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院長候補の医師の早期退職による買収断念と賠償される費用の範囲―東京地方裁判所令和6年3月15日判決

公開 2024年3月15日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社の対応についてのご相談

医療法人の買収を計画した会社が、その診療所の次の院長となる医師を探して採用までこぎつけたのに、医師が1か月足らずで退職し、買収が実現しなかった場面の判例です。買収を予定していた会社は、M&A仲介会社への支払やデュー・ディリジェンスの費用を含む約2,500万円の損害を、退職した医師に請求しました。東京地方裁判所令和6年3月15日判決は、医師の退職が会社に対する不法行為に当たることを認めながら、買収を断念したことによる費用は医師の不法行為と相当因果関係のある損害に当たらないとし、賠償を命じたのは、事務長の紹介費用、担当者の対応に係る費用及び弁護士費用の合計320万9,800円にとどめました。

本記事では、退職した医師が署名した「損害賠償を行います」という書面がなぜ賠償の合意と認められなかったのか、直接の契約関係のない医師の退職がなぜ不法行為とされたのか、そして買収の断念に伴う費用がなぜ賠償の範囲から外れたのかを、判決本文に沿って整理します。M&Aの実行を特定の人物の就任に依存させている買主の方、取引が途中で頓挫して費用の負担が問題となっている方に参考となる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 引退を考えていた院長と副院長から、医療法人の経営権の譲渡が持ち込まれた
    2. 買収後の院長となる医師を探し、一度不採用とした医師を採用した
    3. トライアル勤務を経て採用され、同じ日に買収の基本合意が交わされた
    4. 入職から1か月足らずで退職を申し出て、買収は実現しなかった
  4. 事案の経緯
  5. 判断の前提となった書面と合意の内容
    1. DRK氏が署名した書面―損害賠償を行う旨の記載
    2. 基本合意書の主な内容(判決本文の認定の要約)
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. MCVの請求と損害の内訳
    2. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 重要な認定事実
    2. 不法行為の根拠―業として採用に関与した者に対する信義則上の注意義務
    3. 賠償の範囲―注意義務の内容から通常損害と特別損害を分ける
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 書面による損害賠償の合意―金額の説明は署名の後で、合意は成立していない
    2. 退職の不法行為該当性―直接の契約関係がなくても責任は否定されない
    3. 損害1から3(仲介会社への支払、デュー・ディリジェンス費用)―予見すべきであったとはいえない
    4. 損害4(事務長の紹介費用)―院長の交代に伴い必要となるもので、相当因果関係がある
    5. 損害5(担当者の出張の日当及び交通費)―諸般の事情を考慮して30万円
    6. 損害6(経理部長の給与相当額)―不法行為によって生じたと認める証拠がない
    7. 弁護士費用―認められた損害額を考慮して29万1,800円
    8. 過失相殺―否定
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 買収の準備段階で確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. M&Aが頓挫した場合、仲介手数料やデュー・ディリジェンス費用を、頓挫の原因を作った人に請求できますか。
    2. 雇用契約の当事者ではない会社に対して、退職が不法行為になることがあるのですか。
    3. 「損害賠償を行います」という書面に署名すると、示された金額の全部を支払う義務が生じますか。
    4. 買収計画を秘密にしていたことは、損害賠償の請求にどう影響しますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第16部
裁判日 令和6年3月15日
事件番号 令和4年(ワ)第4147号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(買収を計画していた会社)の主位的請求(損害賠償の合意に基づく請求)を棄却。予備的請求(不法行為に基づく請求)を320万9,800円及び遅延損害金の限度で認容し、その余を棄却
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
医療経営コンサルティング会社MCV 原告。医療機関の経営コンサルティングや医療施設の運営等を目的とする株式会社で、対象医療法人TMKの買収を計画していました
産婦人科医DRK氏 被告。院長の求人に応募して対象医療法人TMKに採用され、1か月余りで退職した医師
対象医療法人TMK 産科、婦人科及び小児科を標榜する診療所を開設していた社団たる医療法人。買収の対象とされていました
診療所TMC 対象医療法人TMKが開設していた産科・婦人科・小児科の診療所
理事長兼院長STO氏 対象医療法人TMKの理事長であり、診療所TMCの院長。引退を考えていました
副院長FJM氏 診療所TMCの副院長で、対象医療法人TMKの出資持分のほぼ全てを有していた医師。MCVとの間で基本合意書を取り交わしました
MCVの取締役KRT氏 MCVで買収の検討と院長候補の採用を中心となって担当した取締役
M&A仲介会社ABR MCVに対象医療法人TMKの案件を紹介し、MCVと提携仲介契約を締結した会社
医師人材紹介会社PLM 診療所TMCの院長の求人を扱い、DRK氏の応募を仲介した会社
PLMの担当者SGW氏 医師人材紹介会社PLMの担当者
MCVが出資する医療法人VNS MCVが出資持分の全部を有する医療法人。トライアル勤務の期間、DRK氏と雇用契約を結びました
転職先の病院RYH DRK氏が対象医療法人TMKを退職した後に常勤医として勤務した病院

事案の概要

引退を考えていた院長と副院長から、医療法人の経営権の譲渡が持ち込まれた

対象医療法人TMKは、産科、婦人科及び小児科の診療所TMCを開設していた医療法人です。令和3年当時、理事長兼院長はSTO氏、副院長は、対象医療法人TMKを設立して診療所TMCを開設した医師の娘であるFJM氏でした。FJM氏は対象医療法人TMKの出資持分のほぼ全てを有していました。

STO氏とFJM氏は、出資持分を譲渡するなどして診療所TMCの経営から引退することを考えていました。医療経営コンサルティング会社MCVは、令和3年1月、M&A仲介会社ABRから対象医療法人TMKの案件の紹介を受け、取締役KRT氏を中心に検討を始めました。同年3月17日、MCVはM&A仲介会社ABRとの間で、対象医療法人TMKの買収に係る仲介業務を委託し、その対価を支払う旨の提携仲介契約を締結しました。

経営権の譲渡の話については、対象医療法人TMKの側からMCVに対し、第三者に秘匿するよう求められており、KRT氏もその点に留意していました。

買収後の院長となる医師を探し、一度不採用とした医師を採用した

MCVは、遅くとも令和3年5月頃までに、STO氏に代わって診療所TMCの院長となる医師の求人を始め、医師人材紹介会社PLMに後継医師の紹介を依頼していました。

産婦人科医DRK氏は、当時勤務していた病院の院長との関係が悪化するなどしたことから転職を決意し、令和3年9月5日頃、医師人材紹介会社PLMを通じて診療所TMCの院長の求人に応募しました。求人票には、採用者は対象医療法人TMK、就業先は診療所TMC、役職は院長、年収は3,000万円から6,000万円(相談可能)などと記載されていました。

KRT氏は、9月7日のオンライン面接の後、DRK氏が短期間で転職を繰り返している理由が上司との対立であると認識し、MCV内でも検討のうえ、DRK氏を不採用としました。しかし、DRK氏は再度の面接とトライアル勤務の機会を強く希望し、覚悟のうえでの提案であること、人生最後の職場として機会を与えてほしいことなどを伝えました。9月21日、KRT氏も同席してSTO氏との面接が行われ、DRK氏は、10年以上、診療所TMCで院長を務める覚悟である旨を述べました。

トライアル勤務を経て採用され、同じ日に買収の基本合意が交わされた

DRK氏は、令和3年10月の1か月間、次期院長としての適性を見極めるためのトライアル勤務をすることになりました。この期間の給与はMCV側が負担することとされ、MCVが出資する医療法人VNSとDRK氏との間で、月額267万円の雇用契約が結ばれました。MCVは、DRK氏が院長に就任した場合には事務長が不可欠となると考え、10月6日、人材紹介会社に事務長の紹介を依頼しました。

トライアル勤務に特に問題はなく、DRK氏は、令和3年11月1日、対象医療法人TMKと雇用契約を締結して診療所TMCに入職しました(雇用契約書は作成されていません)。同じ日、MCVと副院長FJM氏との間で、MCVが対象医療法人TMKの経営権を譲り受けることに係る「法人提携に関する基本合意書」が取り交わされました。MCVは、この基本合意に基づき、法務と財務のデュー・ディリジェンスを行いました。一方、DRK氏は、この頃、基本合意の締結を含む経営権の譲渡について何も知らされていませんでした。

入職から1か月足らずで退職を申し出て、買収は実現しなかった

令和3年11月18日頃、DRK氏に転職先の病院RYHから常勤医の求人の連絡が届きました。11月25日には、KRT氏、STO氏、DRK氏らの間で、令和4年1月以降はDRK氏が院長に就任することなどが確認されましたが、DRK氏は11月29日に転職先の病院RYHの関係者と面談し、転職を決めました。そして同日夜にKRT氏に、翌30日にSTO氏とFJM氏に、退職の意向を伝えました。

令和3年12月2日、KRT氏とDRK氏の面談が行われ、DRK氏は、KRT氏が用意した「損害賠償を行います」との記載のある書面に署名しました。DRK氏は12月6日に対象医療法人TMKを退職し、翌7日から転職先の病院RYHで勤務しました。MCVは対象医療法人TMKの買収を断念し、基本合意は延長されることなく令和4年1月31日の経過をもって失効しました。

MCVは、DRK氏に対し、主位的には書面による損害賠償の合意に基づき、予備的には不法行為に基づき、合計2,765万5,907円の支払を求めて提訴しました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
令和3年1月 M&A仲介会社ABRを通じて、STO氏とFJM氏による経営権譲渡の意向がMCVに伝えられ、KRT氏を中心に検討開始
令和3年3月17日 MCVとM&A仲介会社ABRが提携仲介契約を締結
令和3年5月頃まで MCVが、STO氏に代わる院長の求人を開始
令和3年9月5日頃 DRK氏が医師人材紹介会社PLMを通じて院長の求人に応募
令和3年9月7日 オンライン面接。MCVはDRK氏を不採用とする
令和3年9月11日 DRK氏がSGW氏に、院長との面接とトライアル勤務の機会を希望する電子メールを送付
令和3年9月21日 STO氏との面接(KRT氏同席)。DRK氏が10年以上院長を務める覚悟である旨を述べる
令和3年10月 トライアル勤務(給与はMCV側が負担。医療法人VNSとの雇用契約、月額267万円)
令和3年10月6日 MCVが人材紹介会社に事務長の紹介を依頼
令和3年11月1日 DRK氏が対象医療法人TMKと雇用契約を締結して入職。同日、MCVとFJM氏が基本合意書を取り交わす
令和3年11月18日頃 DRK氏に転職先の病院RYHから求人の連絡
令和3年11月25日 令和4年1月以降の診療体制の協議。DRK氏が院長に就任することなどを確認
令和3年11月29日 DRK氏が転職先の病院RYHの関係者と面談して転職を決め、同日夜にKRT氏へ退職を申し出る
令和3年11月30日 DRK氏がSTO氏とFJM氏に退職を申し出る。KRT氏とDRK氏がショートメールでやり取り
令和3年12月2日 面談。DRK氏が損害賠償を行う旨の書面に署名。署名後、KRT氏が損害額は合計約2,500万円近くになると説明
令和3年12月6日 DRK氏が対象医療法人TMKを退職(翌7日から転職先の病院RYHで勤務)。MCVは買収を断念
令和3年12月13日 KRT氏が損害額2,329万5,504円を電子メールで告げる。DRK氏は弁護士に相談のうえ回答すると返信
令和3年12月15日 MCVが2,515万5,907円の請求書を送付。DRK氏は代理人弁護士を通じて支払を拒絶
令和4年1月31日 基本合意が延長されることなく、この日の経過をもって失効
令和5年6月 診療所TMCが閉院
令和6年3月15日 東京地方裁判所が、主位的請求を棄却し、予備的請求を320万9,800円及び遅延損害金の限度で認容する判決

判断の前提となった書面と合意の内容

本件では、買収の当事者間の契約条項ではなく、退職を申し出た医師が署名した書面の文言が、主位的請求の成否を左右しました。以下の書面の文言は、判決本文に記載されたものを逐語で引用しています。

DRK氏が署名した書面―損害賠償を行う旨の記載

判決本文によれば、この書面はA4判1枚で、名宛人としてMCV、医療法人VNS及び対象医療法人TMKの3者が記載され、その下の作成者欄は空欄でした。本文は25行にわたり、まず、DRK氏が令和4年1月1日から理事長兼院長として勤務する旨表明しており、そのため対象医療法人TMKとMCVが「その準備としての持分を譲渡する手続きを行っていました。」という経緯が記載され、これに続いて次の記載がありました。

約束を反故にした件について、関係者の与えてしまった損害である費用(持分を譲渡する手続きに要した費用、医師・事務の募集・採用等の費用、トライアル勤務・引継期間に要した給与等の一切)については、責任をもって損害賠償を行います。

具体的な金額の記載はありませんでした。DRK氏は、KRT氏から書面を示されると、30秒余り黙読した後、作成者欄に署名して交付しました。

基本合意書の主な内容(判決本文の認定の要約)

MCVと副院長FJM氏との基本合意書は、条項の文言が判決本文に引用されていないため、判決が認定した内容を当事務所の言葉で要約します。

  • MCVが対象医療法人TMKの経営権を譲り受けることに係る合意であること。
  • 有効期間は原則として令和3年11月1日から起算して3か月とされ、双方の書面による合意で延長できること。3か月以内に最終契約書が締結されないときは、原則として失効すること。
  • MCVとFJM氏のいずれも、基本合意書締結の事実、その内容その他基本合意書に関する一切の情報を、原則として第三者に開示してはならないとする秘密保持条項があること。

判決は、この秘密保持条項とは別に、対象医療法人TMKの側からMCVに対し、経営権の譲渡に係る事実をDRK氏に伝えないよう求められていたことも認定しています。

当事者の請求と主要な主張

MCVの請求と損害の内訳

MCVは、DRK氏に対し、2,765万5,907円及びこれに対する令和3年12月31日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求めました。主位的には書面による損害賠償の合意に基づき、予備的には不法行為に基づく請求です。MCVが主張した損害の内訳は次のとおりです。

  • 損害1 M&A仲介会社ABRへの支払分 1,517万7,504円
  • 損害2 法務デュー・ディリジェンス費用 110万円
  • 損害3 財務デュー・ディリジェンス費用 440万円
  • 損害4 人材(事務長)紹介費用 261万8,000円
  • 損害5 KRT氏の出張に伴う日当及び交通費 183万0,793円
  • 損害6 MCVの経理部長の対応分の給与相当額 2万9,610円
  • 以上の小計2,515万5,907円に、弁護士費用250万円(小計の約1割)を加えた合計2,765万5,907円

判決本文では各損害に山括弧付きの番号が付されていますが、本記事では「損害1」から「損害6」と表記します。なお、書面にはトライアル勤務・引継期間の給与も挙げられていましたが、MCVが主張した損害の項目には、トライアル勤務の給与は含まれていません。

争点ごとの主張

争点 MCVの主張 DRK氏の主張
書面による損害賠償の合意(主位的請求) DRK氏は面談前から自ら損失の補償をする旨を繰り返し述べ、面談では書面に目を通して自主的に署名し、損害総額が2,500万円程度になるとの説明を受けて10年での分割払いを提案した。およそ2,500万円規模の損害賠償の合意が成立しており、金額の記載がないのは、基本合意の失効を停止条件として損害額が確定される趣旨であった。令和4年1月31日の経過で基本合意が失効し、損害額が確定した 面談前に損害賠償の話をするとの申出はなかった。具体的な損害額や書面作成の目的の説明がないまま署名を求められ、30秒程度黙読しただけで、宛先の3者に対する謝罪文と考えて署名したにすぎない。賠償額の記載もなく、損害賠償債務を負担する合意書面とは理解できない
退職の不法行為該当性(予備的請求) DRK氏は、診療所TMCが10年以上院長を務める後継者を探していること、MCVが経営権の譲渡を受け、DRK氏を院長に据える体制の構築に深い利害関係を有していることを認識していた。一度不採用となった後に再度の面接を懇願し、長期間の勤務を約束して就職しながら短期間で退職したことは、MCVが出資持分を譲り受ける権利を故意又は重過失により侵害する不法行為に当たる MCVの買収計画は誰からも聞いておらず、KRT氏は計画を秘匿しようとしていた。対象医療法人TMKとは期間の定めのない雇用契約で、退職の時期に制限はない。直接の契約関係のないMCVとの関係で退職の自由が制限される理由はなく、不法行為となる余地はない
損害の有無及び額 損害1から6はM&Aの遂行に通常必要な費用であり、DRK氏は、MCVが診療所TMCを「事業承継」することや、自分の報酬はMCVが支払うことを認識する限度で買収計画を認識していたから、通常損害に当たる。特別損害であっても、面談時のやり取りや採用の経緯から予見可能であり、予見すべきであった 退職と買収の不成就との間に相当因果関係はない。仮に因果関係があっても特別損害であり、院長職を承継するだけという認識で、経営者から院長として雇われるという認識であったから、予見可能性はなかった
過失相殺 DRK氏の主張は、自らの不誠実さを棚に上げて責任を転嫁するものである MCVは、DRK氏が過去に短期間で離職を繰り返していたことを認識しながら、退職を制限する合意も、買収にDRK氏の存在が不可欠であることの説明もしなかった。専門業者のサポートを受けていたことも考慮すれば、9割程度の過失相殺がされるべきである

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を、書面による損害賠償の合意の成否、退職の不法行為該当性、賠償すべき損害の有無及び額、過失相殺の可否の4つに整理しました。結論を左右したのは、次の3点です。

  1. 金額の記載がない「損害賠償を行います」との書面への署名によって、およそ2,500万円規模の損害賠償の合意が成立したといえるか。
  2. 買収計画を知らされていなかった医師について、直接の契約関係のない買主との関係で、短期間で退職しない注意義務が認められるか。
  3. 不法行為が成立するとして、買収の断念に伴う費用(仲介会社への支払、デュー・ディリジェンス費用)が、医師が予見すべきであった特別の事情による損害といえるか。

判決は、第1の点を否定して主位的請求を棄却し、第2の点を肯定して不法行為の成立を認めましたが、第3の点を否定したため、請求額の大部分を占める損害1から3は認められませんでした。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

重要な認定事実

判決は、前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨により、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約であり、「 」内は判決本文の引用です)。

  • KRT氏は、9月7日の面接後、不採用の旨をSGW氏に伝える際、メッセージアプリで「10年、頑張ってくれるとは思えず。」と記載していました。
  • DRK氏は、9月11日の電子メールで、診療所TMCは以前10年以上勤務した医療機関とかなり環境が近いと考えていること、「最高の結婚相手」と直感したことなどを述べ、院長との面接とトライアル勤務の機会を希望しました。SGW氏はKRT氏に「本当に最低60歳までやる気があるのか意気込みを確認します。」と伝えています。
  • KRT氏は、9月21日の面接に同席するに当たり、SGW氏に対し、MCVはメディカル支援サービスを行っており、医師の採用やコンサルティングもやっているので、診療所TMCから院長候補を紹介してほしいと言われて動いているといった説明をDRK氏にしてほしい旨を伝えていました。
  • 11月30日のショートメールで、KRT氏が「承知ということは、その時間と費用の損失を補償してくださいとなりますが、それで良いですか?」などと念押しすると、DRK氏は「費用は時間がかかると思いますが、必ず返します。」と返信し、さらに「損失に関しましては、ご提示していただいた金額を必ずお返しします。」と返答しました。
  • 12月2日の面談で、KRT氏は、書面を示すまでは時間と費用をかけているといった発言はしていたものの、具体的な損害額が合計約2,500万円近くになることを説明したのは、DRK氏が署名を終えた後でした。DRK氏は、その額を聞くと「言われた分は絶対返そうと思う」などと発言し、10年間の分割弁済を希望しました。

不法行為の根拠―業として採用に関与した者に対する信義則上の注意義務

判決は、診療所TMCの側が10年以上勤務を継続する意思を有する医師に診療所を継承することを希望しており、MCVもその希望を踏まえて求人活動をしていたこと、DRK氏も少なくとも二度目の採用面接時にはそのことを明確に認識しつつ採用を強く求めたことを認定しました。そして、雇用契約の締結から1か月も経たないうちに、自由意思で転職先の求人に応じて退職したことを踏まえ、次のように判断しました。

「〔DRK氏〕は、雇用契約締結に業として関与した〔MCV〕との関係において、少なくとも正当な理由なく短期間で〔対象医療法人TMK〕を退職しないという信義則上の注意義務があったというべきであり、本件退職は、同注意義務に反するものとして、〔MCV〕に対する不法行為に当たるというべきである。」

この判断の前提として、判決は、MCVが買収を前提に専ら買収後の自己のために求人活動をしていたという意図をDRK氏が認識していたとは認められないとしつつ、診療所TMCの院長の後継者探しにMCVが業として関与していることはDRK氏も認識していたと認めています。退職の自由との関係については、「退職自体は飽くまで〔DRK氏〕の自由であるとしても、退職に伴う損害賠償責任が当然に否定されるものではない。」と述べました。

賠償の範囲―注意義務の内容から通常損害と特別損害を分ける

損害の範囲について、判決は、不法行為の根拠となった注意義務の内容から出発しています。注意義務は、MCVが雇用契約の締結に業として関与したことに係るものであり、その関与は買収と必ずしも結び付かないとして、次のように判断しました。

「上記雇用契約締結への関与は、〔MCV〕による〔対象医療法人TMK〕の買収と必ずしも結び付くものではないから、〔MCV〕が〔対象医療法人TMK〕を買収することができなくなったことによる損害は、上記注意義務違反から通常生ずべきものと認めることはできないというべきである。」

そのうえで、判決は、民法416条を参照して、買収ができなくなったことによる損害は特別の事情によって生じた損害であり、DRK氏がその事情を予見すべきであったときに賠償責任が生ずるという枠組みを示しました。

各主張を採用し又は排斥した理由

書面による損害賠償の合意―金額の説明は署名の後で、合意は成立していない

判決は、次の事情を挙げて、およそ2,500万円規模の損害賠償の合意が成立したとのMCVの主張を退けました。

  • 書面には具体的な賠償額の記載がなく、署名までに具体的な賠償額の説明もなかったこと。署名後に損害額の概数は示されたものの、確定的な金額の提示はなかったこと。
  • 基本合意の失効を停止条件として損害額が確定される趣旨であったとの主張については、DRK氏はそもそも基本合意の存在を知らされておらず、書面を読む時までに基本合意の存在や買収計画を認識したと認めるに足りる証拠もないこと。書面で初めて出資持分の譲渡の記載を目にしたDRK氏が、その意味を的確に理解したとは認め難いこと。
  • 「言われた分は絶対返そうと思う」との発言は、損害額の概数が示されたのが署名の後であり、示された金額の相当性、合理性を検討する機会がないままされたものであること。

判決は、DRK氏の言動が診療所TMCやMCVとの関係で極めて不誠実、背信的であることは明らかであり、DRK氏も一定の賠償責任は免れないと覚悟していたことは認められるとしました。しかし、続けて、「法的に責任を負う必要のない損害についてまで賠償する意思があったと認めるに足りる証拠はなく」、署名後に示された損害額に異議ないし疑義を唱えなかったからといって、その損害額自体を了承したと認めることはできないと判断しました。判決は、不法行為と相当因果関係のある損害の額が2,500万円に遠く及ばないことを考慮すれば、このことは一層明らかであるとも述べています。

退職の不法行為該当性―直接の契約関係がなくても責任は否定されない

DRK氏は、直接の契約関係のないMCVとの間で退職の自由が制限される理由はないと主張しましたが、判決は、前記の信義則上の注意義務を認め、退職自体は自由であっても退職に伴う損害賠償責任が当然に否定されるものではないとして、この主張を退けました。判決が重視したのは、DRK氏が、一度は不採用とされた後に自ら採用を強く求め、10年以上院長を務める覚悟を述べて採用されながら、1か月も経たないうちに自由意思で退職したこと、そしてMCVが院長の後継者探しに業として関与していることをDRK氏が認識していたことです。

損害1から3(仲介会社への支払、デュー・ディリジェンス費用)―予見すべきであったとはいえない

判決は、損害1から3が、買収ができなくなったという特別の事情による損害に当たるとし、DRK氏がその事情を予見すべきであったと認めることはできないと判断しました。MCVの2つの主張は、次の理由で退けられています。

第1に、DRK氏が買収計画を認識していたから通常損害に当たるとの主張については、STO氏の陳述書とKRT氏の陳述書及び証言に、DRK氏が買収計画を認識していたとする趣旨とみられる部分があるものの、判決は、STO氏については証人尋問の申請がなく、陳述書は争いのある部分について証拠価値を認められないとしました。KRT氏については、陳述書にはSTO氏がDRK氏に説明したと聞いた旨の記載しかなく、証言でも、一旦自ら説明したとしながら、買収や譲渡の話は売主側の意向として秘匿の希望があったとし、自分は説明していないとする趣旨の証言もしているとして、にわかに採用し難いとしました。その結果、DRK氏が買収計画を認識していたという事実は認められず、主張は前提を欠くとされました。

第2に、面談時の書面の作成などから予見すべきであったとの主張については、書面で初めて出資持分の譲渡の記載を目にしたDRK氏がその意味を的確に理解したとは認め難いことに加え、判決は次のように述べました。

「そもそも、本件書面が作成された時点では、〔DRK氏〕が〔対象医療法人TMK〕を退職することは既に確定していたのであるから、上記作成時に上記出資持分譲渡の認識を〔DRK氏〕が有したからといって、それに係る損害の賠償責任が生ずるものとはいえない。」

こうして、請求額の大部分を占める損害1から3(合計2,067万7,504円)は、DRK氏の不法行為と相当因果関係のある損害とは認められませんでした。

損害4(事務長の紹介費用)―院長の交代に伴い必要となるもので、相当因果関係がある

判決は、MCVが、DRK氏が院長となる令和4年1月以降の事務長を人材紹介会社から紹介され、その費用として合計261万8,000円を支払ったことを認めました。そして、次のように述べて、損害1から3とは異なる評価をしています。

「〔診療所TMC〕において新たな事務長が必要となることは、〔対象医療法人TMK〕の買収とは必ずしも関係がなく、むしろ、院長の交代に伴い必要となる手続とみても何ら不自然とはいえない。」

さらに、DRK氏は11月25日に令和4年1月以降の診療体制について協議を行っており、遅くともこの時点で新たな事務長の採用について何も聞かされていなかったとは考え難いとしました。事務長の採用活動の開始がトライアル勤務中の10月6日であった点についても、採用活動の開始から実際の採用までには一定の期間が必要であることから、認定を左右しないとして、261万8,000円全額を相当因果関係のある損害と認めました。

損害5(担当者の出張の日当及び交通費)―諸般の事情を考慮して30万円

判決は、採用活動でKRT氏がMCVの担当者として対応していたことはDRK氏も当然認識しており、退職によってその対応が無益なものとなったのであるから、KRT氏の対応に係る費用は相当因果関係のある損害であると認めました。

しかし、MCVが主張した183万0,793円については、次の理由でそのまま採用することはできないとしました。

  • 提出された証拠が時機に後れたものであることはおくとしても、損害1から3のように実際の支払を直接裏付ける証拠の提出がないこと。
  • 日当分は、どのような根拠(内部規程)に基づき支払われたのかが明らかでないこと。
  • 交通費(宿泊費を含む。)は、経路や宿泊の必要性の説明がないこと。
  • 仮に不法行為がなかったとしても、買収を計画して提携仲介契約を締結していた以上、KRT氏はいずれにしろ複数回にわたり診療所TMCを訪れることになったであろうことは否定し難いこと。

そのうえで、判決は、KRT氏の対応を踏まえつつ諸般の事情を総合的に考慮して損害額を認定するのが相当であるとし、その額を30万円と認めました。

損害6(経理部長の給与相当額)―不法行為によって生じたと認める証拠がない

経理部長の給与相当額2万9,610円については、不法行為によって支払が生じたものと認めるに足りる証拠はないとして、損害と認められませんでした。

弁護士費用―認められた損害額を考慮して29万1,800円

判決は、相当因果関係のある損害を、損害4の261万8,000円と損害5のうち30万円の合計291万8,000円と認め、これも考慮して、相当因果関係のある弁護士費用を29万1,800円と認めました。

過失相殺―否定

DRK氏は9割程度の過失相殺を主張しましたが、判決は、MCVにおいて、採用されて1か月程度で退職するような事態を想定すべきであったとはいえないとしました。また、DRK氏が賠償すべき損害は出資持分の譲渡とは直接関係のないものであるから、譲渡についてあらかじめDRK氏に説明していなかったことをMCVの過失とみることはできないとして、過失相殺を行いませんでした。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(「原告」はMCV、「被告」はDRK氏を指します)。

「1 原告の主位的請求を棄却する。」
「2 被告は、原告に対し、320万9800円及びこれに対する令和3年12月31日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。」
「3 原告のその余の予備的請求を棄却する。」
「4 訴訟費用は、これを9分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。」
「5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。」

認容額の内訳は、次のとおりです。

項目 主張額 認容額
損害1 M&A仲介会社ABRへの支払分 1,517万7,504円 0円
損害2 法務デュー・ディリジェンス費用 110万円 0円
損害3 財務デュー・ディリジェンス費用 440万円 0円
損害4 人材(事務長)紹介費用 261万8,000円 261万8,000円
損害5 KRT氏の出張に伴う日当及び交通費 183万0,793円 30万円
損害6 経理部長の対応分の給与相当額 2万9,610円 0円
弁護士費用 250万円 29万1,800円
合計 2,765万5,907円 320万9,800円

遅延損害金の起算日である令和3年12月31日は、判決本文では、不法行為の後の日とされています。退職した医師の不法行為責任は認められたものの、認容額は請求額の約1割強にとどまりました。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 取引の当事者ではない人物の行動でも、買主に対する不法行為となり得ること。本判決は、DRK氏とMCVとの間に直接の契約関係がなく、DRK氏が買収計画を知らなかったにもかかわらず、MCVが採用に業として関与していたことを根拠に、正当な理由なく短期間で退職しない信義則上の注意義務を認めました。もっとも、その根拠とされたのは、一度不採用とされた後の強い採用の希望、10年以上院長を務める覚悟の表明、1か月足らずでの退職という具体的な経緯です。
  • 賠償の範囲は、注意義務の内容によって画されること。本判決は、不法行為の根拠をMCVによる採用への関与に置いたため、採用と結び付く費用(事務長の紹介費用、担当者の対応費用)は相当因果関係のある損害とし、買収と結び付く費用(仲介会社への支払、デュー・ディリジェンス費用)は特別の事情による損害として予見可能性を問いました。不法行為が成立しても、M&Aの断念に伴う費用まで当然に賠償の対象となるわけではないことを示す一例です。
  • 買収計画の秘匿は、相手方の予見可能性を否定する方向に働き得ること。本件では、対象医療法人の側の希望もあって、買収計画はDRK氏に伝えられていませんでした。判決は、DRK氏が買収計画を認識していたとは認められないとして、損害1から3の予見可能性を否定しています。取引の秘密を守ることと、取引の成否を左右する人物に対して責任を問える状態を確保することとの間には緊張関係があり、M&Aの実行が特定の人物の就任に依存する場合には、その人物との間の合意や、売主側との費用負担の定めなど、契約上の手当てを別に考える必要があります。
  • 事後に署名を得た金額空欄の書面は、賠償額の合意として認められにくいこと。本件の書面には損害の費目が具体的に列挙され、DRK氏はショートメールでも損失を返すと述べていましたが、判決は、金額の記載がなく、概数の説明が署名後であったことなどを重視して合意の成立を否定しました。また、退職が確定した後の書面作成時に認識を得ても、予見可能性の根拠にはならないとしています。
  • 社内の担当者の費用は、裏付けの資料と、不法行為がなくても生じた費用かどうかが問われること。担当者の日当と交通費は、支払の裏付け、内部規程の根拠、経路や宿泊の必要性の説明が欠けていたうえ、買収の検討のためにいずれにしろ現地を訪れたであろうことも考慮され、主張額183万0,793円に対し30万円の認定にとどまりました。

一般化できない点

  • 本判決は、医療法人の院長の後継者の採用という特殊な場面で、退職した医師の具体的な言動を踏まえて信義則上の注意義務を認めたものです。雇用された者の短期間での退職が、雇用契約の当事者でない第三者に対する不法行為になると一般的に述べたものではありません。判決自身も、退職自体は自由であるとしています。
  • 損害1から3が否定されたのは、DRK氏が買収計画を認識していたと認められなかったという事実認定によるところが大きいといえます。退職する人物が買収計画を知っていた事案で、同じ結論になるとは限りません。
  • 本判決は、MCVと売主側(副院長FJM氏、対象医療法人TMK)との関係や、M&A仲介会社ABRとの提携仲介契約に基づく支払の当否については判断していません。買収の断念に伴う費用を売主側や仲介会社との間でどう負担するかについて、本判決から結論を導くことはできません。
  • 判決は損害5の額を諸般の事情を総合的に考慮して30万円と認定しましたが、その算定の内訳は示していません。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

買収の準備段階で確認しておきたいこと

以下は、本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

  • 買収後の経営体制が特定の人物(後継の院長や経営者)の就任を前提としている場合、その人物の就任や継続勤務を、最終契約の締結やクロージングの前提条件とするか、就任しなかった場合の取扱いをどうするかを、基本合意の段階から検討しておくことが考えられます。
  • デュー・ディリジェンス費用や仲介会社への報酬は、取引が実現しなかった場合に誰が負担するかを、基本合意書や仲介契約の段階で確認しておくことが重要です。
  • 取引の頓挫の原因となった相手方に費用の負担を求める場合、署名を求める書面には、負担の根拠と金額を明記し、相手方が内容を検討できる状態で合意を得ることが、後の紛争の予防につながります。

会社を買った後に、聞いていなかった債務や問題が見つかった場合の買主側の対応は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

M&Aが頓挫した場合、仲介手数料やデュー・ディリジェンス費用を、頓挫の原因を作った人に請求できますか。

本判決では、退職した医師の不法行為責任は認められましたが、仲介会社への支払やデュー・ディリジェンス費用は、買収ができなくなったという特別の事情による損害とされ、医師がその事情を予見すべきであったとは認められないとして、賠償の対象外とされました。請求の可否は、責任の根拠が何か、相手方が買収計画を認識していたかによって左右されます。

雇用契約の当事者ではない会社に対して、退職が不法行為になることがあるのですか。

本判決は、採用に業として関与した会社との関係で、正当な理由なく短期間で退職しないという信義則上の注意義務を認め、1か月足らずでの退職を不法行為としました。ただし、一度不採用となった後に自ら採用を強く求め、10年以上勤務する覚悟を述べていたという具体的な経緯を前提とした判断であり、退職の自由そのものは否定されていません。

「損害賠償を行います」という書面に署名すると、示された金額の全部を支払う義務が生じますか。

本判決では、書面に具体的な金額の記載がなく、損害額の概数が示されたのは署名の後であったことなどから、およそ2,500万円規模の損害賠償の合意は成立していないとされました。署名者が一定の責任を覚悟していたことは認められても、法的に責任を負う必要のない損害まで賠償する意思があったとは認められないとされています。

買収計画を秘密にしていたことは、損害賠償の請求にどう影響しますか。

本判決では、買収計画を知らされていなかった医師について、買収に関する費用の発生を予見すべきであったとは認められず、それらの費用は賠償の対象から外れました。他方で、計画を事前に説明しなかったことは、過失相殺の理由とはされませんでした。秘密の保持が必要な場面では、契約上の手当てで費用の負担を定めておくことが重要になります。

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この記事の位置付け

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

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非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
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『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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