共同売主の誓約事項違反で少数株主の追加支払・残代金請求が棄却―東京地方裁判所令和7年5月30日判決

創業者と一緒に会社の株式を売却した少数株主が、業績に応じた追加支払と、後日に予定されていた残りの株式の譲渡代金を買主に請求したところ、創業者の指示による売上げの前倒し計上が発覚し、買主が支払を拒んだ。東京地方裁判所令和7年5月30日判決は、このような場面で、少数株主である売主の請求をいずれも棄却しました。
争われたのは、業績連動の追加支払(アーンアウト)の算定に用いる決算数値、追加支払に適用される前提条件とその判定時点、そして創業者だけが負っていた誓約事項の違反が少数株主である売主への支払にまで影響するかです。代金の一部を後払いにする売主、特に経営に関与していない共同売主にとって参考になる判決です。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第15部 |
|---|---|
| 裁判日 | 令和7年5月30日 |
| 事件番号 | 令和2年(ワ)第11140号 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 審級 | 第一審 |
| 上訴の状況 | 上訴の有無及び確定は確認できていません |
| 結論 | 売主の請求(1億793万7,600円及び遅延損害金)を棄却 |
本記事は、上記の地方裁判所の判決本文に基づく解説です。判決が確定したことを示すものではありません。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が付した符号も、そのまま使わずに次の表記に置き換えています。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 売主である少数株主TRS氏 | 原告。対象会社の株式500株のうち80株を保有していた個人。契約上の売主2 |
| 売主である創業者MTB氏 | 対象会社の創業者で、245株を保有し、実質的なオーナーとして経営に当たっていた人物。契約上の売主1。訴訟の当事者ではありません |
| 買主である投資会社VGR | 被告。投資業等を目的とする会社で、投資会社PLMの完全子会社 |
| 投資会社PLM | 買主VGRの親会社。買収の検討と条件の提案を行った会社 |
| 対象会社である太陽光発電所販売会社RKD | 株式譲渡の対象となった会社。太陽光低圧発電所の販売を主とするエネルギー事業等を営み、毎年12月が決算期 |
判決本文を引用する箇所でも、当事者の名称は上記の表記に置き換え、その旨を示します。
事案の概要
2段階で株式を譲渡し、代金の一部を業績に連動させる契約だった
対象会社RKDの発行済株式は500株で、創業者MTB氏が245株、少数株主TRS氏が80株を保有していました。投資会社PLMは、創業者MTB氏から交付された株式価値の報告資料や事業計画をもとに買収を検討しましたが、対象会社RKDの企業価値は創業者MTB氏が示した金額に及ばないと評価し、譲渡価格は直ちには合意に至りませんでした。
そこで投資会社PLMは、平成29年9月、まず創業者MTB氏から245株、少数株主TRS氏から40株を取得し、次に少数株主TRS氏から残りの40株を追加で取得するという2段階の方法を提案しました。代金は、最初の取得分について1株当たり150万円を支払うことに加え、対象会社RKDの第4期(平成29年12月期)と第5期(平成30年12月期)の売上高、経常利益及び当期純利益の計画達成率に応じて追加の対価を算出するというものでした。
平成29年12月18日、創業者MTB氏及び少数株主TRS氏(以下、両名を合わせて売主らといいます)と、投資会社PLMの完全子会社である買主VGRとの間で、この方法による株式譲渡契約が締結されました。対象となった株式は合計325株です。契約には、創業者MTB氏が第5期の終わりまで対象会社RKDの会長として経営に関与し、経営体制を維持することも盛り込まれていました。
第1回の譲渡が実行され、残りは第2クロージング日に支払う予定だった
平成29年12月28日、第1回の譲渡(判決のいう第1クロージング)が実行され、創業者MTB氏の245株と少数株主TRS氏の40株が買主VGRに譲渡されました。買主VGRは、創業者MTB氏に3億6,750万円、少数株主TRS氏に6,000万円を支払い、対象会社RKDの57パーセントの株式を取得しました。対象会社RKDは、第5期から会計監査人設置会社となりました。
残る支払は、平成31年3月29日(第2クロージング日)に予定されていました。一つは、第1回に譲渡された株式についての業績連動の追加支払(以下、第1回譲渡分の追加支払といいます)です。もう一つは、少数株主TRS氏の残り40株の譲渡(判決のいう第2クロージング)の代金(以下、第2回譲渡代金といいます)で、1株当たり150万円の合計6,000万円に、業績に応じた追加分を加算する定めでした。
自社発電所の売却という事業計画の変更に合わせて、変更覚書が結ばれた
第5期に入ると、対象会社RKDの中心事業である太陽光低圧発電所の販売は、通期120基の計画に対して75基の販売が確定していたものの、販売在庫がなくなり、外部からの買付けを含めても計画値の達成が難しい状況になりました。そこで創業者MTB氏は、対象会社RKDが自社で保有していた発電所の一部(低圧21基、高圧2基)を中古発電所として第三者に売却して第5期の計画値を達成する方針を立て、投資会社PLM及び買主VGRに提案しました。
投資会社PLMは平成30年7月18日、創業者MTB氏が令和元年12月まで会長職を続けること、第2クロージング日には追加株式の取得分6,000万円と計画変更前の見込みによる追加支払(約2億5,500万円の見込み)を支払い、計画変更後の追加支払(約4億500万円の見込み)との差額約1億5,000万円は令和2年3月に一定の条件で支払うことを提案しました。この提案を反映して、平成30年7月30日、売主らと買主VGRの間で変更覚書が締結されました。
会計監査の過程で、売上げの前倒し計上が判明した
第5期の計算書類の会計監査の過程で、第4期以前の会計処理に誤りがあることが判明し、令和元年5月30日に第5期の決算が修正されました。その後の検証で第4期の会計処理にも重大な誤りがあることが分かり、第4期の決算も修正されました。修正後の第4期の当期純利益は2,886万4,944円で、変更覚書の別紙に第4期の実績として記載されていた数値(1億8,700万円)を大きく下回りました。
判決は、本来は第5期の売上げとすべき発電所の売上げが、創業者MTB氏の指示により第4期の売上げとして計上され、第4期の業績を実際より高く見せる「不正な会計処理(粉飾)」が行われていたと認定しています。
第2クロージング日が過ぎても、買主VGRは第1回譲渡分の追加支払も第2回譲渡代金も支払わず、少数株主TRS氏が訴訟を起こしました。
事案の経緯の時系列
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 平成29年8月18日 | 創業者MTB氏が投資会社PLMに交付した株式価値の報告資料の作成日 |
| 平成29年9月 | 投資会社PLMが2段階の取得と業績連動の代金支払の方法を提案 |
| 平成29年12月18日 | 売主らと買主VGRが株式譲渡契約を締結(対象325株) |
| 平成29年12月28日 | 第1クロージング。285株を譲渡し、創業者MTB氏に3億6,750万円、少数株主TRS氏に6,000万円を支払い |
| 平成30年3月29日 | 定時株主総会で修正前の第4期決算を報告 |
| 平成30年7月18日 | 投資会社PLMが、自社発電所の売却を前提とする支払方法を創業者MTB氏に提案 |
| 平成30年7月30日 | 売主らと買主VGRが変更覚書を締結 |
| 平成30年7月31日 | 対象会社RKDの取締役会で、自社保有の発電設備の保有目的を販売用資産に変更する議案を承認 |
| 平成31年3月28日 | 定時株主総会で修正前の第5期決算を報告 |
| 平成31年3月29日 | 第2クロージング日。買主VGRは支払をせず |
| 令和元年5月30日 | 第5期の決算を修正。その後、第4期の決算も修正 |
| 令和元年7月1日 | 少数株主TRS氏が遅延損害金の起算日とした日(請求後の日) |
| 令和7年5月30日 | 東京地方裁判所が少数株主TRS氏の請求を棄却 |
判断の前提となった契約条項
契約の内容は判決の別紙に記載されていますが、その別紙は判決本文では省略されています。以下の囲みは、判決本文が説明する契約内容を当事務所がまとめたものです。「 」で示した部分だけが、判決本文に記載された契約の文言です。
第11条第1項―第1回譲渡分の追加支払
第1回に譲渡された株式について、第4期及び第5期の売上高、経常利益及び当期純利益の実績値と計画値を比べた達成率に応じて1株当たり追加支払金額を算定し、第2クロージング日に追加支払を行う(判決本文の説明による内容の要約)。
第11条第3項―追加支払が無効となる場合
対象会社RKDの業績が一定の数値を下回った場合には、第1項の追加支払を無効とし、「買主は、追加支払義務を負わないものとする」(判決本文の説明による内容の要約及び当事者の主張中に記載された文言)。
買主VGRの主張によれば、この条件として、第4期の当期純利益の実績値が計画値(2億9,600万円)を一定の割合で下回る場合(第3項(ⅱ))と、第4期と第5期の当期純利益の合計額が2億円を下回る場合(第3項(ⅰ))が定められています。判決は、このうち第3項(ⅱ)を当てはめています。
変更覚書による第11条第4項―追加支払を2回に分ける定め
1株当たり追加支払金額が、変更覚書の別紙に記載された第5期の成行案(売上高22億7,800万円、経常利益2億2,800万円、当期純利益1億5,800万円)に基づいて計算される金額(現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額)を超える場合には、少数株主TRS氏への第1回譲渡分の追加支払を次のとおり行う(判決本文の説明による内容の要約)。
(1)第2クロージング日に、現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額に40を乗じた金額を支払う。
(2)令和2年3月の最終営業日等に、両者の差額に40を乗じた金額を、第6期(令和元年12月期)の当期純利益に応じて支払う。当期純利益が3億5,600万円未満なら0円、3億5,600万円以上4億700万円未満なら差額の50パーセント、4億700万円以上4億6,500万円未満なら3分の2、4億6,500万円以上なら満額とする。
判決本文によれば、変更覚書のこの項は「第1項の規定にかかわらず」との文言に続けて「本株式譲渡1に係る譲渡価額の追加支払は以下のとおり行われるものとする」と定めています。
第13条第2項―第2回譲渡代金
第2回譲渡代金は、6,000万円(1株当たり150万円)に、1株当たり追加支払金額に40を乗じた額を加算した金額とする。変更覚書により、1株当たり追加支払金額が現行成行案に基づく金額を超える場合の支払方法は、上記の第11条第4項の定めを準用する(判決本文の説明による内容の要約)。
第6条第1項―第1クロージングの前提条件
第1クロージングにおける買主の義務の履行は、第1クロージング日の時点で、売主らが本件契約上の義務を全て履行又は遵守していること等の前提条件が充足されていることを前提とする。なお書きにより、売主の一方との関係で条件が整わない場合には、売主ら両名との関係で前提条件が整わないものとされている(判決本文の説明による内容の要約)。
第14条第1項―第2クロージングの前提条件
表題は「第2クロージングの前提条件」です。第2クロージングにおける買主の義務の履行は、(1)売主らが第2クロージングまでの間に履行又は遵守すべき本件契約上の売主らの義務を全て履行又は遵守していること、(2)第16条第1項及び第2項に規定された売主らの表明保証事項が、本件契約締結日及び第2クロージング日の時点で全ての点において真実かつ正確であることを前提とする(判決本文の説明による内容の要約)。第6条第1項のようななお書きはありません。
第8条第7項第2号・第2項―創業者MTB氏の誓約事項
売主1である創業者MTB氏は、対象会社RKDに「正確かつ適切な会計処理に基づく業務運営を行わせる」(第8条第7項第2号。判決の判断部分に記載された文言)。
また、対象会社RKDをして「善良な管理者の注意をもってその業務の遂行及び財産の管理行為を行わせる(法令遵守を含む。)」(第8条第2項。買主VGRの主張中に記載された文言)。
このほか、対象会社RKDを会計監査人設置会社とし、第4期決算から会計監査人の監査を受けさせることも誓約事項とされていました。
第16条第2項・別紙16-2―創業者MTB氏の表明保証
売主1である創業者MTB氏は、財務諸表が「日本において一般に公正妥当と認められる企業会計基準に従って適切に作成されており、本財務諸表の対象事業年度に係る対象会社の財務状態及び経営成績をそれぞれ正確かつ適正に表示している」こと(別紙16-2第5号)等を表明保証する(買主VGRの主張中に記載された文言)。
なお、判決本文では、第8条第7項第2号の文言が、買主VGRの主張の部分では「正確かつ適正な会計処理」、裁判所の判断の部分では「正確かつ適切な会計処理」と記載されています。上の囲みでは、裁判所の判断の部分の記載によりました。
当事者の請求及び主要な主張
少数株主TRS氏の請求
少数株主TRS氏は、第2クロージング日に支払われるべき金額として、第1回譲渡分の追加支払3,141万1,200円と、第2回譲渡代金のうち第2クロージング日に支払われるべき部分9,141万1,200円の合計1億2,282万2,400円を算出し、その一部である1億793万7,600円の支払を求めました。あわせて、令和元年7月1日から支払済みまで、平成29年法律第45号による廃止前の商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を求めました。
決算数値についての主張
少数株主TRS氏は、変更覚書の別紙で、当時の株主総会で承認された第4期の計算書類の数値(当期純利益1億8,700万円等)を第4期の実績値とすることが合意されていると主張しました。この数値を基礎に、1株当たり追加支払金額は90万2,190円、現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額は78万5,280円になるという主張です。
買主VGRは、決算に誤りがあれば修正後の数値で計画の達成状況を判断するのが当事者の合理的な意思であるとして、修正後の第4期の数値(当期純利益2,886万4,944円等)を用いるべきだと主張しました。また、第5期の成行案の数値は参考数値にすぎず、実際の第5期の実績から自社発電所の売却分を除いた数値を用いるべきだと主張しました。
前提条件についての主張
買主VGRは、第1回譲渡分の追加支払は第1回の譲渡の代金の追加分であるから、第1クロージングの前提条件を定める第6条第1項が適用され、しかも支払期日である第2クロージング日の時点で前提条件を充足している必要があると主張しました。そのうえで、創業者MTB氏には売上げの前倒し計上による誓約事項違反と表明保証違反があると主張しました。
これに対し少数株主TRS氏は、第6条第1項の「第1クロージングにおける買主の義務」は第1クロージング日に支払われる固定額の代金の支払義務だけを指し、第1回譲渡分の追加支払は第2回譲渡代金と同じ日に支払われ、目的も一体であるから、第2クロージングの前提条件である第14条第1項が適用されると主張しました。
第2回譲渡代金については、少数株主TRS氏は、買主VGRが指摘する誓約事項と表明保証はいずれも売主1である創業者MTB氏を主体とするものであり、売主2である自分との関係では支払拒絶の理由にならないと主張しました。第6条第1項にある売主間の連帯を定めるなお書きが第14条第1項にはないこと、第2クロージングが実行されなければ自分は40株の少数株主として取り残されることも指摘しました。
買主VGRは、売主が1人の第2クロージングにあえて売主らの義務の遵守が前提条件とされている以上、創業者MTB氏の違反が影響するのは文言上明らかであり、なお書きは不要だったから置かれなかったにすぎないと反論しました。
追加支払の無効化条項についての主張
買主VGRは、修正後の第4期の当期純利益は計画値2億9,600万円の約9.7パーセントにとどまるため、第11条第3項により追加支払義務を負わないと主張しました。少数株主TRS氏は、変更覚書による第11条第4項は「第1項の規定にかかわらず」と定めており、第11条第1項とは別個の根拠であるから、第1項の追加支払を無効にする第3項は適用されないと主張しました。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
結論を左右した争点
判決が整理した争点は次の4つです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点1 | 1株当たり追加支払金額と現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額の算定に、どの決算数値を用いるか |
| 争点2 | 第1回譲渡分の追加支払について、前提条件の不充足を理由に買主VGRは支払を免れるか |
| 争点3 | 第11条第3項により、買主VGRは第1回譲渡分の追加支払を免れるか |
| 争点4 | 第2回譲渡代金について、第14条第1項の前提条件の不充足を理由に買主VGRは支払を免れるか |
結論を直接左右したのは争点2と争点4で、いずれも創業者MTB氏の誓約事項違反を理由に前提条件の不充足が認められました。争点3は、裁判所が念のため検討したものです。
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
認定された重要な事実
裁判所は、価格の合意に至らなかったため、業績と計画の達成状況に応じて代金を決める方法が提案され、売主らがこれに合意したこと、変更覚書は創業者MTB氏による自社発電所の売却の提案に対応して結ばれたことを認定しました。
決算については、物品の販売は検収の完了時に売上げとして計上されるところ、第4期に事業計画どおりの販売ができない事態を隠すため、系統連系(検収)が第5期にずれ込んだ発電所の売上げを、創業者MTB氏の指示で第4期に計上する期ズレが生じていたと認定しました。
決算数値についての判断の枠組み
裁判所は、追加支払が設けられた経緯と趣旨から、「対象会社の業績を正確かつ適切に反映した決算書類に基づき追加支払の有無及びその金額を定めるものと解することが、契約当事者の合理的な意思に合致するものといえる」としました(引用中の「対象会社」は対象会社RKDを指します)。契約で会計監査人の監査を受けることや、計算書類の確定手続を経て追加支払金額を決めることが定められていたことも、この理解を支える事情として挙げています。
前提条件の適用時点についての判断の枠組み
裁判所は、表明保証事項や誓約事項の遵守を前提条件とする趣旨は、各当事者が表明保証の正確さや誓約事項の遵守を前提に取引の意思決定をしていることから、一方当事者に違反がある場合に、他方当事者が「当該取引を実行しないという選択を可能にする点にある」と述べました。そして、この趣旨は、第1回の譲渡の後に追加支払を実行するかどうかを決める場面にも及ぶと判断しました。
各主張を採用し又は排斥した理由
争点1―第4期は修正後の数値、第5期の成行案は変更覚書記載の数値
裁判所は、1株当たり追加支払金額の算定について、第4期は決算修正後の数値を用いることが合意されていたと判断しました。変更覚書の別紙にある第4期の実績値は、作成時点で承認されていた計算書類に基づく数値にすぎず、その後に決算が正確なものに修正された場合には、修正後の数値を用いることが想定されていたと考えるのが相当だという理由です。少数株主TRS氏の主張は採用されませんでした。第5期の数値として修正後の決算報告書の数値を用いることには、当事者間に争いがありませんでした。
現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額についても、第4期は同じく修正後の数値を用いるとしました。変更覚書の文言が、この算定に用いる第4期の数値を具体的な金額で明らかにしていないことも、この判断と整合するとしています。
他方、第5期の成行案の数値については、買主VGRの主張を採用しませんでした。変更覚書は現行成行案に基づく金額を別紙記載の第5期の成行案に基づいて計算される金額と定義し、別紙にその数値が明記されていること、変更覚書の基になった提案が第5期の決算報告前に見込み額を前提にしていたこと、実際の決算数値から自社発電所の売却分を控除する計算方法が定められていないことから、当事者は「簡明に追加支払の有無及びその額を決する方法として」、変更覚書締結当時の成行案に基づく金額を基準とすることを合意したと判断しました。
この結果、1株当たり追加支払金額は62万2,257円、現行成行案に基づく1株当たり追加支払金額は50万5,569円と算定されました。
争点2―第1回譲渡分の追加支払には第6条第1項が、第2クロージング日の時点で適用される
裁判所は、第1クロージングは第1回の譲渡の実行をいうと定められ、第1回譲渡分の追加支払は第1回の譲渡に係る譲渡価額の追加支払として行うと定められていることから、追加支払は第1クロージングの一環として実行されるものと合意されていたとみるのが自然かつ合理的であり、第6条第1項が適用されると判断しました。
少数株主TRS氏の、支払日が同じだから第14条第1項が適用されるという主張は採用されませんでした。第14条は表題で「第2クロージングの前提条件」と明記し、本文でも第2クロージングにおける買主及び売主の義務を定めていること、第2クロージングは少数株主TRS氏の残りの株式の譲渡等の実行を指すことが理由です。追加支払を第2クロージング日に行うという定めは、「実行期日を同一の日(第2クロージング日)とすることを定めているにすぎない」と判断されました。
そのうえで裁判所は、第6条第1項は第1クロージング日の時点で前提条件が充足されていることを定めているものの、第1クロージング日と第2クロージング日の間には1年以上の期間があり、追加支払の有無と金額は第5期の決算数値も踏まえて決まることを指摘しました。前提条件の趣旨は追加支払の場面にも及ぶとして、「契約条項上は明記されてはいないものの」、追加支払については支払期日である第2クロージング日に第6条第1項の前提条件を充足している必要があると解するのが、当事者の合理的意思に合致すると判断しました。
当てはめとして、本来は第5期に計上すべき売上げが第4期に計上されていた重大な誤りがあったことから、第2クロージング日の時点で、創業者MTB氏の「正確かつ適切な会計処理に基づく業務運営を行わせる」という誓約事項の違反を認めました。したがって、買主VGRは第1回譲渡分の追加支払の義務を負わないとされました。なお、判決は、この争点で誓約事項違反を認めて結論を導いており、買主VGRが主張した表明保証違反の成否は判断していません。
争点3―念のための検討として、第11条第3項も適用されるとした
裁判所は、争点2の判断で結論は出ているとしつつ、念のため第11条第3項についても検討しました。変更覚書による第11条第4項は、事業計画の変更を受けて第11条第1項の追加支払の条件や方法を変更したものにすぎず、両者の請求権は「形式的には根拠となる契約条項を異にするものの、実質的にみれば、両者は同一の請求権であると認められる」としました。そして、第3項の冒頭に「第1項の規定にかかわらず」とあるからといって、第3項が変更覚書による第4項に及ばないと解することは「およそ相当とはいい難い」と述べています。
当てはめでは、修正後の第4期の当期純利益2,886万4,944円が計画値2億9,600万円の25パーセントを下回るとして、第11条第3項(ⅱ)の条件に該当すると判断し、この点からも追加支払義務を否定しました。
争点4―創業者MTB氏の誓約事項違反は、少数株主TRS氏への第2回譲渡代金にも及ぶ
裁判所は、第14条第1項が、少数株主TRS氏だけが売主となる第2クロージングについて、あえて売主ら、すなわち創業者MTB氏と少数株主TRS氏の両名の誓約事項や表明保証事項の遵守を前提条件としていることを重視しました。
前提条件の趣旨が、取引の前提となった事実関係が崩れた場合に取引を実行しない選択を可能にすることにある以上、「その前提となる事実関係が崩れた原因が何であるかや、誰に起因して前提となる事実関係が崩れたのか、あるいは前提となる事実関係が崩れたことについて起因者に帰責事由があるかなどといったことは、問題とはならないはず」だと述べました。そのうえで、財務状態等の表明保証の主体が創業者MTB氏とされたのは、対象会社RKDの実質的な経営に当たっていたのが創業者MTB氏であり、少数株主TRS氏は直接関与しておらず、表明保証を行う主体としての適格性が創業者MTB氏に限られていたためと考えられるとしました。
なお書きがないという主張についても、第1クロージングでは売主が2人いるため、一方の違反が他方の株式の譲渡にも影響することを明らかにする調整規定が必要だったのに対し、売主が1人の第2クロージングではその必要がなかったと判断しました。そして、「MTB氏の義務違反は、当然にTRS氏に対する本譲渡価額2の支払(第2クロージング)に影響を及ぼすことは明らかであるといえる」と述べています(引用中の氏名は本記事の表記に置き換えています。本譲渡価額2は本記事でいう第2回譲渡代金です)。
当てはめとして、第2クロージング日の時点で創業者MTB氏の誓約事項(第8条第7項第2号)の違反が認められ、第2クロージングにおける買主の義務の前提条件が充足されないとして、第2回譲渡代金の支払義務も否定されました。
主文及び結論
主文は、少数株主TRS氏の請求を棄却し、訴訟費用を少数株主TRS氏の負担とするものでした。第1回譲渡分の追加支払は、第6条第1項の前提条件の不充足(争点2)により、念のための検討として第11条第3項(争点3)によっても否定されました。第2回譲渡代金は、第14条第1項の前提条件の不充足(争点4)により否定されました。
注意すべきは、裁判所が争点1で、第5期の成行案について少数株主TRS氏の主張に沿って変更覚書記載の数値を採用し、追加支払金額を算定していることです。それでも請求が棄却されたのは、金額の計算の問題ではなく、支払の前提条件が満たされていないと判断されたためです。
判断の射程
以下は、判決を踏まえた当事務所の評価です。
参考となる点
第一に、追加支払の算定に用いる実績値について、契約当時に承認されていた決算が後に修正された場合には修正後の数値によるとした点です。他方で、変更覚書で算定の基準として定義され、数値が明記された成行案は、そのまま用いられました。契約書に書き込む数値が、確定した基準値なのか、後の決算で置き換わる実績値なのかを明確にしておく重要性を示しています。
第二に、追加支払の前提条件の判定時点を、契約の文言上は第1クロージング日とされていたにもかかわらず、支払期日である第2クロージング日とした点です。売主にとっては、第1回の譲渡が終わった後も、追加支払の支払期日までの義務違反が支払の拒絶につながり得ることになります。
第三に、共同売主の一方だけを主体とする誓約事項の違反が、経営に関与していなかった他方の売主への支払にまで影響するとした点です。少数株主である売主にとっては、自分が関与できない創業者の行為によって、自分の残りの株式の代金まで受け取れなくなる危険があることを示しています。
一般化できない点
本判決は、この契約の各条項の文言と締結の経緯に基づく契約解釈の判断です。特に、第14条第1項が売主らの義務の履行を第2クロージングの前提条件として明記していたこと、第6条第1項にだけなお書きがあったこと、表明保証の主体が適格性の観点から創業者MTB氏に限られていたと判断されたことが、結論に結び付いています。前提条件の定め方が異なる契約では、同じ結論になるとは限りません。
また、本判決は誓約事項違反を理由に前提条件の不充足を認めたもので、表明保証違反の成否や、売上げの前倒し計上による損害賠償の可否は判断していません。上訴の有無及び確定も確認できていないため、上級審で判断が変わる可能性も否定できません。
契約を検討する際の着眼点
経営に関与しない共同売主の立場からは、自分の代金の前提条件を他の売主の義務違反から切り離せるか、前提条件の判定時点をいつとするか、取引が実行されない場合に自分の株式をどう扱うかを検討することが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。
株式譲渡代金の残代金が支払われない場合の回収は、次のページでご案内しています。
よくあるご質問
経営に関与していない共同売主でも、創業者の会計操作を理由に代金の支払を拒まれることがありますか。
本判決では、第2回の譲渡の前提条件として売主ら両名の義務の遵守が定められていたことから、創業者MTB氏の誓約事項違反が少数株主TRS氏への支払にも影響すると判断されました。前提条件の主体と対象が契約上どう書かれているかが重要です。
第1回の譲渡が終わっていれば、その後の追加支払に前提条件の問題は生じないのではありませんか。
本判決は、追加支払の前提条件は支払期日の時点で充足されている必要があると判断しました。第1回の譲渡の時点で問題がなくても、追加支払の支払期日までに違反が明らかになれば、支払を拒まれる可能性があります。
契約時に株主総会で承認された決算数値を前提に追加支払を計算してよいですか。
本判決は、追加支払の趣旨から、業績を正確かつ適切に反映した決算数値を用いるのが当事者の合理的な意思であるとして、修正後の第4期の数値を用いました。後に決算が修正されれば、算定の前提が変わり得ます。
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創業者と共同で株式を売却した少数株主の売主が、業績連動の追加支払と残りの株式の譲渡代金を請求した場面の判例を、共同売主の誓約事項違反が支払の前提条件に及ぼす影響の観点から解説します。
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