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仲介会社を外して成立した200億円の買収と商法512条の相当報酬―東京地方裁判所令和4年4月28日判決

公開 2022年4月28日更新 2026年10月30日

▶ M&A仲介会社が売主と買主の双方に関与する仕組みと留意点

M&A仲介会社が買主候補に買収先を紹介し、売主側とも面談して条件のすり合わせを始めたところで、買主と売主が仲介会社を外して直接交渉を進め、最終的に買収価格200億円の取引が成立した。仲介会社とは契約書を交わしていなかった。この場合、仲介会社は、料金表どおりの成功報酬や、それに代わる報酬・損害賠償を請求できるのでしょうか。

東京地方裁判所令和4年4月28日判決は、パチンコホールを経営する会社の買収をめぐり、M&A仲介会社が買主と売主の双方に合計7億円余りの報酬等を請求した事案で、買主・売主のいずれとの間でも報酬合意を含む業務委託契約の成立を認めませんでした。他方で、買主の依頼により行った業務については、商人の行為として商法512条に基づく相当な報酬の請求権を認め、その額を1,500万円と算定しました。売主に対する請求は、仲介会社が売主のために業務をしたとは認められないとして、すべて棄却されています。

本判決は、契約書を作らないまま仲介業務を進めた仲介会社の報酬がどこまで認められるか、仲介会社を外して直接交渉した依頼者がどのような責任を負うかについて、具体的な算定の考え方を示したものです。仲介会社の立場の方にも、仲介会社から報酬を請求された買主・売主の立場の方にも参考になる判決です。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―仲介会社が紹介した買収先と、仲介会社を外して200億円の買収が成立した
    1. 仲介会社と買主の関係
    2. 平成29年2月14日の面談―料金表の提示と秘密保持契約
    3. 買主の希望条件の整理と、売主側との2回の面談
    4. 売主から買主への直接の電話と、仲介会社の排除
    5. 当事者間の交渉と最終合意
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった契約条項と料金表
    1. 秘密保持契約7条―紹介先への直接・間接の接触の禁止
    2. 仲介会社KTBの料金表―レーマン方式による成功報酬
    3. 業務委託契約書は作成されていなかった
  6. 原告の請求と当事者の主な主張
    1. 仲介会社KTBの請求
    2. 仲介会社KTBの主な主張
    3. 買主BHTの主な主張
    4. 売主TRM氏の主な主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 専門委員の意見書による、M&A仲介業務の一般的な扱い
    2. 業務委託契約の成立についての判断の枠組み
    3. 商法512条の相当報酬についての判断の枠組み
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 買主BHTとの業務委託契約―成立を否定
    2. 仮に契約が成立していたとしても、成功報酬は発生しない
    3. 買主BHTに対する商法512条の報酬請求権―発生を肯定
    4. 相当報酬の算定―成功報酬の額ではなく、寄与度に応じた1,500万円
    5. マッチング業務を完了したとの主張―本件ではマッチングの価値は限定的
    6. 秘密保持契約7条違反―違反は認めるが、損害は1,500万円を超えない
    7. 売主TRM氏との業務委託契約―成立を否定
    8. 売主TRM氏に対する商法512条の報酬請求―「他人のために」の要件を否定
    9. 遅延損害金の起算日
  10. 主文及び結論
  11. 改正前の法令が適用されている点について
  12. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 契約や交渉で確認しておきたいこと
  13. よくあるご質問
    1. M&A仲介会社と契約書を交わしていなければ、報酬を支払う必要はありませんか。
    2. 仲介会社が紹介した相手と直接交渉して取引が成立した場合、仲介会社は成功報酬の全額を請求できますか。
    3. 商法512条の相当な報酬は、どのように算定されますか。
    4. 秘密保持契約で直接接触が禁止されていた場合、違反すると成功報酬相当額の損害賠償を負いますか。
    5. 売主も、買主側の仲介会社に報酬を支払う必要がありますか。
  14. 関連する記事と相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第44部
裁判日 令和4年4月28日
事件番号 平成30年(ワ)第13351号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告(M&A仲介会社)の買主に対する請求を一部認容(商法512条に基づく相当報酬1,500万円及び平成30年5月29日から年6分の遅延損害金)。買主に対する主位的請求及びその余の予備的請求並びに売主に対する請求はいずれも棄却。第2項について仮執行宣言
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
M&A仲介会社KTB(以下「仲介会社KTB」) 原告。人材紹介事業等を営む会社のM&A仲介部門を分離して設立された、M&Aに関する仲介、斡旋及びアドバイザリー業務等を目的とする株式会社です
仲介会社KTBの代表者SKR氏(以下「SKR氏」) 設立当初から仲介会社KTBのM&Aアドバイザリー部の責任者を務め、平成29年4月21日に代表取締役に就任した人物です
人材紹介会社LGH(以下「LGH」) 有料職業紹介業等を目的とする株式会社で、仲介会社KTBの分離元であり、仲介会社KTBを含む複数の子会社を傘下に収めています
買主である遊技場運営会社BHT(以下「買主BHT」) 被告の一人。パチンコ店の経営等を目的とする株式会社で、パチンコホールを経営しています。最終的に対象会社QLTを買収しました
買主BHTの代表者AKN氏(以下「AKN氏」) 買主BHTの代表取締役です
売主である対象会社の代表者TRM氏(以下「売主TRM氏」) 被告の一人。平成29年11月30日まで対象会社QLTの代表取締役を務め、発行済株式総数2万株のうち1万1,013株を保有していた人物です
対象会社である遊技場運営会社QLT(以下「対象会社QLT」) 遊技場経営等を目的とし、パチンコホールを経営する株式会社です。買収により、平成29年11月30日に買主BHTの子会社となりました
対象会社の会長WTN氏(以下「WTN氏」) 対象会社QLTの代表取締役で「会長」の肩書を有していた人物で、売主TRM氏の父です
対象会社の専務HSB氏(以下「HSB氏」) 対象会社QLTの取締役で「専務」の肩書を有していた人物で、WTN氏の娘の夫です。買収交渉では対象会社側の担当者でした
別の遊技場運営会社LMP(以下「LMP」) 仲介会社KTBが、関与を断られた後に、対象会社側へ別の買収元候補として紹介しようとした会社です

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。主文の引用では、「原告」は仲介会社KTBを指し、被告の呼称は本記事の表記に置き換えて〔 〕で示しています。判決本文の数字や「M&A」は全角で記載されているため、引用部分では判決本文の表記のままとしています。

事案の概要―仲介会社が紹介した買収先と、仲介会社を外して200億円の買収が成立した

仲介会社と買主の関係

仲介会社KTBの分離元であるLGH及びその関連会社は、以前からパチンコホール業界の各企業を人材スカウト事業等の顧客としており、買主BHTに対しては人材獲得支援を行っていました。SKR氏は、平成28年1月頃、M&A取引の営業活動の一環として対象会社QLTを訪ね、WTN氏と面談したことがあり、その際、対象会社QLTが4店舗を100億円で売却するという話題が出たことがありました。

判決の認定によれば、対象会社QLTは、平成28年6月28日時点で、パチンコホールの店舗18軒、スロットの店舗2軒及びビジネスホテル1軒を経営していました。他方、買主BHTは、以前に不動産業者の仲介を受けて1店舗単位で営業権を取得したことはありましたが、本格的なM&A取引の経験はありませんでした。

平成29年2月14日の面談―料金表の提示と秘密保持契約

SKR氏は、平成29年2月14日、買主BHTの本社でAKN氏及び他の役員2名と面談し、買主BHTが同業他社を買収することについての仲介を持ち掛け、対象会社QLTを含む3社を買収先候補として提示しました。判決は、SKR氏がこの面談で仲介会社KTBの料金表(判決本文は「本件料金表」と呼んでいます)を示して報酬を説明し、料金表に記載された中間報酬200万円は無料とし、最終報酬だけでよいと述べたことを認定しています。

同じ日、SKR氏は、仲介会社KTBが押印した秘密保持契約書をAKN氏に交付し、AKN氏が押印して返送したことにより、秘密保持契約(判決本文は「本件秘密保持契約」と呼んでいます)が成立しました。他方で、M&Aの仲介業務そのものについての業務委託契約書は作成されていません。

なお、AKN氏は、2月14日の面談では料金表を示されておらず、後に仲介会社KTBのホームページで成功報酬の算定方法を調べたと供述しましたが、判決は、ホームページにはレーマン方式によるという以外に最終報酬の具体的な記載がなかったことから、この供述を採用せず、面談の際に料金表が示されていたと認定しました。

買主の希望条件の整理と、売主側との2回の面談

2月23日の打合せで、AKN氏は、対象会社QLTが20店舗を有していると記憶していたことから、1店舗当たり10億円程度の価値を想定し、買収価格として180億円から200億円程度を想定していると述べました。

SKR氏は、3月7日、売主TRM氏、WTN氏及びHSB氏と面談し、不動産を所有し続けた場合の運用益と売却した場合の金銭の運用例を示す資料を提示し、持株全部の譲渡や、一部の資産を選んでの会社分割等についての一般的な説明をしました。HSB氏は、売却するかどうかは条件次第であるという対応でした。

3月13日、SKR氏は、AKN氏に対し、対象会社側に伝える希望条件として、営業権に対する支払額を200億円前後とすること(機器、設備、システム等を含み、ホール事業のみを対象とし、ホテル事業は対象外とすること)、賃借料を月額1億円前後(年間12億円前後)とし、期間は15年程度が望ましいが20年でもよいことを確認するメールを送りました。AKN氏は同日、営業権の範囲についての考え方を伝えるとともに、次の段階に進めるようにうまく交渉してほしいという趣旨の返信をしています。

SKR氏は、3月23日、対象会社QLTの本社で売主TRM氏、WTN氏及びHSB氏と再び面談しました。売主TRM氏が提出した録音データと反訳書によれば、SKR氏が買い手の希望(営業権として200億円前後、株式譲渡の形で譲り受けたいこと、不動産を手元に残す場合の賃料として年間12億円程度を希望していること)を説明し、対象会社側は、賃料は18億円程度を想定していたことや、建物・設備のメンテナンス費用の負担などを話題にしました。HSB氏が、不動産を併せて450億円程度で売る方法はどうかと述べた場面もありました。最終的に、WTN氏は、条件を出して反応を聞いてみようということになればすぐに連絡するという対応にとどまっています。

売主から買主への直接の電話と、仲介会社の排除

売主TRM氏は、AKN氏と以前から面識があったことから、SKR氏が持ち掛けてきた取引相手は買主BHTではないかと考え、平成29年4月上旬頃、AKN氏に直接電話をしました。AKN氏はこれを認め、両者は、以後は仲介会社KTBを介さずにM&Aの話を進めることとしました。

AKN氏は、4月23日、SKR氏に対し、今後の協議は売主TRM氏と直接行うこと、仲介会社KTBの関与を断ることを伝え、買主BHTと対象会社QLTとで合計400万円を支払うことを提案しました。SKR氏は、秘密保持契約に違反している、承服しかねるなどと述べました。売主TRM氏も、4月25日の面談で、買主BHTと対象会社QLTとで200万円ずつ支払い、今後の関与は断ると述べました。

これに対し、SKR氏は、4月24日にWTN氏と面談して引き続き業務を提供する意向を伝え、対象会社QLTの店舗リストのうち12店舗に丸印を付けました(この12店舗は、後の買主BHTの意向表明書に記載された店舗と一致していました)。また、4月25日には、LMPを別の買収元候補として紹介する旨を述べ、成約時のみの完全成功報酬型で料率を譲渡金額の1.5%とする業務委託依頼書の書式を用意し、翌26日には料率を協議可能とする修正版を送付しましたが、売主TRM氏はいずれの提出にも応じませんでした。5月9日には、SKR氏の立会いの下で対象会社側とLMPの代表者との面談が行われましたが、M&A取引の話合いはされていません。

当事者間の交渉と最終合意

その後、買主BHTは、6月15日付けで対象会社QLTに意向表明書を提出しました。そこでは、対象会社QLTが新設分割により設立する会社にパチンコホール12店舗等を承継させ、その新設会社の全株式を譲り受けるスキームが想定され、株式価値を200億円とし、運転資金として現金40億円を新設会社に承継させることが前提とされていました。対象会社QLTは、6月24日付けの返答で、どのようなスキームで譲渡するかは今後の検討・協議により決定したいこと、企業価値からすれば更に高い評価を頂けると考えていることを伝えています。

7月頃には、買主BHTが依頼した弁護士その他の専門家がデュー・ディリジェンスのため対象会社QLTを訪れましたが、HSB氏は、まだ売ると決まったわけではない旨を発言しています。8月9日付けで基本合意が締結されましたが、承継方法は株式譲渡を「含む」方法とされ、支出額は200億円を基準とすることが合意されたにとどまり、詳細は正式契約で決定するとされていました。

そして、平成29年11月30日、買主BHTと売主TRM氏ら対象会社QLTの株主との間で、保有する株式を買主BHTに譲渡することなどを内容とする最終合意が成立しました。買収価格は200億円で、うち売主TRM氏の保有株式に対応する代金額は約176億円でした。買主BHTの説明によれば、株式譲渡に先立って非パチンコ事業資産を売却・現金化し、株式譲渡時の対象会社QLTにはパチンコ事業資産と運転資金40億円の現預金を残し、買収後に買主BHTが単独で会社分割を行うというスキームでした(最終合意の契約書等は証拠として提出されておらず、判決は詳細は判然としないとしています)。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成26年1月24日 LGHのM&A取引仲介部門を分離する形で仲介会社KTBが設立される
平成28年1月頃 SKR氏が営業活動として対象会社QLTを訪ね、WTN氏と面談(4店舗を100億円で売却する話題が出る)
平成29年2月14日 SKR氏が買主BHTで面談し、対象会社QLTを含む3社を提示。料金表を示し、中間報酬は無料、最終報酬のみでよいと説明。秘密保持契約が成立
平成29年2月23日 打合せでAKN氏が買収価格を180億円から200億円程度と想定していると述べる
平成29年3月7日 SKR氏が売主TRM氏、WTN氏及びHSB氏と1回目の面談(一般的な説明)
平成29年3月13日 SKR氏とAKN氏が、対象会社側に伝える希望条件(営業権200億円前後、賃料月額1億円前後等)をメールで確認
平成29年3月23日 SKR氏が対象会社側と2回目の面談。買い手の希望条件を説明
平成29年4月上旬頃 売主TRM氏がAKN氏に直接電話。以後は仲介会社KTBを介さず進めることとする
平成29年4月21日 SKR氏が仲介会社KTBの代表取締役に就任
平成29年4月23日 AKN氏が仲介会社KTBの関与を断り、合計400万円の支払を提案
平成29年4月24日 SKR氏がWTN氏と面談し、店舗リストの12店舗に丸印を付ける
平成29年4月25日・26日 売主TRM氏が200万円ずつの支払と関与の拒絶を伝える。SKR氏はLMPの紹介を申し出て、料率1.5%の業務委託依頼書(翌日に修正版)を示すが、提出されず
平成29年5月9日 SKR氏の立会いの下で対象会社側とLMPの代表者が面談(M&A取引の話合いはなし)
平成29年6月8日付け 仲介会社KTBが買主BHTに、今後も仲介業務を提供したい旨と協議の現状の報告を求める文書を送付
平成29年6月15日付け 買主BHTが対象会社QLTに意向表明書を提出(新設分割と新設会社株式の譲受け、株式価値200億円)
平成29年6月24日付け 対象会社QLTが返答(スキームは今後協議、更に高い評価を期待)
平成29年7月頃 買主BHT側の専門家によるデュー・ディリジェンス
平成29年8月9日付け 基本合意(株式譲渡を含む方法、支出額は200億円を基準)
平成29年11月30日 最終合意(買収価格200億円)。対象会社QLTが買主BHTの子会社となり、売主TRM氏らは役員を辞任
平成30年5月29日 訴状送達日の翌日(認容された遅延損害金の起算日)
令和3年6月24日 弁論準備手続期日。M&A仲介業務の一般的な扱いについての専門委員の意見書が調書に添付される
令和4年4月28日 東京地方裁判所が買主BHTに1,500万円等の支払を命じ、その余の請求を棄却する判決

仲介会社KTBが関与していたのは、平成29年2月14日から4月下旬までの約2か月余りです。最終合意は、関与が断られてから約7か月後に成立しています。

判断の前提となった契約条項と料金表

秘密保持契約7条―紹介先への直接・間接の接触の禁止

判決本文には、仲介会社KTBと買主BHTの間の秘密保持契約7条の文言が、次のとおり記載されています(「甲」は買主BHT、「乙」は仲介会社KTBを指します。判決本文の記載のままです)。

甲は、本契約締結日から2年間は、書面による乙の事前同意を得ることなく、乙が甲に対して本件取引の相手または対象として紹介した顧客及びその関係会社に対して、直接または間接に接触してはならないものとする。但し、本契約締結以前から接触がある法人及びその関係会社、または乙以外の第三者から紹介された法人及びその関係会社についてはこの限りではない。

仲介会社KTBの料金表―レーマン方式による成功報酬

仲介会社KTBが主張した料金表の概要は、次のとおりです。これは判決本文に記載された仲介会社KTBの主張の内容であり、料金表そのものの逐語引用ではありません。判決は、この料金表が2月14日の面談で示されたことは認めましたが、これに基づく具体的な報酬額の合意があったとは認めていません。

中間報酬 200万円

最終報酬 レーマン方式による成功報酬として、買収(譲渡)価格により、10億円以下の部分につき5%、10億円超20億円以下の部分につき4%、20億円超50億円以下の部分につき3%、50億円超100億円以下の部分につき2%、100億円超の部分につき1%

仲介会社KTBは、買収価格200億円にこの料率を当てはめ、最終報酬を3億8,000万円、当時の消費税8%を加えて4億1,040万円と計算しました。

業務委託契約書は作成されていなかった

仲介会社KTBは、平成29年頃には専任仲介契約書のひな形を作成していましたが、関与を断られるまでの間に、買主BHTとの間でも、売主TRM氏との間でも、業務委託契約書を作成していません。売主側との間では、秘密保持契約書も作成されていませんでした。関与を断られた後に売主TRM氏に示した業務委託依頼書(料率1.5%)も、提出されていません。

原告の請求と当事者の主な主張

仲介会社KTBの請求

仲介会社KTBは、買主BHTと売主TRM氏のそれぞれに対し、主位的請求と2段階の予備的請求を立てていました。

相手方 請求の区分 内容
買主BHT 主位的請求 報酬合意を含む業務委託契約に基づく報酬4億1,040万円。取引の成立により報酬発生要件を満たした、条件成就を故意に妨害した(民法130条)、買主BHTの責めに帰すべき事由で履行不能となった(民法536条2項)と主張
予備的請求1 商法512条に基づく相当報酬(主位的請求と同額)
予備的請求2 秘密保持契約違反(直接接触)又は信義則上の業務提供受入れ義務違反(受領拒絶)の債務不履行に基づく損害賠償(同額)
売主TRM氏 主位的請求 報酬合意を含む業務委託契約に基づく報酬3億3,372万円(買収価格200億円に保有割合64.5%を乗じた129億円に料率を当てはめ、消費税を加算したと主張)。条件成就の妨害、履行不能も同様に主張
予備的請求1 商法512条に基づく相当報酬(主位的請求と同額)
予備的請求2 信義則上の業務提供受入れ義務違反(受領拒絶)の債務不履行に基づく損害賠償(同額)

遅延損害金は、いずれも当事者間の取引成立日の翌日である平成29年12月1日から、商事法定利率年6分の割合で請求されていました。なお、売主TRM氏の保有割合について、仲介会社KTBは64.5%(2万株のうち1万2,900株)と主張していましたが、判決の前提事実では、売主TRM氏の保有株式数は2万株のうち1万1,013株とされています。

仲介会社KTBの主な主張

仲介会社KTBは、2月14日に買主BHTから、3月7日に売主TRM氏から、それぞれM&Aの成立に向けた業務の委託を受け、料金表の最終報酬によるとの合意をしたと主張しました。契約書は作成していないものの、買主BHTがうまく交渉を行ってほしいなどと具体的な指示をしたこと、現に業務を行ったこと、秘密保持契約が締結されたこと、被告らが400万円の支払を申し出たことが契約成立を裏付けるとしています。

また、平成29年4月の時点で当事者間の取引条件はほぼ合致しており、最終合意は仲介会社KTBが調整していた金額に近い金額、調整していたとおりのスキームで成立したと主張しました。商法512条の相当報酬についても、レーマン方式はM&A仲介で慣例的に採用されている、売り手と買い手のマッチング業務が特に重要であり、それを完了していた以上、買収価格に応じた報酬が算定されるべきであって、人数・時間・費用による積算や割合的な算定によるべきではないと主張しました。

買主BHTの主な主張

買主BHTは、報酬額が高額となる仲介業務について契約書を交わさずに業務委託契約を締結することは考えられず、仲介会社KTBが契約書のひな型を持ちながら契約書を作成していないことは契約不成立を示すと主張しました。また、仲介会社KTBが対象会社側にLMPを紹介したことは、買主BHTとの契約があれば明らかな債務不履行になるはずだと指摘しています。

当事者間の取引については、双方の希望するスキームと金額に大きな違いがあり、別のフィナンシャルアドバイザーの関与の下で交渉が進められたもので、仲介会社KTBの業務は最終合意に寄与していないと主張しました。相当報酬の算定については、業務に投じた人数・時間・費用等を基礎とし、業務の困難性・専門性等を考慮すべきであり、せいぜい従前提案した400万円程度、割合的に算定するとしても想定成功報酬額の5%を超えることはないと主張しました。秘密保持契約については、売主TRM氏から連絡してきたものであり、SKR氏が買主を特定できる程度に情報を漏らしたことが原因である、また以前から接触があったため7条ただし書の例外に当たると主張しました。

売主TRM氏の主な主張

売主TRM氏は、SKR氏の2回の面談は営業活動にすぎず、価格次第という一般的な回答をしただけで、業務委託契約書はもちろん秘密保持契約書も交わしていないと主張しました。商法512条についても、仲介会社KTBの提案・説得を受けて売却の意向を持ったことはなく、多額の報酬を要する委託をすることは売主TRM氏の意思に明確に反していたから、「他人のために」業務を行ったとはいえないと主張しました。

結論を左右した争点

判決は争点を13に整理しましたが、結論を左右したのは、次の4点です。

  1. 契約書が作成されていない中で、報酬合意を含む業務委託契約が買主BHT又は売主TRM氏との間で成立したといえるか。
  2. 契約が成立していない場合に、仲介会社KTBが行った業務について、商法512条に基づく報酬請求権が発生するか。発生する場合、相当な報酬の額はいくらか。
  3. 買主BHTが売主TRM氏と直接接触したことが秘密保持契約7条に違反するか。違反する場合の損害額はいくらか。
  4. 売主TRM氏との関係で、仲介会社KTBが「他人のために」業務を行ったといえるか。

条件成就の妨害(民法130条)、履行不能(民法536条2項)、受領拒絶による債務不履行の主張は、いずれも業務委託契約の成立を前提とするものであったため、第1の点で契約の成立が否定されたことにより、その余の点を判断するまでもなく退けられています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

専門委員の意見書による、M&A仲介業務の一般的な扱い

本件では、M&A取引の仲介業の一般的な流れ、業務委託契約の締結時期、報酬の算定方法等について、専門委員の意見書が提出されています。判決は、その内容を認定事実として整理し、契約の成立と相当報酬の算定の双方で判断の基礎に用いました。主な内容は次のとおりです。

  • 業務委託契約の締結時期:取引価格を中心に売り手と買い手の希望が合致するか確認し、買い手が売り手と直接会って案件を先に進めたいということになったときに、仲介業者が買い手に業務委託契約の締結を求めるのが一般的であり、売り手との契約はその後に求めるのが一般的である。
  • 仲介業者の主な機能:ファインディング(取引の相手方の探索・選定)、ネゴシエーション(双方の交渉の仲介)、ドキュメンテイション(契約事項の立案、デュー・ディリジェンスの立会い)、ストラクチャリング(買取方法の立案)の4つに整理される。
  • レーマン方式:取引額が一定水準に達すると超過分の料率が低くなる方式を指すにすぎない。取引額が100億円を超える規模では、必ずしも1%とされるものではない旨の認識が広まっており、一般的な報酬決定方法ではなく、仲介業者が依頼者から得られた信頼により報酬額の程度が定まるのが通常と考えられる。
  • 一部の履行にとどまった場合:業務類型ごとに報酬金額を割り付けることは行われていないと考えられるが、取引の類型ごとに、どの機能に価値があるかは検討し得る。一般的には、規模の大きな売り手ほどファインディング機能の役割は小さくなり、ある程度の規模で黒字が大きくなるほど、ストラクチャリング機能を筆頭に、ネゴシエーション機能やドキュメンテイション機能が続く。

業務委託契約の成立についての判断の枠組み

判決は、仲介会社KTBが主張する契約がM&Aの成立に向けた業務全般についてのもので、内容がそれなりに複雑であり、主張する報酬額も多額であることを指摘し、次のように述べました。

「そのような契約において、当事者が、契約書等により書面化することなく契約を締結することは、特段の事情がない限り、通常は考え難いというべき」

つまり、高額の報酬を伴う仲介の業務委託契約については、書面がないことが契約の成立を否定する方向に強く働き、成立を認めるには特段の事情が必要になるという枠組みです。

商法512条の相当報酬についての判断の枠組み

商法512条は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができると定めています。判決は、相当な報酬の額について、次のとおり判断の枠組みを示しました。

「商法512条の「相当な報酬」の額は、〔仲介会社KTB〕の行った業務内容、(〔仲介会社KTB〕の行った業務の)〔買主BHT及び売主TRM氏〕のM&A取引の成立への寄与の有無・程度等を勘案して、定めるのが相当である。」

そのうえで、寄与の有無・程度や報酬額について「確立した評価基準や算定方法は見当たらない」としつつ、専門委員の意見書が説明する取引の類型ごとの業務の重要性を踏まえて判断するのが相当であるとしました。

各主張を採用し又は排斥した理由

買主BHTとの業務委託契約―成立を否定

判決は、まず、秘密保持契約の締結、料金表の提示、買主BHTの了解の下での対象会社側との面談、希望条件の打合せといった経過から、買主BHTが仲介会社KTBに対して一定の業務を行うよう依頼し、仲介会社KTBが一定の業務を行ったことは認めました。

しかし、報酬合意を含む業務委託契約の成立については、次の事情から否定しました。

  • 仲介会社KTBは専任仲介契約書のひな形を作成していたのに、関与が排除されるまでに買主BHTとの間で契約書を作成しておらず、他に契約内容が書面化された形跡もないこと。
  • 料金表は示されたものの、具体的な報酬額の合意がされたことを認めるに足りる的確な証拠がないこと。
  • SKR氏が、関与を断られた直後に売主側へLMPを紹介すると述べており、買主BHTとの契約が確定的に成立していたのであれば、その処理をしないまま他の買収元候補を紹介することは通常考え難く、SKR氏自身も契約の締結が確定的でないと認識していたことがうかがわれること。
  • 専門委員の意見書によれば、業務委託契約は売り手と買い手の希望が大枠で一致し、直接面談することになった段階で締結を求めるのが一般的であるところ、3月23日の面談の段階では直接面談は何ら決まっておらず、その後に仲介会社KTBが契約書の作成を持ち掛けた形跡もないこと。

判決は、最後の点について、「本件では未だ業務委託契約を確定的に締結する段階にはなかったものと認められる。」と述べています。被告らが合計400万円の支払を提案したことについても、主張された最終報酬額と大きく異なり、足代又は手間賃の趣旨であったというAKN氏の説明と整合し得るとして、契約成立の裏付けにはならないとしました。

仮に契約が成立していたとしても、成功報酬は発生しない

判決は、契約の成立を否定したことで主位的請求は理由がないとしたうえで、「念のため」として、仮に契約が成立していたとしても、最終報酬の請求権は発生しないと判断しています。その理由として、次の点を挙げました。

  • 最後の具体的な面談である3月23日の時点では、対象会社側は支払額の大枠にも明示的に応じておらず、スキームについても具体的な法律構成が示された形跡がなく、トップ面談の予定もなかったこと。判決は、「合意の成立が目前であったなどといえないことは明らかである。」としています。
  • 6月の意向表明書と返答、8月の基本合意をみても、スキームと金額が確定していたとはいえず、最終合意のスキームは、単なる株式譲渡にとどまらない、それなりに複雑な処理を要するものであったこと。
  • 仲介会社KTBが提案していたスキームに仲介会社KTBならではの特別な内容は含まれておらず、関与していた際の内容と最終合意の内容が部分的に一致していても、4月時点までに合意内容が確定していたとはいえないこと。

こうして判決は、仲介会社KTBが関与していた段階でM&Aの内容がほぼ固まっていたとか、仲介会社KTBの業務がM&Aの成立に不可欠の寄与をしたなどということはできないと判断しました。この判断は、後に相当報酬の算定や秘密保持契約違反の損害額の判断でも繰り返し用いられています。

買主BHTに対する商法512条の報酬請求権―発生を肯定

判決は、仲介会社KTBが買主BHTに買収先候補の一つとして対象会社QLTを紹介し、その後、買主BHTの希望条件の大枠を定めて対象会社側に意向確認等をした業務について、次のように判断しました。

「明らかに営業の一環として行われる無償行為の範囲にとどまるともいえない。」

そして、商人である株式会社の仲介会社KTBが「他人のために業務を行ったものとして、商法512条に基づき、相当額の報酬請求権が発生するというべきである。」としました。

買主BHTは、仲介会社KTBの業務は最終合意の成立に寄与していないから商法512条の要件を満たさないと主張しましたが、判決は、次のとおり述べてこれを退けています。

「〔仲介会社KTB〕が他人のために(無償とはいえない)業務を行っている以上、相当な報酬額につき後記6で検討する点は別論として、同条に基づく報酬請求権が全く発生しないとはいえない」

つまり、最終合意への寄与の有無・程度は、報酬請求権が発生するかどうかではなく、相当な報酬の額の問題として考慮されるという整理です。

相当報酬の算定―成功報酬の額ではなく、寄与度に応じた1,500万円

判決は、まず、仲介会社KTBの業務がM&Aの成立に不可欠の寄与をしたとはいえない以上、最終合意の成立を前提とする最終報酬に相当する額(4億1,040万円)を相当報酬額と認めることはできないとしました。

そのうえで、専門委員の意見書の類型論を本件に当てはめ、対象会社QLTは相当多数の店舗でパチンコ事業を行い、収益も相当額に上ることがうかがわれる企業であり(取引前の決算期で現預金163億円余りを有していました)、このような企業を買収対象とする場合には候補となり得る先は自ずと限られるとして、本件の取引を次のように位置付けました。

「ファインディング機能に比して、ストラクチャリング機能を筆頭にネゴシエーション機能やドキュメンテイション機能が重視される類型に当たるものと解される。」

そして、仲介会社KTBの関与が終了した後も最終合意まで相当の交渉や手続を要していることから、これらの機能に関する仲介会社KTBの関与は限定的であるとしました。

他方で、判決は、仲介会社KTBの業務の寄与を全く否定したわけではありません。買主BHTと対象会社側が直接交渉するきっかけが、仲介会社KTBが対象会社QLTを買収先候補の一つとして提示したことにあること、買収額が結果として当初の提案額である200億円と一致していること、関与を断られた直後の4月24日に確認された譲渡対象店舗が6月15日付け意向表明書の対象店舗と一致していることを挙げ、「〔仲介会社KTB〕の関与中における交渉経過が最終合意にも一定程度影響していることは否定できない」として、仲介会社KTBの業務は一定程度寄与していると認めました。

以上を踏まえ、判決は、相当報酬額を1,500万円と認めました。判決本文は、この額が、料金表と最終合意の内容から算定される4億1,040万円の4%弱に相当すると付記しています。

マッチング業務を完了したとの主張―本件ではマッチングの価値は限定的

仲介会社KTBは、M&A仲介ではマッチング業務が特に重要であり、それを完了していたと主張し、M&A取引等を業とする会社の役員3名の意見書もこれに沿う意見を述べていました。しかし、判決は、本件で買収先候補となり得る先が限られることに照らし、「本件におけるマッチング業務(専門委員のいうファインディング機能)の価値は限定的であり」、この主張によって最終報酬に相当する額が相当報酬額と認定されることにはならないとしました。

秘密保持契約7条違反―違反は認めるが、損害は1,500万円を超えない

判決は、買主BHTが、売主TRM氏からの連絡を契機としてではあるものの、仲介会社KTBの同意を得ずに売主TRM氏との直接の接触を開始したことを認定しました。7条ただし書の「本契約締結以前から接触がある法人及びその関係会社」の例外については、次のとおり述べて適用を否定しています。

「この条項がM&A取引と関係のない交流関係までを除外する趣旨であるとは解し難い。」

SKR氏が情報を漏らしたとの買主BHTの主張についても、反訳書の全体を検討しても、SKR氏が買主BHTを特定できるほどの内容を述べたとは認められないとしました。また、売主TRM氏から連絡を受けた点については、「そのことのみによって、〔仲介会社KTB〕の同意を得ることなく〔売主TRM氏〕との交渉を開始することが直ちに正当化されるものとは解し難い。」として、買主BHTの債務不履行を認めました。

しかし、損害額については、仲介会社KTBが主張した報酬相当額(4億1,040万円)を認めませんでした。判決は、秘密保持契約は業務委託契約とは別個の、その前段階として秘密保持・管理等を定める趣旨の契約であるとし、「秘密保持契約の当事者に対して業務委託契約により得られるべき利益までを保護する趣旨とは解し難い。」と述べました。そして、仲介会社KTBの業務がM&Aの成立に不可欠の寄与をしたとはいえないことから、仮に直接接触がなかったとしても、仲介会社KTBの業務継続によって最終合意が成立することに高度の蓋然性があったとは認め難く、成功報酬相当額との相当因果関係は認められないとしました。結論として、判決は次のように述べています。

「損害額は、どんなに多くとも、前記6で説示した商法512条に基づく相当報酬額である1500万円を超えないものと評価するのが相当である。」

そのため、秘密保持契約違反に基づく請求は、1,500万円を超える部分について理由がないとされました。予備的請求1(商法512条)で1,500万円が認められたため、この予備的請求2によってそれ以上の金額が認められることはありませんでした。

売主TRM氏との業務委託契約―成立を否定

売主TRM氏との関係では、業務委託契約書だけでなく前段階としての秘密保持契約書も作成されておらず、SKR氏が業務委託契約の取り交わしを求める連絡をしたこともありませんでした。2回の面談の内容も、一般的な説明と、買主BHTの提案の検討にとどまり、対象会社側が仲介会社KTBに具体的に業務を依頼した経過はうかがわれないとされました。

さらに判決は、SKR氏が3月23日の面談で、今後仲介会社KTBと対象会社側との間で多少ビジネスの話をしなければならないという趣旨を述べていたことを、その時点では業務委託契約や報酬の合意がされていなかったことをうかがわせる事情としています。SKR氏は、既に説明済みの料金表について改めて釘を刺す趣旨だったと供述しましたが、判決は当時の発言内容を検討しても合意済みであるような発言とは解されないとして採用しませんでした。初回の面談で秘密保持契約と業務委託契約が締結されたというSKR氏の供述も、書面を利用することなく初回の面談で2つの契約が締結されることは考え難いとして採用されていません。

売主TRM氏に対する商法512条の報酬請求―「他人のために」の要件を否定

判決は、2回目の面談の時点で、SKR氏は主として買主BHTの提案を対象会社側に伝える業務を行っていたのであり、対象会社側が仲介会社KTBに具体的な業務を依頼した経過はうかがわれないこと、売主TRM氏は程なく4月上旬にAKN氏へ直接連絡し、4月25日には仲介会社KTBの関与を断っていることを挙げ、次のとおり判断しました。

「〔仲介会社KTB〕が〔売主TRM氏〕のために業務をしたとは認められない。」

こうして、売主TRM氏に対する商法512条に基づく請求は、相当な報酬額について判断するまでもなく理由がないとされました。売主TRM氏に対する受領拒絶による債務不履行の請求も、業務委託契約の成立を前提とするため退けられています。

遅延損害金の起算日

仲介会社KTBは、取引成立日の翌日である平成29年12月1日からの遅延損害金を求めていましたが、判決は、「商法512条の報酬請求に係る遅延損害金については、請求した日の翌日から発生するというべきであるから」として、請求を行ったことが明らかな訴状送達日の翌日である平成30年5月29日から支払済みまでの限度で認めました。利率は、平成29年法律第45号による削除前の商法の商事法定利率である年6分です。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(〔 〕内は本記事の表記への置き換えです)。

  1. 「原告の〔買主BHT〕に対する主位的請求を棄却する。」
  2. 「〔買主BHT〕は、原告に対し、1500万円及びこれに対する平成30年5月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。」
  3. 「原告の〔買主BHT〕に対するその余の予備的請求及び〔売主TRM氏〕に対する請求をいずれも棄却する。」
  4. 「訴訟費用は、原告に生じた費用の100分の2及び〔買主BHT〕に生じた費用の100分の4を〔買主BHT〕の負担とし、原告及び〔買主BHT〕に生じたその余の費用並びに〔売主TRM氏〕に生じた費用を原告の負担とする。」
  5. 「この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。」

主文の「原告」は仲介会社KTBです。仲介会社KTBが請求した合計7億4,412万円(買主BHTに4億1,040万円、売主TRM氏に3億3,372万円)のうち、認められたのは、買主BHTに対する商法512条に基づく相当報酬1,500万円と遅延損害金だけでした。訴訟費用の負担割合も、仲介会社KTBの請求がごく一部しか認められなかったことを反映したものになっています。

改正前の法令が適用されている点について

本件は平成29年の取引に関する事件であり、判決は、民法130条及び536条2項について、平成29年法律第44号による改正前の規定を示しています。遅延損害金の利率も、平成29年法律第45号による削除前の商法514条の商事法定利率年6分によっています。現在は、商事法定利率の規定は削除され、民法の法定利率(令和2年4月1日の施行時に年3%とされ、その後は3年ごとに見直される変動制)によるため、現在の取引で同じ請求をする場合の遅延損害金の利率は本件とは異なります。商法512条は現在も同じ趣旨の規定として存在しています。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、高額の成功報酬を伴うM&A仲介の業務委託契約は、料金表を示していても、契約書が作成されていなければ、報酬合意を含む契約の成立が認められにくいことです。本判決は、契約書等による書面化がないことを「特段の事情がない限り、通常は考え難い」とし、仲介会社自身が契約書のひな形を持ちながら使っていなかったこと、関与を断られた直後に別の買収元候補を紹介しようとしたことも、契約不成立の方向に評価しました。

第2に、契約が成立していなくても、仲介会社が依頼を受けて無償とはいえない業務を行っていれば、商法512条により相当な報酬を請求できることです。本判決は、最終合意への寄与の程度は請求権の発生ではなく報酬額の算定で考慮するとし、買主に対する請求権の発生を認めました。仲介会社を途中で外した依頼者も、それまでの業務について支払義務を負う可能性があることを示しています。

第3に、相当報酬の額は、成功報酬の料率をそのまま当てはめるのではなく、仲介会社の業務内容と取引の成立への寄与の程度によって算定されたことです。本判決は、専門委員の意見書による仲介業者の4つの機能(ファインディング、ネゴシエーション、ドキュメンテイション、ストラクチャリング)と取引類型ごとの重要性を用い、大規模で収益力のある対象会社では相手方探索の価値は限定的で、構成の立案や交渉が重視されるとしました。そのうえで、きっかけを作ったこと、価格と対象店舗が最終的な内容と一致したことを一定の寄与と評価し、料率による計算額の4%弱に当たる1,500万円を認めています。

第4に、仲介会社の紹介先に直接接触することを禁じる秘密保持契約の条項に違反したと認められても、その損害が当然に成功報酬相当額になるわけではないことです。本判決は、秘密保持契約は業務委託契約の前段階の契約であり、業務委託契約で得られるべき利益までを保護する趣旨ではないとし、仲介会社が関与を続けていれば取引が成立した高度の蓋然性もないとして、損害額は相当報酬額を超えないとしました。ただし書の「以前から接触がある」法人の例外についても、M&A取引と関係のない交流関係までは含まないと解釈しています。

第5に、仲介会社が売主側と面談していても、主として買主の提案を伝えていたにすぎない場合には、売主のために業務をしたとはいえず、売主に対する商法512条の請求は認められないことです。仲介会社が双方と接触する場面で、誰のために業務をしているのかが、報酬請求の相手方を決める重要な要素になっています。

一般化できない点

本判決の相当報酬1,500万円は、買収価格200億円の大規模な取引で、対象会社が多数の店舗と多額の現預金を持つ企業であり、仲介会社の関与が約2か月余り、2回の面談と希望条件の整理にとどまったという事情に基づく算定です。判決自身も、寄与の有無・程度や報酬額について確立した評価基準や算定方法は見当たらないとしており、4%弱という割合が一般的な基準になるわけではありません。小規模な案件で相手方の探索そのものが難しい取引であれば、専門委員の意見書の類型論によってもファインディング機能の価値は大きく評価され得るため、結論は異なり得ます。

また、本判決は、業務委託契約書がなく、料金表の提示だけでは報酬額の合意が認められなかった事案です。報酬条項を含む業務委託契約書が締結されている場合や、直接交渉の禁止と違反時の報酬支払を契約で明確に定めている場合には、判断の枠組み自体が異なります。秘密保持契約違反の損害額についても、本件の秘密保持契約が業務委託契約の前段階のものであったことを前提とした判断であり、違約金や報酬保護の定めがある契約に直ちに当てはまるものではありません。

本件は平成29年の取引であり、改正前の民法及び商法の商事法定利率が適用されています。上訴の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。

契約や交渉で確認しておきたいこと

仲介会社の側では、相手方の紹介を始める段階で、少なくとも報酬の発生要件と算定方法、関与を断られた後に当事者間で取引が成立した場合の報酬の扱い、紹介先への直接接触を禁止する期間と違反した場合の効果を、業務委託契約書として書面で合意しておくことが考えられます。料金表を示しただけでは、報酬額の合意とは認められない可能性があります。

買主・売主の側では、仲介会社の紹介を受けた後に相手方と直接やり取りを始める場合、秘密保持契約の直接接触禁止条項の有無と範囲を確認することが重要です。本判決のように、相手方から連絡があったことだけでは違反が正当化されないとされることがあります。また、仲介会社を外す際には、それまでの業務に対する報酬の扱いについて協議し、合意内容を記録に残しておくことが考えられます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

M&Aが成立しなかったのに、M&A仲介会社から手数料を請求された場合の対応は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

M&A仲介会社と契約書を交わしていなければ、報酬を支払う必要はありませんか。

必ずしもそうではありません。本判決は、契約書がないことなどから報酬合意を含む業務委託契約の成立を否定しましたが、買主の依頼により仲介会社が無償とはいえない業務を行っていたとして、商法512条に基づく相当な報酬1,500万円の支払を命じました。

仲介会社が紹介した相手と直接交渉して取引が成立した場合、仲介会社は成功報酬の全額を請求できますか。

本判決では、成功報酬の全額は認められませんでした。仲介会社が関与していた段階で取引の内容がほぼ固まっていたとはいえず、仲介会社の業務が取引の成立に不可欠の寄与をしたともいえないとして、料率による計算額4億1,040万円ではなく、寄与の程度に応じた1,500万円が相当報酬とされています。

商法512条の相当な報酬は、どのように算定されますか。

本判決は、仲介会社の業務内容と、取引の成立への寄与の有無・程度等を勘案して定めるとしました。そのうえで、専門委員の意見書が説明する仲介業者の機能と取引類型ごとの重要性を踏まえ、本件のような大規模で収益力のある会社の買収では相手方探索の価値は限定的であるとしつつ、交渉のきっかけを作ったことや価格・対象店舗の一致を一定の寄与として評価しました。

秘密保持契約で直接接触が禁止されていた場合、違反すると成功報酬相当額の損害賠償を負いますか。

本判決では、直接接触の禁止に違反したことは認められましたが、損害額は商法512条の相当報酬額1,500万円を超えないとされました。秘密保持契約は業務委託契約の前段階の契約であって、業務委託契約で得られるべき利益までを保護する趣旨ではないこと、仲介会社が関与を続けていれば取引が成立した高度の蓋然性もないことが理由です。

売主も、買主側の仲介会社に報酬を支払う必要がありますか。

仲介会社が売主のために業務をしたといえるかによります。本判決では、仲介会社は主として買主の提案を売主側に伝えていたにすぎず、売主側が具体的な業務を依頼した経過もないとして、売主に対する請求はすべて棄却されました。

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M&A仲介会社と、その仲介を途中で断って当事者同士で買収を成立させた買主・売主の双方に向けて、契約書のない仲介の報酬が争われた場面の判例を、商法512条の相当報酬と直接接触禁止条項の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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