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代表者の関与がないとする事業譲渡契約の無効の主張と代金変更合意・信義則―東京地方裁判所令和5年12月18日判決

公開 2023年12月18日更新 2026年10月30日

▶ 株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果

事業譲渡契約を結び、代金を変更する合意もして支払を受けた譲渡会社が、長い年月が経ってから、契約は当時の譲受会社の代表者の関与なく結ばれたものだから無効であると主張し、代金相当額の返還を求める。このような主張は認められるのでしょうか。東京地方裁判所令和5年12月18日判決は、太陽光発電事業の事業譲渡をめぐるこの種の紛争で、無効確認と契約終了確認を求める部分の訴えを確認の利益がないとして却下し、不当利得返還請求と損害賠償請求をいずれも棄却しました。

本判決は、譲受会社の当時の代表者が事業承継の交渉に関わり、事業譲渡の前提となる合意に立会人として署名していたことから、その関与なく契約が行われたとは認め難いとしました。さらに、仮に関与がなかったことが意思表示の瑕疵に当たるとしても、契約の存在を前提とする代金の変更合意は有効な合意あるいは追認と解され、変更後の代金の支払で履行が完了してから8年以上経って無効を主張することは信義則の観点から許されないと判断しています。本記事では、確認の訴えの適否、無効の主張、代金変更合意の意味、予備的な解約の主張の順に、判決の理由を整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 広告会社が太陽光発電事業に取り組み、目的子会社を設立した
    2. 経営方針の対立で代表者が退任し、事業の受皿となる会社が設立された
    3. 事業譲渡の前提となる1月30日付合意と、2月25日の事業譲渡契約
    4. 代金を4,800万円から1,100万円に変更する合意と、その支払
    5. 約8年後、元の代表者が譲渡会社の代表者に戻り、訴えを提起した
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった合意及び契約の内容
    1. 前提となる1月30日付合意―事業と子会社株式の譲渡の約束
    2. 本件事業譲渡契約(平成25年2月25日)―AEN事業の譲渡
    3. 本件変更合意(平成26年2月10日)―譲渡価格の変更
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 広告会社KGSの請求
    2. 争点ごとの当事者の主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 無効確認の訴え―給付の訴えとは別に確認する利益はない
    2. 代表者の関与がなかったとの主張―立会人として署名し、交渉に関わっていた
    3. 仮に関与がなかったとしても―変更合意は有効な合意又は追認であり、無効の主張は信義則上許されない
    4. 不当利得の返還請求―契約が無効でない以上、不当利得はない
    5. 契約終了確認の訴え―要件の一つにすぎず、確認の対象にならない
    6. 予備的な損害賠償請求―契約は有効で、変更後の代金は支払済み
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 会社の代表者が関与しないまま結ばれた事業譲渡契約は、必ず無効になりますか。
    2. 契約の後に代金を減額する合意をすると、元の契約の問題を争えなくなりますか。
    3. 何年も前の事業譲渡契約の無効を、今から主張できますか。
    4. 代金相当額の返還を求める訴えとあわせて、契約の無効確認も求めることはできますか。
    5. 代金の分割払いが約束どおり支払われないとして、契約を解約し、残額全部を請求できますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第32部
裁判日 令和5年12月18日
事件番号 令和4年(ワ)第1805号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 譲渡会社(原告)の訴えのうち、事業譲渡契約の無効確認を求める部分及び事業譲渡契約の終了確認を求める部分をいずれも却下。不当利得返還請求(4,008万3,270円)及び損害賠償請求(4,800万円)をいずれも棄却。訴訟費用は原告の負担
上訴の状況 判決本文には控訴の有無及び確定に関する記載がなく、上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
譲渡会社である広告会社KGS 原告。広告代理業又は広告業を主たる目的とする株式会社で、太陽光発電事業を事業譲渡した側です
MKT氏 現在の広告会社KGSの代表者。かつて広告会社KGSの代表取締役を務めて退任し、事業譲渡契約の締結当時は譲受会社である発電事業会社SHDの代表取締役でした。令和3年12月に広告会社KGSの代表取締役に再び就任しています
譲受会社である発電事業会社SHD 被告。発電事業等を目的とする株式会社で、事業を譲り受けた側です。設立時の商号は、下記の発電目的子会社AENと同じ商号でした(別法人です)
YSK氏 発電事業会社SHDの現在の代表者。設立時からの取締役で、平成25年7月31日に代表取締役に就任しました。広告会社KGSの太陽光発電事業等に関わっていた人物です
当時の広告会社KGSの代表者DMR氏 株主側の要請で広告会社KGSの経営に関わり、平成25年1月4日に代表取締役に就任した人物。事業譲渡契約及び代金の変更合意の当時の広告会社KGSの代表取締役です
執行役員FKS氏 株主側の要請で広告会社KGSの経営に関わり、執行役員として会社の再生を進めた人物
協力者GTN氏 下記の特定非営利活動法人HRNの理事で、YSK氏を支援して広告会社KGSに入社し、その後、受皿会社JSBの部長となった人物
特定非営利活動法人HRN YSK氏が設立して代表理事を務めていた法人
発電目的子会社AEN 広告会社KGSが太陽光発電事業の一環として設立した、発電事業等を目的とする100%子会社。判決は、事業譲渡の対象となった事業を、この会社と同じ名称を冠した「事業」として表記しています(本記事では「AEN事業」とします)
子会社IZS 広告会社KGSが同じ日に設立したもう一つの100%子会社(本記事では、その名称を冠した事業を「IZS事業」とします)
受皿会社JSB MKT氏とYSK氏が、広告会社KGSから太陽光発電事業や事業開発部の人員を譲り受ける会社として設立した株式会社
関連会社KHE、関連会社LMG YSK氏が発電事業会社SHDと相前後して設立した株式会社

このほか、判決本文に出てくる訴訟外の人物(代金の変更合意に関して脅迫をしたと広告会社KGSが主張する人物等)は、「第三者」と表記します。所在地など特定につながる事項は、判決の理解に必要な範囲を超えて記載していません。

事案の概要

広告会社が太陽光発電事業に取り組み、目的子会社を設立した

広告会社KGSは、広告代理業等を主たる業務としていましたが、従来の業務とは異なる太陽光発電事業、地震情報システム、省エネシステム等の事業に挑戦する事業開発部を、環境事業本部の下に設置しました。MKT氏は、平成22年4月から広告会社KGSの経営に参画し、平成23年10月27日付けで取締役、平成24年6月1日付けで代表取締役に就任しました。

YSK氏は、特定非営利活動法人HRNを設立して代表理事として活動していましたが、平成24年2月頃から、広告会社KGSの事業開発部の太陽光発電事業や地震情報システム等の業務に関わるようになりました。特定非営利活動法人HRNの理事であった協力者GTN氏も、YSK氏を支援していたことから広告会社KGSに協力することになり、平成24年11月には広告会社KGSに入社しています。

広告会社KGSは、事業開発部の太陽光発電事業の一環として、平成24年11月26日、目的会社である発電目的子会社AEN及び子会社IZSを、それぞれ100%子会社として設立しました。いずれも、代表取締役にMKT氏が、取締役にYSK氏が就任しています。

経営方針の対立で代表者が退任し、事業の受皿となる会社が設立された

他方、広告会社KGSの株主側からの要請により、平成24年9月から、執行役員FKS氏とDMR氏が広告会社KGSの経営に関わるようになりました。執行役員FKS氏は、会社全体の業務の戦略を立て、ファイナンスを主眼とした事業の選択と集中による会社の再生を進めました。

会社の再生をめぐる株主側との経営方針の違いから、MKT氏は、平成24年12月27日の取締役会で代表取締役の辞任に追い込まれ、平成25年1月15日には取締役も辞任しました。広告会社KGSの代表取締役には、平成25年1月4日にDMR氏が就任しています(判決本文の前提事実では、MKT氏が代表取締役の地位にあったのは平成25年1月4日の辞任までとされています)。

MKT氏は、太陽光発電事業の利益を事業者だけでなく地域にも還元すべきであるというYSK氏の考え方に賛同しており、広告会社KGSの経営体制が変わると利益の地域還元は望めないと考えました。そこで、YSK氏とともに、広告会社KGSから太陽光発電事業や事業開発部の人員を譲り受ける会社として、平成25年1月17日に受皿会社JSBを設立しました。出資はMKT氏が50万円、YSK氏が300万円で、代表取締役にMKT氏が、取締役にYSK氏が就任し、協力者GTN氏も広告会社KGSを退社して受皿会社JSBの部長に就任しました。

さらにYSK氏は、平成25年1月18日に関連会社KHEを、同月21日に発電事業会社SHD及び関連会社LMGを設立し、いずれも代表取締役にMKT氏が、取締役にYSK氏が就任しました。同じ1月21日、YSK氏はMKT氏に対し、弁済期を同年2月10日として252万円を貸し付けています。

事業譲渡の前提となる1月30日付合意と、2月25日の事業譲渡契約

事業開発部の太陽光発電や地震情報システム等の事業を受皿会社JSBで譲り受けるための交渉は、YSK氏が続けていました。そして、平成25年1月30日、広告会社KGS(代表者DMR氏)とYSK氏との間で、MKT氏を立会人として、事業の譲渡や子会社の株式の譲渡を約束する合意(以下「1月30日付合意」といいます)がされました。合意の内容は、次の「判断の前提となった合意及び契約の内容」の節で整理します。

MKT氏は、平成25年2月20日、受皿会社JSBの代表取締役及び取締役を辞任しました。そのうえで、平成25年2月25日、1月30日付合意に基づき、広告会社KGSとYSK氏との間で、子会社IZS及び発電目的子会社AENのすべての株式をYSK氏に譲渡する契約が結ばれました。同じ日、広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者MKT氏)との間で、AEN事業に関する事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」といいます)と、IZS事業に関する事業譲渡契約(譲渡代金は0円)が結ばれています。

MKT氏は、平成25年3月1日に関連会社KHE、発電目的子会社AEN、子会社IZS及び関連会社LMGの代表取締役を辞任し、いずれもYSK氏が代表取締役に就任しました。同年3月25日には、発電目的子会社AEN及び関連会社KHEが、それぞれの発電所について、同年1月22日付けで申請していた再生可能エネルギー発電設備の認定を受けています。MKT氏は、同年7月31日、発電事業会社SHDの代表取締役及び取締役も辞任し、同日、YSK氏が発電事業会社SHDの代表取締役に就任しました。

代金を4,800万円から1,100万円に変更する合意と、その支払

本件事業譲渡契約の譲渡価格は、事業が成功することを条件に4,800万円(税込)とされ、平成26年5月末から10年近くにわたる分割払いとされていました。しかし、平成26年2月10日、広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者YSK氏)は、譲渡価格を1,100万円(税込)に変更し、同月14日限りで一括して支払う旨の合意(以下「本件変更合意」といいます)をしました。発電事業会社SHDは、平成26年2月12日、本件変更合意に基づく1,100万円を広告会社KGSに振り込んで支払いました。

約8年後、元の代表者が譲渡会社の代表者に戻り、訴えを提起した

MKT氏は、令和3年12月17日、広告会社KGSの代表取締役に再び就任しました(登記は令和4年1月11日)。広告会社KGSは、令和4年1月26日、発電事業会社SHDを相手に本件訴訟を提起しました。

広告会社KGSの主張の骨子は、本件事業譲渡契約は、譲受会社である発電事業会社SHDの当時の代表者であったMKT氏が関与しないまま、YSK氏が代表印を無断で使って締結したものであるから無効である、というものです。つまり、事業譲渡契約の当時に譲受会社側の代表者であった人物が、現在は譲渡会社側の代表者として、譲受会社側の内部の事情を理由に契約の無効を主張するという構図の事件です。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成22年4月 MKT氏が広告会社KGSの経営に参画(平成23年10月27日付けで取締役、平成24年6月1日付けで代表取締役)
平成24年2月頃 YSK氏が広告会社KGSの事業開発部の太陽光発電事業等に関わり始める
平成24年9月 株主側の要請により、執行役員FKS氏とDMR氏が広告会社KGSの経営に関わり始める
平成24年11月26日 広告会社KGSが発電目的子会社AEN及び子会社IZSを100%子会社として設立(代表取締役MKT氏、取締役YSK氏)
平成24年12月27日 MKT氏が広告会社KGSの取締役会で代表取締役の辞任に追い込まれる
平成25年1月4日 DMR氏が広告会社KGSの代表取締役に就任
平成25年1月15日 MKT氏が広告会社KGSの取締役を辞任
平成25年1月17日 MKT氏とYSK氏が受皿会社JSBを設立(代表取締役MKT氏、取締役YSK氏)
平成25年1月18日・21日 YSK氏が関連会社KHE(18日)、発電事業会社SHD及び関連会社LMG(21日)を設立(いずれも代表取締役MKT氏、取締役YSK氏)。21日、YSK氏がMKT氏に252万円を貸付け
平成25年1月30日 広告会社KGS(代表者DMR氏)とYSK氏が、MKT氏を立会人として1月30日付合意。本件事業譲渡契約で事業譲渡日とされた日でもある
平成25年2月20日 MKT氏が受皿会社JSBの代表取締役及び取締役を辞任
平成25年2月25日 子会社2社の全株式をYSK氏に譲渡する契約。広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者MKT氏)が本件事業譲渡契約(4,800万円)及びIZS事業の事業譲渡契約(0円)を締結
平成25年3月1日 MKT氏が関連会社KHE、子会社2社及び関連会社LMGの代表取締役を辞任し、YSK氏が就任
平成25年3月25日 発電目的子会社AEN及び関連会社KHEが発電所について再生可能エネルギー発電設備の認定を受ける
平成25年7月31日 MKT氏が発電事業会社SHDの代表取締役及び取締役を辞任し、YSK氏が代表取締役に就任
平成26年2月10日 広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者YSK氏)が本件変更合意(譲渡価格を1,100万円に変更)
平成26年2月12日 発電事業会社SHDが1,100万円を振込みにより支払う
令和3年12月17日 MKT氏が広告会社KGSの代表取締役に就任(登記は令和4年1月11日)
令和4年1月26日 広告会社KGSが本件訴訟を提起
令和4年8月22日 発電事業会社SHDが、無権代理行為であるとした場合に備えて、予備的に本件事業譲渡契約を追認する意思表示をする(同社の主張による)
令和5年12月18日 東京地方裁判所が、確認を求める部分を却下し、その余の請求を棄却する判決

判断の前提となった合意及び契約の内容

以下は、判決本文が前提事実及び認定事実として整理した内容に基づくものです。契約書や合意書の原本の条文をそのまま再現したものではありません。当事者の呼称は本記事の表記に置き換え、所在地の記載は省略しています。

前提となる1月30日付合意―事業と子会社株式の譲渡の約束

当事者:広告会社KGS(代表者DMR氏)とYSK氏。MKT氏が立会人

第1条:YSK氏が、広告会社KGSの有する訴外会社への売掛金債権の全額(1千万円強)を平成25年1月31日に支払う。

第2条前段:広告会社KGSが、YSK氏の指定する法人に対し、AEN事業及びIZS事業を譲渡する。

第2条後段:これに伴い、広告会社KGSは、その所有する発電目的子会社AEN及び子会社IZSについて、YSK氏又はその指定する法人に対し、平成25年2月末日までに広告会社KGSの取締役会で全株式譲渡の承認を得て実行することを約束する。

第3条:広告会社KGSは、YSK氏及びその指定する法人が新しい契約先との間で今後進めるコミュニティエネルギー事業その他一切の事業について、関与せず、異議を述べず、一切の金銭的請求をしないことを約束する。

判決は、本件事業譲渡契約を「本件1月30日付合意に基づく契約の一つ」と位置付けています。後で見るとおり、MKT氏がこの合意に立会人として署名していたことが、無効の主張を退ける大きな理由になりました。

本件事業譲渡契約(平成25年2月25日)―AEN事業の譲渡

契約の内容:広告会社KGSが、事業譲渡日に、譲渡価格にて、本事業を発電事業会社SHDに譲り渡し、発電事業会社SHDがこれを譲り受ける。

事業譲渡日:平成25年1月30日

本事業:広告会社KGSが、特定の地域において、事業譲渡日に営んでいるコミュニティエネルギー事業であって、対象資産により構成されるもの

対象資産:本事業に関する営業秘密やノウハウ

譲渡価格及び支払方法:本事業が成功することを条件に、4,800万円(税込)とし、次の分割方法によって支払う。

(1)平成26年5月末日限り1,000万円
(2)平成26年6月から平成36年4月まで毎月末日限り31万6,666円
(3)平成36年5月末日限り31万6,746円

平成36年は判決本文の表記のままで、改元後の令和6年に当たります。分割払いを合計すると4,800万円になります。事業譲渡日(平成25年1月30日)は契約締結日より前の日付で、1月30日付合意の日と同じ日です。対象資産は「本事業に関する営業秘密やノウハウ」とされており、発電設備や設置場所の権利は契約上の対象資産として挙げられていません。

このほか、本件事業譲渡契約には9条1項1号として、義務の履行違反を事由とする解約の定めがあったことが、広告会社KGSの主張から分かります。ただし、判決本文には同号の文言そのものは記載されていません。

本件変更合意(平成26年2月10日)―譲渡価格の変更

当事者:広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者YSK氏)

譲渡価格:本件事業譲渡契約に定めた譲渡価格4,800万円(税込)を1,100万円(税込)に変更する。

分割払いの時期:平成26年2月14日限り1,100万円

本件変更合意の当時、MKT氏は既に発電事業会社SHDの代表取締役を退任しており、発電事業会社SHDの代表取締役はYSK氏でした。広告会社KGSの代表取締役は、本件事業譲渡契約の締結時と同じくDMR氏です。

当事者の請求と主要な主張

広告会社KGSの請求

広告会社KGSは、主位的請求と予備的請求を立てて、次の裁判を求めました。遅延損害金は、請求の趣旨では、いずれも令和4年6月7日から支払済みまで年3パーセントの割合によるものとされています(判決本文の事案の概要では、訴えの変更の訂正申立書の送達の日の翌日からと説明されています)。

区分 求めた裁判 理由として主張したこと
主位的請求(1) 平成25年2月25日に締結された事業譲渡契約が無効であることの確認 当時の譲受会社の代表者MKT氏の関与がなかったから無効
主位的請求(2) 4,008万3,270円及び年3パーセントの割合による遅延損害金の支払 無効な契約により事業で利益を上げながら代金を支払っていないから、代金と同額の不当利得がある(民法703条)
予備的請求(1) 同じ事業譲渡契約が訴状送達日に終了したことの確認 契約が有効でも代金が支払われていないから、訴状の送達をもって9条1項1号に基づき解約した
予備的請求(2) 4,800万円及び年3パーセントの割合による遅延損害金の支払 令和4年1月末日までの代金3,913万3,272円と、9条1項から3項に基づく損害賠償886万6,728円の合計

主位的請求の4,008万3,270円は、変更前の分割払いの定めによる令和4年4月までの代金の合計額とされています。予備的請求の4,800万円は、令和4年1月末日までの分割代金の合計額に、相手方の責めによって受け取れなかった残額を損害として加えたもので、当初の譲渡価格の全額に当たります。

争点ごとの当事者の主張

争点 広告会社KGS(原告)の主張 発電事業会社SHD(被告)の主張
無効確認の確認の利益(本案前の争点) 基本となる法律関係から派生する給付請求権について給付訴訟が可能な場合でも、基本となる法律関係を既判力をもって確定し、その安定を得ることができるから、確認の利益は認められる 契約の無効を前提とした給付の訴えがされており、それとは別に前提について無効を確認する利益はない。変更後の譲渡価格1,100万円は支払済みであり、解除権もない
事業譲渡契約は無効か 当時の譲受会社の代表者MKT氏は契約に関与していない。MKT氏から代表印の保管を依頼されていたYSK氏が、代表印を無断で使って締結した。契約書は偽造されたものであり、無権代理ではないから、追認により有効になることはない。AEN事業は発電目的子会社AENの発電事業のことであり、同社の株式のほか、1キロワット当たり42円(税込)で売電をするのに必要な太陽光発電の権利を有し、電力会社との受給契約の前提となる接続検討の申込みや発電所の設置場所となる土地の権利の目途も立っていた MKT氏は契約前の交渉に主体的に関わり、合意書の締結に立ち会い、事業譲受け後の資金調達業務にも全面的に関わっていた。MKT氏の意思に反して契約がされたことも、代表印が無断で使われたこともない。当時、広告会社KGSは太陽光発電事業を行っておらず(売上は0円)、設備も設置場所の権利も、電力会社との受給契約も、経済産業省の設備認定も、資金調達もなく、AEN事業は名ばかりの事業にすぎなかった。無権代理行為であるとしたら、予備的に令和4年8月22日に追認の意思表示をする
不当利得 発電事業会社SHDは、発電目的子会社AENの発電施設で発電した電力を売却して料金を不当に利得しており、その額は少なくとも譲渡代金の支払額以上である。本件変更合意は、第三者によるDMR氏への脅迫行為によってされたものである 契約は有効に成立し、本件変更合意で譲渡価格は1,100万円に変更され、支払済みである。仮に無効でも、広告会社KGSは発電施設を所有しておらず、契約の対象でないものが広告会社KGSに戻される理由も、その利得を返還する理由もない
終了確認の確認の利益(本案前の争点) 無効確認を求めているのではない。代金の支払がないから9条1項1号の義務履行違反の解約事由があり、訴状で予備的に解約の意思表示をした 無効確認の確認の利益についての主張と同じ
広告会社KGSに生じた損害 令和4年1月末日までの代金3,913万3,272円の支払請求権と、9条1項から3項に基づく差額886万6,728円の損害賠償請求権があり、合計4,800万円となる 本件変更合意で譲渡価格は1,100万円に変更され、支払済みである

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、主位的請求について、(1)無効確認を求める部分の確認の利益(本案前の争点)、(2)本件事業譲渡契約は無効か、(3)発電事業会社SHDの不当利得の3点を、予備的請求について、(4)終了確認を求める部分の確認の利益(本案前の争点)、(5)広告会社KGSに生じた損害の2点を、それぞれ争点として整理しました。

このうち結論を左右したのは、次の2点です。

  1. 給付の請求とあわせて、過去に締結された事業譲渡契約の無効や終了の確認を求めることができるか(確認の利益)。
  2. 本件事業譲渡契約は、譲受会社の当時の代表者の関与がなかったことを理由に無効といえるか。仮に関与がなかったとしても、その後の本件変更合意と代金の支払、長期間の経過によって、無効の主張が封じられるか。

不当利得の請求も、予備的な損害賠償の請求も、本件事業譲渡契約は有効であり、本件変更合意による代金1,100万円が支払済みであるという第2点の判断を前提として退けられています。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

判決は、当事者本人と証人の尋問の結果、書証及び弁論の全趣旨により、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約です)。

  • MKT氏は、YSK氏の太陽光発電事業の考え方に賛同し、YSK氏とともに、広告会社KGSから太陽光発電事業や事業開発部の人員を譲り受ける会社として受皿会社JSBを設立していました。
  • YSK氏が設立した発電事業会社SHD、関連会社KHE及び関連会社LMGでは、いずれもMKT氏が代表取締役に就任していました。
  • 1月30日付合意は、広告会社KGS(代表者DMR氏)とYSK氏との間で、MKT氏を立会人としてされました。MKT氏は、尋問で合意書の名前の記載は自分でしたものではないと述べましたが、立会人の住所の筆跡は自分の筆跡と似ていること、押印されているのが自分の実印であることを認め、印鑑証明書を提出していたことも認めています。
  • 平成25年2月25日、1月30日付合意に基づき、子会社2社の全株式をYSK氏に譲渡する契約と、本件事業譲渡契約等が締結されました。
  • 当時の広告会社KGSの代表者DMR氏は、尋問で、角印の印影があることを理由に本件事業譲渡契約には押印していないと述べましたが、執行役員FKS氏の指示があれば社判を押した可能性は否定しませんでした。執行役員FKS氏は、尋問で、DMR氏に押印を指示したと述べています。また、執行役員FKS氏は反社会的勢力から脅迫を受けたと述べましたが、判決は、DMR氏が強迫による意思表示をした事実は認められないとしました。
  • MKT氏は、受皿会社JSBの代表取締役を平成25年2月20日に辞任しましたが、実際に広告会社KGSから太陽光発電事業を承継した発電事業会社SHDの代表取締役の地位には、同年7月31日まで就いていました。
  • 本件変更合意は、広告会社KGS(代表者DMR氏)と発電事業会社SHD(代表者YSK氏)との間でされ、発電事業会社SHDは平成26年2月12日に1,100万円を支払いました。
  • MKT氏が広告会社KGSの代表取締役に就任したのは令和3年12月17日であり、本件訴訟の提起は令和4年1月26日です。

判断の枠組みとしては、判決は、まず確認を求める部分について本案前の問題として確認の利益の有無を判断し、次に、無効の主張について、(ア)事実として代表者の関与が排除されていたか、(イ)仮に関与がなかったとしても、その後の本件変更合意と代金の支払、長期間の経過によって無効を主張できなくなるか、という二段構えで検討しています。

各主張を採用し又は排斥した理由

無効確認の訴え―給付の訴えとは別に確認する利益はない

判決は、無効確認を求める部分について、次のとおり述べました(判決本文の「原告」は広告会社KGSを指します)。

「原告は、本件事業譲渡契約の無効を前提とした給付の訴えを提起しており、それとは別に、その前提について無効を確認する利益は存在しない。」

広告会社KGSは、基本となる法律関係を既判力をもって確定し、その安定を得ることができると主張していましたが、判決は、「前記認定事実のもと8年前の本件事業譲渡の無効を確認する訴えが、より適切な紛争解決となるとも認められない。」として、確認の利益を否定しました。結論として、この部分の訴えは不適法として却下されています。

代表者の関与がなかったとの主張―立会人として署名し、交渉に関わっていた

判決は、本件事業譲渡契約の締結時の譲受会社の代表者であったMKT氏が、受皿会社JSBを含むYSK氏の指定する会社に広告会社KGSの太陽光発電事業を承継するための交渉に関わり、1月30日付合意にも自ら立会人として署名したことを指摘しました。そのうえで、次のとおり判断しています。

「本件1月30日付合意に基づく契約の一つである本件事業譲渡契約が〔MKT氏〕の関与なく、その意思に反して行われたとは認めがたい。」

MKT氏は、平成25年1月の二十何日かから、発電事業会社SHDの内部で事業承継の交渉から外されて、ほとんど情報が来なくなったと供述し、協力者GTN氏も、あるチャットの翌日からMKT氏が受皿会社JSBの社内で排除されたと、これに沿う供述をしました。しかし、判決は、そのチャットでYSK氏が「その力は〔MKT氏〕さんが梯子を外したとき、すなわち今週末までとっておいて」と述べ、MKT氏がその日にDMR氏ら3名と2時間話して基本合意した旨も述べていることから、YSK氏に直ちにMKT氏を排除する様子はないとしました。

さらに、MKT氏は受皿会社JSBの代表者を平成25年2月20日に辞任していますが、実際に太陽光発電事業を承継した発電事業会社SHDの代表者の地位には同年7月31日までとどまっていました。判決は、これらに照らし、1月30日付合意に先立ってMKT氏に情報が行かなくなるなど排除された状況や、本件事業譲渡契約についてMKT氏の関与が排除されていたとは認められないとしました。

なお、広告会社KGSは、契約書は偽造されたものであって無権代理ではないから追認によって有効になることはないと主張していました。判決は、偽造かどうかを独立の項目として論じるのではなく、MKT氏の関与が排除されていたとは認められないという事実認定によって、無効の主張の前提を否定しています。

仮に関与がなかったとしても―変更合意は有効な合意又は追認であり、無効の主張は信義則上許されない

判決は、さらに仮定的な判断として、仮に本件事業譲渡契約の締結当時にMKT氏の関与がなかったことが譲受会社の法人としての意思表示の瑕疵であったとしても、次のとおり判断しました(判決本文の「原告」は広告会社KGS、「被告」は発電事業会社SHDを指し、代表者の氏名は本記事の表記に置き換えています)。

「原告(代表者〔DMR氏〕)と被告(代表者〔YSK氏〕)との間で、本件事業譲渡契約の存在を前提とする本件変更合意がなされたことは、本件事業譲渡契約を含む有効な合意あるいは追認と解される上、被告から原告に対し本件変更合意に基づく譲渡代金1100万円の支払がなされて、本件事業譲渡契約の履行が完了した後8年以上が経過してから、原告が本件事業譲渡契約の無効を主張することは信義則の観点から許されない。」

この判断には、二つの理由が含まれています。第一は、本件変更合意が本件事業譲渡契約の存在を前提としていることから、譲受会社の新しい代表者との間で改めて契約を含む有効な合意がされた、あるいは譲受会社が契約を追認したと評価できるという理由です。第二は、変更後の代金の支払によって契約の履行が完了し、その後8年以上が経過してから無効を主張することは、信義則の観点から許されないという理由です。

判決は、「有効な合意あるいは追認」と択一的に述べており、本件変更合意の法的性質をいずれか一方に確定してはいません。また、発電事業会社SHDが訴訟の中で令和4年8月22日に予備的にした追認の意思表示については、判決は理由の中で取り上げていません。判決が根拠としたのは、平成26年の本件変更合意とその履行という、紛争が生じる前の当事者の行動です。

以上により、判決は、本件事業譲渡契約の無効をいう広告会社KGSの主張を採用しませんでした。

不当利得の返還請求―契約が無効でない以上、不当利得はない

判決は、「本件事業譲渡契約は無効でないから、被告に不当利得は生じていない。」として、4,008万3,270円の返還請求を棄却しました(「被告」は発電事業会社SHDを指します)。

広告会社KGSは、本件変更合意が第三者によるDMR氏への脅迫行為によってされたものであるとも主張していましたが、判決は、この点を不当利得の争点の中で独立して論じてはいません。認定事実の中で、執行役員FKS氏が反社会的勢力から脅迫を受けた旨述べることに触れたうえで、DMR氏が強迫による意思表示をした事実は認められないと述べているにとどまります。また、契約が無効であった場合に、広告会社KGSが所有していなかった発電施設による利得を返還させられるかという発電事業会社SHDの反論についても、判決は、契約が無効でないとの判断で足りるため、判断を示していません。

契約終了確認の訴え―要件の一つにすぎず、確認の対象にならない

予備的請求の終了確認を求める部分について、判決は、「原告の予備的請求の趣旨の主張の意味するところは当裁判所に明らかではないが」と前置きしたうえで、次のとおり述べました。

「原告がその予備的請求の趣旨として確認を求める事実は、法律効果を生じさせる要件の一つにすぎず、独立に確認訴訟の対象適格を有するものではない。また、その確定により現在の紛争の抜本的な解決のために必要であり最も適切であるとも認められない。」

判決は、これにより確認の利益を否定し、この部分の訴えも不適法として却下しました。

予備的な損害賠償請求―契約は有効で、変更後の代金は支払済み

予備的請求の4,800万円の支払請求について、判決は、認定事実のとおり、「本件事業譲渡契約は有効であり、本件変更合意によって定められた譲渡代金1100万円は支払済みである。」として、広告会社KGSの主張する損害は認められないとしました。

広告会社KGSの予備的請求は、変更前の分割払いの定めがなお生きていることを前提に、代金の不払を理由とする解約と損害賠償を求めるものでした。判決は、本件変更合意によって代金が1,100万円に変更され、それが支払われている以上、変更前の定めによる代金の不払を前提とする損害は生じないとしたものと理解されます。判決は、9条1項1号による解約の効力そのものについては、独立した判断を示していません。

主文及び結論

判決の主文は次のとおりです(「原告」は広告会社KGS、「被告」は発電事業会社SHDを指します)。

「1 本件訴えのうち、主位的請求にかかる原告と被告との間において、平成25年2月25日に締結された事業譲渡契約が無効であることの確認を求める部分を却下する。」

「2 原告のその余の主位的請求を棄却する。」

「3 本件訴えのうち、予備的請求にかかる原告と被告との間において、平成25年2月25日に締結された事業譲渡契約が訴状送達日に終了したことの確認を求める部分を却下する。」

「4 原告のその余の予備的請求を棄却する。」

「5 訴訟費用は原告の負担とする。」

無効確認と終了確認を求める部分は訴えそのものが不適法として却下され、不当利得返還請求(4,008万3,270円)と損害賠償請求(4,800万円)は、本件事業譲渡契約が有効であり、本件変更合意による代金1,100万円が支払済みであるとして棄却されました。広告会社KGSの請求は、いずれも認められていません。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 契約の存在を前提とする変更合意が、有効な合意又は追認と評価されたこと。本判決は、締結当時に代表者の関与がなかったと仮定しても、その後、新しい代表者との間で契約の存在を前提に代金を変更する合意がされたことを、契約を含む有効な合意あるいは追認と解しました。M&Aの契約の締結過程に問題があったと考える当事者が、その後に代金の変更や支払条件の見直しの合意をすると、締結過程の問題を後から主張することが難しくなり得ることを示す一例です。
  • 履行の完了から長期間が経過した後の無効の主張が、信義則で退けられたこと。本判決は、変更後の代金の支払によって履行が完了してから8年以上経ってからの無効の主張を、信義則の観点から許されないとしました。経営陣の交代の後に過去の事業譲渡を争う場面では、争う側の会社が過去に契約を前提とする合意や代金の受領をしていないか、履行の完了からどれだけの期間が経過しているかが、重要な事情となり得ます。
  • 合意書への立会人としての署名が、関与を示す事実として重く評価されたこと。本判決は、事業譲渡の前提となる1月30日付合意に、譲受会社の当時の代表者が立会人として署名していたことを、関与が排除されていなかったことの中心的な根拠としました。代表者本人が名前の記載を否定しても、実印の押印と印鑑証明書の提出を認めていたことなどから、関与が認められています。事業譲渡を含む一連の取引では、前提となる合意書、株式譲渡契約、事業譲渡契約が一体のものとして評価され得ます。
  • 給付の請求と並べて過去の契約の無効確認を求めても、確認の利益が否定され得ること。本判決は、契約の無効を前提とした給付の訴えをしている以上、それとは別に無効を確認する利益はないとし、契約の終了確認についても、法律効果を生じさせる要件の一つにすぎず独立に確認の対象にならないとしました。M&Aの契約の効力を争う訴訟では、何を確認の対象とし、何を給付の請求とするかを、紛争の抜本的な解決にとって最も適切かという観点から組み立てる必要があります。

一般化できない点

  • 本判決の信義則の判断は、本件変更合意の存在、変更後の代金の支払、履行完了から8年以上という期間など、本件の具体的な事情を前提とするものです。一定の期間が経てば無効の主張が一律に許されなくなるという一般論を示したものではありません。
  • 本判決は、まず事実として代表者の関与が排除されていたとは認められないと判断しており、変更合意を有効な合意又は追認とする判断や信義則の判断は、「仮に」関与がなかったとしてもという仮定的な判断です。代表者の関与が実際になかった事案や、契約書の偽造が証拠上明らかな事案で、同じ結論になるかは本判決からは分かりません。
  • 判決は、変更合意を「有効な合意あるいは追認」と択一的に述べており、追認の要件や、偽造の場合にも追認が認められるかといった点について、一般的な判断を示してはいません。
  • 本件では、譲渡会社の側が、譲受会社の側の代表者の関与の欠如を理由に無効を主張しました。判決は、契約の相手方の内部の意思決定の問題を、もう一方の当事者が無効の理由として主張できるかという点については、判断を示していません。
  • 本件事業譲渡契約の譲渡価格は「本事業が成功することを条件に」とされていましたが、判決はこの条件の意味や成否について判断していません。また、事業譲渡に関する会社法上の手続(株主総会の承認の要否等)は、争点とされていません。
  • 本件変更合意が第三者による脅迫行為によってされたとの主張について、判決は独立した判断を示しておらず、認定事実の中で、当時の譲渡会社の代表者が強迫による意思表示をした事実は認められないと述べるにとどまります。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

契約や交渉で確認しておきたいこと

事業譲渡や株式譲渡の後に、代金の減額や支払方法の変更を合意する場合には、変更の理由と、元の契約の効力を互いにどう扱うかを書面で明確にしておくことが考えられます。元の契約の締結過程に疑問がある当事者が、その点を留保しないまま変更合意をすると、本判決のように、変更合意が元の契約を前提とする有効な合意又は追認と評価される可能性があります。反対に、契約の効力を後から争われるおそれがある当事者の側では、交渉の経過、合意書の署名・押印、代表者の関与を示す記録、代金の支払の記録を、長期にわたり保存しておくことが重要です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

株式譲渡契約の解除や、詐欺・錯誤による取消しを検討する場合の進め方は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

会社の代表者が関与しないまま結ばれた事業譲渡契約は、必ず無効になりますか。

本判決では、まず事実として、譲受会社の当時の代表者が事業承継の交渉に関わり、前提となる合意に立会人として署名していたことから、関与なく契約が行われたとは認め難いとされました。さらに、仮に関与がなかったとしても、後の代金変更合意が有効な合意あるいは追認と解され、無効の主張は信義則の観点から許されないとされています。関与の有無は証拠で判断され、関与がなかったとしても、その後の当事者の行動によって無効を主張できなくなることがあります。

契約の後に代金を減額する合意をすると、元の契約の問題を争えなくなりますか。

本判決では、元の契約の存在を前提とする代金の変更合意が、元の契約を含む有効な合意あるいは追認と解されました。元の契約の効力に疑問がある場合に変更合意をするときは、その点を留保するかどうかを含めて慎重に検討する必要があります。

何年も前の事業譲渡契約の無効を、今から主張できますか。

本判決は、変更後の代金の支払によって履行が完了してから8年以上が経過してからの無効の主張を、信義則の観点から許されないとしました。ただし、これは本件の具体的な事情を前提とする判断であり、期間だけで一律に結論が決まるものではありません。経過した期間のほか、その間に契約を前提とする合意や代金の受領があったかなど、当事者の行動が問題となり得ます。

代金相当額の返還を求める訴えとあわせて、契約の無効確認も求めることはできますか。

本判決は、契約の無効を前提とした給付の訴えをしている以上、それとは別に無効を確認する利益はないとして、無効確認の部分を却下しました。契約の終了確認についても、法律効果を生じさせる要件の一つにすぎず独立に確認の対象にならないとして、却下しています。確認の請求を加えるかどうかは、それが紛争の解決にとって最も適切かという観点から検討する必要があります。

代金の分割払いが約束どおり支払われないとして、契約を解約し、残額全部を請求できますか。

契約の定めと、その後の合意の内容によります。本判決では、分割払いの定めが後の変更合意によって1,100万円の一括払いに改められ、その代金が支払済みであったことから、変更前の定めによる代金の不払を前提とする損害は認められませんでした。

株式譲渡代金の残代金が支払われない場合の回収は、次のページでご案内しています。

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事業譲渡や株式譲渡の効力を後から争う場合、又は争われた場合には、契約書だけでなく、前提となる合意書、代表者の関与を示す交渉の記録、その後の変更合意や代金の支払の経過を整理し、契約の効力、追認、信義則の各観点から検討します。M&Aの契約を後から解消しようとする場合の考え方は、株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果で解説しています。M&Aの契約の締結後に生じる紛争のうち、表明保証違反に関する当事務所の対応は、表明保証違反の御相談のページで御案内しています。

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事業を譲り渡した会社が、約9年後に、譲受会社の当時の代表者が関与していなかったとして事業譲渡契約の無効を主張した場面の判例を、確認の利益、代金変更合意による追認及び信義則の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
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『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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