを認識していたこと
  • 売主OKB氏は事前に承諾を得ていなかったが、仲介会社NBLは、買主GRVに対し、承諾を得たとの誤情報を伝えたこと
  • そのため、買主GRVは、ディーラーDWNから承諾を得られているものと考えて、株式譲渡契約を締結したこと
  • 株式譲渡契約の締結後、その事実を知ったディーラーDWNは、同契約が締結されたことを理由として、対象会社SBRとの契約を更新しない旨通告したこと

買主GRVは、令和3年3月1日到達の通知書により、仲介会社NBLに対し、成功報酬及びデュー・ディリジェンスの費用等の合計1,586万0,900円を1週間以内に支払うよう催告し、その後、本件訴訟を提起しました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成18年1月15日 対象会社SBRとディーラーDWNが販売店取引基本契約を締結
平成25年3月24日 対象会社SBRとディーラーDWNが指定店としての取引基本契約を締結(販売店となってから約7年)
令和2年6月頃 仲介会社NBLが買主GRVに企業概要書を示し、対象会社SBRの株式譲受けとその仲介を提案
令和2年6月29日 買主GRVと仲介会社NBLが本件仲介契約を締結(着手金0円、成功報酬1,100万円)
令和2年8月6日 買主GRVが仲介会社NBLを通じて意向表明書を交付
(時期の記載なし) 調査会社PRTによるデュー・ディリジェンス。指定店の地位の取得の困難さや更新条件についての質疑が仲介会社NBLを介して行われる
令和2年11月5日 売主OKB氏がディーラーDWNを訪問し、本件案内書を交付。同日中に担当者MTZ氏が買主側の担当者RKN氏に承諾が得られた旨を伝える
令和2年11月9日 買主GRVと売主OKB氏が株式譲渡契約を締結
令和2年11月10日 買主GRVが仲介会社NBLに成功報酬1,100万円を支払う
令和2年12月中旬頃 ディーラーDWNが対象会社SBRに取引終了合意書の締結を求める
令和2年12月25日 買主GRV及び仲介会社NBLの関係者らの会合。売主OKB氏が訪問時の状況について発言
令和3年2月22日 買主GRVと売主OKB氏が本件合意書を締結し、株式譲渡契約の錯誤取消しを確認
令和3年3月1日 買主GRVの催告書が仲介会社NBLに到達(1,586万0,900円を1週間以内に支払うよう催告)
令和3年3月24日 取引終了合意書で、指定店としての取引基本契約の期間満了日とされた日
令和5年4月17日 東京地方裁判所が、仲介会社NBLに1,100万円等の支払を命じる判決

判断の前提となった契約条項

以下は、判決本文が「次のような内容が含まれている」として整理した契約の内容に基づくものです。契約書原本の条文をそのまま再現したものではありません。当事者の呼称は本記事の表記に置き換え、条項の相互参照は条番号で示しています。

本件仲介契約3条1項―仲介会社の業務の内容

仲介会社NBLの業務は、次のとおりとする。
a 対象事業についての事業価値判断の参考資料の作成
b 本件提携(買主GRVによる対象会社SBRの全株式の取得)に必要な情報の収集・調査及び資料の作成
c 売主OKB氏に対する情報提供
d 本件提携の基本スキームの立案及び助言
e 本件提携に関する実務手続上の助言及び交渉のスケジューリング
f 本件提携交渉の立会い及び助言
g 本件提携に必要な企業精査(デュー・ディリジェンス)のセッティング、立会い及び助言
h その他本件提携の進捗状況に応じ必要なサービスの提供

本件仲介契約5条1号―成功報酬

買主GRVは、仲介会社NBLの行った業務に対する成功報酬(本件提携を実現させる最終的な買主GRVと売主OKB氏との間の合意に関する契約(最終契約)が締結できたことの対価。2条4号及び5号参照)として、本件提携に際し、最終契約に基づいて買主GRVが売主OKB氏に対して支払う対価の累計額に5%の手数料を乗じて得られた金額(ただし、当該金額が1,000万円を下回るときは1,000万円とし、算定された成功報酬額の累計額に1,000円未満の端数が生じる場合には四捨五入して算出する。)及びこれにかかる消費税等相当額を支払う。

この条項とは別に、着手金を0円、成功報酬を1,100万円とする旨の合意がされていました。

本件仲介契約13条2項―契約違反による損害賠償

買主GRV又は仲介会社NBLは、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償しなければならない。

本件仲介契約17条1項・2項―仲介者としての義務

(1項)仲介会社NBLは、買主GRV及び売主OKB氏双方にとって有意義な本件提携を実現することを目的として、買主GRVに対する善良な管理者の注意をもって、本契約に規定する本件提携の仲介に関する専門的な業務を執り行うものとする。
(2項)仲介会社NBLは、3条1項bに基づき、買主GRVに対し、本件提携に必要な情報の収集・調査及び資料の作成を行うに当たっては、正確かつ適切な情報提供を心がけるものとする。ただし、仲介会社NBLは、売主OKB氏その他の第三者から提供を受けた情報に関し、その真実性、正確性、妥当性、網羅性について独自の調査・検証を行っていないことから、それらの情報の真実性、正確性、妥当性、網羅性についていずれも保証するものではなく、また、これらの情報に将来予測、見込み及び予定等が含まれている場合において、その実現可能性につき何らの責任を負うものではないことについて、買主GRVは同意するものとする。

本件仲介契約17条5項―責任制限条項

13条2項にもかかわらず、仲介会社NBLは、本件提携に関し、故意又は重過失がない限り、買主GRV及びその他の者に対して損害賠償を含む一切の責任を負わないものとし、買主GRVは仲介会社NBLを免責する。なお、故意又は重過失によって仲介会社NBLに損害賠償の責が生じた場合の支払額は、いかなる請求原因であっても、当該請求時点において仲介会社NBLが本契約5条に基づき受領した金額を限度とする。

17条5項は、責任を負う場合を故意又は重過失がある場合に限る部分と、賠償額を受領済みの報酬額に限る部分の二つからなっています。後者は、故意又は重過失がある場合にも適用され、請求原因を問わないとされている点が、本件の結論に直結しました。

販売店取引基本契約8条2号・16条1項6号―ディーラーとの契約

(8条2号)対象会社SBRに代表者、経営責任者、役員、経営担当者の異動又は使用印鑑の変更が生じた場合、対象会社SBRは事前にディーラーDWNに書面をもって通知しなければならない。
(16条1項6号)対象会社SBRが営業を廃止したとき、営業の全部又は一部を譲渡、転貸したとき、もしくは他の会社と合併したときは、ディーラーDWNは、何らの通知催告の手続を要しないで直ちに本契約を解除し、かつそれによって生じた損害の賠償を請求することができる。

判決本文で確認できるディーラーとの契約の定めは、役員等の異動の事前通知と、営業譲渡等の場合の解除であり、株主の変更そのものについてディーラーの承諾を要するとの定めは示されていません。この点は、後述のとおり仲介会社NBLの反論の根拠となりました。

当事者の請求と主要な主張

買主の請求

請求 法的根拠 金額 遅延損害金の起算日
主位的請求 不法行為に基づく損害賠償 1,744万6,990円 令和3年3月1日(催告の日)
予備的請求(1) 本件仲介契約の債務不履行に基づく損害賠償 1,586万0,900円(主位的請求の損害から訴訟提起に関する弁護士費用を除いた額) 令和3年3月9日
予備的請求(2) 不当利得に基づく成功報酬の返還 1,100万円 令和3年3月9日

予備的請求の(1)と(2)は、選択的に求められていました。遅延損害金の割合は、いずれも年3分です。

買主が主張した損害の内訳

項目 金額
成功報酬 1,100万円
デュー・ディリジェンス費用 220万円
株式譲渡契約書の作成費用 46万0,900円
本件合意書の締結に関する弁護士費用 220万円
本件訴訟の提起に関する弁護士費用 158万6,090円
合計 1,744万6,990円(債務不履行の構成では、最後の項目を除く1,586万0,900円)

仲介会社NBLは、成功報酬1,100万円を受け取ったことは認めましたが、その余の費用の支出は知らないとし、いずれの費用も損害に当たることを争いました。そのうえで、仮に責任を負うとしても、17条5項により賠償の範囲は受領した1,100万円に限られると主張しました。

争点ごとの主張

争点 買主GRVの主張 仲介会社NBLの主張
責任制限条項(17条5項)は無効か 責任を負うのを故意又は重過失の場合に限り、賠償の範囲をいかなる請求原因であっても受領額に限る規定は、公序良俗に反し、著しく衡平を害するので無効である このような規定はM&Aの分野ではよくみられるもので、公序良俗に反して無効となるほどの著しい不合理性はない
重過失による不法行為に当たるか 仲介会社はM&Aの専門業者であり、売主はM&Aの知識に乏しかったのに、承諾の必要性を理解させず、書面も準備せず、報告の事実確認もしないまま、漫然と承諾が得られたと誤認して買主に伝えた そもそもディーラーの承諾を得る必要はない。売主にはM&Aのことを話すよう指示し、売主は現に話しており、ディーラーの代表者から承諾も得ている。少なくとも、役員等の変更の案内を交付するよう指示し、売主は交付している
重過失による債務不履行があるか 実務上の助言義務や情報提供義務、善管注意義務の内容として、売主に承諾の必要性を理解させ、説明資料を作成し、誤った情報を提供しない義務があったのに、これに違反した 上記の事実関係からすれば、重過失による債務不履行は認められない
損害額 17条5項は無効であるから、全額が損害として認められるべきである 成功報酬以外の費用が損害であることは争う。責任を負うとしても1,100万円が限度である
過失相殺 仲介会社は大手のM&A仲介業者であり、双方のアドバイザーでもあったから、承諾が得られたとの説明をさらに疑って確認すべきであったとはいえない 指定店の地位を重視していたのであれば、買主自身が承諾を得るよう繰り返し指摘し、報告を受けた後にディーラーに挨拶の連絡を入れるはずで、それも容易であったのに一切しなかったから、買主にも相応の過失がある
不当利得の成否 成功報酬は最終契約の締結を条件とするところ、株式譲渡契約が錯誤により取り消されたので条件は成就しておらず、仲介会社は法律上の原因なく成功報酬を得た 最終契約は株式譲渡契約であり、成功報酬はその契約を締結できたことの対価である。契約は締結できている以上、条件が成就していないとはいえない

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、本件の争点を、責任制限条項の有効性(争点1)、重過失による不法行為の成否(争点2)、重過失による債務不履行の成否(争点3)、損害額(争点4)、過失相殺(争点5)、不当利得の成否(争点6)の6つに整理しました。そのうえで、17条5項の解釈によって、仲介会社に責任を認めるために必要な過失の程度と損害賠償額の範囲が定まることから、まず争点1から検討しています。

結論を左右したのは、第一に、責任制限条項が有効とされたことで、仲介会社に責任を問うには重過失が必要となり、かつ、賠償額は受領した報酬額が上限となったこと、第二に、その重過失が、担当者の供述を前提にしても認められたことです。争点3(債務不履行)と争点6(不当利得)は、主位的請求で1,100万円が認められた以上、判断する必要がないとされました。

裁判所が認定した重要な事実

判決は、前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨により、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約です)。

  • 自動車メーカーMVRから直接車両や部品を仕入れることができるディーラーは各都道府県に1社に限られ、指定店になるには、相当期間の安定した財政基盤と販売台数の確保、メーカー又はディーラーの推薦等の要件を満たす必要がありました。対象会社SBRは、販売店になってから指定店になるまで約7年を要しています。
  • 仲介会社NBLは、買収の提案の際、対象会社SBRが指定店であることを紹介し、株式を取得すれば指定店として顧客やディーラーから信頼されている会社を運営できると説明していました。
  • 買主GRVは、意向表明書の中で、対象会社SBRが指定店を運営していることを評価する見解を示していました。
  • デュー・ディリジェンスでの質問と回答は仲介会社NBLを介して行われ、指定店の地位の取得の困難さや更新の条件について、買主GRVが質問し、対象会社SBRが回答していました。
  • 仲介会社NBLは、売主OKB氏に本件案内書を準備してディーラーDWNに交付するよう指示しましたが、承諾に関して売主OKB氏が説明に使える書面は準備しませんでした(この経緯は、判決が認定した限度で当事者間に争いがありません)。
  • 売主OKB氏は令和2年11月5日にディーラーDWNを訪問して本件案内書を交付し、担当者MTZ氏は、売主OKB氏の報告を受けて承諾が得られたものと理解し、同日中に買主側の担当者RKN氏に承諾が得られた旨を伝えました。
  • ディーラーDWNは、株式譲渡契約の締結から約1か月後の令和2年12月中旬頃、取引を打ち切るための取引終了合意書の締結を求めました。
  • 買主GRVと売主OKB氏は、令和3年2月22日、本件合意書で、株式譲渡契約を要素の錯誤により取り消すことを確認し、仲介会社NBLが承諾を得たとの誤情報を伝えたことなどの事実関係を確認しました。

裁判所の判断

責任制限条項は無効ではない

判決は、まず、買主GRVが、17条5項が公序良俗に反し著しく衡平を害する根拠について、本件の具体的な事実関係に即した主張をしているとはいえないと指摘しました。買主GRVは、最高裁判所平成15年2月28日第二小法廷判決(平成13年(受)第1061号)等の裁判例を挙げていましたが、判決は、いずれの事案も契約類型や適用場面等が本件とは異なるため、少なくともこれらの裁判例のみを根拠として17条5項を無効と解することはできないとしました。

そのうえで、判決は、証拠及び弁論の全趣旨により、「M&A関連の仲介契約においては、M&Aの仲介業者が責任を負う場合を故意又は重過失のある場合に限定し、かつ、賠償の範囲も当該業者が受領した報酬の範囲に限る例があると認められ」るとし、17条5項が他の同種の契約事例に比べて、「取り立てて原告に不利な条件を課すものであると評価することはできない」としました。

また、買主GRVは、契約締結の際に、17条5項のうち責任を負う場合と賠償の範囲を限定する部分の撤廃を求めましたが、仲介会社NBLから他の顧客との平等の観点から変更できないとの返答があったため、その部分が撤廃されないまま本件仲介契約が締結されたことが認められています。それでも判決は、仲介会社NBLが「契約締結の自由を排し、原告の意思に反して、原告に17条5項の内容を含む本件仲介契約の締結を甘受させたといった事情まではうかがわれない」としました。

こうして判決は、「本件仲介契約17条5項が、公序良俗に反し、著しく衡平を害するものであるため、無効であるということはできない」と結論付けました。

仲介会社は、承諾の有無について正確かつ適切な情報を提供する義務を負っていた

次に判決は、仲介会社NBLが負う注意義務の内容を検討しました。判決は、本件仲介契約で、仲介会社NBLが、情報の収集・調査及び資料の作成、売主OKB氏に対する情報提供、実務手続上の助言や交渉の助言等を業務とされ(3条1項)、善良な管理者の注意をもって仲介に関する専門的な業務を執り行い(17条1項)、第三者から得た情報の真実性や正確性等の保証まではしないものの、正確かつ適切な情報提供を行うもの(17条2項)とされていることを確認しました。

そして、次の経緯を挙げ、仲介会社NBLは、買主GRVが対象会社SBRが指定店であることを評価しており、指定店の地位にあり続けるためにはディーラーDWNからの信頼や評価を得ることが必要であることを十分に認識し得たとしました。

  • 仲介会社NBL自身が、買収の提案の際に、対象会社SBRが指定店であることを前提として説明していたこと
  • 買主GRVが、意向表明書で、対象会社SBRが指定店を運営していることを指摘していたこと
  • デュー・ディリジェンスで、指定店の地位の取得の困難さや更新の条件についての質疑があり、そのやり取りを仲介していた仲介会社NBLも質問の内容を把握していたと推認されること

加えて、仲介会社NBLの担当者MTZ氏と担当者WGS氏は、証人尋問で、従前の売主OKB氏とディーラーDWNとの関係や買主GRVの意向等を踏まえ、株式の譲渡に当たってあらかじめディーラーDWNの承諾を得ておく必要があると考えていた旨を供述していました。

以上から、判決は、仲介会社NBLは、買主GRVの意向に沿う形での株式譲渡を実現するためには、あらかじめ承諾を得ておく必要があったことを十分に認識し得たとし、本件仲介契約上の義務を前提に、「原告に対し、本件承諾を得られたか否かに関し、正確かつ適切な情報提供をする義務を負っていたと認めるのが相当である」と判断しました。

これに対し、仲介会社NBLは、販売店取引基本契約では代表者の異動等の事前通知が求められるだけで承諾までは必要とされていないこと、買主GRVの依頼による弁護士の法務デュー・ディリジェンスでも承諾を得る必要までは言及されていないことなどを指摘し、そもそも承諾は不要で、その必要性を認識することも不可能であったと主張しました。しかし判決は、仮に法的には承諾を得る必要はないと考えたとしても、それまでの経緯からすれば、仲介会社NBLは「原告の意向に沿う形での本件株式の譲渡を実現するためには本件承諾を得る必要があったことは認識できたというべきであり」、担当者らも承諾を得る必要があったことを否定していないとして、この主張を退けました。

令和2年11月5日の時点で、ディーラーは承諾していなかった

判決は、担当者MTZ氏が伝えた情報が誤りであったか、すなわち、株式譲渡契約の締結に先立つ令和2年11月5日の時点で、ディーラーDWNが承諾をしていなかったかを検討しました。判決が挙げた事情は、次のとおりです。

  • 株式譲渡契約の締結から約1か月後というタイミングで、ディーラーDWNが取引を打ち切るための取引終了合意書の締結を求めていること
  • 令和2年12月25日の買主GRV及び仲介会社NBLの関係者らの会合で、売主OKB氏が、仲介会社NBLから株式の譲渡のことはディーラーDWNに伝えないように言われていたため、訪問の際にそのことを伝えていなかったと終始述べていたと認められ、同日の時点の売主OKB氏の認識としては承諾を得ていなかったといえること
  • 本件合意書で、売主OKB氏が事前に承諾を得ていないのに仲介会社NBLが承諾を得たとの誤情報を伝えたこと、買主GRVが承諾を得られているものと考えて契約を締結したこと、その事実を知ったディーラーDWNが契約の締結を理由として更新しない旨を通告したことが確認されていること

判決は、これらの一連の経緯から、ディーラーDWNが上記のタイミングで更新しないことを求めたのは、株式譲渡契約の締結前の時点で承諾をしていなかったからであることが推認されるとしました。

仲介会社NBLは、売主OKB氏が別件訴訟で、訪問の際にディーラーDWNの役員から、指定店としての契約は自動車メーカーMVRの了承を得ることに加え、メーカーの地区担当員にも話を通さなければならないと言われたと主張していることなどから、ディーラーDWNは承諾していたものの、メーカー側の意向等の別の理由で更新しないことを求めた可能性があると主張しました。しかし判決は、別件訴訟での主張からそのような可能性があるとまでは推認できず、ほかの証拠に照らしても、その可能性を具体的にうかがわせる事情は見当たらないとしました。

また、仲介会社NBLは、令和2年12月25日の会合での売主OKB氏の発言の一部を根拠に、ディーラーDWNは経営が買主GRVに移ることを了承していたと主張しましたが、判決は、発言全体をみれば売主OKB氏は承諾を得てこなかったことを前提として発言していると評価すべきであるとして、これも退けました。担当者らが訪問の前に承諾を得てくるよう伝え、訪問後に承諾を得てきたことを確認したとの主張についても、仮にその事実があったとしても、実際にディーラーDWNが承諾をしていたと直ちに認定できるものではないとしています。

以上から、判決は、ディーラーDWNは令和2年11月5日の時点で承諾をしていなかったと認め、担当者MTZ氏は、同日、買主側の担当者RKN氏に対し、承諾が得られた旨の誤情報を伝えたと判断しました。

仲介会社側の担当者の供述を前提にしても、重過失がある

判決は、重過失の有無を検討するに当たり、まず、双方の供述の信用性について次のとおり述べました。

  • 売主OKB氏は、訪問に当たって担当者WGS氏から株式の譲渡のことはディーラーDWNには伝えなくてよいと言われたこと、訪問後に担当者らに承諾を得られたとの報告はしていないことを供述しました。判決は、売主OKB氏があえて虚偽の供述をする具体的な事情までは見当たらないとしつつ、これを直接裏付ける明確な客観証拠がないこと、具体的な状況や経緯については記憶が曖昧なところもあること、仲介会社NBLが承諾の必要性を認識していたことを前提とすれば、訪問の前後で承諾に関するやり取りがされないとは考えにくいことから、この供述を信用できると判断することには「ややちゅうちょを覚える」としました。
  • 他方、担当者MTZ氏と担当者WGS氏は、訪問に先立って、M&Aのことも含めて全て話してくるよう伝え、訪問後に、M&Aのことも含めて全部話した旨の報告を受けたと供述しており、判決は、これらの供述の信用性を否定するに足りる証拠までは見当たらないとしました。

そのうえで判決は、仲介会社NBLの担当者らの供述する事実関係を前提としても重過失があったといえるかを検討しました。仲介会社に有利な事実関係を前提にして判断している点が、本判決の特徴です。

訪問前の指示について。担当者らは、訪問に当たって、承諾を得てくるよう伝える趣旨で「M&Aのことも含めて全部話してきてください。」と伝えたと供述するものの、承諾を得てくるように明確に伝えたとまでは供述しておらず、それを裏付ける証拠もありませんでした。判決は、担当者らが、売主OKB氏にM&Aの経験がないことを認識し、株式の譲渡のことをむやみに第三者に伝えないようアドバイスしたことがあったにもかかわらず、役員等の変更に関する本件案内書だけを渡し、承諾に関する書面は準備していなかったことを指摘しました。そして、上記の伝え方だけでは、売主OKB氏が承諾を得てくる必要があることまでは十分に理解できず、むしろ株式の譲渡のことは第三者に伝えない方がよいと考えて、本件案内書に記載された役員等の変更のことしか話をしてこない可能性は「容易に予見できたというべきである」としました。承諾を得るよう明確に伝えたり、承諾に関する書面を準備して渡したりすれば、その結果は容易に回避できたとしています。

訪問後の確認について。担当者MTZ氏は、訪問後に売主OKB氏から、ディーラーDWNの社長に会って了解を得たというような話を聞き、「改めてM&Aのことも全部含めて言いましたかっていうことと、通知文について渡しましたかっていうふうに確認したところ、それを渡しながら話をしたというふうに回答を頂きました。」と供述し、担当者WGS氏も、売主OKB氏はM&Aのことも含めて全部話をしたと言っていたと思うと供述していました。判決は、担当者らはいずれも、訪問の際に承諾を得たという報告を受けたとは明確には供述しておらず、それを裏付ける証拠もないとしました。そのうえで、売主OKB氏がM&Aの経験に乏しく、株式の譲渡のことをむやみに伝えないようアドバイスされていたことからすれば、「M&Aのことを含めて全部話した」という程度の報告しかしてこないのは、承諾を得てきていないからであるという可能性を容易に予見できたとし、承諾を得てきたかを明確に確認したり、ディーラーDWNに承諾をしたことを確認したりすれば、誤情報を伝える結果は容易に回避できたとしました。

以上から判決は、仲介会社NBLは、誤情報を伝える可能性を容易に予見でき、かつ、その結果を容易に回避できたのに誤情報を伝えたとして、「本件承諾を得られたか否かに関し、正確かつ適切な情報提供をするという原告に対する注意義務に著しく違反したというべきであり、被告には、重過失があったと認めるのが相当である」と判断しました。こうして、重過失による不法行為が認められました。

損害は成功報酬1,100万円に限られる

損害額について、判決は、「原告は、被告による前記不法行為がなければ、本件成功報酬を支払わなかったといえるから、本件成功報酬1100万円は、本件不法行為と相当因果関係を有する損害と認められる」としました。

他方、デュー・ディリジェンス費用(220万円)、株式譲渡契約書の作成費用(46万0,900円)、本件合意書の締結に関する弁護士費用(220万円)及び本件訴訟の提起に関する弁護士費用(158万6,090円)については、17条5項により、仲介会社NBLが賠償責任を負う範囲は買主GRVから受領した成功報酬の範囲に限られるため、賠償責任を負わないとしました。判決は、これらの費用が不法行為と相当因果関係のある損害に当たるかどうかを判断したのではなく、責任制限条項の上限によって賠償の対象から外しています。

買主に過失相殺すべき過失はない

仲介会社NBLは、承諾を最も気にかけていたはずの買主GRVが、承諾を得るよう繰り返し指摘したり、報告を受けた後にディーラーDWNに挨拶の連絡を入れたりすることを一切しなかったとして、過失相殺を主張しました。

判決は、買主GRVは本件仲介契約を結ぶことで仲介会社NBLに株式譲渡の仲介に関する専門的な業務の提供を委託したのであり、同契約において、「委託者である原告が、本件株式譲渡の実現に向けて、本件承諾を得るべく被告の主張するような積極的な行動に出る義務を負う根拠となる合意がされたとは認められない」としました。ほかに、買主GRVがそのような行動に出なければ過失があったと評価される事情を認めるに足りる証拠もないとして、過失相殺を否定しています。

予備的請求は判断されなかった

判決は、債務不履行に基づく請求について、債務不履行が認められるとしても、17条5項により損害額は主位的請求と同じ1,100万円に限られ、遅延損害金の起算日は主位的請求の8日後になるとしました。不当利得に基づく請求についても、成功報酬を法律上の原因なく利得したと認められるとしても、利得額は主位的請求と同じ1,100万円で、遅延損害金の起算日は主位的請求の8日後になるとしました。そのため、主位的請求を1,100万円の限度で認容すれば予備的請求は判断する必要がないとして、争点3(債務不履行)と争点6(不当利得)については判断していません。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(「原告」は買主GRV、「被告」は仲介会社NBLを指します)。

  • 「被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和3年3月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」
  • 「原告のその余の請求を棄却する。」
  • 「訴訟費用は、これを5分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。」
  • 「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」

主位的請求1,744万6,990円のうち、成功報酬に相当する1,100万円とその遅延損害金の限度で請求が認められ、その余の主位的請求は棄却されました。予備的請求については判断されていません。

争点 判決の判断
責任制限条項(17条5項)の有効性 無効とはいえない
重過失による不法行為 承諾の有無について正確かつ適切な情報提供をする義務に著しく違反したとして、重過失を肯定
損害額 成功報酬1,100万円は相当因果関係のある損害。その余の費用は17条5項により賠償の対象外
過失相殺 否定
債務不履行・不当利得 判断不要として判断せず

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 仲介会社の情報提供義務は、法的な要否だけでなく買主の目的から導かれ得ること。仲介会社は、ディーラーとの契約上は承諾は不要であり、法務デュー・ディリジェンスでも言及されていないと反論しましたが、判決は、買主の意向に沿う形での譲渡の実現のために承諾が必要であることを認識できたとして、承諾の有無について正確かつ適切な情報提供をする義務を認めました。仲介会社が提案の段階から対象会社の取引上の地位を売り込んでいた場合には、その地位の維持に関わる情報について重い注意が求められ得ることを示す一例です。
  • 売主からの伝聞を確認せずに伝えることの危険。本判決は、売主がM&Aに不慣れであったこと、仲介会社が秘密保持の観点から第三者に話さないよう助言していたこと、承諾に関する書面を準備していなかったことを踏まえ、曖昧な報告をそのまま承諾と受け取ったことを重過失と評価しました。取引の前提となる第三者の承諾を伝える場面では、誰が、何について、どの範囲で承諾したのかを具体的に確認することが重要です。
  • 仲介会社側の供述を前提にしても重過失が認められたこと。判決は、売主の供述の信用性には留保を付け、仲介会社の担当者らの供述を前提にしたうえで重過失を認めました。供述の対立がある事案でも、相手方の言い分を前提にして結論が導かれることがあることを示しています。
  • 責任制限条項は、交渉で撤廃を求めて拒まれた場合でも有効とされ得ること。判決は、同種の契約に同様の例があることや、契約締結を強いられた事情がないことから、責任を故意又は重過失の場合に限り、賠償額を受領報酬に限る条項を有効としました。買主が撤廃を求めて拒まれたという事情も、それだけでは無効の理由とされていません。
  • 責任制限条項の上限は、重過失の場合や不法行為の構成にも及び得ること。本件の17条5項は、故意又は重過失がある場合の支払額を「いかなる請求原因であっても」受領額を限度とすると定めており、判決は、不法行為に基づく請求でも賠償額を成功報酬1,100万円に限りました。デュー・ディリジェンス費用や弁護士費用は、損害に当たるかどうかが判断される前に、上限によって賠償の対象から外れています。
  • 過失相殺の判断。判決は、仲介の専門業務を委託した委託者には、承諾を得るために自ら積極的な行動をとる義務を基礎付ける合意がないとして、過失相殺を否定しました。

一般化できない点

  • 本判決は、仲介会社が提案の段階から指定店であることを説明し、買主もそれを評価していることを表明し、デュー・ディリジェンスでも指定店の地位が問題とされていたという具体的な経緯を前提とする判断です。取引先の承諾が買主の目的との関係で重要であることを仲介会社が認識し得なかった事案に、そのまま当てはまるものではありません。
  • 判決は、株式譲渡契約の締結にディーラーの承諾が法的に必要であったかどうかについて、判断を示していません。仮に法的には不要であったとしても、仲介会社が承諾の必要性を認識できたとして結論を導いています。
  • 責任制限条項の有効性は、本件では、買主が具体的な事実関係に即した主張をしていないこと、同種の契約例があること、契約締結を強いられた事情がないことなどを踏まえて判断されています。責任制限条項が一般に常に有効であるとの判断を示したものではなく、条項の内容や契約当事者の属性、締結の経緯が異なれば、結論が異なる余地があります。
  • 株式譲渡契約の錯誤取消しは、買主と売主との間の合意書で確認されたものです。判決は、合意書の確認内容を、承諾がなかったことを推認させる一連の経緯の一つとして取り上げていますが、錯誤取消しの要件が満たされていたかどうかを独立に判断したものではありません。
  • 株式譲渡契約が錯誤により取り消された場合に成功報酬の支払条件が成就していないといえるか(不当利得の成否)や、債務不履行の成否について、判決は判断していません。成功報酬の返還の可否について、本判決から一般的な結論を導くことはできません。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

契約や取引の進め方で確認しておきたいこと

買主の側では、仲介契約を結ぶ前に、責任制限条項の範囲(免責される過失の程度、賠償の上限額、請求原因を問わない旨の定めの有無)を確認し、受け入れるかどうかを判断することが考えられます。また、取引先の承諾のように取引の前提となる事項は、仲介会社の口頭の報告だけに頼らず、承諾の書面や、株式譲渡契約の前提条件・表明保証として定めることで、確認の手段を確保しておくことが考えられます。仲介会社の側では、取引の前提となる第三者の承諾について、売主に何を求めるのかを明確に伝え、説明用の書面を準備し、結果を具体的に確認することが重要です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例や手順の当否を判断したものではありません。

M&Aが成立しなかったのに、M&A仲介会社から手数料を請求された場合の対応は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

M&A仲介会社から誤った情報を伝えられて株式譲渡契約を結んだ場合、仲介会社に損害賠償を請求できますか。

請求できる場合があります。本判決では、仲介会社が、取引先であるディーラーの承諾が得られていないのに得られた旨を買主に伝えたことが、重過失による不法行為に当たるとされ、仲介会社に1,100万円の支払が命じられました。もっとも、仲介契約に責任制限条項がある場合には、過失の程度や賠償額の上限が問題になります。

仲介会社は故意又は重過失がない限り責任を負わず、賠償額は受領した報酬を限度とするという仲介契約の条項は有効ですか。

本判決は、M&A関連の仲介契約には同様の例があり、取り立てて買主に不利な条件とはいえないこと、契約締結を強いられた事情もないことなどから、公序良俗に反して無効とはいえないと判断しました。ただし、条項の内容や締結の経緯によっては判断が異なる余地があり、個別の検討が必要です。

仲介会社の責任が認められれば、デュー・ディリジェンス費用や弁護士費用も賠償されますか。

本判決では、責任制限条項により賠償額が仲介会社の受領した成功報酬の範囲に限られたため、デュー・ディリジェンス費用、契約書の作成費用及び弁護士費用は賠償の対象外とされました。賠償の上限を定める条項がある場合、実際に生じた費用の全額を回収できないことがあります。

買主が自分で取引先に確認しなかったことは、買主の落ち度になりますか。

本判決では、仲介会社が、買主も承諾を得るよう指摘したり取引先に挨拶の連絡を入れたりすべきであったとして過失相殺を主張しましたが、判決は、専門的な業務を委託した買主にそのような積極的な行動をとる義務を基礎付ける合意はないとして、過失相殺を否定しました。

株式譲渡契約が取り消された場合、支払った成功報酬は当然に返還されますか。

本判決は、不当利得による成功報酬の返還請求については、主位的請求で同じ1,100万円が認められたため判断していません。成功報酬の発生要件が契約の締結なのか、取引の実行なのかなど、仲介契約の報酬条項の定め方によって検討することになります。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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