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取得方法が変わった診療所の医業承継とアドバイザーの最低成功報酬―東京地方裁判所令和5年9月19日判決

公開 2023年9月19日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面

診療所を譲り受けようとする医師が、医業承継のアドバイザーの紹介で譲渡人の医師と事業譲渡契約を結んだ後、敷地の地主が亡くなり、予定していた借地契約を結べなくなった。結局、譲受人は診療所の建物を買い取らず、地主の相続人から建物と土地を賃借して開業した。この場合でも、アドバイザーは成功報酬を請求できるのでしょうか。東京地方裁判所令和5年9月19日判決は、このような医師間の診療所の事業譲渡の事案で、医業承継が成立したと認め、アドバイザーが請求した最低成功報酬300万円と消費税相当額30万円の合計330万円の支払を譲受人の医師に命じました。

本判決は、アドバイザリー契約に医業承継の「成就」の具体的な定めがない中で、アドバイザーによる紹介、取引条件の交渉、事業譲渡契約の締結と実行という経過から、医業承継の成立を認めています。あわせて、建物と敷地の利用権の取得方法が契約後に変わったことは医業承継の成否を左右しないと判断し、アドバイザーが地主の相続人との賃貸借の成立に援助や助言をしていないとの譲受人の主張も退けました。診療所の承継を支援するアドバイザーの立場の方にも、アドバイザーから報酬を請求された譲受人の立場の方にも、報酬条項の定め方と取引条件が変わった場合の扱いを考えるうえで参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―事業譲渡契約の後に地主が亡くなり、建物の取得が賃借に変わった
    1. 個人の医師が開設していた診療所と、残り約1年の事業用定期借地権
    2. アドバイザーの紹介と、医業承継サポート契約の締結
    3. 借地権を引き継がず、新たに借地契約を結ぶ方針
    4. 代金2,200万円の事業譲渡契約と、借地契約締結への協力条項
    5. 地主の死亡と、相続人からの2つの選択肢
    6. 譲渡対象から建物を外し、代金を1,500万円に減額
    7. アドバイザーの同席を断った譲受人と、賃貸借契約の締結
    8. アドバイザーの報酬請求と支払の拒否
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった契約条項
    1. 医業承継サポート契約1条―対象医療機関と医業承継の定義
    2. 医業承継サポート契約2条1項―アドバイザーの業務の範囲
    3. 医業承継サポート契約3条1項1号―第1次成功報酬
    4. 医業承継サポート契約3条1項2号―第2次成功報酬と最低額
    5. 医業承継サポート契約3条2項・3項―取引金額の意味と報酬の下限
    6. 医業承継サポート契約7条1項―有効期間
    7. 事業譲渡契約2条・3条1項―譲渡日と譲渡対象資産
    8. 事業譲渡契約4条―譲渡代金
    9. 事業譲渡契約5条―借地契約締結の協力
  6. 原告の請求と当事者の主な主張
    1. MSAの請求
    2. MSAの主な主張
    3. SGW医師の主な主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 本件サポート契約の性質と、「成就」の定めの欠如
    2. 紹介・交渉・契約締結・実行の経過から医業承継の成立を判断
    3. 報酬額の算定―最低成功報酬の適用
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 借地権が譲渡対象資産に含まれていないとの主張―利用権の取得方法は譲渡に限られない
    2. 取得方法の変更は、医業承継の成否を左右しない
    3. アドバイザーが賃貸借の成立に関与していないとの主張―相続人との交渉の結果と認定
    4. MSAの主張についての判断の範囲
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. アドバイザリー契約に「成就」の定義がない場合、何をもって医業承継が成立したと判断されますか。
    2. 事業譲渡契約の後に、建物を買い取る予定から賃借に変わった場合でも、成功報酬は発生しますか。
    3. 譲渡代金が減額されたら、アドバイザーの報酬も減りますか。
    4. 最後の契約締結の場にアドバイザーを同席させなければ、報酬を支払わなくてよいのですか。
    5. 診療所の承継で、敷地の借地権が譲渡対象に含まれていないと、承継は成立しないのですか。
  13. 関連する記事と相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第49部
裁判日 令和5年9月19日
事件番号 令和4年(ワ)第4744号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(アドバイザー)の請求を全部認容。被告(譲受人の医師)に330万円及び令和3年12月1日から年3%の遅延損害金の支払を命じ、訴訟費用は被告の負担、第1項に限り仮執行宣言
上訴の状況 判決本文には控訴や確定に関する記載がなく、上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
医業承継アドバイザリー会社MSA(以下「MSA」) 原告。医療機関の経営に関するコンサルティング業務、M&Aに関するアドバイザリー業務等を目的とする株式会社で、医療法人や診療所の事業承継の支援等を行っています。譲受人の医師から依頼を受けたアドバイザーです。判決の「原告代表者」は「MSAの代表者」とします
譲受人である医師SGW氏(以下「SGW医師」) 被告。医師であり、医療法人の経営等を行っています。MSAと医業承継サポート契約を結び、本件診療所の事業を譲り受けました
譲渡人である医師AKT氏(以下「AKT医師」) 本件診療所を自ら所有する建物で開設・運営していた医師。体力的問題を理由に後継者を探していました
当初の地主ISK氏(以下「ISK氏」) 本件診療所建物の敷地の所有者で、AKT医師に事業用定期借地権を設定していました。事業譲渡契約の締結後に亡くなりました
地主の相続人LMR氏(以下「LMR氏」) ISK氏の妻で相続人の一人。敷地を相続により取得し、AKT医師から本件診療所建物の贈与を受け、SGW医師に建物と敷地を賃貸しました
相続人側の窓口となった会社KYU(以下「KYU」) ISK氏の相続人の打診や賃貸借の条件の提示を、MSAに伝えた有限会社です。判決本文には業種の記載はありません

譲渡前の診療所の名称と、譲受け後の新しい診療所の名称、所在地及び敷地の地番は、記事では記載しません。判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

事案の概要―事業譲渡契約の後に地主が亡くなり、建物の取得が賃借に変わった

個人の医師が開設していた診療所と、残り約1年の事業用定期借地権

AKT医師は、令和3年10月31日まで、自ら所有する建物(本件診療所建物)で診療所(本件診療所)を開設・運営していました。本件診療所建物の敷地(本件借地)は、AKT医師が所有者であるISK氏から借りていたものです。

AKT医師とISK氏は、平成24年10月11日、本件診療所建物の所有と駐車場の設置を目的として、契約期間を平成24年10月11日から平成34年(令和4年)10月10日までの10年間、賃料を月額16万6,700円とする、借地借家法23条2項による事業用定期借地権設定契約を締結していました。令和3年当時、AKT医師はこの事業用定期借地権(本件借地権)により本件借地を賃借しており、借地権の期限は約1年後に迫っていました。

借地借家法23条2項の事業用定期借地権は、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を10年以上30年未満として設定される借地権で、契約の更新に関する規定などが適用されないものです(この説明は当事務所による法令の説明です)。

アドバイザーの紹介と、医業承継サポート契約の締結

判決が認定した事実によれば、SGW医師は、令和3年3月あるいは4月頃、MSAに医療機関の買収について相談しました。MSAは、体力的問題を理由として本件診療所の後継者を探していたAKT医師をSGW医師に紹介することとし、令和3年6月2日、SGW医師との間で、SGW医師による本件診療所の買収を実現することを目的として、医業承継サポート契約(譲受・買収側アドバイザリー契約。本件サポート契約)を締結しました。

本件サポート契約では、医業承継が成立した場合に第2次成功報酬を支払うこととされ、料率による計算額が300万円を下回るときは一律300万円とし、第1次成功報酬と第2次成功報酬の合計額(消費税等相当額を除きます)は300万円を下回らないものとされていました。有効期間は契約締結の日から1年間です。

SGW医師とAKT医師は、令和3年6月9日、MSAの紹介を通じて面談を行い、本件診療所の事業譲渡を進めていくことに合意しました。

借地権を引き継がず、新たに借地契約を結ぶ方針

MSAは、令和3年6月以降、AKT医師との間で事業譲渡の取引条件を交渉しました。その中で、本件借地権の期限が約1年後(令和4年10月10日)に迫っていたため、AKT医師からSGW医師へ本件借地権を譲渡するのではなく、AKT医師とISK氏との間の借地契約を終了させたうえで、SGW医師とISK氏との間で新たに借地契約を締結することとしました。MSAはSGW医師にその旨を説明するとともに、AKT医師の妻を通じてISK氏に打診し、令和3年7月30日までに、AKT医師の妻から、ISK氏の承諾を得た旨の連絡を受けました。

代金2,200万円の事業譲渡契約と、借地契約締結への協力条項

SGW医師とAKT医師は、令和3年7月30日、本件診療所の診療所事業をAKT医師がSGW医師に譲渡する事業譲渡契約(本件事業譲渡契約)を締結しました。契約書の案文はMSAが作成しています。譲渡日は令和3年10月1日、譲渡対象資産には本件診療所建物の所有権、医療機器等、営業権、備品・消耗品、医薬品等の棚卸資産、診療録等の諸記録が含まれ、代金は本件診療所建物の対価502万9,947円とそれ以外の事業譲渡の対価1,697万53円の合計2,200万円(消費税込み)、支払期日は令和3年9月30日とされました。

一方、本件借地権は譲渡対象資産に含まれていません。その代わりに、AKT医師が令和3年10月1日に定期借地契約を終了させ、SGW医師が地主と新たに借地契約を締結できるよう誠意をもって協力すること、新たな借地契約を締結できない場合にはSGW医師が契約を解除でき、その場合はAKT医師が受領済みの金員を無利息で返還することが定められました。

地主の死亡と、相続人からの2つの選択肢

ISK氏は令和3年8月11日に亡くなりました。MSAは、同月末頃、AKT医師の妻を通じて、ISK氏の相続人にSGW医師との借地契約の締結を打診しましたが、承諾を得られませんでした。

令和3年9月中旬頃、SGW医師は、代金の決済を9月30日に行うのが難しいとしてMSAに決済日の変更を求め、MSAがAKT医師と交渉した結果、決済日は10月31日に延期されました。

MSAは、令和3年10月2日、KYUを通じて、ISK氏の相続人(ISK氏の妻であるLMR氏及びISK氏の子)から、本件借地の利用について、次のいずれかを選択するよう打診されました。MSAは同月4日、SGW医師にメールでその旨を報告しています。

  • SGW医師が本件借地を5,000万円から6,000万円程度で買い取る。
  • 相続人が本件診療所建物をAKT医師から買い取ったうえで、SGW医師に土地と建物を賃貸する。

譲渡対象から建物を外し、代金を1,500万円に減額

MSAの代表者は、令和3年10月6日にSGW医師と、10月8日頃にAKT医師と、それぞれこの打診について協議し、本件事業譲渡契約の譲渡対象資産から本件診療所建物を除外すること及び譲渡代金を減額することについて、AKT医師の承諾を得ました。10月12日には、MSAの代表者とSGW医師が事業譲渡について協議し、MSAは協議の後、SGW医師に、KYUから賃貸借の条件(賃貸借の範囲を本件借地と本件診療所建物とし、月額賃料27万円、敷金100万円、普通借家契約で期間3年・期間満了時に自動更新など)を提示されたことを報告し、10月19日に賃貸借の契約を行いたい旨を連絡しました。

AKT医師は、令和3年10月14日、LMR氏に本件診療所建物を贈与により譲渡しました。

アドバイザーの同席を断った譲受人と、賃貸借契約の締結

令和3年10月15日、MSAの代表者とSGW医師は、10月19日に予定されていた賃貸借契約の締結について打合せをしました。MSAの代表者が契約の締結に同席して決済日等に関する覚書を作成したいと述べたところ、SGW医師は、不動産業者との契約を取ることができなかったのはMSAの責任であるとして、MSAが契約締結に同席しないよう求めました。

SGW医師は、令和3年10月20日、ISK氏から本件借地を相続により取得したLMR氏との間で、本件借地と本件診療所建物について、賃貸借期間を令和3年11月1日から令和6年10月31日までの3年間、賃料を月額27万円とする賃貸借契約を締結し、11月1日に本件診療所建物の引渡しを受けました。

SGW医師とAKT医師は、令和3年11月1日までに、本件事業譲渡契約に基づく事業譲渡について、譲渡対象資産から本件診療所建物を除外し、代金を合計1,500万円に変更する旨を合意し、SGW医師はその代金を支払いました。本件診療所は、令和3年10月31日をもって保険医療機関の廃止がされた後、11月1日、開設者をSGW医師とする新しい名称の診療所として、新たに保険医療機関の指定を受けました。

アドバイザーの報酬請求と支払の拒否

MSAは、令和3年11月8日、SGW医師に対し、本件サポート契約に基づくアドバイザリー報酬330万円を同月22日までに支払うよう催告しました。SGW医師が支払わなかったため、MSAは同月22日、同額を同月30日までに支払うよう再び催告しましたが、支払はされず、MSAが提訴しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成24年10月11日 AKT医師とISK氏が、本件借地について期間10年(令和4年10月10日まで)、月額16万6,700円の事業用定期借地権設定契約を締結
令和3年3月又は4月頃 SGW医師がMSAに医療機関の買収を相談。MSAがAKT医師を紹介することとする
令和3年6月2日 MSAとSGW医師が医業承継サポート契約を締結(有効期間1年)
令和3年6月9日 MSAの紹介を通じてSGW医師とAKT医師が面談し、事業譲渡を進めることに合意
令和3年6月以降 MSAがAKT医師と取引条件を交渉。借地権を譲渡せず、SGW医師とISK氏が新たに借地契約を結ぶ方針とする
令和3年7月30日まで MSAが、AKT医師の妻から、ISK氏の承諾を得た旨の連絡を受ける
令和3年7月30日 SGW医師とAKT医師が事業譲渡契約を締結(代金2,200万円、譲渡日10月1日、契約書の案文はMSAが作成)
令和3年8月11日 ISK氏が死亡
令和3年8月末頃 MSAが相続人に借地契約の締結を打診するが、承諾を得られない
令和3年9月中旬頃 SGW医師の求めでMSAが決済日の変更を交渉。決済日を10月31日に延期
令和3年10月2日 MSAが、KYUを通じて、相続人から土地の買取り又は土地・建物の賃借の選択を打診される
令和3年10月4日 MSAがSGW医師にメールで打診の内容を報告
令和3年10月6日 MSAの代表者とSGW医師が打診について協議
令和3年10月8日頃 MSAの代表者がAKT医師から、建物の除外と代金の減額について承諾を得る
令和3年10月12日 MSAの代表者とSGW医師が協議。MSAが賃貸借の条件(月額27万円、敷金100万円、普通借家契約で期間3年等)を報告し、19日の契約を連絡
令和3年10月14日 AKT医師がLMR氏に本件診療所建物を贈与
令和3年10月15日 打合せでSGW医師が、MSAに契約締結に同席しないよう求める
令和3年10月20日 SGW医師とLMR氏が本件借地及び本件診療所建物の賃貸借契約を締結(期間3年、月額27万円)
令和3年10月31日 本件診療所について保険医療機関の廃止
令和3年11月1日 SGW医師が建物の引渡しを受け、開設者をSGW医師とする診療所として新たに保険医療機関の指定。この日までに、建物を除外し代金を1,500万円とする変更合意
令和3年11月8日 MSAが報酬330万円を同月22日までに支払うよう催告
令和3年11月22日 MSAが同月30日までに支払うよう再び催告
令和5年9月19日 東京地方裁判所がMSAの請求を全部認容する判決

判断の前提となった契約条項

以下は、判決本文が契約の「約定」として整理した記載に基づくものです。契約書原本の条文をそのまま再現したものではありません。当事者の呼称は本記事の表記に置き換えています。

医業承継サポート契約1条―対象医療機関と医業承継の定義

「対象医療機関」とは、病院、診療所又は助産所であって、MSAが紹介し、SGW医師がその事業の承継を行う可能性があるものをいう(1項)。

「対象医療機関オーナー」とは、対象医療機関を経営する者であって、本件医業承継の相手先となる可能性があるものをいう(2項)。

「本件医業承継」とは、SGW医師と対象医療機関オーナーとの間で行われる事業譲渡・譲受、出資持分譲渡・譲受、社員入替え、合併その他M&A等による対象医療機関又は対象医療機関の有する事業の承継行為をいう(3項)。

医業承継サポート契約2条1項―アドバイザーの業務の範囲

SGW医師は、契約期間中、本件医業承継を行うためにMSAを医業承継アドバイザーとして指名し、MSAは、候補となる対象医療機関の紹介及び情報提供、交渉についての助言その他の支援、実行についての助言や支援、税理士等の専門家への依頼等に関する助言と支援、契約書類等の書面作成に関する助言と支援、取引価額や取引条件の設定についての助言と支援、その他SGW医師が委託した事項についてのアドバイザリー業務を行う。

医業承継サポート契約3条1項1号―第1次成功報酬

SGW医師は、本件医業承継に関する基本合意がされた場合、対象医療機関からの独占交渉権の付与がされた場合又は対象医療機関に対する調査を開始した場合には、第1次成功報酬として、30万円及び消費税相当額を直ちにMSAに支払う。

医業承継サポート契約3条1項2号―第2次成功報酬と最低額

SGW医師は、本件医業承継が成立した(「本件医業承継成就」又は「本件医業承継が成就」)場合、第2次成功報酬として、取引金額の金額区分の額に所定の手数料率(1億円以下の場合は10%、1億円超5億円以下の部分は5%、5億円超10億円以下の部分は4%、10億円超の部分は3%)を乗じて算出される金額の合計額(合計額が300万円を下回る場合は一律300万円)及び消費税相当額を直ちにMSAに支払う。第1次成功報酬は、第2次成功報酬の金額から控除する。

医業承継サポート契約3条2項・3項―取引金額の意味と報酬の下限

「本件医業承継における取引金額」は、本件医業承継の対価としてSGW医師から対象医療機関オーナー又は本件医業承継を成就させるのに必要な相手方に支払われた金銭の合計額とする(2項)。

算定される金額にかかわらず、第1次成功報酬及び第2次成功報酬の合計額(消費税等相当額を除く。)は300万円を下回らないものとする(3項)。

医業承継サポート契約7条1項―有効期間

本件サポート契約の有効期間は、契約締結の日から1年間とする。

判決は、本件サポート契約の契約書では、医業承継が成立したことを「本件医業承継成就」又は「本件医業承継が成就」と定義しているものの、どのような事由がこれに当たるかについての具体的な定めはないと指摘しています。

事業譲渡契約2条・3条1項―譲渡日と譲渡対象資産

AKT医師は、SGW医師に対し、令和3年10月1日をもって対象事業(本件診療所の診療所事業)を譲渡し、SGW医師はこれを譲り受ける(2条)。

譲渡対象資産は、本件診療所建物(所有権)、医療機器等の物件(所有権)、営業権、譲渡日に本件診療所に存する備品、消耗品その他診療所事業を行うために必要な物件の全て(所有権)、医薬品等の棚卸資産(所有権)、患者の診療録、レントゲンフィルムその他の諸記録(所有権)とする(3条1項)。

事業譲渡契約4条―譲渡代金

本件診療所建物の譲渡の対価は502万9,947円とし、これを除く事業譲渡の対価は1,697万53円とする(合計2,200万円。消費税込み)。譲渡代金の支払期日は令和3年9月30日とする。

事業譲渡契約5条―借地契約締結の協力

AKT医師は、令和3年10月1日に、本件借地権について、土地所有者との定期借地契約を終了させる。また、SGW医師が土地所有者との間で、本件借地について新たに借地契約を締結できるよう誠意をもって協力する。

本件借地について新たに借地契約を締結できない場合、SGW医師は契約を解除することができる。また、これにより契約が解除された場合、AKT医師は、SGW医師に受領済みの金員を無利息にて速やかに返還する。

この5条が、後に見るとおり、事業譲渡契約が建物と敷地の利用権の取得についての約定を含んでいたかどうかの判断で重要な意味を持ちました。

原告の請求と当事者の主な主張

MSAの請求

MSAは、SGW医師に対し、本件サポート契約に基づく報酬として330万円と、これに対する催告の後の日である令和3年12月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めました。

MSAの主な主張

  • 本件サポート契約では、医業承継が成立(成就)した場合に成功報酬の支払義務が生じ、その最低金額は300万円及び消費税相当額とされている。SGW医師とAKT医師の間で本件事業譲渡契約が成立したことにより医業承継が成立したから、SGW医師は330万円の報酬を支払う義務を負う。
  • 本件事業譲渡契約の締結当時、本件借地権を承継しても1年余りで期間が満了するため、借地権を譲渡対象に含めず、借地契約を終了させたうえでISK氏とSGW医師が新たに借地契約を結ぶこととされ、現にISK氏の承諾も得ていた。借地権の承継は事業譲渡の内容に含まれるものではなく、借地権が譲渡対象に含まれていなくても、医業承継が成立した場合に当たる。
  • 仮に借地権の承継が事業譲渡に不可欠の要素であったとしても、ISK氏の死亡後、MSAが相続人と調整した結果、SGW医師のために建物と敷地の賃貸借契約が締結され、SGW医師はAKT医師から本件診療所を承継して開業したから、医業承継が成立した場合に当たる。

SGW医師の主な主張

  • 本件のSGW医師とAKT医師の間の医業承継とは、本件診療所において有機的一体として機能する財産の譲渡を行う事業譲渡であり、その対象財産には、什器備品、顧客、取引先だけでなく、本件診療所建物を継続して使用できるよう、敷地の賃借権も含まれるというべきである。
  • しかし、本件事業譲渡契約では、建物の所有権、医療機器等、営業権、備品等が譲渡対象資産とされ、本件借地権は含まれておらず、その承継について具体的な合意もなかった。したがって、事業譲渡契約を締結しても、医業承継が成立した場合には当たらない。
  • MSAは、事業譲渡日とされた令和3年10月1日までに、AKT医師と地主の賃貸借契約を合意解除させることも、SGW医師と地主の新たな賃貸借契約を成立させることもできず、SGW医師はクリニックを開設できなかった。そこでSGW医師は、AKT医師や地主と協議し、建物をAKT医師から地主に譲渡したうえで、地主から建物と敷地を賃借することになった。MSAはこの賃貸借契約の成立について何らの援助や助言をしていないから、賃貸借契約が成立しても医業承継が成立した場合には当たらない。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決が整理した争点は、SGW医師とAKT医師の間で医業承継が成立したものとして、SGW医師がMSAに本件サポート契約に基づく報酬支払義務を負うかという1点です。その中で、結論を左右したのは次の3点でした。

  1. 報酬の発生要件である医業承継の「成立」又は「成就」に具体的な定めがない場合に、どのような事実があれば成立したといえるか。
  2. 敷地の借地権が事業譲渡契約の譲渡対象資産に含まれていなかったことが、医業承継の成立を妨げるか。
  3. 事業譲渡契約の締結後に、建物の取得から建物・敷地の賃借へと取得方法が変わり、アドバイザーが最後の契約締結に同席しなかったことが、医業承継の成立やアドバイザーの関与の評価を左右するか。

報酬の額については、最終的な代金額を前提に、約定の算定方法によって判断されています。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

本件サポート契約の性質と、「成就」の定めの欠如

裁判所は、本件サポート契約を、MSAがSGW医師の医業承継のアドバイザーとして、候補となる医療機関の紹介や情報提供、交渉や実行、契約書類等の書面作成、取引条件の設定についての支援といった業務を行い、医業承継が成立した場合にはSGW医師が所定の報酬を支払うことを約した契約と位置付けました。そのうえで、契約書について次のように指摘しています。

「いかなる事由が医業承継の成立あるいは「本件医業承継成就」に該当するのかについての具体的な定めは存しない。」

紹介・交渉・契約締結・実行の経過から医業承継の成立を判断

裁判所は、具体的な定めがない中で、本件の経過を次のように整理しました。

  • SGW医師による本件診療所の買収を実現するために本件サポート契約が締結され、MSAがAKT医師を紹介し、取引条件の交渉を進めた結果、代金2,200万円の本件事業譲渡契約が締結されたこと。
  • 契約締結後、代金決済日、譲渡対象資産及び譲渡代金額の変更がされ、最終的にSGW医師がAKT医師に変更後の代金1,500万円を支払い、本件診療所の事業に関する財産を譲り受けたこと。
  • 事業の本拠となる本件診療所建物及び本件借地について、所有者であるLMR氏との間で賃貸借契約を締結し、引渡しを受けたこと。
  • 令和3年11月1日をもって、本件診療所が新たに保険医療機関の指定を受けるに至ったこと。

これらの事実から、裁判所は次のように判断しました。

「本件診療所の事業に関し、医業承継のアドバイザーである〔MSA〕による対象医療機関の紹介、取引条件の交渉を経て、事業譲渡契約が締結され、本件事業譲渡契約に基づく事業譲渡が実行されたものと認められるから、〔AKT医師〕と〔SGW医師〕との間の本件診療所に関する医業承継が成立したと認めるのが相当である。」

つまり、本判決は、事業譲渡契約の締結だけでなく、その契約に基づく事業譲渡が実行されたことまでを認定したうえで、医業承継の成立を認めています。その際、アドバイザーによる紹介と取引条件の交渉を経たことも、判断の文言に含められています。

報酬額の算定―最低成功報酬の適用

裁判所は、本件事業譲渡契約の最終的な代金額が1,500万円であることを前提に、本件サポート契約の第2次成功報酬の算定についての約定によれば、SGW医師は、300万円及び消費税相当額30万円を合計した330万円の支払義務を負うと判断しました。

判決本文は計算の過程を詳しく示していませんが、約定の料率(取引金額1億円以下の場合は10%)を1,500万円に当てはめると150万円となり、300万円を下回るため、一律300万円とする定めが適用されることになります(この計算は、当事務所が約定に当てはめて確認したものです)。当初の代金2,200万円を前提にしても220万円であり、最低額を下回ることに変わりはありません。

各主張を採用し又は排斥した理由

借地権が譲渡対象資産に含まれていないとの主張―利用権の取得方法は譲渡に限られない

SGW医師は、医業承継には敷地の借地権の承継が含まれるべきであるのに、事業譲渡契約の譲渡対象資産に借地権が含まれていないと主張しました。裁判所は、事業を承継するには事業の本拠であった建物と敷地の利用権を取得する必要があることを認めつつ、次のように述べました。

「本件事業譲渡契約における当該利用権の取得方法が、〔AKT医師〕から〔SGW医師〕への本件診療所建物及び本件借地権の譲渡に限定されると解すべき根拠は存しない。」

そのうえで、裁判所は、本件借地権の存続期間が約1年程度しか残っていなかったことから、MSAが、SGW医師が地主と借地契約を締結することとしてSGW医師及びAKT医師と交渉したこと、その結果、事業譲渡契約では、AKT医師が建物を譲渡し、新たな借地契約の締結に誠意をもって協力する義務を負い、締結できない場合にはSGW医師が契約を解除できると定められたことを指摘しました。そして、次のとおり認定しています。

「本件事業譲渡契約は、〔SGW医師〕による本件診療所建物及び本件借地の利用権の取得についての約定も含むものであったと認めることができる。」

このような約定が含まれており、SGW医師もこれを理解して合意した以上、事業譲渡に当たり、AKT医師からSGW医師への本件借地権の譲渡や承継を含むことが必要であったということはできない、というのが裁判所の判断です。

取得方法の変更は、医業承継の成否を左右しない

裁判所は、事業譲渡契約の締結後、当初の約定(AKT医師からSGW医師への建物の譲渡と、SGW医師と地主の借地契約の締結)と異なり、SGW医師が相続人から建物と敷地を賃借することになった点についても検討しました。裁判所は、これは相続人の意向を踏まえて交渉を行った結果、譲渡対象資産を変更すること等についてSGW医師が了承するに至ったものであり、現にSGW医師が建物と敷地の引渡しを受けて事業を譲り受けるに至ったことを理由に、次のように判断しました。

「本件診療所建物及び本件借地の利用権の取得方法の変更は、〔SGW医師〕と〔AKT医師〕との間の医業承継の成否に関する認定判断を左右するものではない。」

アドバイザーが賃貸借の成立に関与していないとの主張―相続人との交渉の結果と認定

SGW医師は、MSAが地主との借地契約を成立させられず、相続人との賃貸借契約の成立について援助や助言をしていないと主張しました。裁判所は、認定事実から次の点を挙げました。

  • 事業譲渡契約の締結後の令和3年8月11日にISK氏が亡くなり、相続人が予定されていた借地契約の締結を承諾しなかったこと。
  • 相続人からの打診を受けてMSAがSGW医師及びAKT医師と協議した結果、SGW医師とAKT医師は、譲渡対象資産から建物を除き、譲渡代金額を変更するとともに、SGW医師が相続人から建物と敷地を賃借することを合意したこと。
  • MSAがLMR氏から提示された賃貸借の条件とおおむね同じ内容で、SGW医師が建物と敷地を賃借するに至ったこと。

そのうえで、裁判所は、MSAが相続人との間で本件借地の利用に関する交渉を行った結果、SGW医師とLMR氏の賃貸借契約が成立するに至ったと認められるとして、次のように述べました。

「〔MSA〕が〔SGW医師〕と地主との間の本件診療所建物及び本件借地についての賃貸借契約の成立について援助や助言をしなかったなどということはできない。」

こうして、SGW医師の主張はいずれも理由がないとして採用されませんでした。なお、令和3年10月15日の打合せで、SGW医師がMSAに契約締結への同席をしないよう求めた事実は、認定事実として記載されていますが、判決はこの事実を、報酬の発生を妨げる事情としては取り上げていません。

MSAの主張についての判断の範囲

MSAは、借地権の承継は事業譲渡の内容に含まれないという主張と、仮に不可欠の要素であっても相続人との調整の結果として承継が実現したという主張を、段階的に行っていました。判決は、事業譲渡契約が利用権の取得についての約定を含んでいたと認めたうえで、取得方法の変更は医業承継の成否を左右しないとしており、借地権の承継が事業譲渡に不可欠の要素であるかどうかを一般的に論じたものではありません。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(当事者の呼称を本記事の表記に置き換えています)。

「〔SGW医師〕は、〔MSA〕に対し、330万円及びこれに対する令和3年12月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」
「訴訟費用は〔SGW医師〕の負担とする。」
「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」

アドバイザーであるMSAの請求は全部認められました。報酬の内訳は、最低成功報酬300万円と消費税相当額30万円です。遅延損害金の起算日である令和3年12月1日は、2回目の催告で定めた支払期限(令和3年11月30日)の翌日に当たります。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、アドバイザリー契約に「成就」の具体的な定めがない場合でも、裁判所は、アドバイザーによる紹介と取引条件の交渉、事業譲渡契約の締結、その契約に基づく事業譲渡の実行という一連の経過を認定して、医業承継の成立を認めたことです。本件では、代金の支払、事業に関する財産の譲受け、建物と敷地の引渡し、新たな保険医療機関の指定といった、承継が実際に実現したことを示す事実がそろっていました。

第2に、事業譲渡契約の締結後に取引条件が変わっても、それだけで医業承継の成立が否定されるわけではないことです。本件では、事業譲渡契約の中に、建物と敷地の利用権の取得に関する約定(借地契約締結への協力と、締結できない場合の解除権)が置かれていたことが重視されました。そのうえで、取得方法の変更が相続人の意向を踏まえた交渉の結果であり、譲受人もそれを了承し、現に事業を譲り受けたことから、変更は医業承継の成否を左右しないとされています。

第3に、成功報酬に最低額の定めがある場合、代金が減額されても報酬が最低額を下回ることはないことです。本件では、代金が2,200万円から1,500万円に減額されましたが、料率による計算額はいずれにしても300万円を下回るため、最低額の300万円に消費税相当額を加えた330万円が認められました。診療所の承継のように取引金額が比較的小さい取引では、料率よりも最低額の定めが報酬額を決めることが多いと考えられます。

第4に、譲受人が、アドバイザーは不動産の契約を取れなかったなどとして、最後の契約締結の場からアドバイザーを外しても、それまでの経過でアドバイザーが相続人との交渉を行い、提示された条件とおおむね同じ内容で契約が成立していれば、アドバイザーが援助や助言をしなかったとはいえないと判断されたことです。譲受人の側からみると、最終段階でアドバイザーを外したことは、報酬の支払を免れる理由にはならなかった例となります。

一般化できない点

本判決は、事業譲渡契約の中に利用権の取得についての約定があり、譲受人がその内容を理解して合意していたこと、取得方法の変更をアドバイザーの協議を経て譲受人が了承したこと、承継が現に実現したことといった本件の具体的な事情に基づく判断です。事業譲渡契約に利用権に関する定めがなかった場合や、利用権を確保できずに事業譲渡契約が解除された場合には、結論が異なり得ます。本件では、SGW医師は事業譲渡契約5条の解除権を行使しておらず、解除された場合の報酬の扱いについて判決は判断していません。

また、本判決では、アドバイザーが紹介と取引条件の交渉を行い、相続人との交渉にも関与していたことが認定されています。アドバイザーが取引の途中で業務を行わなくなり、依頼者が独自に取引をまとめた場合に、なお報酬が発生するかどうかについて、本判決は判断を示していません。

報酬の算定についても、本判決は最終的な代金額1,500万円を前提に最低額の定めを適用したもので、取引金額に建物や敷地の賃借に関する支払(賃料や敷金)を含めるべきかどうかは争点になっていません。第1次成功報酬の支払の有無とその控除の扱いも、判決本文では取り上げられていません。

本件は、個人の医師が開設していた診療所を、別の医師が事業譲渡の方法で譲り受けた事案です。医療法人の出資持分の譲渡や社員の入替えによる承継の場合には、何をもって承継の成立とみるかの事情が異なります。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

アドバイザーの側では、報酬の発生事由である「成立」や「成就」が、事業譲渡契約の締結時点を指すのか、代金の支払や引渡しなどの実行の時点を指すのかを明確にし、取引条件や取得方法が変わった場合や、契約が解除された場合の報酬の扱いも定めておくことが考えられます。譲受人の側では、報酬を請求された時点で、承継が実際に実現したか、アドバイザーがどの段階でどのような業務を行ったかを、メール等の記録で整理しておくことが重要です。診療所の承継では、建物と敷地の利用権の確保が承継の前提となることが多いため、事業譲渡契約の中で利用権の確保の方法と、確保できない場合の解除の扱いを定めておくことも大切です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

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よくあるご質問

アドバイザリー契約に「成就」の定義がない場合、何をもって医業承継が成立したと判断されますか。

本判決では、アドバイザーによる紹介と取引条件の交渉を経て事業譲渡契約が締結され、その契約に基づく事業譲渡が実行されたことをもって、医業承継が成立したと認められました。代金の支払、事業に関する財産の譲受け、建物と敷地の引渡し、新たな保険医療機関の指定といった事実が認定されています。

事業譲渡契約の後に、建物を買い取る予定から賃借に変わった場合でも、成功報酬は発生しますか。

本判決では、事業譲渡契約に建物と敷地の利用権の取得に関する約定が含まれており、取得方法の変更も相続人の意向を踏まえた交渉の結果を譲受人が了承したものであったことから、取得方法の変更は医業承継の成否を左右しないと判断されました。もっとも、契約の定めや変更に至った経過によって結論は異なり得ます。

譲渡代金が減額されたら、アドバイザーの報酬も減りますか。

報酬の算定方法によります。本件の契約には、料率による計算額が300万円を下回る場合は一律300万円とする最低額の定めがあったため、代金が2,200万円から1,500万円に減額されても、報酬は300万円と消費税相当額の合計330万円とされました。

最後の契約締結の場にアドバイザーを同席させなければ、報酬を支払わなくてよいのですか。

本判決では、譲受人がアドバイザーに契約締結への同席をしないよう求めた事実がありましたが、それまでにアドバイザーが相続人との交渉を行い、提示された条件とおおむね同じ内容で賃貸借契約が成立していたことから、アドバイザーが援助や助言をしなかったとはいえないとされ、報酬の支払が命じられました。

診療所の承継で、敷地の借地権が譲渡対象に含まれていないと、承継は成立しないのですか。

本判決は、事業の承継には建物と敷地の利用権の取得が必要であるとしつつ、その取得方法が借地権の譲渡に限られる根拠はないとしました。本件では、残りの期間が約1年の事業用定期借地権を引き継ぐ代わりに、譲受人が地主と新たに借地契約を結ぶことを前提とした協力条項が置かれていたことが重視されています。

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この記事の位置付け

医業承継のアドバイザーと、診療所を譲り受ける医師の双方に向けて、事業譲渡契約の締結後に建物の取得から賃借へと取得方法が変わった場面の判例を、成功報酬の発生要件である医業承継の成立の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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