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株式譲渡の表明保証違反と損害の因果関係が否定された事例―東京地方裁判所令和7年2月28日判決

公開 2025年2月28日更新 2026年10月30日

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株式譲渡で会社を買い受けた買主が、買収から半年ほどで対象会社が事業を停止したため、売主の説明や表明保証に誤りがあったとして損害賠償を求める場面の判例です。東京地方裁判所令和7年2月28日判決は、買主が主張した4つの違反のうち、主要取引先との取引条件に関する説明については客観的な事実と異なる説明があったことを認めながら、その点と株式譲渡契約との因果関係を否定し、請求を棄却しました。

本記事では、判決が4つの主張をどのような理由で退けたのかを、契約前のデュー・ディリジェンスで示されていた事情、売上資料の食い違い、事業停止との結び付きという観点から整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 投資会社が、フードデリバリー事業の会社を1億4,500万円で買い受けた
    2. 買収後に営業損失が続き、半年ほどで事業を停止した
  4. 事案の経緯
  5. 株式譲渡契約の条項
    1. 第5.1条第1項―表明保証
    2. 第7.3条第2項―現預金及び売掛金の乖離額の補償
    3. 別紙5.1.2.(3).(ⅰ)―計算書類の正確性
    4. 別紙5.1.2.(4)―重大な悪影響を及ぼす事由の不存在
    5. 別紙5.1.2.(11).(ⅲ)―主要取引先との取引関係の継続
    6. 別紙5.1.2.(11).(ⅳ)―加盟店との取引関係の継続
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 買主の請求
    2. 買主が主張した4つの違反と、売主の反論
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 利益の過大計上―デュー・ディリジェンスで指摘を受けたうえで購入していた
    2. 主要取引先での業態数―違反に当たり得るが、因果関係がない
    3. 令和3年10月以降の赤字の不申告―赤字化そのものが明確でない
    4. 加盟店に関する事実―認識の時期が不明で、不利益な条件変更とも認め難い
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  12. よくあるご質問
    1. 売主の説明が事実と違っていれば、表明保証違反として損害賠償を受けられますか。
    2. デュー・ディリジェンスで問題が指摘されていた事項について、後から売主に責任を問えますか。
    3. 買収直後に赤字が続いた場合、売主が赤字を隠していたといえますか。
    4. 買収後に作成した財務資料で、架空計上を証明できますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第26部
裁判日 令和7年2月28日
事件番号 令和4年(ワ)第32094号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 買主(原告)の請求を棄却。訴訟費用は買主の負担
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、その旨を示しています。

本記事の表記 立場
買主である投資会社HRM 原告。有価証券の投資等を目的とする合同会社で、対象会社の株式全部を買い受けました
買主の代表社員KNS氏 投資会社HRMを設立した代表者。買収後に対象会社の経営に関与しました
売主であるオーナー経営者OGW氏 被告。令和3年12月まで対象会社の100%株主兼代表取締役でした
対象会社FDC 主にフードデリバリー業務及び飲食業のフランチャイズ事業を営む株式会社
料理宅配プラットフォーム事業者QMP 対象会社FDCがフードデリバリー事業を行っていた主要な取引先
別の料理宅配サービス事業者RST 対象会社FDCが利用していた他のサービスの一つ
店舗NKM 対象会社FDCの店舗の一つ。売主が実験店舗と説明していた店舗
加盟店舗SKR 対象会社FDCのフランチャイズ加盟店の一つ

事案の概要

投資会社が、フードデリバリー事業の会社を1億4,500万円で買い受けた

対象会社FDCは、主にフードデリバリー業務と飲食業のフランチャイズ事業を営む株式会社で、売主であるオーナー経営者OGW氏が、令和3年12月まで100%株主であり代表取締役でもありました。買主である投資会社HRMは、有価証券の投資等を目的として、買主の代表社員KNS氏が設立した合同会社です。

令和3年7月、KNS氏と売主OGW氏は、双方のコンサルタントを伴って顔合わせのミーティングを行いました。それまでに売主側からは、売主側のコンサルタントが作成した対象会社FDCの事業承継についての提案資料が示されていました。その後も交渉が続き、投資会社HRMは対象会社FDCの購入を決めました。

投資会社HRMは、会計士に依頼して財務面のデュー・ディリジェンスを行い、令和3年9月末を基準日とする調査報告書が同年11月24日付で作成されました。そのうえで、令和3年12月20日、売主OGW氏が保有する対象会社FDCの株式全部を、投資会社HRMが1億4,500万円で譲り受ける株式譲渡契約が締結されました。

買収後に営業損失が続き、半年ほどで事業を停止した

KNS氏は令和4年1月以降、対象会社FDCの経営に関与するようになりました。しかし、対象会社FDCは継続的に営業損失を出し続ける状況となり、令和4年6月には弁護士による債務整理通知を行うなどして、その頃に事業を停止しました。その後、令和5年9月に破産手続開始の申立てを行っています。

KNS氏は、令和4年10月に対象会社FDCの財務内容を検討する資料を作成しました。その資料では、令和3年9月期の小口現金勘定について、現金約327万円と売掛金約1,244万円の合計約1,572万円が実態のないものとされていました。

投資会社HRMは、売主OGW氏が対象会社FDCに関する不利益な事実を申告しなかったなどとして、株式譲渡契約の債務不履行に基づき、損害の一部として1,500万円の賠償を求めて提訴しました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
令和3年2月頃 料理宅配プラットフォーム事業者QMPが、対象会社FDCに対し、令和3年4月以降の新規出店については7ブランドに留めるよう依頼(既存店舗のブランド数の削減は依頼していない)
令和3年7月 KNS氏と売主OGW氏が、双方のコンサルタントを伴って顔合わせのミーティング。それまでに売主側の提案資料が示されていた
令和3年9月末 財務デュー・ディリジェンスの調査基準日
令和3年11月24日 会計士による財務デュー・ディリジェンスの調査報告書が作成される
令和3年12月20日 株式譲渡契約の締結(株式全部、対価1億4,500万円)
令和4年1月以降 KNS氏が対象会社FDCの経営に関与
令和4年1月9日 売主OGW氏が、令和3年9月頃以降のイレギュラーな経費や10月・11月の売上の状況についてKNS氏にメールで説明
令和4年1月10日及び12日 KNS氏と売主OGW氏が、店舗の店長らとの顔合わせや引継ぎ等を実施
令和4年6月頃 対象会社FDCが弁護士による債務整理通知を行うなどして事業を停止
令和4年10月 KNS氏が財務内容検討資料を作成(現金約327万円、売掛金約1,244万円を実態のないものとする)
令和5年9月 対象会社FDCが破産手続開始の申立て
令和7年2月28日 東京地方裁判所が買主の請求を棄却する判決

株式譲渡契約の条項

以下は、判決本文に記載された株式譲渡契約の条項を、判決本文の文言のまま引用したものです。数字の表記も判決本文のとおりとしています。

第5.1条第1項―表明保証

第5.1条 1.売主は、本契約締結日及びクロージング日(令和3年1月7日)において、買主に対し、別紙5.1記載の事項が真実かつ正確であることを表明し、かつ保証する。

括弧内のクロージング日は、契約締結日(令和3年12月20日)より前の日付になっていますが、判決本文の記載のまま引用しています。

第7.3条第2項―現預金及び売掛金の乖離額の補償

第7.3条 2.買主は、クロージング日後6ケ月以内に、対象会社において、令和3年9月期の貸借対照表に記載された現預金及び売掛金の額について、同貸借対照表の作成基準日において著しく下回っていたことが判明した場合、売主に対し、当該乖離額の補償を請求することができる。

別紙5.1.2.(3).(ⅰ)―計算書類の正確性

本件計算書類は、日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を継続的に適用し、これに従って作成され、かつ、保存されており、各作成基準日の時点の対象会社の財務状態及び各該当期間に関する営業成績をそれぞれ正確かつ公正に表示している。本件計算書類は、それぞれ対象会社の適法な会計帳簿と一致している。

別紙5.1.2.(4)―重大な悪影響を及ぼす事由の不存在

令和3年10月1日以降、対象会社の事業、資産、負債、財務状態、経営成績、事業価値キャッシュフローもしくは将来の収益計画又はそれらの見通しに重大な悪影響を及ぼす可能性のある事由もしくは事象は生じておらず、かつ、その具体的なおそれも存在しない。

別紙5.1.2.(11).(ⅲ)―主要取引先との取引関係の継続

対象会社と主要取引先との取引関係は、クロージング後も現行の態様で継続する見込みであり、取引の中止又は対象会社に不利益な取引条件の変更は見込まれていない。

別紙5.1.2.(11).(ⅳ)―加盟店との取引関係の継続

対象会社と加盟店との取引関係は、クロージング後も現行の態様で継続する見込みであり、取引の中止又は対象会社に不利益な取引条件の変更は見込まれていない。

表明保証の対象は、計算書類の正確性、基準日以降の重大な悪影響の不存在、主要取引先及び加盟店との取引関係の継続見込みという、財務と事業の両面にわたっていました。これとは別に、現預金と売掛金については、クロージング日後6か月以内に判明した乖離額の補償を求める特別の条項が置かれていました。

当事者の請求と主要な主張

買主の請求

投資会社HRMは、売主OGW氏に対し、1,500万円及びこれに対する令和4年1月8日から支払日まで年5分の割合による金員の支払を求めました。投資会社HRMの説明では、各違反がなければ対象会社FDCを購入しなかったのであるから購入代金1億4,500万円全額が損害となるが、その一部として、事業承継後の簡易的な調査で判明した現金及び売掛金の不足額である1,500万円を、第7.3条第2項に基づく特別補償分に相当する額として請求するというものでした。

買主が主張した4つの違反と、売主の反論

論点 買主(投資会社HRM)の主張 売主(OGW氏)の反論
利益の過大計上 専門家の調査により、現金及び売掛金が少なくとも1,572万4,461円架空計上されていたことが判明した。令和3年9月期の営業利益を過大に見せかけており、第5.1条、別紙5.1.2.(3).(ⅰ)に違反する 約1,600万円の架空計上は否認する。現預金の減少は法人税の支払や臨時の支出が主な原因で、必要経費である
主要取引先での業態数 料理宅配プラットフォーム事業者QMPでは実際には7業態に制限されることが決まっていたのに、15業態での新規展開が可能であると虚偽の説明をした。別紙5.1.2.(11).(ⅲ)に違反する 利益を上げるには業態を絞り込む必要があると説明していた。別の料理宅配サービス事業者RSTなど他のサービスも利用しており、QMPでの業態数は重要な点に当たらない
令和3年10月以降の赤字の不申告 デュー・ディリジェンスの基準日である令和3年9月末までは毎月100万円から300万円の営業黒字だったのに、10月以降500万円を超える継続的な赤字という異常事態が生じたにもかかわらず報告しなかった。別紙5.1.2.(4)に違反する 令和3年10月時点では黒字であり、11月以降の赤字を知り得たのは最短でも12月25日頃である。9月末の緊急事態宣言の終了で売上が落ちたもので、そのことはKNS氏に説明していた
加盟店に関する事実 令和3年12月末までに1店舗から加盟店契約終了の連絡を受けたことを隠し、2店舗のロイヤリティを無断で免除した。別紙5.1.2.(4)及び別紙5.1.2.(11).(ⅳ)に違反する 加盟店への対応はスーパーバイザーが自己の判断で行い、売主は報告を受ける立場にすぎない。赤字の加盟店のロイヤリティを調整・免除することがあることは説明していた

売主OGW氏は、あわせて、対象会社FDCの破綻は、緊急事態宣言の終了に伴う市場の縮小という環境の変化に応じた経営を買主ができなかったことに主たる原因があり、売主が責任を負う理由はないと主張しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、本件の主たる争点を、売主OGW氏に株式譲渡契約の債務不履行が認められるかであると整理しました。そのうえで、利益の過大な計上、主要取引先での業態数、令和3年10月以降の売上・利益の減少の不申告、加盟店からの収入減少の4点を順に検討しています。

結論を分けたのは、第一に、各主張の前提となる事実が証拠上認められるか、第二に、認められる場合でも、その事実と株式譲渡契約との間に因果関係があるか、という点でした。4点のうち、違反に当たり得ると判断されたのは業態数の説明だけであり、その点も因果関係で退けられています。

裁判所が認定した重要な事実

判決は、前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨により、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約です)。

  • 料理宅配プラットフォーム事業者QMPは、令和3年2月頃、対象会社FDCに対し、令和3年4月以降の新規出店については7ブランドに留めるよう依頼していました。既存店舗についてはブランド数の削減を依頼していませんでした。
  • 売主側が示した提案資料には、「15業態を1店舗で作ることにより地域での受注率を圧倒的に向上させることに成功」、「QMP(15アカウント)を即座に作成可能」などと記載されていました(引用中の取引先名は本記事の表記に置き換えています)。
  • その時点で、店舗NKMには7業態のみが登録できる状態でしたが、売主OGW氏はこれを実験店舗であると説明しており、QMPでの新規出店でそれ以上の業態が登録できないことを明示的には伝えていませんでした。
  • 会計士による財務デュー・ディリジェンスの調査報告書が令和3年11月24日付で作成され、調査の基準日は同年9月末でした。
  • 売主OGW氏は、令和4年1月9日、KNS氏にメールを送り、令和3年9月頃の現預金残高7,500万円以降、イレギュラーにかかった経費について説明しました。その中で、10月・11月は閑散期に加えて新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着き暇になる時期と予想していたこと、損益計算書上は赤字ではないと思うこと、12月からは売上が伸びていることを伝えていました。
  • KNS氏と売主OGW氏は、令和4年1月10日と12日に、店舗の店長らとの顔合わせや引継ぎ等を行いました。
  • KNS氏が令和4年10月に作成した財務内容検討資料では、令和3年9月期の小口現金勘定について、現金約327万円と売掛金約1,244万円の合計約1,572万円が実態のないものとされていました。

各主張を採用し又は排斥した理由

利益の過大計上―デュー・ディリジェンスで指摘を受けたうえで購入していた

判決は、買主の主張が、事業を引き継いだ後の令和4年10月に作成された資料に基づくものであることを指摘しました。そのうえで、契約前の財務デュー・ディリジェンスでは、総勘定元帳、勘定科目内訳書及び預金残高証明書等を突合したうえで、現金残高の実態について234万5,000円を減額し、売掛金残高についても、「売掛金残高に支払手数料への振替漏れや売掛金の回収処理漏れ等が存在し、あるべき残高より多くなっている可能性がある」との指摘がされていたことを重視しました。

判決は、買主としてはその指摘を踏まえて購入していると考えられること、売主がデュー・ディリジェンスの時点であえて数値等を隠したり、調査に虚偽の回答をしたりしたと認めるに足りる証拠もないことを挙げました。さらに、仮に買主が指摘するような実態のずれがあったとしても、それが、対象会社の計算書類が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されたものではないとまで認めることは困難であるとして、この点の債務不履行を否定しました。

主要取引先での業態数―違反に当たり得るが、因果関係がない

判決は、QMPから令和3年4月以降の新規出店を7業態以下とするよう指示を受けており、店舗NKMも7業態で営業していたのに、提案資料ではQMPでも15業態を作成できる旨が記載され、売主OGW氏が7業態以下の新規出店しかできない事実をKNS氏に説明した事実は認められないとしました。そして、売主は客観的な事実とは異なる説明を行っていたと認めました。

売主は、別の料理宅配サービス事業者RSTからの売上もあるとして重要性を争いましたが、判決は、デリバリー事業の売上の大半がQMPによるものであることも踏まえ、対象会社FDCにおけるQMPの重要性は否定されないとしました。そのうえで、売主の説明は「債務不履行に当たり得るものと解される」と判断しています。

しかし、判決は続けて、次の事情を挙げ、この点が対象会社FDCの事業停止の原因になったとまでは解し難く、買主による購入の重要な動機になっていたとまでも解し難いとしました。

  • 既存の店舗では従来どおり15業態での営業が可能で、業態の制限を受けるのは新規出店の場合だけであったこと
  • その状態で令和3年4月から9月末まで営業が行われ、業態数の制限によって売上が顕著に減少していたとも解されない会計資料等を踏まえて、買主の調査と購入の判断が行われていたこと
  • 買主は事業を承継してから6か月に満たない期間で事業を停止しており、その間に新規出店での業態数の制限が営業赤字に寄与したといえる事情も特段認められないこと

こうして、判決は、この点について「本件譲渡契約との因果関係を認めることは困難であると解される」と結論付けました。

令和3年10月以降の赤字の不申告―赤字化そのものが明確でない

令和3年10月以降の売上を示す資料として、買主は事業承継後に改めて作成した資料を、売主は令和3年12月に作成した資料を提出していました。両者は売上や販売管理費の数値が異なり、令和3年10月の営業成績は、買主の資料では約609万円の赤字、売主の資料では約157万円の黒字となっていました。判決は、いずれが正確であるかについて明確な根拠を欠き、売主が自らの資料に基づいて10月の営業を黒字と認識していた可能性は否定できないとしました。

さらに判決は、買主の資料を前提にしても、次のとおり、令和3年10月以降に大きな変化があったとはいえないと判断しました。

  • 令和3年10月から令和4年3月までの月間売上高は約2,100万円から2,600万円程度であり、令和3年9月の約3,490万円とは大きく異なるものの、令和2年11月から令和3年8月までもおおむね2,100万円から2,600万円程度であったこと
  • 外注費は、令和3年10月が約440万円、11月及び12月が約380万円で、9月以前の約280万円から360万円程度より増加しているものの、多額の赤字の原因となるほどの大幅な増加はみられないこと
  • 令和2年12月や令和3年8月にも400万円台の赤字の月があり、毎月一定の黒字を継続的に上げる会社であるという買主の主張の前提自体に疑問があること
  • 令和3年12月の赤字は約17万円にとどまること

判決は、令和3年10月以降、営業に大きな変更をもたらす具体的な変化が生じたとまでは認め難いとし、重大な悪影響を及ぼす可能性が生じていたのに「被告があえて原告代表者にそれを告げなかったと認めることはできない」と述べました(判決本文の「被告」は売主OGW氏、「原告代表者」はKNS氏を指します)。

令和4年1月9日のメールについても、判決は、売主としての判断を伝えたものであって、10月が黒字であることや、その後の売上上昇を保証したものとは解されないとし、債務不履行を基礎付ける事情にもならないとしました。

加盟店に関する事実―認識の時期が不明で、不利益な条件変更とも認め難い

加盟店の令和3年10月までの開店及び閉店の経緯は、買主が依頼した財務デュー・ディリジェンスの中で記載されており、その記載自体に虚偽は認められないとされました。

加盟店舗SKRから加盟店終了の連絡があったのに売主が報告しなかったという主張については、その連絡の対象会社内部での経過や、売主がいつの時点で認識したかが明らかでなく、売主が令和4年1月の引継ぎに一定の協力をしていたことなどからも、知りながらあえて告げなかったとまでは認められないと判断されました。

2店舗のロイヤリティの免除についても、食材の仕入れ等による利益もあることから、営業成績の芳しくない店舗についてはスーパーバイザーの判断で免除することもあるという売主の説明等を踏まえ、一方的に対象会社に不利益になるように取引条件を変更したものとまでは認め難いとされました。

主文及び結論

判決の主文は、「原告の請求を棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」というものです(「原告」は投資会社HRMを指します)。4つの主張のいずれについても、損害賠償を基礎付ける債務不履行は認められませんでした。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 違反に当たり得ても、因果関係が別に問われること。本判決は、業態数について客観的な事実と異なる説明があったことを認めながら、事業停止の原因になったとはいえず、購入の重要な動機にもなっていなかったとして、因果関係を否定しました。買主が購入代金全額を損害と構成する場合、違反の存在に加えて、その違反が購入の判断や損害の発生にどう結び付いたかを具体的に示す必要があることを示す一例です。
  • デュー・ディリジェンスで指摘された事項は、買主に不利に働き得ること。現預金や売掛金の問題は、契約前の調査報告書で既に指摘されており、判決は、買主がその指摘を踏まえて購入したと考えられることを理由の一つとしました。調査で問題点を把握した場合には、価格への反映や特別の補償条項など、契約上の手当てを明確にしておくことが重要になります。
  • 売上資料が複数ある場合の立証の難しさ。買収後に買主が作成した資料と、契約前に売主が作成した資料とで数値が異なり、判決はいずれが正確か明確な根拠を欠くとしました。業績の急変を主張する場合には、契約前後の会計資料をどの基準で作成したかを含めて立証を組み立てる必要があります。
  • 売主の認識や意図が考慮されていること。本判決は、売主があえて数値を隠したか、知りながら告げなかったかという点にも言及して主張を退けています。表明保証条項は売主の認識を問わない形で定められることが多いものの、本件の判断では、売主の認識に関する事情も検討の対象になっています。

一般化できない点

  • 本判決は、各主張の事実関係と証拠の評価に基づく個別の判断です。業態数の説明以外の点は、そもそも違反の前提となる事実が認められなかったものであり、同種の条項について一般的な解釈を示したものではありません。
  • 買主は第7.3条第2項の特別補償分に相当する額として1,500万円を請求していましたが、判決は、同項の要件(クロージング日後6か月以内の判明、著しく下回っていたこと等)を独立に検討する形では判断を示していません。同項に基づく補償請求の成否について、本判決から一般的な結論を導くことはできません。
  • 判決は、債務不履行が認められないとして請求を棄却しており、購入代金全額を損害とする買主の損害の構成や、損害額の算定については判断していません。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

M&Aの後に表明保証違反が判明し、売主に補償を請求する場合の進め方は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

売主の説明が事実と違っていれば、表明保証違反として損害賠償を受けられますか。

説明が事実と異なることに加えて、その点と損害との因果関係が必要です。本判決では、主要取引先での業態数について事実と異なる説明があったと認められましたが、事業停止の原因になったとはいえず、購入の重要な動機でもなかったとして、因果関係が否定されました。

デュー・ディリジェンスで問題が指摘されていた事項について、後から売主に責任を問えますか。

本判決では、現預金と売掛金について調査報告書で指摘があり、買主がその指摘を踏まえて購入したと考えられることが、請求を退ける理由の一つとされました。調査で把握した問題は、価格の調整や補償条項の定め方を契約交渉の段階で検討しておくことが大切です。

買収直後に赤字が続いた場合、売主が赤字を隠していたといえますか。

赤字が続いたことだけでは足りません。本判決は、契約前後の売上・費用・利益の推移を比較し、基準日以降に営業に大きな変更をもたらす具体的な変化があったとは認め難いとしました。過去の月次の業績と比較して変化が顕著であったか、売主がそれを認識していたかが問題になります。

買収後に作成した財務資料で、架空計上を証明できますか。

本判決は、買主が事業を引き継いだ後に作成した資料を基にした主張を、契約前のデュー・ディリジェンスの内容と対比して退けました。買収後の資料を用いる場合には、契約時点の計算書類がどのように作成されていたか、調査の際に売主が虚偽の回答をしたかなどを裏付ける証拠もあわせて検討する必要があります。

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この記事の位置付け

フードデリバリー事業の会社を株式譲渡で買い受けた買主が、買収後の赤字と事業停止を受けて売主の表明保証違反を主張した場面の判例を、違反の成否と損害との因果関係の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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